第335話:第二十八階層『機巧の歯車城』。強制シャットダウンと、次元を断つ者(後編)
「コンセント、ブチッ!!!!」
第二十八階層『機巧の歯車城』。
記憶喪失の悲劇的メロドラマ(※ただのデータ処理落ち)から復活した如月三月が、階層の地下深くに刺さっていた大元のメイン魔力ケーブルを、物理的に引っこ抜いた。
プツンッ。
その、ひどく間の抜けた音と共に、階層全体を支配していた冷徹なる機械兵器の稼働音も、眩いネオンも、ボスの命乞いも、すべてが一瞬にして【強制終了】した。
「ふぅ! これでパソコンも静かになったね!」
完全な漆黒の闇に包まれた空間で、三月の明るい声だけが響く。
「……キャン(あぁ、そうだな)」
「……にゃははっ、真っ暗で何も見えないのにゃー」
暗闇の中、体積が3倍に膨れ上がった極上のフローラルモフモフ狼が、自身の持つ獣の暗視能力で周囲を確認し、ポツリと鳴いた(先ほどの階層から、彼はすっかり牙を剥くことを忘れ、ただの平和な愛玩動物として悟りを開ききっている)。
三月は、機能を完全に停止してただの鉄の塊(粗大ゴミ)と化したアビス・マキナ・CEOの足元に転がっていた、無機質なSランク魔核を拾い上げた。
「よし、ボスさんもお片付け完了! パソコンの修理も終わったし、次の階に行こっか!」
「……クゥン(……修理ではなく、ただの破壊と強制終了だがな。まぁいい、早くこの真っ暗な工場から抜け出そう)」
ザイオンはフワフワの尻尾を振り、三月とルルを乗せて、音一つしなくなった真っ暗な階層を悠然と歩き出した。
一方その頃。
アビスゲートの外、東京・新宿の上空で防衛戦を死守していたSランク探索者たちの間では、まさに絶体絶命の『規格外のピンチ』が訪れていた。
「クソッ! なんてデタラメな火力と装甲だ……! 魔力障壁が突破されるぞ!!」
レオン・カーターが、全身に雷撃を纏わせながら悲痛な叫びを上げた。
彼らの眼前に立ち塞がっていたのは、空を覆い尽くすほどの超巨大な空中要塞――『アビス・マザーシップ』。
そこから無限に射出される自律型機械兵器と、新宿のビル群を一掃するほどの極太の殲滅レーザーの嵐に、Sランク探索者たちは完全に防戦一方に追い込まれていたのだ。
「いかん……! 奴の心臓部(動力炉)は、我々の魔法や物理攻撃を即座に解析し、バリアの波長を変えて無効化してくる! これ以上撃ち合えば、ジリ貧になるのはこちらだ……!」
神宮寺が、血を吐くような思いで愛刀を握り直す。
どれほど強力な一撃を放っても、マザーシップの無限の魔力供給と、冷徹なAIによる防御システムの前に、すべてが弾き返されてしまう。
フローラルな香りで魂を浄化された屈強なおじさんたちも、システムと物量の暴力の前には、ついに限界を迎えようとしていた。
「ピガガ……目標(Sランク探索者)の魔力低下を確認。全砲門、メインレーザーのチャージを開始。新宿エリアごと消去します」
マザーシップの底面が開き、街一つを蒸発させる致死のレーザーが、圧倒的な魔力を帯びて極限まで輝き始めた。
万事休す。
誰もが死を覚悟した、まさにその絶対絶命の瞬間だった。
迷宮内で、三月が『パソコンがフリーズしたから、大元のコンセントを引っこ抜いた』際に生じた、莫大な【動力の強制遮断】のエネルギーが逆流してきたのだ。
それが、戦場全体に広域の【絶対的EMP(強制シャットダウン)と、全魔力供給の切断】という、機械や魔力駆動の敵にとって最悪のバフとなって降り注いだのである。
ズンッ……!!
