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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第六章:神獣眷属と歩む日常、あるいは世界を揺るがすペットライフ編

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第357話:極上の茶碗蒸しと、夜明けの不燃物パージ令

コトコトコト……シュンシュンシュン……。

夜の静けさが下町の住宅街を包み込む、午後八時過ぎ。

如月家の台所では、ステンレス製の深鍋から、鰹と昆布の上品な出汁の香りをたっぷりと含んだ柔らかな湯気が立ち上っていた。

お風呂から上がったばかりの如月拓也は、首にタオルを掛け、少し湿った黒髪をガシガシと拭きながらリビングへと戻ってきた。

ヨレヨレのスウェットに身を包んだ少年の胃袋は、温まった身体に刺激され、キュゥと小気味よい催促の音を立てていた。

「ふぅー……さっぱりした。三月、なんか台所からすげぇいい匂いすんだけど」

「あ、拓也! お風呂お疲れ様ー! ちょうど今、蒸し上がるところだよ!」

黄色いエプロンを着た三月が、満面の笑顔で振り返る。

台所のガスコンロの上では、夕方にルルたちがスーパー『ライフマート』の特売タイムセールで命懸けで持ち帰ってきた『特選・赤玉太陽卵』を使った、特製茶碗蒸しの蒸し器がセットされていた。

そしてそのコンロの真下――換気扇の縁に爪を引っ掛け、青白い極小の炎をフシューッとミリ単位で放っているのは、白銀のミニドラゴン・ポチであった。

(……見ヨ……! コレガ数万年ノ時ヲ生キタ古竜ガ辿リ着イシ……【神域ノ弱火蒸気結界】……ッ!)

ポチの全身の鱗が、極度の集中によって淡く発光していた。

茶碗蒸しという料理は、卵料理の中でも最も火加減が繊細とされる。

強火すぎれば表面にボコボコと穴が開く「す」が入り、食感が台無しになる。

弱すぎれば卵液が固まらず、水っぽくなってしまう。

狙うは――表面は鏡のように滑らかで、スプーンを入れた瞬間にフルフルと揺れる、完全無欠の絹ごし食感。

ポチは己の神罰レーザーを【〇・〇〇〇〇〇五パーセント】まで絞り込み、鍋底のお湯の温度を摂氏八十五度・対流速度ゼロ・湿度百パーセントという、現代科学の調理器具でも不可能な絶対平衡状態に保ち続けていた。

「ポチちゃん、火を止めて大丈夫だよ!」

三月の合図と共に、ポチはプシュッと火を収束させた。

「キュピィ……(我ノ……我ノ真ノ天職ハ、料理人デシタ……)」

真っ白な湯気の中で、ポチは達成感に満ちた涙を流し、換気扇の上でカクッと脱力した。

「はーい、拓也! 特選太陽卵のぷるぷる茶碗蒸し、完成だよーっ!」

三月が、厚手の布巾で陶器の器を持ち上げ、リビングのテーブルへと運んできた。

蓋を開けた瞬間――。

フワァァァァァァッ……!

澄み切った鰹出汁の香りと、濃厚な卵の甘い芳香が、部屋いっぱいに広がった。

器の中には、黄色く透き通るような美しい卵生地が、まるで琥珀の湖のように静まり返っている。

気泡一つなく、つるりと光を反射する表面。

具材には、下茹でした鶏ささみ、薄切りのしいたけ、銀杏、そして三月が庭のプランターから摘んできた青々とした三つ葉が上品に浮いていた。

「うわ……すっげぇ……。旅館の料理長が作ったやつみたいじゃん」

拓也の目が釘付けになった。

少年の足元には、体積三倍の巨大綿飴銀狼ザイオンがスッと前足を揃えて座り込み、拓也の冷えやすい足首をフカフカの毛並みで包み込んでいた。

その横では、ルルが「ルルが買ってきた卵なのにゃ!」と誇らしげに尻尾をピコピコと揺らしている。

「いただきます」

拓也は木製のスプーンを手に取ると、黄金色の茶碗蒸しの端へとスッと差し入れた。

スプーンを沈めた瞬間、手首に伝わるのは、抵抗感ゼロのフルフルとした吸い付くような弾力。

そのままスプーンを持ち上げると、底からじんわりと透明な出汁が滲み出し、湯気を立てながら少年の口元へと運ばれた。

ハフッ、つるん……。

「…………。」

拓也の動きが止まった。

少年の右眼が微かに見開かれ、全身の筋肉からふわりと力が抜けていく。

「…………っっっ、うっっっっっっっま……!!!!」

喉の奥から、呻くような至福の声が漏れ出した。

「なにこれ……! 舌の上に乗せた瞬間、噛む必要すらないくらいスッと溶けて消えたぞ……!

なのに、出汁の旨味と卵のコクがめちゃくちゃ濃厚で……後味がすっごい優しい……!

