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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第五章:深淵の門(アビスゲート)。見えざる少年指揮官と、最強の主人公の蹂躙劇

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315/353

第315話:第二十三階層『毒沼の迷宮』。戦士の休息と、モフモフの真価(後編)

バチンッ! バチンッ! バチィィィィンッ!!!!

「ギャアアアアッ!?」「ギェェェェッ!?」

第二十三階層の主であるSランク魔獣『アビス・ヴェノム・ヒドラ』の九つの巨大な頭部が、如月三月(きさらぎ みつき)の振るう「大剣の平打ち(巨大ハエ叩き)」によって、次々とトマトのように弾け飛び、粉砕されていく。

驚異的な再生能力を誇るはずのヒドラであったが、三月の【怪力(極)】が込められた超質量の物理的ビンタの前には、再生の暇すら与えられなかった。

最後の一ツ頭が「ヒュンッ」という情けない悲鳴と共に吹き飛ばされると、巨大な毒蛇の化身はついに限界を迎え、サラサラと光の粒子となって空間に溶け込むように消滅した。

後に残されたのは、Sランクの魔核と、なぜかドロップした『最高級の解毒ハーブティーの茶葉』だけであった。

「ふふっ! これで本当にお掃除終わり! ザイオンお兄ちゃん、待たせちゃってごめんね!」

三月が、ドロップアイテムの茶葉を拾い上げながら、満面の笑みで振り返った。

そこには。

完全に毒の泥を吹き飛ばされ、ピカピカの更地となった岩盤の上で、四つん這いになりながら静かに空を見上げている銀狼の獣人――ザイオンの姿があった。

「……ザイオンお兄ちゃん? どうしたの、どこか怪我でもした?」

三月が小首を傾げながら近づくが、ザイオンは答えず、自らの両手……鋭い真空の刃を生み出すことができる『凶爪』を、ただジッと見つめていた。

「……三月殿」

「ん?」

「俺は、何のために生み出されたのだろうか」

ザイオンの声は、ひどく虚ろであった。

「俺は、第二十一階層の研究所で造られ、第二十二階層の蠱毒を勝ち抜いた。様々な毒への耐性を付与され、あらゆる外敵を引き裂く力を持った『最高傑作の戦闘兵器』だ。……そう、思い込んでいたんだ」

ザイオンは、ガクリと肩を落とした。

「先ほど、あなたとルルを守るため、俺は道を切り開こうとした。だが、あなたは……階層の毒を自ら吸い込んで食べてしまい、さらには剣の風圧だけで地形ごと更地にしてしまった。極めつけは、Sランクのヒドラを『ハエ叩き』のように叩き潰す始末……」

ザイオンの黄金色の瞳から、戦士としての自信とアイデンティティが、音を立てて崩れ去っていくのが見えた。

「俺の戦闘力など、あなたの前では全くの無意味だ。……戦うことしかできない俺が、あなたたちのパーティーにいても、ただのお荷物……いや、邪魔なだけではないのか?」

自爆首輪から解放され、家族として迎えられたのは嬉しかった。

だが、己の存在意義である「戦う力」が全く通用しない、いや、必要とすらされていない現実に直面し、彼は深く思い悩んでしまっていたのだ。

その悲痛な告白を聞いて。

三月は、「あちゃー」という顔で自分の額をペチッと叩いた。

「ザイオンお兄ちゃん。……もしかして、私たちが『戦力』としてお兄ちゃんを誘ったって思ってるの?」

「……違うのか? この過酷な深淵の迷宮を攻略するには、一人でも多くの強力な手駒が必要なはずだ」

「ぶっぶー! 全然違いまーす!」

三月は、ザイオンの鼻先を、指でツンッと軽く突いた。

「私ね、戦うだけなら一人でも全然平気なんだよ。だって、私の方が強いもん」

その身も蓋もない(しかし絶対的な真理である)言葉に、ザイオンが「うぐっ」と胸を押さえる。

「でもね、それじゃあダメなの」

三月は、しゃがみ込み、ザイオンの大きな銀色の頭を、両手で優しく包み込んだ。

「私ね、ルルちゃんが笑ってくれるのが嬉しいの。ルルちゃんが、大好きなザイオンお兄ちゃんと一緒にいて、安心してポカポカ眠れることが、一番大切なの」

三月は、ザイオンの美しい銀色の毛並みを、ワシャワシャと心地よく撫でた。

「ザイオンお兄ちゃんは、もう『戦闘兵器』なんかじゃないよ。如月家の新しい家族なんだから。……無理に戦わなくたっていいんだよ。お腹が空いたら一緒にご飯を食べて、眠くなったら一緒にお昼寝して。そうやって、ルルちゃんのお兄ちゃんとして、ただ生きててくれれば、それでいいの」

「三月殿……」

「それにね!」

三月は、目をキラキラと輝かせて、ザイオンの首元に抱きついた。

「ザイオンお兄ちゃんの毛並み、すっごくフワフワでモフモフしてて、最高に気持ちいいんだよ! これは、私には絶対にない『特別な力』だよ!」

「モフ、モフ……? それが、俺の特別な力……?」

ザイオンが困惑していると、トテトテと足音を立てて、ルルが駆け寄ってきた。

「ザイオンお兄ちゃん!」

ルルは、ザイオンの大きな背中に、ピョンッと飛び乗った。

「にゃははっ! お兄ちゃんの背中、おっきくてフワフワで、すっごくあったかいのにゃ! わたし、お兄ちゃんの背中でお昼寝するの、だーいすき!」

ルルは、ザイオンの銀色の毛並みに顔を埋め、喉をゴロゴロと鳴らしながら、心底幸せそうな笑顔を浮かべた。

その小さな温もりと、自分の背中で安心して笑ってくれる妹の重みを感じて。

ザイオンの心の中にあった「戦わなければ価値がない」という呪縛が、今度こそ完全に、跡形もなく溶けて消え去った。

「……そうか。……俺は、もう……戦わなくても、いいのか」

ザイオンは、ルルを背中に乗せたまま、ポロポロと涙をこぼした。

それは、自分の存在そのものが、ただそこにいるだけで許され、愛されているのだと知った、魂からの救済の涙であった。

「あぁ……! ありがとう、三月殿。ありがとう、ルル……っ! 俺は、お前たちのモフモフのお兄ちゃんとして、この命がある限り、最高の温もりを提供することを誓おう……っ!」

