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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第六章:神獣眷属と歩む日常、あるいは世界を揺るがすペットライフ編

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第351話:お庭の『お手』と、空間を歪める神技

秋晴れの心地よい日差しが降り注ぐ、日曜日の午後。

前日にドラッグストアで購入した『コンバット』を縁側と床下の四隅に配置し終えた如月拓也は、ジャージのポケットに手を突っ込みながら、自宅の狭い庭先に立っていた。

その足元には、秋風に銀毛をサラサラとなびかせ、姿勢正しくお座りをする巨大綿飴銀狼ザイオン。

その頭の上には、三月お手製のミニマフラーを巻いた白銀のミニドラゴン・ポチ。

そして、縁側の段差にちょこんと腰掛け、小さな足をパタパタと揺らしながらスプーンでプリンを頬張るケットシーの少女・ルルがいた。

「……なぁ、ザイオン」

拓也が、ふと真面目な顔でザイオンを見下ろした。

その少年の声に、ザイオンの耳がピンと直立し、全身の神経が瞬時に軍事警戒モードへと移行する。

「キャンッ……!(は、はいッ! 何なりとお申し付けください、我が主! 次なる神託は何でございましょうかッ!)」

「お前さ……一応、犬なんだよな?」

「キャン?(い、犬……? いえ、遺伝子改造により古代フェンリルの因子を組み込まれし生体兵器の最高傑作ではございますが……現世における戸籍上は、紛れもなく如月家の忠犬でございます!)」

「犬ならさぁ……やっぱり『お手』とか『おかわり』くらい、ちゃんとできなきゃダメだろ」

ヒュオオオオオオオッ……!!

その瞬間、ザイオンの人工頭脳に、落雷のような衝撃が走り抜けた。

(お……『お手』……!? そして『おかわり』……だとォォォッ!?)

ザイオンの全身の銀毛が、バチバチッと逆立った。

その背後で、縁側から見守っていたポチもまた、ミニマフラーを両手でギュッと握りしめて息を呑んだ。

(ザ、ザイオン先輩……! コレハ、単ナル芸ノ要求デハアリマセン……! 『犬トシテノ基礎身体能力ガ、神ノ基準ニ達シテイルカ』ヲ検定スル、絶対ノ適性審査(オーディション)デスッ……!!)

ポチが、緊迫した思念波を飛ばす。

(あぁ……分かっている、ポチ! もしこの検定で不合格(役に立たぬ駄犬)と判定されれば……先日の『質屋売却』、あるいは『希少魔獣専門ショップへの転売』の悪夢が現実のものとなる……! 我らの生存権を賭け、完璧なる『神の手(お手)』を披露せねばならんッ!!)

ザイオンは、四本の足を地面に深く突き刺し、重心を完璧に固定した。

かつて小国を滅ぼすために設計された生体兵器の演算ユニットが、フル稼働を始める。

【拓也様の要求:右手(前足)を差し出し、主の手のひらと接触させる動作】

【目標:絶対の忠誠、威厳、そして神の御手を汚さぬ完璧な力加減の証明】

「よし、いくぞ。……ザイオン、お手」

拓也が、無造作に右手を前にスッと差し出した。

その瞬間であった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!

如月家の狭い庭先の大気が、突如として超高密度のプラズマを帯びて唸りを上げた。

ザイオンが右前足に込めた魔力回路が、拓也の無自覚なブラッシングによって限界突破した純白の神聖魔力を一気に解放したのだ。

(見よッ! これぞ我が主への全霊の忠誠――【神威掌握・次元圧縮掌(オ・テ)】ッッッ!!)

ドォォォォォォンッ!!

ザイオンが右前足を振り上げた瞬間、その足の周囲の空間がぐにゃりと歪曲し、局所的なマイクロブラックホールに似た超重力場が発生した。

庭の芝生が一瞬で押し潰され、大気中のチリが高熱の光の尾を引いて渦を巻く。

音速の壁を軽々と置き去りにした右前足が、まるで神話の巨神の鉄拳のように、拓也の掌めがけて振り下ろされ――。

パシィィッ!!

