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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第六章:神獣眷属と歩む日常、あるいは世界を揺るがすペットライフ編

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第356話:特売卵の防衛戦と、絶対に割れない猫パンチ

「あ……っ! う、嘘でしょ……!? 卵が……一個しか残ってない……!?」

午後三時半、都立高校の五時間目が終わる頃。

如月家の台所から、悲鳴にも似た如月三月の切羽詰まった声が響き渡った。

冷蔵庫のドアを開け放ち、卵ポケットを呆然と見つめる三月。

そこには、昨夜の豚丼と今朝のお弁当の厚焼き玉子で使い切られ、ぽつんと寂しそうに白たまごが一個だけ転がっていた。

「ど、どうしよう……! 拓也、学校から帰ってきたらお腹空かせるのに……! 今夜の夜食に、拓也の大好きな『ふるふる茶碗蒸し』を作ろうと思ってたのに……一個じゃ絶対足りないよーっ!」

頭を抱えてしゃがみ込む三月の足元で、体積三倍の巨大綿飴銀狼ザイオンが、ガバッと伏せの姿勢から飛び起きた。

「キャンッ……!(な、何ということだ……! 拓也様の夜の至高の滋養強壮食『ふるふる茶碗蒸し』の計画が、主原料の枯渇によって破綻の危機に瀕しているだと……!?)」

換気扇の上で昼寝をしていたミニドラゴンのポチも、毛糸のミニマフラーを慌てて締め直し、青ざめた顔で羽ばたいた。

「キュピィッ!(茶碗蒸シトイエバ、我ノ極小ト口火レーザーガ最モ真価ヲ発揮スル繊細ナル蒸シ料理! 卵ガナイナド、我ラノ存在意義ノ否定ニ等シイ危機デスッ!)」

「にゃはは! 三月お姉ちゃん、泣かないでなのにゃ! ほら、これを見るのにゃ!」

リビングのコタツの上から、黄色いダッフルコートを着たルルが、一枚のチラシを両手で掲げて走ってきた。

それは、先ほどポストに投函されたばかりの、スーパー『ライフマート』の夕方タイムセールチラシであった。

そこには、赤地に白抜きのド派手な文字が踊っていた。

【本日夕方四時より限定五十パック! 特選・赤玉太陽卵(十個入り)――衝撃の九十八円! お一人様一パック限り!】

「ああっ! 太陽卵が九十八円!? すごい、ルルちゃんナイス発見!」

三月がパッと顔を輝かせた。

だが、すぐに時計を見て眉を曇らせる。

「でも……今から洗濯物を取り込んで、拓也の敷きパッドを干し直さなきゃいけないし……四時のタイムセールに間に合わないかも……」

「それなら、ルルたちにお任せなのにゃ!」

ルルが、首にかけたがま口財布をパチンと鳴らして胸を張った。

「ルルが、ザイオンとポチと一緒に行って、九十八円の卵を買ってくるのにゃ! お金もちゃんと百円玉があるのにゃ!」

「えっ、ルルちゃんたちだけで大丈夫? 卵って……落としたら割れちゃうんだよ?」

三月が心配そうに首をかしげる。

その言葉を聞いた瞬間、ザイオンの背筋に氷柱のような戦慄が走った。

(……割れる……ッ!?)

ザイオンの生体演算ユニットが、超高速で危険予測を展開する。

【対象:生卵(十個入り)】

【装甲:炭酸カルシウム極薄殻(耐衝撃限界値:極微小)】

【内部:超高流動性生体タンパク質(一度の破損で再生不可)】

【失敗時のペナルティ:拓也様の茶碗蒸し消滅、及び三月殿の落胆、家庭内序列の崩壊】

「キャンッ!(任せてください三月殿! 我ら神獣お使い隊、命に代えても卵を分子レベルで無傷のまま連れ帰ってみせますッ!)」

「キュピィッ!(全方位慣性制御、我ニオ任セ下サイ!)」

「ふふ、みんな頼もしいね! じゃあ、気をつけて行ってきてね!」

百円玉をがま口にしっかり納め、三匹は夕暮れの街へと飛び出していった。

一方――その頃、新宿の防衛本部。

『――光学衛星、並びに空間歪曲レーダーより最高レベル警報ッ!!』

オペレーターのクロエ・アーヴィングが、椅子を蹴り倒さんばかりの勢いで立ち上がった。

大スクリーンには、練馬区のスーパー『ライフマート』を中心とした、不気味な紫色の魔力反応が点滅している。

『民間補給拠点【ライフマート】の地下駐車場に、国際指名手配組織【アンダー・キメラ研究所】の最終戦略兵器が侵入!

