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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第六章:神獣眷属と歩む日常、あるいは世界を揺るがすペットライフ編

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第349話:深夜の害虫駆除と、完全無音の絶対包囲網

深夜二時――。

昼間の穏やかな陽光が嘘のように、東京都内の住宅街は濃密な夜の帳に包まれていた。

秋の冷え込みが一段と増す中、築三十年の木造二階建て「如月家」の二階・六畳間では、規則正しい少年の寝息が響いていた。

「……すぅ……すぅ……」

学校の実力テストを終え、三月の特製オムライスを胃袋に収めた如月拓也は、パイプベッドの上で毛布にくるまり、深い眠りの底へと沈んでいた。

その周囲を固めるのは、昼間以上の緊張感を持って配置についた「神獣夜警隊」である。

拓也の冷えやすい足元には、体積三倍の巨大綿飴銀狼ザイオンが、丸太のような巨体を丸めて完全に密着。

アビスゲートの柔軟剤の香りを微かに立ち上らせながら、生体兵器としての超高精度パッシブソナーを全開にし、如月家を中心とする半径五百メートルの大気振動、土中の微細な振動、電磁波の乱れをリアルタイムで監視している。

拓也の首元には、ケットシーの少女ルルが丸まり、暖かな毛並みで少年の喉を守りながら微睡んでいる。

そして枕元には、白銀のミニドラゴン・ポチが、三月手作りのミニマフラーを巻いたまま目を細め、鼻先から一定温度の温風をプシューと送り出し、少年の体感温度を二十二・五度に固定していた。

(……ザイオン先輩、感アリマスカ?)

ポチが、微細な思念波をザイオンへと送る。

(……あぁ。先ほどから、如月邸の周囲三ブロック先で、明らかな殺気と隠密魔力の気配が蠢いている。十……いや、三十人規模の強襲部隊だ)

ザイオンの銀色の耳が、微かにピクッと動いた。

(ヒィッ! や、ヤハリ昼間ノ純金プレートヲ狙ッテ、裏社会ノ悪党共ガ押シ寄セテキタノデスネ……! コ、コノ家ガ襲ワレタラ、我ラモタダデハ済ミマセンッ!)

ポチが恐怖に震える。

(慌てるなポチ。我らの至上命題はただ一つ――【拓也様の安眠を、針の先ほども乱さぬこと】。もしあの御方が途中で目を覚まされ、不快感を示されれば……我らごとこの区画が『四角いゴミキューブ』に圧縮されるぞ)

(リ、了解デスッ! 呼吸ノ音一ツ立テズニ、忍び寄る害虫ヲ消滅サセマショウッ!)

神獣たちがベッドの上で静かに迎撃態勢を整えていた、その時であった。

如月邸のブロック塀の外――。

街灯の明かりが届かない住宅街の路地裏に、漆黒の戦闘服に身を包み、暗視ゴーグルを装着した武装集団が、音もなく集結していた。

国際希少魔獣密売ギルド『ウロボロス』の実行部隊、並びに『アンダー・キメラ研究所』の残党暗殺部隊――総勢三十八名。

彼らは世界各地の紛争地帯や高難度ダンジョンで要人暗殺や魔獣密猟を成功させてきた、裏社会でも泣く子も黙る一級のスペシャリストたちであった。

「……配置についたか」

電柱の影から、顔に火傷の痕を持つ首領・ヴォルクが、小型通信機に低く囁いた。

手には、軍用の特殊高濃度睡眠ガスボンベが握られている。

吸い込めばSランク探索者ですら二十四時間は昏睡し、魔力回路を一時的に麻痺させる極悪な劇薬である。

「全方位、包囲完了。標的の家屋に防衛結界の反応はありません。本当に、ただの古い木造一軒家です」

部下からの報告に、ヴォルクは嘲笑を漏らした。

「フン、所詮は年端もいかぬガキどもの住処だ。世界を救っただの何だのと持て囃されていようが、日常の防諜意識などミジンコ以下よ。庭先から換気口と窓の隙間に睡眠ガスを全量注入しろ。

意識が完全に途絶えたのを確認後、二階の寝室へ突入。最高傑作フェンリル、ケットシー、純金プレートを回収する。無能力者の高校生と怪力の姉は、その場で首を刎ねて証拠隠滅だ」

