第46話:喰らい尽くす晩餐
「……貴様、一体何を……!」
高橋の叫びは、恐怖と困惑に震えていた。
彼にとって、三月は所詮、回路で制御可能なFランクの「素材」に過ぎなかったはずだ。その常識が、今、目の前で跡形もなく崩れ去ろうとしている。
三月は『魔鉄の塊剣』をゆっくりと振り下ろす。その刃先から、蛇の毒と迷宮の瘴気が混ざり合った紫黒の魔力が滴り、足元の岩場をドロドロと溶かしていった。
「言ったはずよ。……あんたたちが私を管理していると思っている間に、私はあんたたちの心臓を握り潰す準備を終えているって」
三月が一歩踏み出す。そのたびに、大地が重圧に軋んだ。
もはや少女の仮面は不要だ。彼女の瞳は、獲物を前にした獣のそれとして、高橋たちを捕らえて離さない。
「ガラン! ヴォルグ! 何をボサッとしている! 殺せ! その回路の強制起動を最大出力で行え!」
高橋の命令を受け、ガランがひときわ強く端末を操作する。
だが、返ってきたのは、端末が発する悲鳴のようなノイズだけだった。
「……ダメです、協会長! 全回路が……制御不能です! それどころか、本部からの接続が完全に……こちらの端末を通じて、本部のシステムが逆流してきています!」
「何だと……!?」
ヴォルグが驚愕に目を見開く。
彼らが持ち帰った端末は、もはや情報を送るための手段ではなく、三月の『毒の魔力網』が協会の中枢へダイレクトに突き刺さるための「針」と化していたのだ。
本部サーバーで過負荷を引き起こした電流が、ヴォルグの持つ端末を通じて放電する。
ヴォルグの腕が閃光に包まれ、強烈な電撃が彼自身を襲った。
「ぐああぁぁぁぁっ!?」
ヴォルグの得意とする雷撃の能力が、皮肉にも彼自身を焼き尽くす。
三月は、その光景を冷徹な目で見つめた。
「……私の心臓を止める回路ね。それが私の魔力で満たされた時、あんたたちのサーバーがどうなるか……試してみたかったのよ」
彼女が指をパチンと鳴らすと、高橋たちが身に着けていた監視装置が、一斉に高熱を帯びて破裂した。
彼らはもはや、三月を監視する側ではない。彼ら自身が、三月の魔力網によって「監視」され、その生命活動さえも彼女の匙加減一つでどうとでもなる「捕食対象」へと成り下がったのだ。
「さて。高橋協会長」
三月は剣を掲げ、逃げ場を失った彼らの中心へとゆっくり歩み寄る。
「あんたたちが私の家族を人質にし、私を『駒』として消費しようとした。その代償……今から、この場所で支払ってもらうわ」
迷宮の霧が、まるで三月の意思に呼応するように渦を巻く。
彼女が吐き出す魔力は、高橋たちにとっての毒。
協会が用意した処刑場は、今や、彼女による「収穫の宴」の会場へと変わっていた。
彼女は剣を構え、支配の牙を剥き出しにする。
その背中には、かつてないほどの巨大な、怪物の影が揺らめいていた。
第46話をお読みいただき、ありがとうございます!
協会側の慢心と、それを逆に利用してシステムごと彼らを追い詰める三月のカタルシスを楽しんでいただけていれば幸いです。ついに立場が逆転し、高橋たちの「管理」が完全に崩壊しました。
ここから先は、かつての支配者たちが、三月の「飢餓」の前にどう抗うのか(あるいはどう喰らわれるのか)、その狂宴を描いていきます。
次回の更新もどうぞお楽しみに!
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