コードネーム【重装甲殲滅機竜・ゴライアス】!

全身を超重力チタン合金で固め、局所震動破壊キャノンを搭載した、単体で地下要塞を崩壊させる人造キメラの最高峰ですッ!!』

「何だとォッ!?」

神宮寺蒼太が、氷の長刀の柄を軋ませて身を乗り出した。

レオン・カーターも青白い雷撃を纏いながら咆哮する。

「あのしぶといトカゲ野郎共、まだそんな大物を隠し持ってやがったのか! 奴らの狙いは何だ!?」

クロエが、血相を変えて傍受ログを再生した。

『……神の眷属【フェンリル】および【ケットシー】の生体コードを強制サルベージする……!

奴らがスーパーへ買い出しに来る瞬間を狙い、地下から局所震動波を照射……!

周囲の一般市民、並びに店舗ごと瓦礫の山に変え、混乱に乗じて標的を回収せよ……!』

「き、貴様らァァァッ!!」

レオンがデスクをへこませる勢いで拳を叩きつけた。

だが、クロエの絶叫はそこで止まらなかった。

『さらに重大な事態です!

現在、神獣眷属部隊が目指しているのは……拓也様の夜食たる【至高の太陽卵(赤玉十個・九十八円)】!

もし……もし敵の振動キャノンにより、卵の殻が一ミリでもひび割れ、黄身の被膜が破れるようなことがあれば……!!

拓也様の茶碗蒸しが消滅し、絶望された指揮官様の御怒りによって、東京の因果律が丸ごと消去されますッ!!』

「全軍へ絶対厳命!!」

神宮寺の怒号が、防衛本部を粉砕せんばかりに響き渡った。

「八咫烏、並びに極星の全結界班へ通達!

スーパー『ライフマート』の外周三キロメートルを、不可視の【絶対防振結界】で覆え!

車の走行音、風の息吹、歩行者の靴音に至るまで、すべての微小振動をゼロに相殺しろ!

卵の殻に、分子一つの衝撃すら与えてはならん!

我らの命に代えても……【九十八円の太陽卵】を無傷で守り抜くのだァァァッ!!」

新宿の英雄たちが、かつてない規模で「卵パックの絶対無傷防衛」へと全戦力を投入した瞬間であった。

午後四時前――スーパー『ライフマート』の特売コーナー。

「にゃはは! 間に合ったのにゃーっ!」

ルルは、ザイオンの背中から軽やかに飛び降り、積み上げられた特売卵の山へと駆け寄った。

そこには、鮮やかな赤茶色の殻が美しく輝く『特選・赤玉太陽卵』が整然と並んでいた。

残り、あと三パック。

「これなのにゃ! 拓也と三月お姉ちゃんの、美味しい卵なのにゃ!」

ルルは、両手で優しく、まるで生まれたての小鳥を抱き上げるかのように、一番ツヤの良い卵パックをそっと持ち上げた。

その時、がま口から百円玉を一枚、落とさないようにしっかりと握りしめる。

「キャンッ!(よし、確保成功だ! ルル、そのまま胸元へ抱え込め! ポチ、周囲の衝撃波を監視せよ!)」

ザイオンが背後で護衛態勢を取る。

しかし――その平和な空間の直下、地下三メートルの床下から、ドス黒い魔力の唸りが這い上がってきた。

ギギギギギギギ……ッ!!

陳列棚の影、資材搬入口の暗がりから、二メートルを超える異形の巨躯が音もなく姿を現した。

全身を黒光りする超重力装甲で覆い、右腕には極太の振動破砕砲を備えた生体兵器――【ゴライアス】。

(……発見したぞ、逃亡検体どもめ……!)

ゴライアスの複眼が、冷酷な赤色に発光した。

(この距離ならば逃げられん。最大出力の【超重力破砕キャノン】を至近距離から放ち、四肢を粉砕した上で回収する……!)