「了解――」

工作員たちが、音もなく如月家の庭のブロック塀へと手をかけ、跳び上がろうとした。

その、瞬間であった。

――カチッ。

微かな、硬質な氷が結晶化するような音が、深夜の大気に響いた。

「……なっ!?」

ヴォルクの全身の毛穴から、一瞬で冷や汗が噴き出した。

動けない。

ブロック塀に指をかけた瞬間、指先から手首、腕、そして足元に至るまで――極薄の、だが絶対に砕けない超高密度の「透明な氷の結晶」が、皮膚の表面を完全に覆い尽くしていたのだ。

「な、なんだこれは……!? 魔力反応がない……!? いつから……いつから氷結トラップが仕掛けられていた!?」

「トラップなどではない」

冷徹極まる、静かな男の声が、ヴォルクのすぐ背後から降ってきた。

闇の中から、長身に黒のスーツを着こなした男――日本探索者協会本部長・神宮寺蒼太が、氷の長刀の切っ先を地面に突き立てた姿勢で、音もなく姿を現した。

その周囲の電線の上、民家の屋根の上、さらには街灯の頂点に――いつの間にか、闇に溶け込む漆黒の忍装束を纏った十数名の暗殺部隊『八咫烏』が、無言で刃を構えて陣取っていた。

さらに、路地の角から、巨大な魔剣を肩に担いだアメリカ最強の探索者・レオン・カーターが、獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべて歩み出てくる。

その手足には、一筋の雷撃すら漏らさぬよう、完璧な防音・遮光結界が幾重にも巻き付けられていた。

「ば、馬鹿な……!? なぜ、国家最高戦力たる『極星』のメンバーが、こんな住宅街の路地に……!?」

ヴォルクが、恐怖に顔を引き攣らせて絶叫しようとした。

しかし――。

スッ……。

八咫烏の頭領・不知火凛が、ヴォルクの背後に音もなく滑り込み、漆黒の苦無の刃先を、ヴォルクの喉仏の皮一枚手前へと突きつけた。

「……声を出すな、害虫」

凛の瞳は、絶対零度の深淵よりも冷たかった。

「デシベル数が三〇を超えた瞬間、貴様の声帯を頸椎ごと空間切断する。あのお方の神聖なる安眠を……ほんの一瞬の呼吸音で汚すことすら、この八咫烏が許さん」

「ひ、ヒィッ……!?」

声帯を凍りつかせられた三十八名の部隊員たちは、声すら上げられずにガチガチと歯の根を震わせた。

神宮寺は、冷淡な眼差しでヴォルクを見下ろした。

「哀れな羽虫どもめ。貴様らは、己が自らの意志でこの如月邸へ辿り着いたとでも思っていたのか?」

「な……何だと……!?」

「すべては、我が主――如月拓也様の深遠なる計略の内だ」

神宮寺は、敬虔な祈りを捧げるように胸に手を当てた。

「昼間、指揮官様は純金の認可プレートをご覧になられ、わざと『空き巣に狙われる』と仰せられた。それは貴様らのような下界の膿を、この聖なる地へと一箇所に誘引するための【絶対託宣】であったのだ!

貴様らが新宿からこの路地に足を踏み入れるまでの全ルート、全通信ログ、逃走経路……すべては不知火殿とクロエ殿により完全に掌握されていたのだよ」

「そ、そんな……!? 最初から、罠だったというのか……!?」

ヴォルクの瞳に、絶望の色が濃く広がっていく。

「オーウ、そういうことだぜ」

レオンが、ヴォルクの額に指先をコツンと当てた。

「てめぇらが用意したその睡眠ガスも、密輸船も、海外のスイス銀行に隠してた裏資金三十億ドルも……全部、先ほど極星の遊撃班が差し押さえ&完全消去(更地)にしちまったよ。今、この瞬間をもって、てめぇらの組織『ウロボロス』は地球上から消滅したんだ」