鶏肉もしっとり柔らかいし、三つ葉の香りが完璧すぎる……!」

スプーンが止まらない。

すくっては口に運び、熱々の出汁をハフハフと味わい、またすくう。

器の底に入っていた銀杏のほろ苦さがアクセントとなり、少年の疲れた脳と身体を、芯からじんわりと解きほぐしていった。

「えへへー! 拓也、そんなに喜んでくれたら作った甲斐があるよー!」

三月が手を叩いて破顔する。

足元のザイオンとルル、そして換気扇から降りてきたポチは、拓也の幸せそうな横顔を見上げ、互いに前足を握り合って感涙に咽んでいた。

(喜んでくださった……! 我らの命懸けのお使いと、極小とろ火が……神の御心を完全に満たしたのだ……ッ!)

「ふぅー……食った食った! ごちそうさま! マジで美味かったわ」

拓也は、最後の一滴の出汁まで綺麗に飲み干し、器を置いて満足そうに息を吐いた。

その頃――新宿・防衛本部。

『――観測成功ッ!!』

オペレーターのクロエ・アーヴィングが、両手を胸の前で組み、祈るように叫んだ。

『如月邸内において、神饌【太陽卵の至高蒸気結晶(茶碗蒸し)】の完全吸収を確認!

指揮官様の生体エーテル値が完全安定領域へと到達!

東京都内全域に展開されていた微細な空間振動の乱れが、全て黄金の調和パルスによって中和されましたッ!!』

「うむ……! 見事だ……!」

神宮寺蒼太が、深く、静かに息を吐き出した。

その横で、レオン・カーターが豪快に笑いながら拳を突き上げる。

「ハッハァ! スーパーの特売卵が、世界を救う至高の触媒になったってわけだな! これで今夜も東京の平和は約束されたぜ!」

だが――。

モニターの音声スピーカーから、食後のお茶をすする拓也の、何気ない呟きがポツリと拾い上げられた瞬間、本部の空気は再び凍りついた。

『……あー、そういえばさ、三月』

拓也が、湯呑みをテーブルに置きながら、ぼんやりと窓の外の闇を見つめていた。

『最近さ、夜になると庭の屋根の上あたりを、変な赤い光の飛ぶドローンとか、機械のカラスみたいなやつがウロウロ飛んでる気がするんだよな。

盗撮器かおもちゃか知らねぇけど、マジで目障りだし、夜中にカチャカチャうるさいんだよ』

『えっ、本当!? 拓也のお部屋を覗こうとしてるの!? 許せないっ!!』

三月がぷくーっと頬を膨らませる。

拓也は、大きくあくびをしながら、立ち上がって伸びをした。

『明日の朝ってさ……確か、燃えないゴミの収集日だろ?

もしまた庭先とか電柱の隙間に変な鉄クズが落ちてたらさ。

全部まとめて拾い集めて、ゴミ袋にギュウギュウに押し込んで、燃えないゴミのステーションに放り投げて処分しちまおうぜ……。あんな目障りなガラクタ、一匹残らず更地に捨てちまえばスッキリするだろ……むにゃ……』

何気ない、ただの「近所の不審なゴミに対する少年のぼやき」。

しかし――。

『――ぎゃあああああああああっっっ!!!!』

防衛本部で、クロエが耳元のインカムを押さえて悲鳴を上げた。

フロア全体のモニターが、一斉に真っ赤な【超極限レッドアラート】へと切り替わる。

「クロエ殿ッ! 何事だ!?」

神宮寺が血相を変えて叫ぶ。

「た、拓也様より……明朝の夜明けを指定した……【絶対不燃物パージ令(ガーベッジ・カタストロフ)】が発令されましたッ!!」

クロエが、震える指で衛星マップを叩いた。

「拓也様は仰せなのです!

『夜空を蠢く機械のガラクタ(カルテルの偵察ドローン部隊)をすべて拾い集め、ゴミ袋に圧縮し、明日の朝までに世界ごと【燃えないゴミ】として投棄・更地にせよ』――とッ!!」

「な、何ということだ……ッ!!」

レオンが額を押さえてよろめいた。

「あのお方は、すでに裏社会の残党どもが放った最新鋭ナノドローン監視網の存在を、完全に看破しておられたのか……!

しかも、奴らを『軍事脅威』とすら見なさず、『明日の朝の燃えないゴミ』として処分せよと宣告されただとォォッ!?」

「全軍へ最優先非常呼集!!」

神宮寺の怒号が、新宿の夜空を切り裂いた。

「不知火凛殿率いる『八咫烏』、並びに遠征軍の全機動隠密部隊へ通達!

明朝六時のゴミ収集車が来る前に、東京都内および極東全域に潜伏する不法ドローン、カルテルの偵察基地、並びに生体兵器の残骸を、一粒残らず回収せよ!

八咫烏の空間圧縮術をもって、すべての残党を十センチ四方の【不燃ゴミキューブ】へと圧縮しろ!

