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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第五話:鉄の剣の限界と、狂い始める天秤

オークが完全に消滅し、静寂が戻ったダンジョンの通路。

三月はしばらくの間、動くことができなかった。

全身の細胞が歓喜で震え、オークの魂という極上のエネルギーを取り込んだ肉体が、

内側から熱く脈打っているのを感じていた。

【スキル『堅牢(微)』を獲得しました】

【スキル『怪力(微)』が『怪力(小)』へと進化しました】

頭の中に響いたその声の意味を確かめるように、

三月はゆっくりと自分の身体を動かしてみる。

先ほどオークの突進を避けた時よりも、さらに足取りが確かなものになっていた。

足の裏がしっかりと地面を捉え、体幹が恐ろしいほどに安定している。

これが『堅牢』の効果だろうか。

衣服の上から触れる自分の肌は、心なしか以前よりも引き締まり、

まるで目に見えない薄い鎧を纏っているかのような安心感があった。

「……凄い。本当に、私は強くなってるんだ」

ぽつりと呟いた声は、暗い通路の奥へと吸い込まれていった。

三月は足元を見つめる。

そこには、オークの巨体が消えた後に残された、

妖しい紫色の輝きを放つ大きな魔石が転がっていた。

手の平に乗せると、ずっしりとした重みとともに、

冷たい石のはずなのに、どこか生々しい魔力の残滓が伝わってくる。

これ一つで、おそらく百万円は下らない。

昨日手に入れた四十五万円と合わせれば、

実家の数ヶ月分の生活費はおろか、弟のこれからの学費すら余裕で賄える額だ。

「これで……全部解決する」

そう口にしながらも、三月の胸の奥にある天秤は、

すでに奇妙な方向へと傾き始めていた。

家族を救えたという安堵感や喜びよりも、

この魔石をもたらした「オークの魂の味」に対する執着の方が、

遥かに大きく、重くなっていたのだ。

もっと奥へ行きたい。

第二層へ降りれば、このオークよりもさらに強い怪物がいるはずだ。

その怪物を喰らえば、私はどれほどの快感を得られるのだろう。

どこまで強くなれるのだろう。

吸い寄せられるように、第二層へと続く漆黒の階段へ足を踏み出そうとした。

だが、その時。

カラン、と乾いた音がして、手元から何かが滑り落ちそうになった。

「あ……」

三月は慌ててそれを掴み直した。

自分の右手に握られていた、使い古しの鉄の剣。

その刃を見た瞬間、彼女は冷水を浴びせられたように我に返った。

安い鉄で作られたその剣は、オークの強靭な肉体と硬い骨を無理やり叩き斬った衝撃で、

刃先がボロボロにこぼれ、刀身全体が不格好にひん曲がっていた。

根元には、今にもポッキリと折れてしまいそうな深い亀裂が入っている。

「……これじゃ、次の戦闘は無理だ」

いくら三月自身の身体能力が跳ね上がり、強力なスキルを手に入れたとしても、

武器がこれでは怪物の肉を断つことはできない。

素手で戦うには、第二層の怪物たちはリスクが高すぎる。

魂を喰らうためには、まず相手を無力化するか、致命傷を負わせる必要があるのだから。

三月は深く息を吐き、昂る心を無理やり押さえつけた。

「一度、戻ろう。新しい武器を買わなきゃ」

未練を残すように階段の奥を一瞥してから、三月は地上へと続く道を歩き始めた。

――世界が反転し、新宿の喧騒が五感を満たす。

すっかり夜の帳が下りた歌舞伎町。

きらびやかなネオンの光の中を、三月は探索者協会へと向かった。

昨日と同じ換金窓口。

しかし、対応した女性職員の顔は、三月がトレイに紫色の魔石を置いた瞬間、

驚愕のあまり完全に凝固した。

「……っ!? これ、オークの、魔石……!?」

職員の声が裏返る。

周囲にいた他の探索者たちが、またしても一斉にこちらを振り返った。

バッジに刻まれた『F』の文字と、その手にある最高級の紫色の魔石。

その致命的なまでの矛盾に、換金所内が波打つようにざわめき始める。

