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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第六章:神獣眷属と歩む日常、あるいは世界を揺るがすペットライフ編

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第366話:銀髪狼獣人の正体と、練馬区役所の神聖調印式

チュン、チュン、チュン……。

秋の爽やかな朝風が吹き抜ける、火曜日の午前七時。

如月家の台所で、制服に着替えた如月拓也が、三月の淹れてくれた麦茶をゴクゴクと喉を鳴らして飲み干していた。

その足元には、昨夜のコタツでの猛特訓を経て、背筋をこれ以上ないほどピンと伸ばした体積三倍の巨大綿飴銀狼ザイオンが、直立不動(伏せ)の姿勢で控えている。

その横には、三月のお下がりである黄色いダッフルコートを着た猫耳少女・ルルと、毛糸のミニマフラーを巻いたミニドラゴンのポチが並んでいた。

「ぷはーっ……。よし、そろそろ学校行くか」

拓也は通学カバンを持ち上げると、ふと、足元のザイオンを見下ろした。

そして、呆れたように首をかしげながら、何気なく言ったのだ。

「……なぁ、ザイオン」

「キャンッ……!(は、はいッ! 我が主!)」

「お前さ……よく考えたら、ルルと同じで【ホムンクルスの獣人】なんだろ?

今日の午後、区役所の窓口に行くんだろ?

なんでお前、うちに来てから今まで、ずっと四つん這いで犬のフリしてモフモフしてんだよ。

役所の申請窓口にそんな四足歩行の巨大な狼のまま行ったら、入り口の自動ドアに挟まるし、書類も書けねぇだろ。

ちゃんと二足歩行の人型獣人の姿になって、服着て行けよ……」

ヒュオオオオオオオッ……!!

その瞬間、ザイオンの人工頭脳の全回路に、天変地異のような衝撃が突き抜けた。

(ば……バレておられたァァァッッッ!!!!)

ザイオンの全身の銀毛が、バチバチッと激しく逆立った。

その背後で、ポチの顎がガクンと外れ、ルルが「ふぇっ!?」と目を丸くする。

そう――ザイオンの真の姿は、古代フェンリルの因子を組み込まれた、生体兵器カルテル最高傑作の【狼獣人型ホムンクルス】であった。

戦闘時の『完全獣化(巨大銀狼形態)』と、日常や潜入時の『人型・獣人形態』を自由自在に切り替える生体変形機構を持っていたのだ。

しかし如月家に来て以来、拓也が無自覚に「でかい犬」「モフモフ」「犬ならお手しろ」と言い続けたため――。

ザイオンは己の超演算ユニットにより、

『拓也様は我が完全獣化形態のモフモフと足温器性能をこそ愛しておられる! 人型に戻れば「なんだ犬じゃないのか、邪魔だから質屋行きだ」と判定され、家庭内での居場所を失う!』

と深刻に思い込み、必死の覚悟で「ただの忠犬」を演じ続けていたのである!

(全能の調律者……如月拓也様……ッ!

我が浅はかな犬の擬態など、あのお方には最初からすべてお見通しだったのだ……!

『公の儀式(役所登録)においては、欺瞞の獣皮を脱ぎ捨て、真の獣人としての神体を開帳せよ』という、絶対の神託ッ……!!)

ザイオンの瞳から、畏怖と感涙の雫がボロボロと零れ落ちた。

「キャン……ッ!」

ザイオンが静かに目を閉じ、体内の魔力回路を反転させた、その瞬間――。

シュウウウウウウウウッ……!

