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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第五章:深淵の門(アビスゲート)。見えざる少年指揮官と、最強の主人公の蹂躙劇

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第301話:日常の崩壊と、絶対に家を壊してはいけない防衛戦

東京上空に開いた絶望のSSSランク迷宮『深淵の門(アビスゲート)』が消滅し、世界が奇跡の勝利に沸き立っていた翌日の朝。

「……ん、うーん……」

如月家のリビング。

作業用デスクに突っ伏したまま眠っていた拓也(たくや)は、窓から差し込む朝日に照らされ、ゆっくりと重い瞼を開けた。

全身の骨が軋むように痛く、頭の奥では鉛が転がっているような鈍痛が続いている。自身の魔力ゼロの肉体と、右眼のチート能力『深層言語・限定解析』を限界のさらに向こう側まで酷使した代償だ。

「あっ! 拓也、おはよう! やっと起きたね!」

キッチンの方から、可愛らしい声が弾んだ。

エプロン姿の姉、如月三月(きさらぎ みつき)が、湯気を立てるお皿を持ってパタパタと駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん特製、黄金のパンケーキ・リベンジだよ! 昨日は拓也が寝ちゃったから、今朝もう一回、新しく焼き直したの!」

「おお……拓也様がお目覚めになられた! さあ、このクロエが淹れた極上の紅茶と共に、勝利の朝食を……ッ!」

狂信者であるクロエ・アーヴィングも、メイド服の上にタクティカルベストを着込んだまま、恭しくティーカップを差し出してきた。

拓也は、ふわりと漂うバターとハチミツの甘い香りに、ようやく「過酷な戦いが終わったのだ」という実感を抱き、深く、深く安堵の息を吐いた。

「……おはよう、ねえさん。アーヴィングさんも。色々無茶させたけど、無事に帰ってこられて良かったよ」

「うんっ! 全部拓也のナビのおかげだよ! さあさあ、冷めないうちに食べて!」

拓也はフォークを手に取り、ふっくらと焼き上がったパンケーキを一口サイズに切って口に運んだ。

優しい甘さが、胃薬で荒れ果てた胃壁と、疲労困憊の脳細胞にじんわりと染み渡っていく。

ああ、最高だ。

次元を引き裂こうが、反射の概念を粉砕しようが、ブラックホールをホームランしようが、こうして平和な朝に食べるパンケーキの味があれば、すべて許せる気がする。

拓也が紅茶をすすり、二口目のパンケーキに手を伸ばそうとした、まさにその時だった。

ズズズズズズズズッ……!!

