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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第五章:深淵の門(アビスゲート)。見えざる少年指揮官と、最強の主人公の蹂躙劇

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第324話:第二十五階層『鏡幻の水晶宮』。迷宮の幻惑と、モフモフの嗅覚(前編)

第二十四階層『灼熱の砂海』を、極寒のスケートリンクからの「気温26度の快適な南国リゾート」へと秒でテラフォーミングしてしまった、如月三月(きさらぎ みつき)。

戦士としての自信を完全に喪失し、代わりに「ルルちゃん専用の最高級モフモフソファー(移動バス)」としての真の幸福に目覚めた銀狼の獣人・ザイオン。

三月とルルは、彼のフワフワの背中に跨がり、オアシスの奥に現れた下り階段を和やかなピクニック気分で進んでいった。

「次はどんなお部屋かなー! ルルちゃん、しっかり掴まっててね!」

「にゃっ! ザイオンお兄ちゃんバス、安全運転でお願いにゃー!」

「うむ、任せておけ。俺の背中は、どんな悪路でも揺れ一つ起こさぬと誓おう」

微笑ましい家族の会話を響かせながら、三人(?)が降り立った第二十五階層。

そこは、これまでの自然環境(毒沼や砂漠)とは全く異なる、人工的で、しかし目が眩むほどに美しく、そして『狂気的』な空間であった。

「わぁ……! すっごくキラキラしてる! 鏡のお部屋だね!」

三月が、目を輝かせて歓声を上げた。

第二十五階層――そこは【鏡幻の水晶宮】と呼ばれる、階層全体が『巨大な水晶と鏡』で構成された、果てしなく続くクリスタルの巨大迷路であった。

壁、床、天井。そのすべてが、寸分の狂いもなく磨き上げられた魔力水晶の鏡面でできている。

前後左右、上下のすべての方向に「三月たち自身の姿」が無限に反射して映り込んでおり、どこが本物の通路で、どこが鏡の壁なのか、視覚だけでは全く判別がつかない。

「ふにゃぁ……。おめめがチカチカするのにゃ。わたしがいっぱいいるの……」

ルルが、無限に続く自分の姿を見て、目を回すようにザイオンの背中にへばりついた。

『お姉様! 第二十五階層への到達、確認いたしましたッ!』

インカムの向こうから、自室で爆睡中の少年指揮官・拓也(たくや)に代わり、狂信者クロエ・アーヴィングの緊迫した声が響く。

『そこは【鏡幻の水晶宮】! アビスゲートの中でも屈指の「迷敵(メイザース)トラップ」エリアです! 無限の反射によって視覚を奪うだけでなく、水晶自体が強力な【空間歪曲魔法】を帯びており、一度道に迷えば、永遠に出口に辿り着けないとされる絶望の迷宮です!』

クロエの解説が響く中、鏡の壁の奥から、不気味な足音が近づいてきた。

ガシャッ……。ガシャッ……。

「あ! 鏡の中から、キラキラしたお人形さんが出てきたよ!」

三月が指差した先。鏡面をすり抜けるようにして姿を現したのは、水晶で構成された人型の魔獣――『アビス・ミラージュ・ゴーレム(Aランク)』の群れであった。

『お姉様、ご注意を! 奴らは鏡の迷宮と完全に同化しており、物理的な実体と幻影を瞬時に入れ替える厄介な敵です! 視覚に頼って攻撃すれば、鏡の壁を叩かされて隙を突かれます!』