巨大な銀狼の肉体が、柔らかな純白の光の粒子に包まれた。

体積三倍の巨大な毛並みが急速に収束し、光の中から現れたのは――。

銀色の短髪に、ピンと立った凛々しい狼の耳、引き締まった長身、そして背後に揺れるフカフカの銀色の尾を持つ、息を呑むほど端正な顔立ちの【銀髪の青年狼獣人】であった。

「わぁぁっ……! すごーい! ザイオンちゃん、やっぱりその姿もすっごくカッコいいよーっ!」

三月が手をパチパチと叩いて歓声を上げる。

「三月殿……! 我が身を包む衣服を、ご拝借できますでしょうか……!」

ザイオンが、深みのある凛々しい美声で恭しく頭を下げた。

「うんっ、お父さんが昔着てたグレーのパーカーと黒いカーゴパンツ、綺麗にお洗濯してあるよ! ほら、着てみて!」

三月が差し出した服に、ザイオンは素早く袖を通した。

首元には、拓也が巻いてくれた赤ドット柄のバンダナが、誇らしげに結ばれている。

「にゃはは! ザイオン、ルルとお揃いのお洋服なのにゃ! カッコいいお兄ちゃんなのにゃ!」

ルルが嬉しそうにザイオンの腰に抱きつき、ポチも「(見事ナル神聖武装解除デス!)」とザイオンの肩に飛び乗った。

拓也は、すっかり凛々しい人型獣人となったザイオンを一瞥すると、満足そうに鼻を鳴らした。

「おう、最初からその姿でいろよ。その方が廊下も狭くならねぇしな。

……ま、寝る時はモフモフの狼に戻ってくれた方が足温器として暖かいけどな。

じゃ、行ってくるわ。役所、しっかり頼むぞ」

拓也が玄関を出ていく背中に向けて、ザイオンは右手を胸に当て、深々と最敬礼を捧げた。

(ハッ……! 承知いたしました我が主! 昼は人型獣人として役所の試練を制覇し、夜は至高の足温器としてあのお方の安眠を守り抜く所存……ッ!!)

午後二時――東京都練馬区役所本庁舎。

秋晴れの空の下、区役所の正面玄関をくぐり抜けた三月たちの一団は、すれ違う一般市民たちの視線を一身に集めていた。

「えっ……嘘でしょ? なにあの人たち……モデル……!?」

「見て、あの背の高い男の人……銀髪で狼の耳が生えてる! めちゃくちゃイケメンなんだけど!」

「隣の猫耳の女の子も天使みたいに可愛い……! 探索者協会の特級眷属様かしら……!?」

ざわめく庁舎のロビー。

グレーのパーカーを着こなした美青年狼獣人ザイオンは、ルルの小さな手をしっかりと握り、拓也直伝の「至高の脱力(ぽふっ)」を維持しながら、一分の隙もない優雅な足取りで進んでいた。

その肩の上には、白銀のミニドラゴン・ポチが誇らしげに胸を張っている。

「はーい、みんな! 生活衛生課の窓口は、二階のあっちだよ!」

三月に案内され、一行は二階のフロアへと上がった。

しかし――その窓口の前に立った瞬間、ザイオンの狼の耳がピクリと跳ね上がった。

(……な、何だこの異様な気配は……!?)

生活衛生課の『愛玩動物登録窓口』。

普段であれば、のんびりとした空気の中で区民が犬の登録を行っているはずのその場所が――。

まるで、世界最高峰の国際条約調印式場のような、張り詰めた神聖なオーラに包まれていたのだ。

窓口の内側には、一般的な区役所職員の姿は一人もいない。

座っていたのは、仕立ての良い漆黒の三つ揃えスーツに身を包んだ、眼鏡の切れ者男性――日本探索者協会の最高法務顧問にして、東大法学部を首席卒業したエリート官僚・一条であった。