「いてっ!!」

拓也の叫び声が、庭に響いた。

「……おい、ザイオン!! バカ、力入りすぎ!! 風圧で目が乾くし、手のひらがジンジンするだろ! なんでそんな全力で殴りかかってくるみたいにお手するんだよ!」

拓也は、赤くなった右手をブンブンと振って眉をひそめた。

少年の右眼が無意識に因果律を相殺したため、庭が消滅する大惨事こそ免れたものの、あまりにも重すぎる前足の衝撃に、拓也はご機嫌斜めである。

「ヒィィィッ……!? し、失敗した……ッ!?」

ザイオンは青ざめ、前足を引っ込めてプルプルと震え上がった。

「だーめ! 全然ダメ! 犬のお手っていうのはさ、もっとこう……ふわっと、優しく前足を乗せるもんなの! ほら、もう一回! お手!」

「くぅ〜ん……(ふ、ふわっと……優しく……!?)」

ザイオンは、額から滝のような脂汗を噴き出させた。

兵器として「敵を粉砕すること」しか教えられてこなかった人工生命体にとって、「極限の脱力と愛敬」ほど難解な至難の技は存在しなかった。

しかし――。

如月家の庭先でそんな涙ぐましい「お手サバイバル」が繰り広げられているその瞬間。

遥か上空三万メートル、成層圏を周回する防衛偵察衛星、および新宿の防衛本部は、未曾有の『天変地異アラート』に震撼していた。

『――重力波望遠鏡、並びに次元観測班より緊急電ッ!!』

防衛本部の作戦室で、クロエ・アーヴィングがヘッドセットを抑えながら絶叫した。

巨大スクリーンには、東京都練馬区の如月邸を中心とした重力歪曲マップが、真っ赤な警報色で点滅している。

『如月邸上空において、極局所的な【事象の地平線(イベント・ホライズン)】の発生を観測!

時空連続体がコンマ四秒間にわたり三次元から五次元へと位相変移いたしましたッ!!』

「な、何だとォッ!?」

通信席に飛び込んできた神宮寺蒼太が、氷の長刀を取り落としそうになりながら叫んだ。

その隣では、レオン・カーターがモニターの重力波形を凝視し、顎をガクガクと震わせている。

「クロエ殿! 指揮官様は……如月家では何が起きているのだ!?」

「音声回線を接続します!」

スピーカーから、拓也の厳しい声がノイズ混じりに再生された。

『……バカ、力入りすぎ!! なんでそんな全力で殴りかかってくるみたいにお手するんだよ! 犬のお手っていうのはさ、もっとこう……ふわっと、優しく前足を乗せるもんなの!』

「…………ッ!!」

神宮寺とレオンが、息を呑んで顔を見合わせた。

「『全力で殴るな、ふわっと優しく乗せろ』……だと……!?」

レオンが額に青筋を立てて唸る。

「ええ、そうです!」

クロエが、狂信の炎をその瞳に宿して高らかに解き明かした。

「拓也様は……神使ザイオン様に対し、【極限調律魔導(ジェントル・インパクト)】の特訓を施しておられるのです!

銀狼の放つ破壊力は、すでに一撃で惑星の地殻を粉砕する神の領域。しかし拓也様は仰せなのです!

『ただ破壊するだけの力など、野蛮な暴力に過ぎぬ。真の強者とは、星を握り潰す膂力を、羽毛の一片すら傷つけぬ極微の愛へと変換できる者だ』――とッ!!」

「な、なんという高み……なんという深遠なる武の極致……ッ!!」

神宮寺が、自らの両手を見つめ、熱い感涙を流した。

「我ら人類が『攻撃力の上昇』などという低次元な指標に囚われている間、あのお方はすでに『無限の破壊力をゼロに収束させる絶対制御』の次元へと神獣を導いておられたのか……!

直ちに極星の全隊員、並びに世界各国のトップ探索者へこの訓練映像を暗号配信しろ!

指揮官様が直々に示された『至高の脱力』……この極意を一瞬たりとも見逃すなッ!!」

世界中のSランク探索者たちが、モニターの前で正座し、少年の「お手」という名の至高の武道指南を涙を流しながら書き留めるという、前代未聞の軍事講義が秘密裏に繰り広げられていた。

一方――如月家の庭先。

「ほら、ザイオン。深呼吸して、肩の力を抜いて」

リビングから縁側に出てきた三月が、麦茶の入ったコップを縁側に置きながら、優しく微笑みかけた。

「ザイオンちゃんは強いんだから、もっとリラックスしていいんだよ! 拓也の手のひらに、綿あめをぽふっと乗せるみたいにね!」

「三月殿……綿あめ……でございますか……」

ザイオンは、三月の言葉を心の中で反芻した。

綿あめ。アビスゲート第二十七階層で柔軟剤を浴び、拓也の安物ブラシでブラッシングされた、今の自分の毛並み。

破壊のためではなく、この家を温め、少年の足を温めるために生まれ変わった、今の自分の存在理由。

(……そうだ。俺はもう、兵器ではない。誰かを傷つけるための牙も爪も、ここには必要ないのだ……)