かくして、かつての殺戮兵器・銀狼のザイオンは。

完全に戦士としてのプライドを捨て去り、如月家専属の『最強のモフモフ係(移動用ベッド兼ペット)』として、真の幸福に目覚めたのであった。

『おおおおおおおおッ!!! す、素晴らしいッ!! 素晴らしすぎます、三月お姉様ァァァッ!!!』

インカムの向こうで、狂信者クロエ・アーヴィングが、聖書サイズのメモ帳に猛烈な勢いでペンを走らせながら、むせび泣いていた。

『戦うことしか知らなかった哀しき戦闘兵器の魂を、環境(物理)だけでなく、心までも完全に浄化(クリア)なさるとは! 己の無力さを知らしめた上で、ただ「生きているだけで良いのだ」という無償の愛を与える……! 拓也様(爆睡中)の掲げる【大いなる家族愛と戦士の休息】を、お姉様はまたしても完璧に体現なさいましたわッ!!』

一方その頃。

アビスゲートの外、東京・新宿では、Sランク探索者たちが「浄化の神風」バフによって毒竜の群れを全滅させ、歓喜の雄叫びを上げていた。

その立役者であり、彼らから『風と浄化の神』として崇め奉られている見えざる少年指揮官・如月拓也は。

自室のベッドで、気持ちよさそうにスヤスヤと二度寝を満喫しながら、寝言を呟いていた。

「……むにゃ……。お部屋のお掃除が、終わったら……」

拓也は、寝返りを打ちながら、幸せそうに口元を緩めた。

「……温かいお茶でも飲んで……ゆっくり、一休み、だな……。むにゃ……」

『ハッ!!』

インカム越しにその寝言を受信したクロエが、天啓を受けたように震え上がった。

『拓也様……! 悪しき毒を浄化し、大掃除を終えた者たちに、今度は「温かいお茶で一休みせよ」と、休息の言葉をかけてくださるのですね……!』

クロエの視線の先のモニターでは、三月が先ほどヒドラからドロップした『最高級の解毒ハーブティーの茶葉』を片手に、ザイオンのモフモフを堪能している映像が映し出されていた。

『完璧です……! ドロップアイテムまで完璧に予知した上で、彼らの心に寄り添う、慈悲深きティータイムの宣告……! あぁ、拓也様……あなたはどこまで我々の魂を救済すれば気が済むのですか……ッ!!』

もちろん、拓也が予知などしているはずがない。

彼はただ、夢の中で「部屋の掃除をして、疲れたから麦茶を飲んで休んでいる」だけの、極めて平和で怠惰な日常を過ごしているだけである。

しかし、そんな彼の怠惰な寝言すらも、狂信者のフィルターを通せば『全知全能の神の采配』へと変換されてしまうのだ。

かくして。

深淵迷宮の第二十三階層は、三月のデタラメな物理力による『完全なお掃除』と、拓也の『怠惰な寝言』によって、見事に(?)浄化された。

「ザイオンお兄ちゃん、背中あったかーい!」

「あぁ。ルル、落ちないようにな。三月殿も、もし歩くのが疲れたらいつでも俺の背中に乗るといい」

「ほんと!? やったー! モフモフの狼さんバスだー!」

完全に戦意を喪失し、誇り高き『モフモフの狼さんバス』へとクラスチェンジを果たしたSランク魔獣のザイオン。

彼を新たな乗り物(家族)として迎えた三月とルルは、ヒドラが消滅した後に現れた階段を、キャッキャと笑い声を上げながら、次なる第二十四階層へと下っていくのであった。

残るアビスゲートは、27階層。

最強の姉と、最強のお荷物(指揮官)の理不尽な蹂躙劇は、新たなモフモフを加えて、さらに賑やかに加速していく。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第23階層『毒沼の迷宮』の完結編(第320話)でした!

三月お姉ちゃんの規格外の力(デタラメな物理換気扇と、ヒドラへの巨大ハエ叩き)を見せつけられ、「俺、戦闘力お荷物じゃん……」と自信を喪失してしまったザイオン。

しかし、三月とルルちゃんが求めていたのは「戦力」ではなく、「フワフワでモフモフのあったかいお兄ちゃん」でした!

戦うためだけに造られた彼が、初めて「ただ生きているだけでいい」と肯定され、本当の意味で魂が救済された瞬間ですね。

完全に「モフモフの狼さんバス」として悟りを開いたザイオンが、とても愛おしいです(笑)。

一方の拓也は、お掃除後の「お茶でも飲んで一休みだな」という寝言が、見事にドロップアイテムのハーブティーとリンクしてしまい、クロエの狂信度をさらにカンストさせてしまいました。

新たな家族の絆が深まり、パーティーはますます賑やかに!

よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

次回(第321話)もどうぞよろしくお願いいたします!

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