指揮官様が玄関を出てゴミ袋を持たれるその瞬間までに……この街から『燃えないゴミ』を完全消滅させておくのだァァァッ!!」

「「「「了解ッッッ!!!!」」」」

少年の「明日のゴミの日に捨てちまおう」という一言によって、日本および各国の最高特殊部隊が、夜を徹して裏社会のドローン網を文字通りの「ゴミ拾い」として狩り尽くす大作戦が幕を開けたのである。

深夜一時――都内某所の廃工場地下。

多国籍生体兵器カルテル【アンダー・キメラ研究所】の極東最後の生き残り部隊が、モニターに映し出されたノイズ混じりの画面を見つめ、パニックに陥っていた。

「……ば、化け物め……! 先ほど如月邸へ放った最新鋭偵察ナノフライ(機械蝿)全機との通信が、突如として途絶えた!」

「工場周辺の監視カメラも次々とダウンしています! 何者かが……恐るべき速度でこちらの防衛ラインを包囲している!」

研究主任の男が、額から滝のような汗を流しながら叫んだ。

「迎撃ドローンを全機発進させろ! 侵入者を蜂の巣に――」

ズズズ……ッ。

工場の頑丈な防音シャッターが、溶鉄のように音もなくスッと切り裂かれた。

立ち込める白い冷気の中から現れたのは、漆黒のスーツを着た神宮寺蒼太、青白い雷を纏うレオン・カーター、そして影から音もなく染み出る八咫烏の暗殺者たちであった。

その手には――なぜか、東京都指定の透明な【燃えないゴミ用ポリ袋(四十五リットル)】が、大量に握りしめられていた。

「き、貴様ら……何者だ……!? そのゴミ袋は何だ!?」

主任が銃を構えて後ずさる。

「問答無用」

神宮寺の冷徹な声が、凍りついた空間に響いた。

「我が主より、明朝の収集に向けた【清掃指示】が下された。

貴様らの拠点の機材、サーバー、サイボーグ兵、ドローン……すべては、この星の美観を損ねる『不法投棄のガラクタ』に過ぎん」

「な、何を馬鹿な――」

「凛殿、圧縮(パージ)を開始せよ」

不知火凛が両手で印を結んだ瞬間、廃工場の空間そのものがギシギシと悲鳴を上げて内側へと折り畳まれ始めた。

重火器も、最新鋭スーパーコンピューターも、サイボーグたちの鋼鉄の肉体も、一切の抵抗を許されず、空間の重力波によってギューッとペシャンコに圧縮されていく。

バキバキバキッ……メキメキメキッ……ポスッ。

数十トンの超ハイテク軍事施設が、わずか五秒で、綺麗に角の揃った十センチ四方の「燃えないゴミキューブ」三十個へと姿を変えた。

八咫烏の隊員たちが、手際よくトングでそれらを拾い上げ、青い文字で『不燃ごみ』と書かれた指定袋の中へと放り込んでいく。

「回収完了。亜空間処分場へ転送する」

凛の涼やかな声と共に、ゴミ袋は影の中へと吸い込まれ、廃工場の跡地には、掃除機をかけた後のような清潔な更地だけが残されたのであった。

翌朝――午前六時半。

チュン、チュン、チュン……。

爽やかな秋晴れの朝の光が、如月家の庭を照らしていた。

パジャマ姿の拓也が、あくびをしながら勝手口を開け、庭先の青いプラスチック製ゴミバケツをパカリと開けた。

「……ん……。そういえば、変なドローンの残骸とか落ちてないかな……」

拓也は庭の隅やトタン屋根の隙間をキョロキョロと見渡した。

しかし、そこには落ち葉一枚すら落ちておらず、秋風が心地よく吹き抜けるばかりであった。

「なんだ……。気のせいだったか。ガラクタ一つ落ちてねぇや」

拓也は、台所から持ってきた小さな不燃ゴミ袋(切れた電球一個と、壊れた目覚まし時計の入った袋)をゴミバケツから取り出し、通学路の角にある集積所へとトボトボと歩いていった。

その足元を、赤ドット柄バンダナを巻いたザイオンが、誇らしげにエスコートしながらトコトコとついていく。

頭の上ではポチが「(神ノ街ハ、完璧ニ浄化サレマシタ!)」と胸を張り、ルルが「お散歩気持ちいいのにゃ!」とスキップしていた。

集積所のネットの下に、ちょこんと置かれた拓也の小さなゴミ袋。

その裏で、昨夜のうちに世界規模のカルテルが「燃えないゴミ」として宇宙から消去されていたことなど、少年は夢にも思わない。

「よし、戻って朝飯食うか! 三月、今日の朝ごはんは何ー?」

「拓也、今日はね、お母さんが送ってくれたお味噌汁とシャケだよーっ!」

秋の澄み切った青空の下、どこまでも平和で温かな如月家の新しい一日が、元気に幕を開けるのであった。

(第358話へ続く)


読んでいただき、本当にありがとうございます!


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