カチリ、とゴライアスの右腕の砲口が展開し、空間を軋ませる高周波のプラズマが凝縮され始めた。

その殺気を捉えた瞬間――ザイオンとポチの全身の毛が、逆立った。

(しまっ……!? 敵の奇襲……ッ!?)

ポチが息を呑む。

しかし、神獣たちの脳裏をよぎったのは、自身の生命の危機などではなかった。

(((あんなものをぶっ放されたら……せっかくの九十八円の卵が、全部割れちゃうじゃないかぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!)))

三匹の思考が、完全に一致した。

敵の装甲がどれほど厚かろうが知ったことではない。

目の前のプラスチックパックに入った十個の生卵――この脆弱な命の結晶に、振動一つ届かせるわけにはいかないのだ!

「キャンッ!(ザイオン・フィールド展開ッ!)」

ザイオンは、拓也直伝の「至高の脱力(ぽふっ)」の要領で、右前足の肉球でスーパーの床タイルを【トン】と優しく叩いた。

音はゼロ。

しかし、ルルが抱える卵パックの周囲三十センチの空間だけが、完全に慣性・重力・振動から切り離された『絶対無重力・無振動カプセル』へと固定された。

これで、周囲でどれほどの嵐が吹き荒れようと、中の卵は微動だにしない!

そして――動いたのは、ルルであった。

「ルルのお買い物のお邪魔をするななのにゃーーっ!!」

シュタッ!!

ルルは、左手で卵パックを赤子のように大切に抱き抱えたまま、右手一本で音もなく地を蹴った。

ゴライアスが砲撃の引き金を引く、わずかコンマ〇一秒前。

黒光りする巨竜の装甲の眼前へ、黄色いダッフルコートの少女がふわりと舞い降りた。

(なっ……!? 速い……! だが、我が装甲は戦艦の主砲すら弾く超重力チタン――)

ゴライアスの思考は、そこで永遠に途切れた。

ルルは、かつて研究所で教え込まれた殺人術など使わなかった。

思い出すのは、朝、三月が優しく玉子焼きを巻いていた菜箸の手つき。

そして、拓也が「いい子だな」と、自分の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた、あの温かで柔らかな手のひら。

「綿あめみたいに……ぽふっ、なのにゃっ!!」

ルルの小さな白い肉球が、ゴライアスの分厚い胸部装甲の中央へと、そっと、触れるように乗せられた。

ぽふっ。

愛らしい、絵本のような効果音。

しかし、そこに注ぎ込まれたのは、拓也の無自覚なブラッシングによって限界突破した、ルルの【完全因果調律魔導】であった。

外側のチタン装甲には、指紋一つ残らない。

だが――。

シュウウウウウウウウウッ……。

ゴライアスの全身の装甲の隙間から、紫色の甘い湯気がプシューッと噴き出した。

内部に組み込まれていた数十兆円の生体融合炉、魔力核、神経回路、そして破壊キャノンの火薬に至るまでが、外殻を一切傷つけられることなく、内部からドロドロの【無害なゼリー状ペースト】へと融解させられたのだ。

「ゴ……ガ……ッ……!?」

ゴライアスは、砲撃を放つことすらできず、白目を剥いてその場に仁王立ちのまま完全沈黙。

ただの「中身がゼリーで満たされた鉄の置物」へと成り果てたのである。

「キュピィッ!(先輩、残骸回収班ガ来マシタ!)」

ポチが換気口を指さす。

棚の影から、不知火凛率いる八咫烏の隠密部隊が音もなく現れ、巨大なゴライアスの残骸を風呂敷のような影の結界で包み込むと、一秒で地下へと引きずり込んで消去していった。

スーパーの店内には、悲鳴一つ上がらず、陳列棚のポテトチップス一袋すら揺れなかった。

完全なる、ゼロ被害の神速防衛劇であった。

「ふぅ……! 卵さん、割れてないのにゃ!」

ルルは、抱きかかえていたパックを透かして見た。

十個の赤玉太陽卵は、ヒビ一つ入らず、艶やかに光り輝いていた。

「キャン……!(見事だ、ルル……! 我らは成し遂げたのだ……!)」

ザイオンが感涙に咽び、ポチも小さな翼で涙を拭った。

ルルは、トコトコとレジカウンターへ向かうと、背伸びをして卵パックとおがま口から出した百円玉をコトンと置いた。

「これ、おねがいしますなのにゃ!」

「あ、はいっ! 特売の太陽卵ね、税込みで百五円になりますよー」

レジの店員さんが優しく微笑む。

「ふぇっ!? ひゃ、百五円……!?」

ルルが目を丸くして固まった。

(しょ、消費税……ッ!? 忘れておったァァァッ!!)