「おい、あいつ昨日もホブゴブリンの魔石を持ってただろ……」

「Fランクがソロでオークを? あり得ないだろ、どんな不正だ?」

「どっかの高ランクパーティの素材を盗み出したんじゃないか?」

刺さるような疑念と嫉妬の視線。

三月は背中に冷や汗が流れるのを感じながらも、昨日と同じ嘘を重ねた。

「また……同じ場所の近くで、今度はオークが死にかけていて……。

 他のパーティが戦った後みたいで、動けなくなっていたので、トドメだけ刺しました」

「二日連続で、そんな都合の良い幸運が……?」

職員の目は、明らかに疑っていた。

しかし、ダンジョン内での出来事を証明する術は誰にもない。

怪物を横取りしたとしても、あるいは死体を漁ったとしても、

ドロップ品を持ち込んだ者が正当な所有者となるのが探索者協会のルールだ。

犯罪の証拠がない以上、換金を拒否することはできない。

「……測定、完了しました。

 オークの魔石、および討伐証明の換金額……合計で百三十万円になります」

提示された金額は、三月の想像を超えていた。

手渡されたのは、昨日のものより二倍以上分厚い、ずっしりとした札束の封筒。

三月は周囲の探索者たちが何か言ってくる前に、

頭を下げて素早く換金所を後にした。

背後から「おい、待てよ」と声をかける男がいたが、

獲得した『俊敏』のスキルを無意識に使い、人混みの中をすり抜けるようにして撒いた。

近くのコンビニのATMに駆け込み、そのうちの百二十万円を実家の口座へと振り込む。

画面に表示される残高の数字が、一瞬で書き換わっていく。

これで、実家のお金の悩みは完全に消滅した。

母親はもう夜のパートに行く必要はないし、弟はどんな名門大学だって目指せる。

携帯電話を見つめる。

母親に電話をかけようかと思ったが、二日続けての「幸運」を説明するのは、

さすがに無理があると考え、メッセージだけを送ることにした。

『また凄く運が良くて、大きなお金が入ったから振り込んだよ。

 これでしばらくは安心だから、お父さんの薬も一番良いやつにしてあげてね』

送信ボタンを押し、スマートフォンをポケットに仕舞う。

家族を救えた。その事実は、確かに三月の心を温かくした。

けれど、ATMのブースを出て、夜空を見上げた彼女の口から漏れたのは、

小さな、乾いた溜息だった。

「お金は、もういい……」

ぽつりと溢れた本音。

数日前まで、あれほど喉から手が出るほど欲しかった大金が、

今の三月にとっては、ひどく色褪せた、無価値な紙切れのように思えていた。

今の彼女が本当に求めているのは、実家の安心ではない。

あのオークの魂を喰らった時に脳髄を駆け巡った、神をも超えるような全能の快感。

そして、自分の肉体が「人間以上の何か」へと作り変えられていく、あの狂おしい高揚感だけだった。

三月は歩き出した。

向かうのは、実家への帰り道ではない。

新宿の裏通りにある、探索者専門の武器ショップだ。

今の自分に相応しい、もっと頑丈で、もっと鋭い『牙』を手に入れるために。

胸の奥でゴトゴトと音を立てて暴れる、黒い飢餓感を抑え込みながら、

三月は怪しく微笑み、夜の雑踏へと消えていった。

第五話をお読みいただき、ありがとうございました!

ついに百万円を超える大金を手にし、家族の経済的な問題は完全にクリアした三月。しかし、あれほど欲しかったお金に対する価値観が薄れ、代わりに「魂への渇望」が天秤を狂わせ始めています……。

そして、激しい戦闘に耐えきれずボロボロになってしまった鉄の剣。次なる獲物を狩るために、彼女はどのような新しい「牙」を手に入れるのでしょうか?

物語が少しずつ不穏な方向へと加速していきますが、三月の変質をこれからも楽しんでいただければ幸いです!

「続きが気になる!」「面白い!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや**評価(↓の☆☆☆☆☆)**で応援をお願いいたします!

それでは、第六話でまたお会いしましょう。

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