↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第六章:神獣眷属と歩む日常、あるいは世界を揺るがすペットライフ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
365/378

第365話:夕暮れの豚汁と、役所本登録への宣誓

ゴロゴロゴロッ……コトコトコト……。

動物病院での狂犬病予防接種と秋期健康診断を奇跡の「ハナマル満点」で突破した如月家の一行。

夕闇が静かに迫る午後六時半、木造家屋の台所には、芳醇な鰹節の出汁と、炒めたごぼうと豚バラ肉の香ばしい匂いが立ち込めていた。

黄色いヒヨコ柄のエプロンをつけた如月三月が、大きなお鍋の蓋を開け、お玉で具だくさんの汁をすくい上げる。

お鍋の中では、乱切りにした大根、人参、里芋、板こんにゃく、そしてたっぷりの豚バラ肉が、濃厚な信州味噌のスープの中でグツグツと踊っていた。

「ん〜っ! お肉の旨味が大根とごぼうにすっごく染み込んでる!

炊飯器のきのこ炊き込みご飯も、ちょうど今炊き上がったよーっ!」

ピー、ピー、ピーと電子音が鳴り響き、炊飯器の蓋が開けられると、舞茸、しめじ、油揚げの香ばしい湯気が一気に立ち上った。

お茶碗にふんわりと盛られた黄金色の炊き込みご飯。

そして、大きめのお椀に並々と注がれたアツアツの特製豚汁。

仕上げに小ネギがたっぷりと散らされ、秋の味覚が凝縮された最高の夕餉が完成した。

「はーい、拓也! お待たせー! 病院頑張った記念の特製豚汁御膳だよーっ!」

「うわ……マジでうまそうじゃん……!」

食卓についた如月拓也の瞳が、キラリと輝いた。

部活やテストの疲れが残る男子高校生にとって、アツアツの豚汁と炊き込みご飯ほど胃袋を直撃するご馳走はない。

拓也の足元には、体積三倍の巨大綿飴銀狼ザイオンが、赤ドット柄のバンダナを揺らしながらスッと寄り添い、冷えやすい少年の足先を極上の毛並みで包み込んでいた。

その横には、三角巾を巻いたルルが木製のお箸とお茶を丁寧に並べ、換気扇から降りてきた手のひらサイズのミニドラゴン・ポチが、三月手作りのミニマフラーを整えてテーブルの端にお座りしている。

「いただきます!」

拓也はお箸を割ると、まずは湯気を立てる豚汁のお椀を持ち上げ、ズズッと一口すすった。

「…………。」

喉を通る、濃厚な豚バラの脂の甘みと、根菜の滋味。

味噌の塩気が出汁と完璧に調和し、疲れた身体の隅々へと、じんわりと温かなエネルギーが行き渡っていく。

「……っっっ、あぁ……うめぇ……!!

ごぼうの風味がめちゃくちゃ効いてるし、大根がトロットロに煮崩れる手前で最高だわ……!