ザイオンが白目を剥きかける。

しかし、ルルは慌てず、がま口の奥の底を小さな爪で探った。

すると――チャリン、と五円玉と一円玉が数枚、指先に触れたのだ。

三月が「念のため」と入れておいてくれた予備の小銭であった。

「あったのにゃ! 五円玉、ぴったりあるのにゃ!」

ルルが満面の笑顔で五円玉を差し出す。

「はい、ちょうどいただきますね。割れやすいから、プチプチで包んでおくね」

店員さんは丁寧に緩衝材を巻き、ビニール袋に入れて手渡してくれた。

「ありがとにゃーっ!」

卵の入った袋を両手でしっかりと抱きしめ、ルルはザイオンの背中へと軽やかに飛び乗った。

夕暮れのオレンジ色の光が差し込む街を、神獣お使い隊は、誇らしげに家路へと急ぐのであった。

午後五時半――如月家。

ガララッ。

「ただいまー……。あー、腹減った……」

学校を終えた拓也が、通学カバンを提げて玄関を開けた。

すると、廊下の奥から「わふっ!」「にゃーっ!」「キュピィ!」と、大歓声と共に三匹が駆け寄ってきた。

「うわ、なんだなんだ? お前ら、やけにハイテンションだな」

拓也がしゃがみ込むと、ルルが誇らしげに、両手で小さなビニール袋を掲げて見せた。

中には、プチプチに包まれた十個の赤玉太陽卵。

「拓也! ルルたちが、スーパーのタイムセールで買ってきたのにゃ! 一個も割れてないのにゃ!」

「あ、拓也、おかえり!」

台所から三月がエプロン姿で顔を出した。

「ルルちゃんたちがね、夕方の特売卵をお使いに行ってくれたんだよ! 今夜、拓也の大好物の茶碗蒸し作ってあげるからね!」

拓也は、目を丸くして卵パックを見つめた。

そして、袋を受け取ると、プチプチの隙間から中身を確認する。

傷一つない、見事な赤玉卵が十個、綺麗に並んでいた。

「……へぇ。お前ら、犬と猫とトカゲだけで……卵割らずに持って帰ってきたのか。すげぇじゃん」

拓也の口元が、ふにゃりと優しく緩んだ。

そして、床に膝をつくと、一番頑張ったルルの頭を、大きな手でワシャワシャと力いっぱいに撫で回した。

さらに、横で尻尾を振るザイオンの耳の裏をガシガシと掻き、肩に乗ってきたポチの顎の下を指先でコチョコチョとくすぐる。

「偉いぞ、ルル。ザイオンもポチも、よく頑張ったな。お前ら、本当に賢いペットだな」

「にゃふぅぅぅ……♡」

「くぅ〜ん……(あぁ……我が主の……至高の賞賛……!)」

「キュピィィ……(生キテテ……生キテテ良カッタデスッ……!)」

三匹は、とろけきった至福の表情で拓也のスウェットにすり寄った。

世界を滅ぼす兵器でもなく、冷たい研究所の実験体でもない。

ここは、自分たちを愛し、褒めてくれる、温かな家族のいる場所。

「よし、じゃあ風呂入ってくるわ! 三月、茶碗蒸し楽しみにしてる!」

「うんっ、ぷるぷるの作っちゃうね!」

湯気の立ち上る台所から漂う、出汁の優しい香り。

少年と怪力姉、そして世界最強の愛玩獣たちが織りなす温かな夕暮れは、どこまでも穏やかに、そして幸福に深まっていくのであった。

(第357話へ続く)


読んでいただき、本当にありがとうございます!


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次回更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。


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