ザイオンの全身から、余分な魔力の奔流がスーッと引いていった。

神聖な白銀の魔力は、破壊の衝撃波ではなく、柔らかな木漏れ日のような温かな光の粒子へと収束していく。

「よし、もう一回だ。……ザイオン、お手」

拓也が、再び右手を差し出した。

ザイオンは、静かに目を閉じた。

そして――右前足を、ふわりと持ち上げた。

音もなく、風圧もなく、大気の軋み一つ立てずに。

ぽふっ。

マシュマロよりも柔らかく、シルクよりも滑らかな、体積三倍の極上モフモフ肉球が、拓也の掌の上に、そっと、慈しむように乗せられた。

「…………。」

庭に、柔らかな秋風が吹き抜けた。

拓也の掌に伝わるのは、極上の体温と、アビスゲートのフローラル柔軟剤の甘い香り、そして吸い付くようなフワフワの弾力だけだった。

「……おぉ……!」

拓也の顔が、パァッと明るくなった。

「すげぇじゃん、ザイオン! めちゃくちゃうまい! なにこれ、めちゃくちゃ気持ちいい……! 高級ホテルのクッション触ってるみたいだぞ!」

「キャンッ……!(ほ、褒められた……! 拓也様が……我が前足を肯定してくださった……ッ!)」

ザイオンの大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。

「よし、じゃあ次は……おかわり!」

拓也が左手を出すと、ザイオンは待ってましたとばかりに、左の前足をぽふっと乗せた。

「おぉー! 完璧じゃん! お前、頭いいな!」

「わぁーっ! ザイオンちゃん、すごいすごい!」

三月が嬉しそうにパチパチと拍手し、縁側のルルも「にゃはは! さすがザイオンなのにゃ!」と尻尾を振って喜んだ。

換気扇の上から見下ろしていたポチも、「(ヤリマシタ……! 先輩ハ、完全ナル家庭内愛玩獣(ペット)トシテ覚醒サレタノデスッ!)」と感無量の面持ちで敬礼した。

「よし、よく頑張ったからご褒美やるよ」

拓也はジャージのポケットから、先ほどスーパーで買ってきた犬用のおやつ――『特選・極上ささみジャーキー』の袋を取り出し、一本ちぎってザイオンの口元へ差し出した。

「ほら、食えよ」

ザイオンは、震える口元でそのささみジャーキーをハフッと受け取った。

庶民のスーパーで売られている、一袋二百九十八円の乾燥肉。

しかし、かつて冷たい培養液の中で味気ない魔力ペーストしか与えられなかった人工生命体にとって、それは世界中のいかなる神薬や秘宝よりも甘く、美味しく、温かな「命の報酬」であった。

モグモグと噛み締めながら、ザイオンは拓也の膝の上に大きな頭を擦り付け、喉の奥からゴロゴロと甘えた声を漏らした。

「あはは、くすぐったいって! よしよし、いい子だな」

拓也がザイオンの耳の付け根を優しく掻いてやる。

世界を滅ぼす神話の巨獣と、その絶対の主による、どこまでも微笑ましいお庭遊び。

平和な如月家の庭先には、穏やかな秋の木漏れ日と、幸福な笑顔だけが満ち溢れていた。

しかし――。

その平和な光景を、遥か数百メートル離れた高層ビルの屋上から、特殊な魔導望遠鏡で凝視している影があった。

「……信じられん」

望遠鏡を覗き込んでいたのは、豪奢な毛皮のコートを羽織った金髪碧眼の女性――欧州最大の魔獣調教組織『聖獣騎士団』の最高幹部、エレーナ・ヴァシュタールであった。

その背後には、首に強固な魔導制御輪を嵌められた、三頭の凶悪な巨大グリフォンが唸り声を上げている。

「アビスゲート深淵の門を単体で消滅させたと噂される、あの伝説の神獣フェンリルが……あんな小僧の足元で、無抵抗にお手をして、安物の干し肉を喜んで貪っているだと……!?」

エレーナの紅い唇が、歪んだ欲望に吊り上がった。

「崩壊因子の呪縛から解き放たれ、あれほど完璧な魔力調律を施された奇跡の個体……。あの無能力者のガキには、あまりにも豚に真珠だわ。

我が聖獣騎士団の【隷属の聖鎖】をもってすれば、あの神獣を完全に支配下に置き、欧州の覇権を握ることができる……!」

エレーナは、懐から鈍い銀色に輝く、古代の魔導鎖を取り出した。

神話級の魔獣ですら精神を屈服させ、絶対服従の操り人形へと変える、禁断のアーティファクトである。

「ふふ……待っていなさい、愛しいフェンリル。

明日の午後、公園にお散歩に出てきたところを……あの無力な飼い主の目の前で、奪い去ってあげるわ」

世界を救った神獣たちの平穏な日常に、海外からの強欲な影が、静かに、そして確実に忍び寄ろうとしていた。

(第352話へ続く)


読んでいただき、本当にありがとうございます!


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次回更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。


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