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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第五章:深淵の門(アビスゲート)。見えざる少年指揮官と、最強の主人公の蹂躙劇

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第293話:第二階層『幻惑の森』と、激怒の一直線除草作業(物理)

ズドォォォォォォォンッ……!!!

東京の空に開いた『深淵の門(アビスゲート)』の内部。

第一階層の黒曜石の大地を物理的にぶち抜き、その勢いのまま落下してきた最強の主人公・如月三月(きさらぎ みつき)は、音も立てずに第二階層の地面へとふわりと着地した。

「うーん……。今度はなんだか、ジメジメしてて暗い場所だね」

三月が降り立った第二階層は、見渡す限りの『森』であった。

しかし、ただの森ではない。樹皮が赤黒く変色し、葉の代わりに不気味な紫色の蔦を垂れ流す、巨大な魔樹の群れ。空間全体には乳白色の濃霧が立ち込めており、視界は数メートル先すらおぼつかない。

『……ゲホッ、ハァッ。ねえさん、聞こえるか』

インカムから、ひどく掠れた拓也(たくや)の声が響く。

「あっ、拓也! 大丈夫? お水飲む?」

『飲んでるよ。アーヴィングさんが横で、致死量の胃薬と一緒に極上の湧き水を流し込んでくれてるからな……。なんとか、ねえさんがぶち抜いた階層のズレ(エラー)を修正して、マッピングを再開したところだ』

拓也のいる自室。

鉄山厳特製の『絶対防御パーカー』を着込み、魔力ゼロのひ弱な肉体(打撃力2)を守りながら、彼は右眼のチート能力『深層言語・限定解析』を限界まで酷使していた。

『いいか、ねえさん。そこは第二階層【幻惑の森】だ。空間が無限にループする迷路になっている上に、その霧は吸い込んだ者の脳に直接干渉し、その人間が持つ【最も恐れるトラウマ】の幻覚を見せて精神を破壊する呪いがかかっている』

拓也の右眼が、瞬時に森の構造とギミックを暴き出す。

『どんな強靭なSランク探索者でも、心の奥底にある恐怖を抉り出されれば隙ができる。俺が右眼で幻覚の波長を相殺しながら、ループを抜ける正しいルートをナビする。絶対に俺の指示通りに――』

「えっ? トラウマの幻覚?」

三月は、拓也の言葉を遮るように首を傾げた。

その瞬間である。

シュゥゥゥゥッ……!

三月の周囲を取り囲んでいた乳白色の霧が、急激に濃さを増し、彼女の視界を完全に奪った。

霧は彼女の脳に侵入し、深層心理にある『最も恐れるもの(トラウマ)』を引きずり出そうと、呪いの魔力をフル稼働させる。

やがて、霧の中から『一つの影』がふらふらと歩み出てきた。

「……ね、ねえさん……」

そこに現れたのは、ボロボロの服を着て、絶望的な表情を浮かべた『拓也の幻影』であった。

「た、拓也……? どうしたの、そんなに悲しい顔をして……」

三月が目を見開く。

幻影の拓也は、ガクリと膝をつき、血の涙を流しながら叫んだ。

「ねえさん……俺、市役所の公務員試験に……落ちたんだ……。おまけに、帰り道で足の小指をタンスの角にぶつけて……すごく、痛いよぉ……ッ!!」

それは、弟の平和と安全を何よりも願う三月にとって、間違いなく『この世の終わり(トラウマ)』とも言える光景であった。

最愛の弟が、夢を絶たれ、あろうことか足の小指まで痛めているのだ。

「ああっ……! た、拓也ぁぁぁっ……!!」

三月は、両手で口を覆い、ワナワナと肩を震わせた。

その姿を見て、幻惑の森の意思(ダンジョンシステム)は『かかった』とほくそ笑んだに違いない。精神崩壊は間近だ、と。

しかし。

インカムの向こう側にいる『本物の拓也』は、自室のモニターでその映像を見ながら、サァァァッと顔面を蒼白にしていた。

『(……マ、マズいッ!!)』

拓也は完全に理解していた。

特異点の崩壊を経て進化した三月の『魂喰い(ソウルイーター)』には、あらゆる精神干渉を完全に遮断する【精神耐性】が備わっている。

つまり、三月はこの幻覚に『一切操られてなどいない』のだ。

彼女の脳は正常であり、目の前の拓也が『森が見せている偽物である』ということを、完璧に理解している。

理解した上で。

『大好きな弟が悲しんでいる姿を、たとえ偽物(ホログラム)であっても見せつけられた』という事実に、最強の主人公は、今まさに――。

「……よくも」

三月の深緑色の瞳から、一切の感情の光(ハイライト)が消え失せた。

「……よくも、よくもよくもよくもよくも……ッ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!

