第311話:第二十階層『天空の浮島』。大陸合体(DIY)と、絶対滞空(バフ)
第十九階層の『極寒の氷獄』において、背中のルルが寒さに震えたことにブチ切れた如月三月は、体内の【爆熱の魔力回路(真)】を限界突破させ、階層全体を『ポカポカの巨大サウナ温泉』へと変貌させて踏破した。
サウナの熱気で美味しく出来上がった『あつあつの温泉たまご(レアアイテム)』を猫耳幼女のルルに食べさせながら、三月は次なる第二十階層へと続く階段をスイスイと滑り降りていった。
「ルルちゃん、お腹壊してない? ポカポカして気持ちよかったね」
「にゃははっ! おたまご、すっごく美味しかったのにゃ! 三月お姉ちゃん、次はどこに行くの?」
「次はね――わぁ、すっごく景色がいいところだよ!」
三月が第二十階層へと足を足を踏み入れた瞬間、目の前に広がったのは、どこまでも続く真っ青な空と、足下に広がる見渡す限りの白銀の『雲海』であった。
第二十階層――そこは【天空の浮島】と呼ばれる、果てしなき大空の中に大小数千もの巨大な岩山(浮遊島)がプカプカと漂う、空中庭園のような空間であった。
足場と足場の間は数十メートルから数キロメートルも離れており、一歩踏み外せば雲海の底――無限の奈落へと落下して死に至るという、過酷な高所アスレチック・エリアである。
「ふにゃあぁぁぁぁぁっ!? た、たかいのにゃぁぁぁっ!!」
三月の背中でおんぶされていたルルが、眼下に広がる雲海と、スカスカの足場を見るなり、悲鳴を上げて三月の首にギュッとしがみついた。
銀色の猫耳を頭にくっつけ、尻尾をボワッと膨らませて必死に震えている。
いくら魔獣とはいえ、足場のない高所は本能的な恐怖そのものであった。
『お姉様ッ!! 第二十階層への到達、確認いたしましたッ!!』
インカムの向こうから、相変わらず自室の机でよだれを垂らして爆爆爆睡中の拓也に代わり、狂信者クロエ・アーヴィングの元気なナビゲートが響き渡る。
『私のデータによれば、そこは第二十階層【天空の浮島】! 飛行能力を持たない者にとっては地獄の移動を強いられるエリアです! さらに、空を自由に飛び回る鳥型魔獣の群れが侵入者を落とそうと狙っております! お姉様、ここは私の開発した個人用グライダーを――』
「クロエちゃん」
三月の声が、低く静かに響いた。
背中のルルが、恐怖で三月のロングコートを小さな手で必死にギュッと掴んでいるのが伝わってくる。
「……ルルちゃん、高いところが怖くて震えてるの」
『は、ハッ! ルル殿は高所恐怖症のご様子! でしたら、お姉様の神速の跳躍で一気に浮島を渡り歩くのが最速かと――』
「ダメだよ。跳ぶたびに、ヒュンってなってルルちゃんが怖がっちゃうもん」
三月は背中のルルを優しくポンポンとなだめながら、深緑色の瞳をスッと細めた。
足場が狭くて、スカスカで、ルルちゃんが怖い思いをする。
なら、答えは一つしかなかった。
「足場がないなら……【全部くっつけて、広い地面にしちゃえばいい】んだよね!」
『…………はい?』
インカムの向こうで、クロエが一瞬だけ思考停止する。
「みんな、集まれーッ!!」
三月は右手で『魔鉄の塊剣』をスッと構えると、覚醒した【磁力操作(極)】を、これまでの全階層を超える神域の範囲で起動した。
彼女の磁力は、鉄だけを動かすものではない。
星の磁場そのものを支配し、空間に存在するすべての物質の引力を自在に書き換える極大の能力である。
ピキピキピキィィィィィンッ!!!!!!!
三月の剣を中心に、第二十階層全体を包み込む絶大な『超極大引力』が発生した。
雲海の上にプカプカと漂っていた数千の浮遊島――数百万トン、数億トンに及ぶ巨大な岩山の群れが、まるで強い磁石に吸い寄せられる鉄くずのように、三月の足元に向かって一斉に猛スピードで集まり始めたのだ!
ドドドドドドドドドドドドドドッ……!!!!!!
グラグラグラグラッ!!!!!!