新宿の夜空に、見えない『断絶の波』が広がった。
「……えっ?」
レオンが目を見開く。
彼らの周囲を飛び回り、絶え間なくレーザーを撃ち込んできていた無数の自律型ドローンたちが。
突如として「プツンッ」という小さな音を立て、空中でピタリと静止したのだ。
そして、目の前の超巨大マザーシップが放とうとしていた、新宿を蒸発させるはずの致死のレーザーの輝きも。
「ピガ……? メイン動力……接、続、断……絶……」
プシュゥゥゥゥッ……。
まるで、テレビの電源をコンセントからいきなり引き抜いたかのように。
マザーシップの巨大な光は一瞬で消え失せ、システムの稼働音も、不気味な赤いネオンも、すべてが完全に【ブラックアウト(強制終了)】してしまったのである。
「な、なんだ!? 敵の攻撃が……空中の要塞が、完全に沈黙しやがったぞ!?」
動力を失った無数のドローンが、ただの鉄屑となって新宿の空からパラパラと雨のように落下していく。
そして、超巨大マザーシップもまた、完全に浮力を失い、ズズンッ……とゆっくりと地面(安全な空き地エリア)へと不時着し、ただの巨大なモニュメントと化してしまった。
「こ、これは……!! 敵の防御システムを破壊したのではない。敵の『根源たる魔力供給そのもの』を、次元を超えて完全に断ち切ったというのか……!?」
神宮寺が、ピタリと動きを止めた無力な巨大要塞を見つめ、空のゲートに向かって、震える手で刀を掲げた。
「彼は……我々が小手先のシステムに苦戦していることを見抜き、敵の命脈を根本から『無』に帰すという、究極の【次元断絶】を行使されたのだ!! どんな無敵の要塞であろうと、動力を断たれればただの鉄屑……。なんという神の御手だ!! 如月拓也……! 君はもはや、戦術の神を超えた【因果と次元を断つ者】だ!!」
「ハッハァァァァッ!! どんなチート兵器も、ウチの指揮官にかかれば一瞬で電源オフ(粗大ゴミ)ってわけだ!! 最高だぜ、コンダクター!!」
フローラルな香りを漂わせた屈強なオッサン(Sランクの猛者)たちが、完全に沈黙した敵の要塞を前に、空のゲートに向かって熱狂的な信仰を叫びながら、安全に勝利の雄叫びを上げる。
それはもはや、「戦術」という言葉の定義を完全に狂わせる、究極の宗教的熱狂であった。
もちろん、彼らは知らない。
この究極の次元断絶(EMPバフ)が、「フリーズしたパソコンをキムチビンタで叩いたけど直らないから、大元のコンセントを物理的に引っこ抜いた」という、理不尽極まりない『お姉ちゃんの昭和な家電対応』の余波に過ぎないという事実を。
そして、彼らが次元を断つ神と崇め奉る指揮官が、現在自室のベッドで。
「……むにゃ……。まぁ、完全にフリーズした時は……コンセント抜いて、一晩寝かせれば……」
拓也は、夢の中で強制終了させたパソコンのことなどすっかり忘れ、よだれを垂らしながら幸せそうに寝返りを打っていた。
「……明日、電源入れ直せば……だいたい直るっしょ……むにゃ……スゥ……」
と、ITエンジニアが聞いたら激怒しそうな『究極の放置(お祈り)戦法』を呟きながら、ただ自分の睡眠欲求を満たしているだけだという事実も。
かくして。
深淵迷宮の第二十八階層は、覚醒した最強スキルの物理攻撃ではなく、『フリーズへの強制終了(コンセント引っこ抜き)』という、現代の家電トラブル対応によって完全に踏破された。
「ザイオンお兄ちゃん、真っ暗だけど気をつけてねー!」
「……クゥン(任せておけ。俺のフローラルな香りと暗視能力が、あなたたちを確実に次の階へと導こう)」
完全にシステムが沈黙した真っ暗な工場エリアを、体積3倍のモフモフ狼(極上の柔軟剤仕上げ)が、静かに進んでいく。
三月とルルは、ただの鉄屑となったCEOの魔核を手に、次なる第二十九階層へと笑顔で向かっていった。
残るアビスゲートは、あと2階層。
最強の姉と、最強のお荷物(指揮官)の理不尽な蹂躙劇は、敵のシステムも伏線もすべてを物理的に強制終了させながら、ついに深淵の最奥へと王手をかけようとしていた。
次回(第336話)からは、いよいよ残り2階層!
迷宮の深奥で、さらに斜め上の「日常トラブル」が炸裂します。
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次回(第336話)もどうぞよろしくお願いいたします!