「あ……あぁ……」

ヴォルクの膝が、カクリと折れ曲がった。

数十年かけて築き上げた世界規模の犯罪ネットワークが、ただの一晩で、それも少年の「昼下がりのオムライスの余談」一つによって、跡形もなく消し炭にされたのだ。

「処分しろ」

神宮寺が、氷の長刀を静かに鞘へと収めた。

「八咫烏の秘術【影縫い・虚数埋葬】を展開。この者たちの肉体、魔力、装備、記憶の残滓に至るまで、すべてを亜空間のゴミ捨て場へと投棄しろ。如月邸の敷石一つ、庭の芝生一本すら汚してはならん」

「御意」

凛が印を結んだ瞬間、地面の影が生き物のように蠢き、三十八名の武装集団を足元からジュルリと飲み込んでいった。

悲鳴一つ、衣擦れの音一つ立てることなく、裏社会の精鋭部隊は、わずか三秒でこの現世から永遠に消去されたのである。

しかし――。

その完璧な包囲殲滅網の、ほんのわずかな死角。

『アンダー・キメラ研究所』が放った、生体改造によって全身をミミズのようにゲル状化できる特殊暗殺員二名だけが、排水管の微細な隙間を這い、如月家の庭先へと侵入を果たしていた。

(……バ、バケモノ共め……! 仲間が全員、音もなく消されちまった……!)

ゲル状暗殺員は、土中から半透明の頭部を突き出し、如月家の一階の縁側を見上げた。

仲間は全滅した。だが、目の前には目的の獲物がいる。

(こうなったら、あの純金プレートだけでも奪って逃げる……! プレートさえ闇市に流せば、組織を再建できるッ!)

暗殺員たちは、縁側のガラス戸の鍵穴に向けて、微細な酸の針を伸ばそうとした。

その、まさに刹那――。

二階の寝室から、トタン屋根越しに、微かな寝言が降ってきた。

「……ん……喉渇いた……。冷蔵庫の……冷たい麦茶……飲みたい……むにゃ……」

ピクッ。

拓也が、寝返りを打ちながら漏らした、喉の渇きを訴える無意識の呟き。

その瞬間――ベッドの足元にいたザイオンの両目が、暗闇の中でギロリと深紅に光った。

(……拓也様が……『喉が渇いた』と仰せられた……。つまり、この微細な侵入者の発する生体熱により、室内の湿度がコンマ三パーセント低下したということか……ッ!)

ザイオンの人工頭脳が、超絶的な思考速度で結論を弾き出した。

(許さん……! この神聖なる静寂の夜に、あのお方の睡眠深度を浅くし、喉を乾かせるなど……万死に値する大罪ッ!!)

