第334話:第二十八階層『機巧の歯車城』。ペタバイトの愛と、赤色ケーブル(キムチ)の往復ビンタ(中編)
第二十八階層の主、アビス・マキナ・CEOが放った【精神初期化レーザー(ファクトリー・リセット)】。
それを真正面から浴びた三月は、手から大剣を取り落とし、虚ろな瞳で立ち尽くしていた。
悲しげなバラード曲(OST)が工場内に鳴り響き、CEOが冷酷に「手切れ金(白い封筒)」を投げ捨てるという、まさにメロドラマの極致とも言える絶望的な空間。
『お姉様! 聞こえますか、お姉様! 拓也様が……愛する弟君が、貴女をお呼びです!』
インカム越しに響く、クロエ・アーヴィングの悲痛な叫び。
それは、「パソコンが完全にフリーズして動かない。もう大元のコンセント引っこ抜こ」という、拓也のあまりにも怠惰で所帯染みた寝言(物理的強制終了の指示)であった。
しかし、その声が届いた瞬間。
「……たく……や……?」
三月の虚ろだった深緑の瞳に、微かな光が灯った。
「バカな。有機生命体の脳細胞は、完全にフォーマット(初期化)したはずだ」
CEOが、不快そうに青いバイザーを明滅させる。
だが、その直後だった。
『ピ……ピガッ!? 警告! 警告! 当機(CEO)のメインメモリに、異常な負荷を検知!』
突如として、CEOのスマートな金属ボディが、ガクガクと痙攣し始めたのである。
バイザーに無数のエラーコードが滝のように流れ、工場のスピーカーから流れていた感動的なバラード曲が、「チャ、チャララ……チャ、チャ……」とバグったように飛び飛びになり始めた。
「な、なんだこれは!? 何が起きている……ッ!」
『エラー! エラー! 対象(如月三月)の脳内から吸い出した【弟への愛情データ】の容量が、当システムの処理限界(ペタバイト級)を大幅に超過! ゴミ箱への移行不可能! メモリが……オーバーフローを起こして……フリーズ、しま、す……』
プシュゥゥゥゥッ……!
CEOの頭部から、処理落ちによる盛大な白煙が噴き出した。
そう。三月は、決して記憶を失ってなどいなかったのだ。
彼女の抱える「底なしの魂の器」に詰まった『弟への重すぎる愛(情報量)』は、CEOの初期化プログラムごときで消せる容量ではなかった。
あまりにも重すぎるデータを無理やり削除しようとした結果、CEOのシステム側がパンクし、三月との接続間で【永遠の砂時計マーク(ローディング中)】を出して固まっていただけなのである。
「……あー、ごめんごめん! なんか頭の中で『読み込み中』のマークがずっとクルクル回ってて、フリーズしちゃってたよ!」
三月が、パチクリと瞬きをして、何事もなかったかのように満面の笑みで復活した。
「……お、お姉ちゃん……! よかった、記憶なくなってなかったのにゃ!」
ルルが、ザイオンのモフモフの毛皮の中から顔を出して涙ぐむ。
「み、三月殿……! しかし、敵のCEOの様子がおかしいぞ!」
ザイオンの言う通り、CEOは立ったまま「ピ……ガガ……」と完全にフリーズ(処理落ち)してしまい、一歩も動けなくなっていた。
「あ! 拓也が言ってた『パソコンが完全にフリーズした』って、こういうことだね!」
三月は、ポンッと手を打って納得した。
「お父さんが言ってたよ! 機械がフリーズして動かなくなったら、とりあえず『斜め45度からバンバン叩けば直る』って!」
(※注:如月家の父の、昭和のブラウン管テレビに対する間違った教育です)
「叩いて直す……? そんな乱暴な方法で、最新鋭のシステムが直るわけ――」
ザイオンがツッコミを入れようとしたが、三月はすでに動き出していた。
「えーっと、叩くのに丁度いいのは……あ、これにしよっと!」
三月は、工場の壁から垂れ下がっていた『真っ赤な極太の高圧ケーブルの束』を、素手でブチブチッ! と引きちぎった。
その真っ赤なケーブルの束からは、冷却用の赤いオイルが滴り落ちており……その見た目は、どう見ても『漬け込まれた巨大な白菜キムチ』にしか見えなかった。
「いくよー! 昭和の物理的再起動!!」
三月は、その真っ赤なケーブル(キムチ)の束を両手で握りしめると。
フリーズして動けないCEOの顔面に向かって、野球のフルスイングのような勢いで『往復ビンタ』をかまし始めたのだ。
バチィィィィィィンッ!!!!