その背後には、儀仗兵のように直立した十数名の特務局員が、滝のような汗を流しながら整列している。

カウンターの上には、伊勢神宮の神職によって特別に手漉きされた純白の極上和紙『神聖愛玩動物登録申請書』。

そして、樹齢千年の神木から抽出された純白の聖朱肉が、金色の台座に鎮座していた。

「「「「よ、ようこそお越しくださいましたッ!! 如月三月様、並びに尊き神獣眷属様方ッッッ!!!!」」」」

地響きのような斉唱と共に、全員が一分の狂いもない九十度の礼を繰り出した。

「あ、こんにちはー!」

三月が無邪気にペコリと頭を下げ、バッグから動物病院で貰った『狂犬病注射済証』を取り出した。

「あの、うちのザイオンちゃんの愛玩動物登録と、鑑札を貰いに来たんですけど……」

「は、拝承いたしましたッ!!」

一条が震える手で申請用紙を差し出す。

「こちらが登録用紙にございます! お名前、並びに種別をご記入いただけますでしょうかッ!」

「キャン……(我が役目だ)」

ザイオンが一歩前に出た。

昨夜、コタツでポチとルルと共に何百回と繰り返したシミュレーションが、今まさに結実の時を迎える。

ザイオンは、人型となったしなやかな指先で、カウンターの高級万年筆を優雅に手に取った。

そして、一切のブレもない流麗な筆致で、手漉き和紙の上へと署名を走らせたのだ。

【飼い主:如月 拓也】

【動物の名称:ザイオン】

【種別:家庭内愛玩獣(フェンリル系ホムンクルス狼獣人・足温器担当)】

「おぉ……ッ! なんという神々しい達筆……!」

一条の眼鏡の奥の瞳から、感涙の雫が零れ落ちた。

しかし――その、まさに神聖なる調印の刹那であった。

キィィィィィィン……ッ!!

区役所の天井の空調ダクト、並びに待合室の観葉植物の影から、空間を切り裂くような極微小の高周波ノイズが響いた。

カルテルの放った生体自律暗殺部隊【キメラ・ドールズ】――総勢十六機!

少女の人形のような可憐な外見でありながら、体内には都市一つを壊滅させる超高圧プラズマ爆弾と、生体神経毒ニードルを満載した、カルテル最後の凶悪兵器である。

(……ターゲットを確認……! フェンリル、並びにキャット……!

一般市民を巻き込み、庁舎ごと自爆・炎上させ……神獣たちを「大虐殺の凶悪魔獣」として社会的に抹殺する……ッ!)

ドールたちのガラス細工のような瞳が、冷酷な真紅に発光した。

一斉に空調ダクトの金網を破り、三月たちめがけて音速で急降下襲撃を仕掛けようとした――!

だが。

(……拓也様は仰せられた)

万年筆を走らせていたザイオンの銀色の瞳が、冷徹な光を帯びた。

『窓口で不備があったりして門前払いされたら一発でアウトだからな。礼儀正しくお座りして、一発でハンコ貰ってこいよ』

(この神聖なる調印の場を汚し、申請書の一角にでも煤を落とそうとする害虫ども……!

我が主の平穏を脅かす貴様らの存在など……微塵の価値もなしッ!!)

ザイオンは、左手を万年筆から離すことなく、ただ右足のスニーカーの爪先で、区役所の床を【トントン】と軽く二回タップした。

トントン。

音は、周囲の誰の耳にも届かなかった。

しかし――天井から降下しかけていた十六機のキメラ・ドールズの周囲だけに、局所的な【因果圧縮重力檻】が瞬時に展開された。

「ギ……ッ!?」

ドールたちの超合金骨格が、一切の音も衝撃波も立てず、内部のプラズマ爆弾ごとギュウゥゥゥッと押し潰された。

さらに――動いたのはルルであった。

「三月お姉ちゃんの邪魔をするななのにゃーーっ!!」

ルルは、がま口財布を抱きしめたまま、ふわりと爪先立ちで半回転。

拓也直伝の「至高の脱力(ぽふっ)」を込めた右手の肉球で、空中に圧縮されていた十六個の金属の塊を、優しく【ポン】と叩いた。

シュウウウウウウウウッ……。

触れられたキメラ・ドールズの残骸は、火花一つ散らすことなく、完全に分子レベルで分解され、十センチ四方の綺麗な「アルミ缶サイズの四角い金属ブロック」へと無力化されたのだ。

「キュピィッ!(回収班、どうぞ!)」

ポチが鼻先で合図を送ると、床の影から不知火凛率いる八咫烏の部隊が音もなく染み出し、その金属キューブをちりとりでサッと回収して影の底へと消去していった。

国家転覆級の暗殺ドール部隊の奇襲――。

一般市民は誰一人として気づかず、三月の髪の毛一本すら揺れることなく、わずか一秒で完全無音の更地送りにされたのである。

「――はい、書けました!」

ザイオンは、完璧に記入された申請用紙を、両手で恭しく一条の前へと差し出した。

紙には指紋一つ、シワ一つついていない。

「み、見事でございます……ッ!!」

一条は震える手で申請書を受け取ると、純白の聖朱肉に公印を押し――。

ダンッッッ!!