豚肉もすっごい柔らかい……!」

続いて、きのこ炊き込みご飯を箸でごっそりと持ち上げ、口の中へとかきこむ。

舞茸のシャキシャキとした歯ごたえと、出汁をたっぷり吸い込んだご飯の甘みが弾け飛ぶ。

豚汁をすすり、炊き込みご飯を頬張り、また豚汁をすする。

無限のループに、拓也の箸は一瞬たりとも止まらなかった。

「えへへー! 拓也、そんなに美味しそうに食べてくれたら作った甲斐があるよー!」

三月が嬉しそうに微笑みながら、小皿に柔らかく煮た豚バラの赤身と大根を少し取り分け、床のザイオンとルル、ポチの前に置いてやった。

「はい、みんなもお疲れ様! 塩分控えめのところ、冷ましてあるからね!」

「キャンッ……!(あぁ……大地の恵み、肉と根菜の至高の調和……!)」

「にゃふぅ……大根がすっごく甘くて美味しいのにゃ……!」

「キュピィィ……(神饌ノ温モリカ、魂ニ染ミ渡リマスッ……!)」

神獣たちは、その一口の豚肉と大根を、世界中のいかなる秘宝よりも尊い聖餐として、涙を流しながらハフハフと味わった。

「ぷはーっ! 食った食った! 最高だったわ!」

米粒一つ、豚汁の汁一滴残さず綺麗に平らげた拓也は、お茶をゴクッと飲み干して満足そうに息を吐いた。

そして、食卓の脇に置かれていた、動物病院から三月が持ち帰ってきた封筒へと視線を落とした。

封筒の中からは、ハインリヒ医師が発行した『狂犬病予防注射済証』の書類と、小さなアルミ製の鑑札プレート、そして健康診断結果通知書(全項目S+)が顔を覗かせていた。

「……ん。これで注射と健康診断の証明書は揃ったな」

拓也は書類を指先でトントンと整えながら、足元のザイオンを見下ろした。

「なぁ、ザイオン」

「キャンッ……!(は、はいッ! 我が主!)」

ザイオンが、背筋をピンと伸ばして直立不動の姿勢を取る。

「注射と健診が終わったからって、安心すんなよ?

この注射済証をさ……明日の放課後、ちゃんと区役所の生活衛生課の窓口に持ってって、正式な愛玩動物登録をして、本物の【犬の鑑札(登録プレート)】を貰ってこなきゃいけないんだからな」

ヒュオオオオオオオッ……!!

その瞬間、ザイオンの背筋に、再び冷たい氷柱のような戦慄が走り抜けた。

(く……『区役所の本登録』……!? そして『本物の鑑札』……だとォォォッ!?)

ザイオンの全身の銀毛が、一瞬で逆立った。

その横で、ルルの猫耳がビクッと跳ね上がり、ポチの小さな前足がガタガタと震え始める。

拓也は、湯呑みを手にしたまま、至極真面目な顔で言葉を続けた。

「お前、体がでかいんだからさ。窓口で書類に不備があったり、申請書の文字が汚かったりして突き返されたら、窓口のおばちゃんにめちゃくちゃ怒られるぞ。

『こんな怪しい大型犬、登録できません! 不審動物です!』って言われて門前払いされたら、今度こそ一発でアウトだからな。

明日は三月と一緒に、シャキッと背筋伸ばして、礼儀正しくお座りして、一発でハンコ貰ってこいよ……むにゃ」

拓也は、大きくあくびをしながら立ち上がると、お風呂へ向かうためにリビングを出ていった。

しかし――残されたリビングの空気は、再び絶対零度の緊迫感に包まれていた。

(……聞いたか、ルル、ポチ……ッ!?)

ザイオンが、悲壮な面持ちで二匹へ極小の思念波を走らせた。

(我が主は……明日の【区役所生活衛生課】を、我らにとっての『最終試練』と位置づけておられるのだ!

書類の不備、態度の乱れ、不審な挙動……わずか一つの瑕疵すら許されん!

もし『登録不可の不審動物』と判定されれば……この温かな食卓も、あのフカフカの安眠も、すべてが泡と消えてしまうのだッ……!!)

「にゃぅ……! ルル、怒られるの嫌なのにゃ……! ちゃんといい子でお座りするのにゃ……!」

「キュピィッ……!(書類ノ角一ツ折ラズ、公印ヲ受領スルマデ……我ラノ戦イハ終ワリマセンッ!)」

神獣たちは、明日の区役所出頭に向けて、かつてない覚悟の炎をその瞳に宿したのであった。

その頃――新宿・日本探索者協会本部、最上階作戦統括室。

『――観測班より緊急暗号電ッ!!』

オペレーターのクロエ・アーヴィングが、両手でヘッドセットを力いっぱい押さえ、紅潮した顔で立ち上がった。

巨大スクリーンには、都内某所の如月邸の音声波形データがリアルタイムで解析されている。

『た、拓也様より……明日の午後を指定した……新たなる超特大神託が下されました!

【現世最高至高台帳登録令(アカシック・レジストレーション)】、並びに【絶対神聖鑑札拝受の儀】ですッ!!』

「な、何だとォッ!?」

神宮寺蒼太が、氷の長刀の柄を軋ませて身を乗り出した。

その隣で、アメリカ最強のSランク探索者「雷帝」レオン・カーターが、口を開けて唸り声を上げる。

「クロエ殿! 指揮官様は、一体何を仰せられたのだ!?」

「拓也様のお言葉を再生します!」

スピーカーから、拓也の冷徹な声が厳かに響いた。

『……窓口で書類に不備があったりして突き返されたら、めちゃくちゃ怒られるぞ。門前払いされたら一発でアウトだからな。明日はシャキッと背筋伸ばして、礼儀正しくお座りして、一発でハンコ貰ってこいよ……』

「…………ッ!!」

神宮寺とレオンが、息を呑んで顔を見合わせた。

「『不備があれば一発でアウト』……『門前払い』……だと……!?」

レオンが額に青筋を浮かべて唸る。

「ええ、そうです!」

クロエが、狂信の光に目を燃え上がらせながら断言した。

「拓也様は仰せなのです!