「ピガァァァッ!?」
バチィィィィィィンッ!!!!
「ガボォォォッ!?」
「直れー! パソコン、直れーっ!」
真っ赤なオイル(キムチの汁)を撒き散らしながら、Sランクの機械魔獣の顔面が、右へ左へと猛烈な勢いでシバき回される。
流れていた悲劇的なOSTの余韻など微塵もない。そこにあるのは、完全に昼ドラの修羅場の光景であった。
「……すさまじい光景だ。俺の知っている戦い(スマートな機械戦)が、ただの『家電の乱暴な修理』に成り下がっている……」
極上のフローラルな香りを漂わせるザイオン(体積3倍)は、すっかり戦意を喪失した顔で、その無慈悲な往復ビンタを眺めていた。
「ピ、ピガガガガッ……! エ、エラー……物理的衝撃により、装甲が、崩壊……ッ!」
数分間の熱烈なキムチビンタ(物理的再起動)の末。
ボロボロに凹んだCEOは、ついに膝から崩れ落ちた。
「あーあ。バンバン叩いたのに、全然直らないや。このパソコン(CEO)、もう寿命かも」
三月は、真っ赤なケーブルをポイッと捨てると、ふぅとため息をついた。
「叩いて直らないなら……拓也の言った通り、システムごと『大元のコンセント』を引っこ抜いて強制終了させるしかないね!」
三月は、工場の床(強固な特殊合金製のパネル)に向かって、素手でガシィィッ! と指を突き立てた。
そして、そのままメシャァァッ! と床板を力任せに引き剥がし、地下深くに埋まっていた『直径数メートルはある、階層のメイン魔力ケーブル(主電源)』を鷲掴みにした。
「なっ……!? ま、待てっ、小娘ェェッ!!」
再起動のショックでわずかにフリーズから復帰したCEOが、自身の命綱(主電源)を掴まれていることに気づき、恐怖に電子音を震わせた。
「それを抜けば……! 私の存在も、この完璧な工場も、感動的なバラード曲(OST)の演出も……すべてが、強制的に――」
「コンセント、ブチッ!!!!」
CEOの悲壮な叫びを、三月は『一ミリの躊躇もなく』物理で遮った。
彼女の神域の【怪力(極)】が、階層のメインコンセントを、根元から情け容赦なく引きちぎったのだ。
バツゥゥゥゥンッ!!!!
その瞬間。
工場のけたたましい稼働音も。
眩いレーザーのネオンも。
涙を誘うはずだった劇的なバラード曲も。
そして、CEOの「アバァァァァッ!?」という断末魔すらも。
プツンッ。
……という、ひどく間の抜けた小さな電子音と共に、完全に沈黙した。
第二十八階層全体が、瞬時に『完全なブラックアウト(強制終了)』を迎え、文字通り「漆黒の闇と、絶対の静寂」に包まれたのである。
「…………。」
「…………。」
真っ暗闇の中。
フローラルな香りを漂わせるザイオンと、ルルの沈黙だけが、そこにあった。
「ふぅ! これで強制終了だね! パソコンがフリーズした時は、コンセント抜くのが一番早いんだよ!」
暗闇の中で、三月だけが「お掃除完了!」とばかりに、明るく無邪気な声を響かせていた。
メロドラマの劇的な愛憎劇など、そこには一切存在しない。
ただ、「データが重すぎてフリーズした家電を、叩いてから電源を抜いた」という、昭和の物理的解決法による、圧倒的で身も蓋もない『強制アンチクライマックス』が完了した瞬間であった。
記憶喪失……かと思いきや、三月お姉ちゃんのブラコンデータ(ペタバイト級)が重すぎて、敵のシステム側がローディング(砂時計)でフリーズしていただけでした(笑)。
フリーズを直すための「昭和の物理的再起動」! 真っ赤なケーブルで往復ビンタされる冷徹CEOの姿は、悲しいOSTとの落差で完全にギャグ空間に。
そして最後は、拓也の寝言通りに「大元のコンセント(主電源)」を引っこ抜いて、すべてを「プツンッ」と強制終了!
韓ドラPの望んだ過剰な演出を、純粋な物理と日常の家電トラブル感覚で粉砕する、身も蓋もない決着となりました!
次回(第335話・後編)は、この「主電源の強制終了」が、外のSランク探索者たちにどんなデタラメなバフをもたらすのか!? おじさん達の更なる勘違いにご期待ください!
よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
次回(第335話)もどうぞよろしくお願いいたします!