突如として、家全体が震度3程度の奇妙な揺れに襲われた。

「……地震か?」

拓也が眉をひそめる。だが、揺れはすぐに収まった。

しかし次の瞬間、休眠状態にあったはずの拓也の右眼が、焼けるような激痛と共に『真っ赤な警告(アラート)』を視界に表示したのだ。

【警告:至近距離にて、極大の次元異常を観測】

【座標:現在地(如月家)より、直線距離5メートル――『庭先』】

「……は?」

拓也は、痛む右眼を押さえながら、リビングの大きな窓から『自宅の庭』へと視線を向けた。

そこには、綺麗に手入れされた芝生と、三月が育てている小さな花壇がある。

だが、その花壇のド真ん中に、見覚えのある『Sランクボスの魔核』や『水晶の欠片』、そして、コアの残骸らしき『漆黒の石っころ』が無造作に積まれていたのだ。

「ね、ねえさん……。あの庭の石の山は、なんだ……?」

拓也が震える声で尋ねると、三月はパンケーキをモグモグと咀嚼しながら首を傾げた。

「ん? ああ、あれはお土産だよ! お家の中に置いたらドロで汚れちゃうから、とりあえず庭の花壇に飾っておいたの。キラキラしてて綺麗でしょ?」

「バカッ!! アビスゲートの深層でドロップした魔核や、特異点に近い石を、なんの封印処理もせずに無造作に庭に積む奴がいるかァァァッ!!」

拓也の絶叫と同時だった。

花壇に積まれていた高濃度の魔力物質が、東京の地下を流れるレイライン(地脈)と、三月が昨日迷宮を物理で引き裂いた際の『次元の歪みの残滓』と最悪の共鳴を起こした。

バチバチバチッ!! と空間に黒い稲妻が走り。

如月家の庭先――物干し竿と花壇の間の空間に、高さ三メートルほどの『真っ黒な次元の裂け目(ミニ・ゲート)』がパカリと開いてしまったのである。

「ギ、ギギャァァァァァッ!!」

「ルルルルルッ……!!」

次元の裂け目から、深淵の瘴気と共に、醜悪な魔獣たちが次々と這い出してきた。

ドロドロの粘液を滴らせる『アビス・マッドスライム』の群れ。

そして、全身に爆発性の高熱を宿した『ヘルハウンド』たち。

いずれもB〜Aランク相当の、通常であれば軍隊が出動するレベルの厄介な魔獣たちだ。

それが今、如月家の庭先で、クロエが干したばかりの『真っ白なシーツ』のすぐ横に陣取っている。

「きゃあっ!? なにこれ、お庭に勝手に入ってきちゃダメでしょ!」

三月が、パンケーキのフォークを置き、不機嫌そうに立ち上がった。

「お姉ちゃん、ちょっとあの子たちをお掃除してくるね!」

三月は、玄関の脇に立てかけてあった愛剣『黒月』――ではなく、そこらにあった『竹箒』を手に取り、庭へと出ようとした。

『待てッ!! ストップだ、ねえさん!!』

拓也は、慌ててインカムのスイッチを入れ、自身の右眼の解析データをフル稼働させた。

だが、脳が割れるような痛みが走り、視界がチカチカと明滅する。アビスゲートでの酷使から全く回復していないのだ。

「えっ? どうして拓也? あんなの、私なら一振りで……」

『それがダメなんだッ!! いいか、よく聞け!』

拓也は、窓ガラスに張り付きながら、血相を変えて叫んだ。

『ここはSSSランクの迷宮じゃない! ただの【住宅街】だぞ!? ねえさんが覚醒した【怪力(極)】でその竹箒をフルスイングしたら、魔獣はおろか、うちの家も、隣の山田さんの家も、向かいの鈴木さんの家も、風圧だけで基礎から吹き飛んで更地になる!!』

「あっ……!」

三月は、竹箒を振り上げていた手をピタッと止めた。

『魔法もダメだ! 【爆熱の魔力回路(真)】なんて使えば住宅街が一瞬で火の海だし、【氷結の魔力回路(真)】を使えば、うちの家の水道管が全部破裂する!!』

最強の主人公であるがゆえの、最大の弱点。

彼女の力は『あまりにも規模がデカすぎる』のだ。

広大なダンジョンであればいくら地形を壊そうが自由だったが、ここは彼女の帰るべき『家』である。壁一枚、窓ガラス一枚ですら、彼女の極大出力の余波に耐えられない。

「拓也様ッ! ならばこのクロエがお相手いたしますッ!」

クロエが二丁のタクティカル・ハンドガンを抜き放ち、庭へと飛び出した。

だが、這い出てきたアビス・マッドスライムは物理銃弾をドロドロの体で吸収し、逆に強酸性の泥を吐き出して反撃してくる。

「くっ!? この泥、ただの泥ではありませんわ! 触れれば防弾繊維すら溶かす猛毒ッ……!」

クロエが庭の芝生を転がりながら回避するが、敵の数が多い。

『マズいぞ! あのスライムが家に張り付いたら、壁が溶けて家が倒壊する! ヘルハウンドが物干し竿の近くで自爆したら、干してあるシーツも布団も全部丸焦げだ!!』

拓也が、限界の脳髄をフル回転させて叫ぶ。

「そんなの絶対にダメッ! 拓也と私のお家を壊すなんて、許さないッ!!」

三月が、竹箒を構えたまま庭へと飛び出した。

だが、彼女の動きにはいつもの迷いがない神速の踏み込みがない。

「え、えーっと……! ご近所さんに迷惑がかからないくらい、すっごく優しく、そーっと叩けばいいんだよね!?」

三月は、自身の筋力を極限まで抑え込み、ヘルハウンドに向かって竹箒を『ペチッ』と当てた。

しかし。

ドバキィィィィンッ!!