手漉き和紙の中央に、深紅の練馬区公式登録印が、完璧な美しさで刻印された。

「これにて、愛玩動物本登録……完全承認でございますッ!!」

一条は、ビロードの布が敷かれた黒漆のトレイを捧げ持った。

その上には、純プラチナと賢者の石を用いて特注で鍛造された、月光のように美しく輝く特注の鑑札プレート――【練馬区愛玩動物登録証・第零号(鑑札)】が鎮座していた。

「わぁーっ! 綺麗なプレート! ザイオンちゃん、よかったねーっ!」

三月が満面の笑顔でプレートを受け取り、ザイオンの首元の赤ドット柄バンダナの結び目へと、パチンと誇らしげに装着してあげた。

キラリと輝くプラチナの鑑札。

それは、世界を滅ぼす生体兵器フェンリルが、名実ともに「如月家の家族」として現世の法体系に正式に刻まれた、歴史的な瞬間であった。

「キャンッ……!(我らは……成し遂げたのだ……!)」

ザイオンは胸のプレートにそっと手を当て、熱い涙を零した。

ルルとポチも、抱き合って歓喜の声を上げる。

「ありがとうございましたー!」

三月が手を振り、青年獣人ザイオン、ルル、ポチを連れて、晴れやかな笑顔で区役所を後にした。

午後五時半――如月家。

ガララッ。

「ただいまーっ!」

「キャンッ!」

「にゃーっ!」

「キュピィ!」

玄関の引き戸が開き、賑やかな声が響いた。

リビングから、学校帰りで制服のネクタイを緩めた拓也が、麦茶の入ったコップを持ってひょっこり顔を出す。

「お、おかえり。

どうだったよ役所。窓口のおばちゃんに怒られなかったか?」

「うんっ! 全然怒られなかったよー!」

三月が満面の笑顔で、首元にプラチナの鑑札を光らせたザイオンを差し出した。

「ほら見て拓也! ザイオンちゃん、すっごく上手に字を書いて、一発でハンコ貰えたんだよ!」

青年獣人の姿のザイオンは、拓也の前にスッと正座し、背筋を伸ばして頭を下げた。

「我が主……! 仰せの通り、不備なく鑑札を拝受してまいりました!」

拓也は、ザイオンの首元でキラリと光る鑑札プレートを見つめた。

そして、ふにゃりと口元を緩めると、あぐらをかいて座り込んだ。

「へぇ……。ちゃんと一発で登録できたのか。偉いじゃん。

お前、字も書けるし、服も似合ってんじゃん」

拓也は、大きな手を伸ばすと、銀髪の青年獣人ザイオンの頭を――犬の時と全く変わらない力加減で、ワシャワシャと力いっぱいに撫で回した。

さらに、飛びついてきたルルの頭をくしゃくしゃと撫で、肩の上のポチの顎をコチョコチョと掻いてやる。

「よく頑張ったな、ザイオン。ルルもポチも。

これで正式に、うちの飼い犬……じゃなくて、うちのペット家族だな」

「くぅ〜ん……(あぁ……拓也様……!)」

「にゃふぅ……♡」

「キュピィィ……(至高ノ家族宣言……生キテテ良カッタデスッ……!)」

人型の美青年の姿のまま、拓也の膝の上に顔をうずめて嬉しそうに尻尾をブンブンと振るザイオン。

拓也は苦笑しながら、トントンと背中を叩いてやった。

「よし、じゃあ晩飯食うぞ!

あ、ザイオン。飯食ったら、モフモフの狼に戻って足元温めてくれよな。

やっぱり、冬の足温器にはあの毛皮が一番だからさ」

「キャンッ!(喜んで、我が主の至高の寝床になりましょうッ!!)」

外見がどれほど変わろうとも、変わらない家族の温もり。

夕暮れの柔らかな光に包まれた如月家には、どこまでも平和で、どこまでも温かな笑い声が満ち溢れていたのであった。

(第367話へ続く)


読んでいただき、本当にありがとうございます!


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次回更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。


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