三月の細い体から、純粋な『怒り』が物理的な圧力となって噴出する。

魔力ではない。ただ彼女が存在しているだけで発生する、神域の重力異常。

周囲の乳白色の霧が、恐怖に怯えるように悲鳴を上げて散り散りになっていく。

「たとえ幻でも……私の可愛い拓也が、公務員試験に落ちて悲しむ姿を見せるなんて……!! しかも、足の小指までぶつけさせるなんてぇぇぇぇっ!! 万死に値するぅぅぅっ!!!!」

「えっ?」と幻影の拓也が間抜けな声を上げた瞬間。

三月は、右手のひらを『手刀』の形に真っ直ぐに伸ばし、正面の森へ向かって、ただただ無造作に振り抜いた。

【純粋物理・真空断層(ただのチョップ)】

バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!!!

手刀から放たれたのは、魔法の風の刃などではない。

三月の極限の腕力とスナップによって強制的に圧縮された大気が、音速を遥かに超える『断層』となって、正面の空間そのものを削り取ったのだ。

「ギィェェェェェェェェェェェッ!?」

無限にループするはずだった『幻惑の森』の魔樹たちが、何千本とまとめて真っ二つにへし折られ、宙を舞う。

三月の放った真空の刃は、第二階層の端から端までの約十キロメートルを、文字通り『一直線に更地』に変えてしまった。

ループ迷路? 精神攻撃の霧?

そんなものは、一直線に切り開かれた『幅百メートルの真っ平らなハゲ山(ショートカット)』の前には、何の意味も持たなかった。

「……ふう。びっくりした。変なもの見せられちゃった」

三月は、跡形もなく消し飛んだ幻影の拓也と森の残骸を見つめながら、プイッとそっぽを向いた。

『…………ねえさん。お前、いや、ねえさん……。今、ダンジョンのギミックごと、第二階層の森の半分を物理的に伐採しなかったか……?』

インカムから、完全に魂の抜けたような拓也の掠れ声が聞こえてくる。

「だって、拓也が公務員試験に落ちる幻覚なんて見せるんだもん! お姉ちゃん、絶対に許せなかったの! それに、迷路をチマチマ歩いてたら、お家に置いてあるパンケーキが完全に冷めきっちゃうでしょ?」

『だからって、力業で森を一直線に切り開く奴がいるか!! 俺の右眼のルート解析が、また全部無駄になったじゃないか!! しかも今、あの森を統括してた第二階層のボス(巨大な樹の化け物)が、お前のチョップの余波に巻き込まれて何もしないまま死んだぞ!?』

拓也のモニターには、本来ならば壮絶な死闘を繰り広げるはずだった【幻影の世界樹(ボス)】が、三月の手刀の風圧だけで木っ端微塵に粉砕され、悲しくアイテム(魔核)をドロップする様子が映し出されていた。

「あ、ホントだ。なんか遠くの方で、次の階層へ行くための【階段】がむき出しになってる! よーし、これでまたショートカットだね!」

三月は、見晴らしが良くなりすぎた(更地になった)一直線の道を、スキップを踏みながら進んでいく。

『……もういい。俺は考えるのをやめる。アーヴィングさん、胃薬のおかわりをくれ……』

「拓也様ッ!! ああ、なんという慈悲深き御力……ッ! お姉様は、神の歩む道に迷いなど不要であると、自らの御手で森を切り拓かれたのですねッ!!」

狂信者のクロエが、モニターに映る無惨な更地に向かって祈りを捧げている。

一方その頃。

アビスゲートの外、東京・新宿の上空で防衛戦を繰り広げていたSランク探索者たちは。

「……おいおいおい、神宮寺。今、空のゲートの中から、凄まじい衝撃波が突き抜けてこなかったか!?」

レオン・カーターが、ゲートの表面が内側からの圧力で激しく波打ったのを見て、顔を引きつらせた。

「ああ……。間違いない。ゲートの内部で、地形が変わるほどの『何か』が起きている。如月くんの指揮と、彼のお姉さんの力……我々の想像を遥かに超えているらしい」

神宮寺もまた、冷や汗を流しながら、空に開いた絶望の大穴を見上げていた。

彼らは知らない。

その凄まじい衝撃波が、世界の危機を救うためのものではなく、「弟が試験に落ちる幻覚を見せられてブチ切れた姉の、ただのチョップの風圧」であるという事実を。

かくして、SSランク相当の深淵迷宮・第二階層は。

パンケーキの冷えを危惧する最強の主人公の『激怒の除草作業(物理)』によって、開始わずか数分で崩壊を迎えるのであった。

もし「幻覚のチョイスが絶妙(笑)!」「お姉ちゃんのブラコンこわい!」「物理チョップで更地は草!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

次回、第三階層での新たな(哀れな)敵との遭遇をお楽しみに!

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