第47話:捕食者の慈悲
「……これが、あんたたちの見せたかった景色?」
三月は、足元で荒い息を吐くガランを見下ろしながら、冷ややかに言い放った。
高橋協会長は、自身の支配が根底から覆された事実に、呆然と立ち尽くしている。彼が信じて疑わなかった協会の威信、絶対的な管理体制――その全てが、今や三月の掌の中で毒に侵された残骸と化していた。
「通信が……繋がらない。本部からの応答も、バックアップも……全て遮断されているだと……?」
高橋が震える手で端末を叩くが、画面には三月の紫色の魔力模様が浮かび上がるだけだ。
彼らは知る由もない。三月が第十二層で喰らった『水底の蛇』の能力が、回路を通じて協会本部のネットワークを「毒の沼地」へと変え、情報を完全に汚染しきっていることを。
「あんたたちは私を『資産』と言った。ならば、その価値を証明してあげるわ」
三月は『魔鉄の塊剣』を掲げた。
その剣身が、先ほどヴォルグから放出された電撃を吸収し、不気味な蒼い火花を帯び始める。ヴォルグの能力さえも、今の三月にはただの「燃料」に過ぎない。
「……殺せ! 全員でかかれ!」
高橋の絶叫とともに、かろうじて立ち上がった残りの調査員たちが三月へとなだれ込む。
だが、彼らの剣筋は酷く鈍い。三月の『気配察知』には、彼らの殺意も、呼吸の乱れも、すべてが遅い予兆として映っている。
三月は動いた。
物理的な衝撃を磁力で弾き飛ばし、隙だらけの調査員の懐へ潜り込む。
剣を振るうのではない。彼女は、彼らの心臓に直接、毒の魔力を流し込んだのだ。
――ドクン。
三月の鼓動とシンクロするように、彼らの心臓が強制的に支配される。
彼らは剣を構えたまま、まるで操り人形のようにその場で硬直した。
「……私の獲物を狩るのに、あんたたちの腕は必要ない」
三月は高橋の目の前まで歩み寄る。
かつて絶対的な権力者として君臨していた高橋の瞳が、初めて「死の恐怖」に染まるのを見て、彼女は心の中に住まう獣が愉悦に震えるのを感じた。
「高橋さん。あんたの作り上げたこの組織は、私の家族を傷つけ、私を怪物にしようとした。その代償として……あんたたちの知識と、持っている全ての『権限』を、この迷宮の底へ捧げなさい」
「……何をするつもりだ」
「何って……。あんたたちが私に望んだ通りよ」
三月は高橋の肩に手を置いた。
回路を通じて、彼の中に蓄積された膨大な「協会の中枢情報」を、直接吸い上げる。
それは『魂喰い』の力ではない。彼女が第十二層で構築した「情報ハッキング」による、情報の捕食だ。
高橋の眼から生気が失われ、白目を剥いて崩れ落ちる。
彼の脳内から流し込まれる協会本部の裏データ、迷宮の隠された深層の座標、そして高橋が隠し持っていた禁忌の実験記録……。
それらすべてが、三月の脳内へ濁流のように押し寄せた。
(……見つけた。これが、あんたたちの弱点ね)
彼女の唇が三日月のように歪む。
協会という怪物は、もはや三月という毒に侵され、自滅へのカウントダウンを始めた。
第47話をお読みいただきありがとうございます!
ついに高橋たちの権限を「捕食」した三月。これで彼女は、協会を外から壊すだけでなく、内側から支配する「真の管理者」へと成り上がりました。
協会を、そして高橋たちのプライドを、彼女がどう解体していくのか――その過程こそが、彼女にとっての「晩餐」です。
次回からは、完全に立場が逆転した両者の動向に注目です。
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