先の動物病院における健康診断は、あくまで前哨戦に過ぎぬ!

明日の【練馬区役所】における登録こそが……神獣たちを全宇宙の理、そして現世の法体系という名の【至高台帳(アカシック・レコード)】に正式登記するための、究極の儀式であると!

もし……もし我ら人類側の役所手続きにコンマ一秒の不備、書類の誤字脱字、あるいは失礼な態度があれば……!

『不備がある、やり直しだ』として、日本国政府ごと行政機能が更地に消去されるという、明白なる最後通牒ですッ!!」

「な、なんという恐るべき試練だ……ッ!!」

神宮寺が、戦慄のあまり机を叩いて叫んだ。

「内閣府、法務省、厚生労働省、並びに東京都庁へ最優先レッドアラートを発令!!

明日午後、三月様と神獣様方が向かわれる練馬区役所生活衛生課を、直ちに【国家不可侵特級行政聖域】に指定しろ!

当日の窓口対応職員は、全員を東大首席卒業の官僚エリート、並びに国家最高峰の礼法指南役へと差し替えよ!

神獣様方に差し出す申請用紙は、伊勢神宮に奉納される最高級の手漉き和紙、押印する朱肉は千年前の神木から精製された純白聖朱肉を用いろ!

そして……神獣様にお授けする鑑札プレートは、純プラチナと賢者の石を用いて特注で鋳造しろッ!!

書類の角が一ミリでも折れていた場合……担当大臣以下、全員を即刻免職のうえ極北の氷河へ送致するッ!!」

「「「「了解ッッッ!!!!」」」」

世界最強の特務組織が、男子高校生の「書類不備で怒られるなよ」という何気ない一言を受け、ただの区役所の窓口を「全宇宙最高格式の調印式場」へと変貌させるべく、狂気じみた規模で動き出していた。

しかし――。

その極秘作戦の裏側。

先ほど動物病院で不知火凛によって捕縛されたドクター・ヴァルター。

その身柄が亜空間地下牢へと消去される直前、彼が放っていた極小の緊急救難ビーコンが、都内某所の地下深く――生体兵器カルテル『アンダー・キメラ研究所』の最奥、最高評議会のメインフレームへと着信していた。