「アウーッ!?」

抑えに抑えたはずの『ペチッ』でも、覚醒した【怪力(極)】の基礎値が高すぎるため、ヘルハウンドはロケットのように真上に吹っ飛んでしまった。

『バカッ!! 上に飛ばすな! あいつは死ぬ時に自爆するんだ!! このままじゃ屋根の上で爆発して、うちの瓦が全部吹き飛ぶぞ!!』

「ええっ!? ご、ごめん!!」

三月は慌てて真上にジャンプし(その踏み込みの余波だけで庭の芝生がごっそりえぐれた)、空中でヘルハウンドをキャッチして、自爆のエネルギーを自身の【堅牢(極)】の肉体で無理やり抱え込んで抑え込んだ。

ボムッ! というくぐもった爆発音が三月の胸元で響くが、彼女自身は無傷だ。

だが、その隙にマッドスライムたちが、如月家のリビングの窓ガラスへと迫っていた。

「ひぃぃっ! 拓也様のおられる聖域(リビング)には、泥一滴たりとも入れさせませんわッ!!」

クロエが弾切れのハンドガンを投げ捨て、ナイフを構えてスライムの壁となる。

『ねえさん! スライムの処理だ! 物理で叩けば泥が飛び散って、家の壁も干してあるシーツも全滅する!』

「じゃあ、凍らせる!?」

『【氷結(真)】の出力を、極限の極限……【0.0001パーセント】まで絞れ! 半径五十センチメートル、対象の体積の分だけを正確に凍結させろ! 一ミリでも範囲を間違えれば、庭の土壌ごと死滅するぞ!!』

拓也は、オーバーヒート寸前の右眼でスライムの体積と必要な熱力学を計算し、インカム越しに姉の『出力調整』を1ミリ単位でマイクロマネジメントし始めた。

「0.0001パーセント……! う、ううう……っ、すっごく難しいよぉ……っ!」

三月は、巨大なブラックホールをホームランした時よりも、次元の壁を引き裂いた時よりも、遥かに大量の冷や汗を流していた。

針の穴を通すような、絶望的なまでの出力制限。

覚醒した【精密魔力循環】を総動員し、彼女は指先から『チロッ』とだけ絶対零度の冷気を放った。

ピキッ……!!

スライムの群れが、泥を飛び散らせることなく、見事な氷の彫刻へと変わった。

窓ガラスまであと十センチの距離である。

「や、やったぁ……!」

三月がへたり込みそうになる。

『喜ぶのはまだ早い!! ねえさん、ゲートが閉じない! あの庭の石の山がコア代わりになって、次元の亀裂を安定させやがった!! 次のウェーブが来るぞ!!』

拓也の絶叫と共に、庭先の黒い裂け目から、今度は空を飛ぶ『アビス・ガーゴイル』と、地中を潜る『アビス・モール』の群れが出現した。

『空の敵に風圧を飛ばせば隣の家の窓ガラスが割れる! 地中の敵を叩き潰せば、水道管とガス管が破裂する! ねえさん、アーヴィングさん! 俺がすべての敵の最適処理ルートと、必要な出力を計算する! 絶対に、絶対に【家(ここ)】を壊させるな!!』

「わ、わかったよ拓也! 私、お家もご近所も、絶対に守ってみせる!!」

「承知いたしましたッ! 拓也様の城(マイホーム)、この命に代えましてもッ!!」

東京を滅亡から救った最強の姉弟は今。

「ご近所迷惑にならないように」「シーツを汚さないように」「水道管を割らないように」という、世界防衛よりも遥かに過酷で神経をすり減らす『如月家・絶対防衛戦(タワーディフェンス)』という名の地獄に、パジャマとエプロン姿のまま巻き込まれていた。

リビングの机には、冷えゆく黄金のパンケーキ。

そして拓也の胃壁は、今度こそ完全に崩壊の危機を迎えていたのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

アビスゲートの脅威から世界を救った翌日、まさかの自宅の庭先に魔界の裏口が開いてしまう新章「如月家・絶対防衛戦」がスタートしました。

家や水道管を壊さず、干してあるシーツを汚さないために出力を【0.0001%】まで絞らなければならないという、お姉ちゃんにとってある意味一番過酷な戦い(タワーディフェンス)の始まりです。平和な日常に戻っても、拓也の胃は限界のようです。

よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると執筆の励みになります! 新章もよろしくお願いいたします。

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