「なるほどー! 目で見ちゃダメなんだね!」

三月が『魔鉄の塊剣』を抜こうとした、その時だった。

「三月殿。ここは、俺に任せてはくれないか」

ザイオンが、ルルを背に乗せたまま、スッと前へ出たのだ。

「ザイオンお兄ちゃん?」

「俺は、戦う力ではあなたの足元にも及ばない。……だが、俺は獣人だ。水晶の幻影がどれほど視覚を狂わせようと、この『狼の嗅覚』までは騙すことはできない」

ザイオンは、黄金色の瞳を鋭く細め、鼻をヒクヒクと動かした。

「実体を持つ魔獣には、微かな『魔力の匂い』がある。幻影にはそれがない。……この鏡の迷宮の道案内と、雑兵の排除は、モフモフ係であるこの俺が引き受けよう!」

ザイオンは、三月に「戦闘員」としての意地を見せたいわけではなかった。ただ、純粋に「家族の役に立ちたい」という一心であった。

「わぁっ! かっこいい! じゃあ、道案内はザイオンお兄ちゃんにお願いしちゃおうかな!」

三月がパチパチと拍手をして応援する。

「うむ! 俺の鼻に狂いはない! ルル、振り落とされるなよ!」

ザイオンは、背中にルルを乗せたまま、凄まじい速度で水晶の迷宮へと駆け出した。

「ガシャァァッ!」

水晶のゴーレムたちが、四方八方の鏡の中から幻影を生み出し、ザイオンを取り囲んで一斉に襲いかかってくる。

しかし。

「遅い。……本物は、そこだッ!」

ザイオンは、視覚を完全に無視し、嗅覚と気配察知のみを頼りに、空中に鋭い凶爪を振り抜いた。

ガキィィィィンッ!!

何もない空間と思われた場所に隠れていたゴーレムの「実体」が、ザイオンの爪によって正確に捉えられ、瞬く間に三枚おろしにされて砕け散る。

「にゃははっ! ザイオンお兄ちゃん、すごーい! まるで名探偵みたいにゃ!」

「フッ……。言ったはずだ。俺の鼻から逃れられる敵はいない、と!」

ザイオンは、ルルからの称賛を一身に浴びて、尻尾をブンブンとちぎれんばかりに振っていた。

(……素晴らしい。やはり俺の獣の力は、この家族の中で明確な『役割』を持っている! 圧倒的な物理破壊しかできない三月殿には、この繊細な道案内(ナビゲート)はできまい! 俺は、ただのソファーじゃない。有能なガイド犬……いや、狼なのだッ!!)

ザイオンは、完全に調子に乗っていた。

次々と現れる幻影の敵を完璧に見破って粉砕し、複雑に入り組んだ水晶の迷宮を、嗅覚だけを頼りに迷うことなく突き進んでいく。

「ザイオンお兄ちゃーん! 待ってー!」

三月も、一切の警戒を解いて、小走りでザイオンの後をニコニコとついていく。

しかし。

彼らが順調に水晶宮の深部へと足を踏み入れた、まさにその時だった。

『……愚かなる侵入者よ。我が水晶の庭で、獣の鼻ごときが通用すると思ったか』

突如として、迷宮全体に、ガラスを擦り合わせるような不気味な声が響き渡った。

次の瞬間。

ピキィィィィィィィィィィィンッ!!!!

迷宮を構成するすべての鏡の壁が、不気味な紫色に発光し始めた。

第二十五階層の真の主――『アビス・クリスタル・ロード(Sランク)』が、迷宮のギミックを完全に起動させたのだ。

「な、なんだ……!? 匂いが……消えた!?」

ザイオンが、急ブレーキをかけて立ち止まり、狼狽した声を上げた。

空間歪曲魔法が最大出力で発動したことにより、迷宮内の空気の流れが完全に遮断され、魔獣の匂いも、出口からの微かな風も、一切が『シャットアウト』されてしまったのである。