ピピピ……ガガガッ……。

薄暗い円卓を取り囲む、ホログラムで投影された数名の影。

彼らは、ヴァルターをも駒として使っていた、カルテルの真の出資者たち――国際軍事複合体の闇の重鎮たちであった。

『……ヴァルターが仕損じたか。哀れな男だ』

冷酷な老人の声が響く。

『だが、奴が最後に残したログは極めて有益だ。

明日午後、完全体フェンリルと失敗作キャットが、練馬区役所という公の場に姿を現す。

一般市民が密集する行政庁舎……そこであれば、日本探索者協会の精鋭たちも派手な広域破壊魔術は使えまい』

『うむ。ヴァルターの遺した最高傑作……生体自律型暗殺ドール部隊【キメラ・ドールズ】を全機投入せよ。

区役所の地下配管、空調ダクト、および待合室の一般市民に紛れ込ませ、申請手続きの瞬間を狙って一斉奇襲を仕掛ける。

神獣を回収できずとも構わん。あの場で神獣を暴走させ、一般市民を虐殺させれば……奴らは「危険魔獣」として社会的に抹殺され、我らが合法的かつ強制的に回収できる』

『決定だな。明日の練馬区役所を……神獣たちの墓場としてやろう』

暗黒の組織による、狂気の陰謀が、明日の区役所を標的として静かに照準を合わせていた。

深夜十二時――如月家・居間。

家中の電気が消え、拓也と三月が二階の寝室で寝静まった後。

薄暗いリビングのコタツの周りに、三つの小さな影が、息を潜めて集まっていた。

テーブルの上には、三月が役所から持って帰ってきた『愛玩動物登録申請書』の見本用紙が広げられている。

「キャン……(ルル、ポチ、準備はいいか)」

ザイオンが、真剣そのものの眼光で低く囁いた。

「(明日の提出本番、拓也様に恥をかかせるわけにはいかん。

今夜のうちに、完璧なる【姿勢制御】と【申請書提出の所作】を体に叩き込むのだ)」

「にゃっ! ルル、頑張るのにゃ!」

ルルは、小さな両手で見本用紙の両端を、皺一つつけないように慎重に挟み持った。

そして、コタツの前に正座し、背筋をピンと伸ばす。

「キュピィッ!(我ガ、窓口ノ受付職員役ヲ務メマショウ!)」

ポチが、換気扇の枠から飛び降り、コタツの反対側で胸を張って直立した。

「(コホン……次ノ方、どうぞ! 申請書ヲご提出クダサイ!)」

「キャンッ!(ザイオン、参るッ!)」

ザイオンは、床に両前足を綺麗に揃え、頭を深々と四十五度の角度で下げた。

昨日拓也から教わった「至高の脱力(ぽふっ)」の精神を研ぎ澄まし、呼吸音すらゼロに抑え込む。

そして、ルルが両手で差し出した申請書を、前歯の先端で紙の繊維を一本も傷つけることなくそっと受け取り、ポチの前へと恭しく差し出した。

「(……コレハ……完璧デス……ッ! 角度、静寂、礼儀、何一ツトシテ非ノ打チ所ガアリマセンッ!)」

ポチが思念波で感涙の拍手を送る。

三匹は、何度も、何度も、夜を徹して「完璧なお座りと書類提出」のシミュレーションを繰り返した。

すべては、この温かな家の一員として、明日、胸を張って拓也の元へ帰ってくるために。

ガララッ……。

「……ん? お前ら、何やってんだ?」

その時、リビングの引き戸が開き、眠たそうに目をこすりながらスウェット姿の拓也が入ってきた。

喉が渇いて麦茶を飲みに降りてきたのだ。

「ヒィッ……!?」

三匹が、ピタッと氷漬けのように静止した。

拓也は、コタツの周りでなぜか正座し、申請用紙を囲んでビシッと背筋を伸ばしている三匹を見て、不思議そうに首をかしげた。

「なんだよ、夜中にコタツ囲んで……。お前ら、ペットのくせに家族会議でもしてんのか?」

拓也は冷蔵庫から麦茶を取り出してコップ一杯飲むと、コタツの前に歩み寄ってきた。

そして、床にしゃがみ込むと――。

ワシャワシャワシャッ……!

緊張でガチガチになっていたザイオンの頭を、大きな手で力いっぱいに撫で回した。

さらに、ルルの頭をくしゃくしゃと撫で、ポチの顎の下を人差し指でコチョコチョとくすぐる。

「明日の役所、そんなに緊張すんなって。

三月も一緒に行くんだし、お前らなら大丈夫だよ。

ほら、夜更かししてないで、早く二階上がって寝るぞ。

足元が冷えるから、ザイオン、お前が布団に入れよ」

「くぅ〜ん……(あぁ……拓也様……!)」

「にゃふぅ……♡」

「キュピィィ……(神ノ……絶対ノ信頼……ッ!)」

拓也の温かな手のひらの温もりに、三匹の胸の奥の緊張が、スーッと優しく溶け去っていった。

怒られるかもしれない恐怖。追放されるかもしれない不安。

そんなものは最初から、少年の深い愛の前には存在しなかったのだ。

「よし、行くぞ」

「キャンッ!」

「にゃーっ!」

「キュピィ!」

拓也の足元をエスコートするように、トコトコと階段を登っていく三匹。

二階の六畳間で、少年を真ん中にぎゅっと寄り添いながら、彼らはどこまでも温かく、どこまでも深い眠りへと沈んでいった。

明日、練馬区役所で待ち受ける国家規模のVIP待遇と、暗黒カルテルの凶悪な罠。

そんな大騒乱の予感すら知らぬまま、少年と神獣たちの穏やかな夜は、静かに更けていくのであった。

(第366話へ続く)


読んでいただき、本当にありがとうございます!


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

下にある【☆☆☆☆☆】の評価やブックマークをいただけると、執筆の大きな励みになります!


次回更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。