「にゃ、にゃあぁぁぁっ!? 地面が動いてるのにゃぁぁぁっ!?」
「大丈夫だよ、ルルちゃん! お姉ちゃんが広い公園作ってるからね!」
ガッチャン! ドガッシャン! バコンッ!!
空中を飛んでいた鳥型魔獣たちも巻き込みながら、数千の浮遊島が次々と三月の足元で隙間なくガッチリと連結されていく。
岩と岩が凄まじい圧力で押し潰され、平らに踏み固められ、わずか数秒の間に、第二十階層の広大な大空は――どこまでも続く『真っ平らで巨大なサッカー場(超巨大大陸)』へと大変身を遂げたのである!
雲海の上に突如として完成した、見渡す限りの広大な大地。
もはや落ちる穴も、狭い足場もどこにも存在しない。
「わぁ……! すごいにゃ! 落ちないよ! 広いお庭になったのにゃ!」
ルルが背中で恐る恐る目を開け、広大な大地を見るなり、パッと顔を輝かせて尻尾をぶんぶんと振った。
「ふふっ、これで安心して歩けるね!」
三月が満足そうに頷いた、その時であった。
「ギュロォォォォォォォォォッ!!!!」
大空の彼方から、凄まじい風圧と共に巨大な影が舞い降りてきた。
第二十階層のボス魔獣――『アビス・ガルーダ・レジェンド(Sランク)』である。
黄金の羽と巨大な鉤爪を持つ天空の覇者は、自身の城であった浮島群が、一瞬にして見知らぬ巨大な大地に合体させられたことに激怒し、上空から音速の急降下爆撃を仕掛けてきたのだ。
「あ! 大きなトリさんだ! ルルちゃん、お夕飯は焼き鳥にする?」
「にゃっ! やきとり、食べたいのにゃ!」
「よしッ! 新鮮なうちに捕まえなきゃね!」
三月は、上空から襲い来るSランクのガルーダに対し、避ける素振りすら見せなかった。
彼女は合体させたばかりの足元の大地から、ほんの僅かな岩の塊(数トン分)を【磁力操作(極)】でスッと持ち上げると、それを手のひらに載せた。
「そぉーいっ!!」
バキィィィィィィィィィィィンッ!!!!!!!!
三月が投擲したのは、ただの岩ではない。
覚醒した【怪力(極)】による超音速の投球と、磁力加速が融合した『超質量レールガン』である。
急降下してきたガルーダは、三月が投げつけた岩の弾丸と真っ向から激突。
音速の数十倍の衝撃波により、Sランクの翼も、猛毒の鉤爪も、一瞬にして木っ端微塵に砕け散り、悲鳴を上げる隙すら与えられずに地上へと叩きつけられた。
ドゴォォォォォンッ!!
三月がササッと駆け寄り、気絶したガルーダの首を『ペチン』と軽く叩いてトドメを刺すと、巨大な鳥は光の粒子となって消滅。
後に残されたのは、Sランクの魔核と、完璧な手際で解体された『巨大な最高級鳥もも肉』だけであった。
「ふふっ! ルルちゃん、拓也にお家で美味しく焼いてもらおうね!」
「にゃははっ! 拓也お兄ちゃんのやきとり、楽しみにゃー!」
『おおおおおおおおッ!!! す、素晴らしいッ!! 素晴らしすぎます、三月お姉様ァァァッ!!!』
インカムの向こうで、クロエが拍手喝采を送りながら絶叫していた。
『浮島を力業で連結して土台を作り、空の覇者すらも「お夕飯の食材」として撃ち落とす! これぞ完璧なる土地開拓(DIY)戦術! 拓也様(爆爆爆睡中)が起きておられれば、きっとこの見事な土地造成に深い感銘を受けておられたことでしょうッ!!』
一方その頃。
アビスゲートの外、東京・新宿の上空で防衛戦を死守していたSランク探索者たちの間では、戦局を完全に支配する『天の奇跡』が降り注いでいた。
「な、なんだ……!? 空中に……足場が……!?」
神宮寺が、空中で目を見開いた。
彼らを空中から狙い撃ちにしていた変異種の飛行魔獣に対し、地上からの攻撃では限界があった。
しかし、その時だった。
上空のアビスゲートから、三月が第二十階層の浮遊島群を極大磁力で一つに合体・固定した際に生じた『巨大な空間固定の磁場』が逆流してきたのだ。
それが、戦場全体に広域の【絶対滞空と空中歩行】のパルスとなって降り注いだのである。
パァァァァァァァン……ッ!!