それどころか、迷宮の壁が音を立ててスライドし始め、彼らが通ってきた道すらも完全に塞がれてしまった。

「マズい……! 完全に閉じ込められた! 匂いも、風も、一切感じない……っ!」

ザイオンは、四方を巨大な鏡の壁に囲まれた袋小路で、冷や汗を流して唸り声を上げた。

彼の誇るべき「狼の嗅覚」が、迷宮の主の魔法によって完全に無力化されてしまったのだ。

「あちゃー。行き止まりになっちゃったね」

三月が、追いついてきて鏡の壁をコンコンと叩く。

「す、すまない、三月殿……! 俺の鼻を過信したばかりに、罠に嵌ってしまった……っ!」

ザイオンが、ルルを背に乗せたまま、深く項垂れて謝罪する。

「ううん、ザイオンお兄ちゃんは悪くないよ! すっごく頑張ってくれて、かっこよかったもん!」

三月はザイオンを優しく慰めるが、状況は絶望的であった。

前後左右、すべてが分厚い魔力水晶の壁。視覚も嗅覚も通じない、完全なる無限の迷子状態。

過去の探索者たちが、ここで発狂し、永遠に出口を求めて彷徨い続けたという『アビスゲート屈指の絶望トラップ』が、彼らに牙を剥いたのだ。

しかし。

その、絶体絶命の迷子状態の真っ最中。

「……むにゃ。……んあー……トイレ……」

インカムの向こうから、今までずっと自室のベッドで爆睡していた『魔力ゼロの少年指揮官』――如月拓也の、間の抜けた寝言が聞こえてきたのである。

『ハッ! 拓也様! お目覚めになられたのですね!』

クロエが歓喜の声を上げる。

「……暗いな……。トイレ、どこだっけ……むにゃ……」

拓也は、生理現象(尿意)によって半覚醒状態となり、暗い自室の中でふらふらと立ち上がった。

目を閉じたまま、トイレに向かおうと歩き出すが、寝ぼけているため、部屋のドアではなく「壁」に向かって歩いていってしまった。

ドンッ。

「……いっ。なんだよ、壁か……」

拓也は、壁に足の小指をぶつけ、不機嫌そうに寝言を呟いた。

「……トイレ行きたいのに……壁が邪魔だな……。こんな迷路みたいにクネクネ行かずに……壁を、ドカーンってぶち抜いて……真っ直ぐ、トイレまで行きたい……むにゃ……」

拓也は、そのままトイレを諦め、再びベッドへと倒れ込んで、深い二度寝(我慢)の世界へと旅立っていった。

『…………ハッ!!』

インカムの向こうで、クロエ・アーヴィングの眼の奥に、狂信的な光がギラギラと灯った。

『承知いたしました、拓也様ッ!! この小賢しい幻惑の迷宮と、我々を閉じ込める分厚い壁どもを、一網打尽にする究極の【直線突破(トイレ直行)戦術】ですね!!』

クロエは、拓也の「単に寝ぼけて壁にぶつかり、トイレに真っ直ぐ行きたいと愚痴っただけの寝言」を、第二十五階層を突破するための『完璧な神の啓示』として完全に誤認(受信)した。

『お姉様! 拓也様より、神算鬼謀の戦術指示が下りました!』

「ほんと!? 拓也、なんて言ってたの?」

三月が、水晶の壁の前で目をキラキラさせてインカムに問いかける。

『はい! 迷宮のルールなど一切無視せよ、と仰っておられます! 壁が邪魔なら、お姉様の【怪力】と【極大磁力】を用いて、出口まで続くすべての壁を「一直線にぶち抜いて」真っ直ぐ進め、と!』

「なるほどー! さすが拓也! 迷路が難しくて迷子になっちゃうなら、壁を全部壊して『一本道』にしちゃえばいいんだね!」

三月は、ポンッと手を打って、これ以上ないほど納得した顔をした。

その言葉を聞いたザイオンが、「……は?」と間の抜けた声を漏らす。

「壁を、ぶち抜く……? 三月殿、何を言っている。この壁は、あらゆる魔法や物理攻撃を反射する神造の魔力水晶だぞ。それを力任せに破壊するなど――」

「ザイオンお兄ちゃーん! ルルちゃーん! ちょっと危ないから、私の後ろに隠れててねー!」

三月は、ザイオンの常識的な忠告を完全にスルーし、自身の身の丈ほどもある無骨な大剣『魔鉄の塊剣』を、右手一本でスッと上段に構えた。

そして。

長き眠りを経て極限まで研ぎ澄まされた彼女の全魔力回路と、【怪力(極)】、そして【磁力操作(極)】が、かつてない『一点集中突破』の陣形で解放されたのである。

「さぁ! 出口まで、一直線にドカーンだよぉぉぉぉっ!!!!」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

新章・第25階層『鏡幻の水晶宮』編がスタートしました!

無限に続く鏡と水晶の迷宮。

ここでついに、ザイオンお兄ちゃんが「狼の嗅覚」を活かして迷宮のナビゲート役として大活躍……!

……するかと思いきや、迷宮のボスの魔法によってあっさりと匂いを消され、絶体絶命の袋小路(迷子)に閉じ込められてしまいました(悲しい)。

そこに投下された、寝ぼけた拓也の「トイレに行くのに壁が邪魔。ぶち抜いて真っ直ぐ行きたい」という、あまりにも怠惰な寝言!

クロエの狂信フィルターを通した結果、三月お姉ちゃんが「迷路の壁を全部ぶち抜いて一本道を作る」という、迷宮の存在意義を根底から否定する物理的暴挙に出ます(笑)。

神造の魔力水晶の壁は、果たしてお姉ちゃんの【怪力】+【磁力】の前に何秒持つのでしょうか?

よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

次回(第325話)もどうぞよろしくお願いいたします!

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