ザイオンは、拓也の足元から一歩も動くことなく、ただ右の前足を【チョン】と、空中に向けて軽く押し出した。

ドンッ……。

音はなかった。

しかし、縁側のガラス戸の真下に潜んでいたゲル状暗殺員たちの周囲の空間だけが、突如として『惑星直列級の超重力波』によって、縦横無尽に圧縮された。

「グ、ガ……ッ!?」

暗殺員たちのゲル状の肉体が、分子レベルでペシャンコに押し潰され、厚さ一ミリの平べったい紙クズのようになって縁側の敷石にへばりつく。

さらに、枕元にいたポチが、フンッと鼻息を小さく漏らした。

シュッ……。

ポチの鼻先から放たれた極小の青白い神罰熱波が、屋根の隙間をすり抜けて敷石へと直撃。

超圧縮された暗殺員たちの残骸は、煙すら出さずに炭素レベルで完全燃焼し、秋風に乗って夜空の彼方へとサラサラと消え去ったのである。

「キュピィ(お庭ノ害虫駆除、完了デス)」

「キャン(よくやったポチ。これで拓也様の湿度環境は守られた)」

神獣たちが満足げに頷き合ったその時、ベッドの上の拓也が、再びフニャリと口元を緩めた。

「……ん……。なんか、涼しくなった……。すぅ……すぅ……」

拓也は、ザイオンのフカフカの毛皮に足をすり寄せ、幸せそうに二度寝の深淵へと戻っていった。

少年が一度も目を覚ますことなく、裏社会の暗殺計画と侵入者は、完全にこの世界から消滅したのである。

翌朝――。

チュンチュン、と小鳥のさえずりが心地よく響く、清々しい火曜日の朝。

「ふぁ〜あ……! よく寝たーっ!」

拓也は、ベッドの上で両手を大きく伸ばし、盛大にあくびをした。

昨夜のテスト疲れなど微塵も残っておらず、身体は驚くほど軽く、頭もスッキリと冴え渡っていた。

「お前ら、おはよ」

拓也が足元を見ると、ザイオンが嬉しそうに尻尾をバタバタと振り、ルルが「おはようなのにゃ!」と飛びついてきた。

ポチも肩の上で誇らしげに胸を張っている。

拓也はスウェットに着替え、顔を洗うために一階へと降りていった。

リビングでは、すでに三月が朝食のフレンチトーストを焼いており、甘いバターの香りが部屋いっぱいに広がっていた。

「拓也、おはよう! 今日もいいお天気だよー!」

三月がフライ返しを片手に満面の笑顔で迎える。

「おう、おはよう。……あ、そういえばさ、三月」

拓也は、縁側のガラス戸をガラリと開け、庭の敷石を見つめながら首をかしげた。

「ん? どうしたの?」

「いや……昨日の夜中さ、なんか庭のあたりでカサカサ音がしたような気がしたんだよな。

うち、木造で古いからさ。そろそろゴキブリとかシロアリとか……害虫が増えてきたのかもしれないな」

拓也は、ポリポリと頭をかきながら、何気なく呟いた。

「今度の週末、ドラッグストアで強力なバルサンでも買ってきてさ。

庭も床下も……徹底的に煙で燻して、害虫どもを一匹残らず全滅させるか……むにゃ」

何気ない、ただの「古い一軒家の害虫対策の呟き」。

しかし――。

新宿・防衛本部。

『――き、緊急超特大電ッッッ!!!!』

早朝の静寂を破り、クロエ・アーヴィングの絶叫が防衛本部のスピーカーを破裂させんばかりに響き渡った。

夜通しの警備を終えたばかりの神宮寺蒼太とレオン・カーターが、コーヒーカップを取り落として飛び上がる。

「クロエ殿ッ! 何事だ!?」

「た、拓也様より……全地球の裏社会、および反逆勢力に対する……【最終絶滅宣告(カタストロフ・プロクレメーション)】が下されましたッ!!」

クロエが、血走った目でモニターの地図をバンッと叩いた。

「拓也様は仰せなのです!

昨夜のウロボロスごときでは生温い!

『週末、世界中に燻煙神薬(バルサン)を散布し、地上と地下に潜むすべての害虫(犯罪組織・カルテル・テロ組織)を……一匹残らず全滅させる』――とッ!!」

「な、何ということだ……ッ!!」

神宮寺が、顔面を蒼白にして後ずさった。

「昨夜の侵入劇に対し、指揮官様はすでに地球規模の【大粛清(バルサン)】をご決断されたというのか……!?」

「オ、オーウ……! 全世界の裏社会を、丸ごと燻し出して焼き払う気だぜ……ッ!!」

レオンが額から滝のような汗を流す。

「極星、並びに全世界の特務部隊へ緊急招集!!」

神宮寺が、全軍に向けて吼えた。

「週末までに、世界中の犯罪組織リストをすべて洗い出せ!

指揮官様がドラッグストアへ足を運ばれる前に……地球上のすべての害虫を、我らの手で更地に変えておくのだァァァッ!!」

世界中の裏社会が、少年の「週末にバルサン焚くか」という一言によって、空前絶後の大恐慌へと叩き落とされることとなった。

そんな世界滅亡前夜のような大騒動を余所に――。

如月家の食卓では、甘いメープルシロップをたっぷりかけたフレンチトーストを頬張り、「うまっ!」と笑顔を咲かせる拓也の、どこまでも平和な朝が始まっていたのである。

(第350話へ続く)


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


お姉ちゃん(三月)の理不尽なまでの弟愛と、

周囲の全力すぎる深読み(アンジャッシュ)に振り回される拓也たちの日常、

少しでもクスッと笑っていただけたり、楽しんでいただけましたら幸いです!


「このテンポ感が好き!」「続きが気になる!」「ペットたちの明日はどっちだ!?」

と少しでも思っていただけましたら、

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次回のお話もどうぞよろしくお願いいたします。





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