「お、おい! 見ろ! 空中に立てるぞォォォッ!?」
レオン・カーターが、何もない空中でバシッと大地を踏みしめるように立ち、驚愕の歓声を上げた。
まるで透明なガラスの床が空中に無限に広がったかのように、Sランク探索者たちは大空を縦横無尽に走り回ることができるようになったのだ。
飛行能力のない彼らが、完全に『空中戦の制空権』を手に入れた瞬間であった。
「ハッハァァァァッ!! 冗談だろオイ!? 今度は【空中に見えない大地を作り出す】バフだとォ!?」
レオンが、空中を爆走しながら雷撃を連打し、逃げ惑う鳥型魔獣たちを次々と撃ち落としていく。
「なんという……なんという圧倒的な戦術領域の拡張……!」
神宮寺は、空中を滑るように駆け抜けながら、愛刀で敵の翼を次々と切断し、空のゲートに向かって打ち震える声で叫んだ。
「彼は我々が空中戦で不利を強いられていることを瞬時に察知し、大空そのものを我々の『戦場』へと変えてみせたのだ! 如月拓也……! 君の采配は、我々に翼を与えるどころか、空そのものを支配させてくれる!!」
「ハッハァ! 地上も空中も、全部俺たちの庭だぜ!! 一生ついていくぜ、コンダクター!!」
Sランクの猛者たちが、空中を自在に駆け巡りながら、空のゲートに向かって熱狂的な勝利の咆哮を上げていく。
もちろん、彼らは知らない。
この神がかった空中歩行バフが、「背中の猫耳幼女が高いところを怖がったから、空中の浮島を全部磁力でガッチャンコして広場にした」という、理不尽極まりない三月の『大陸合体(DIY)』の余波に過ぎないという事実を。
そして、彼らが空の支配者と崇め奉る指揮官が、現在自室の机でよだれを垂らし、「……むにゃ……やきとり……タレで……」と幸せそうな寝言を呟きながら爆睡しているという事実も。
かくして。
深淵迷宮の第二十階層は、覚醒した最強スキルによる『浮島合体(物理)』によって一瞬で踏破され、外で戦うSランクたちは、気気絶中の少年指揮官への心酔をいよいよ『神の領域』へと昇華させていくのであった。
「ルルちゃん、お庭もできたし、次の二十一階層も一気に突破しちゃうね!」
「にゃっ! 三月お姉ちゃん、どこまでもついていくのにゃ!」
『ハッ! お二人の素晴らしきご進軍、このクロエが全力で記録いたしますわッ!』
猫耳幼女のために大空に広場を作り、パンケーキのために真の深淵(裏ダンジョン)を爆走する最強の姉。
そして、狂信者の実況を子守唄に深い眠りにつく魔力ゼロの指揮官。
全六十階層のうち、三分の一である『二十階層』を突破した彼らのアビスゲート攻略戦は、ツッコミ不在のまま、さらなる爆走へと突き進んでいくのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第二十階層『天空の浮島』にて、高いところが怖くて震える猫耳幼女・ルルちゃんのために、数千もの浮遊島を磁力で丸ごとガッチャンコ合体させて「巨大な広場(お庭)」を作ってしまう三月お姉ちゃんでした!
襲いかかってきたボスのガルーダも、岩の超音速投擲で一撃で撃ち落とされ、拓也に焼いてもらうための「最高級鳥もも肉」へと解体されてしまいましたね。
そして外で戦うSランクたちは、その空間固定の磁場の余波を「空中を自由に走れる完璧な滞空バフ」と勘違いし、いよいよ拓也を『空すらも支配する神』として崇め奉っています。
当の拓也本人は、自室の机で「やきとりはタレで……」と幸せそうな寝言を言いながら爆睡中なのですが……(笑)。
全六十階層のうち、三分の一である「二十階層」を無事に突破し、アビスゲート攻略はいよいよ中盤戦へと突入していきます!
ツッコミ役の拓也が起きないまま、三月お姉ちゃんとルルちゃんの理不尽で賑やかな爆走劇はまだまだ続きます!
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次回(第312話)もどうぞよろしくお願いいたします!




