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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第289話:市民プールと、神話級の浄水システム

八月も下旬に差し掛かり、うだるような猛暑が続く東京。

夏休みの風物詩といえば海や川だが、中学生だけで遠出するのはなかなかハードルが高い。そんな時、一番身近で手軽なレジャー施設となるのが『市民プール』である。

「いやー、やっぱ夏はプールっしょ! 市営だから入場料も中学生なら二百円だしな!」

浮き輪を片手に、健太が満面の笑みでゲートをくぐる。

「うん、そうだね。市が運営している公共施設……まさに市民の税金と健康を支える素晴らしいインフラだ。将来市役所で働く身として、現場の視察も兼ねて思い切り楽しませてもらうよ」

如月拓也(きさらぎ たくや)は、首からタオルを下げながら深く頷いた。

市役所の窓口で定時退社するという夢を持つ拓也にとって、『市営』という言葉の響きはそれだけで心を安らげるヒーリング効果があった。

特異点での死闘や、Sランク探索者たちのデタラメな日常から完全に切り離された、二百円の平和な空間。

拓也が現在着用しているのは、近所のスーパーで千円で買ってきた、ごく普通の紺色の海水パンツだ。

(……俺が普段着ているあの『二千円の無地パーカー』は、純粋に物理・魔法に対する絶対防御を得るための装備だ。

昔、ねえさんが俺を守るために『最強の防御力』を付与してくれたマントを着ていた時期があったけど、あれはねえさんの強大すぎる魔力が常にダダ漏れになってしまって、目立ちすぎて実用性が皆無だった。

だから、たまたまレオンさんから貰った人形の素材を使って、鉄山さんに魔力が漏れない高防御のパーカーを作ってもらったんだよな)

そして今日、市民プールに入るにあたって、拓也はそのパーカーをロッカーに置いてきている。

しかし、彼にとって「防御装備を脱ぐこと」は、何らかのカモフラージュを失うことを意味しない。なぜなら、拓也自身の魔力はもともと『完全なゼロ』であり、肉体も一般的な中学生の域を出ないからだ。

防御力のないただの海水パンツを穿いている今の状態こそが、正真正銘の彼自身のステータスである。

隠すべき魔力など最初から存在しないのだから、わざわざ水着に偽装機能を持たせる必要などない。彼はただ、「防御力がないから怪我をしないように気をつけよう」と気楽に構えながら、純粋な一般人としてプールを楽しみに来ていた。

「拓也様! 私も着替えが完了いたしました!」

女子更衣室から現れたのは、プラチナブロンドの髪をポニーテールにまとめたクロエ・アーヴィングだった。

彼女が着ているのは、露出の少ない黒の競泳水着である。一見するとただの中学生のスクール水着なのだが、拓也の右眼にはそれが『対水圧・光学迷彩機能付きの特殊部隊用潜水スーツ(Sランク装備)』であることがはっきりと見えていた。

「アーヴィングさん、似合ってるよ。でも、太ももに付いてるそのナイフのホルスターみたいなのは外してね。監視員さんに怒られるから」

「なっ……!? し、しかし拓也様! 水中からの奇襲に備えるためには、最低でも超振動ブレードを一本は帯行しておかねば……!」

「ここは平和な市民プールだよ。サメもテロリストも出ないから」

拓也は、忠犬すぎるクラスメイトから物騒な武器を取り上げ、ロッカーに押し込んでからプールサイドへと向かった。

「うわあ……めっちゃ混んでるな」

健太が、目の前の巨大な流れるプールを見て呆然と呟いた。

夏休み真っ只中の市民プールは、まさに『芋洗い状態』であった。

無数の子供たちや家族連れが水の中にひしめき合い、水面には色とりどりの浮き輪が浮かんでいる。プールの水は、連日の猛暑と大量の人間の体温によって生温かくなっており、日焼け止めや汗が混ざって少しだけ白く濁っていた。

「まあ、お盆過ぎのプールなんてこんなもんだよ。とりあえず水に入ろう」

拓也は、準備体操を済ませてから、ゆっくりと生温かい流れるプールへと足を踏み入れた。

(……うん。ぬるいし、ちょっと塩素の匂いがキツいし、水も濁ってる。でも、これぞ『普通の中学生の夏休み』って感じがして、最高に落ち着く……)

拓也は、無防備な肉体で周囲の子供たちと一緒にどんぶらこと水流に身を任せ、久々の完全なオフ(平和)を満喫していた。

「拓也様! 私が先行して水中の安全を確保いたします! 健太殿、拓也様の後方警戒を!」

「おおっ! クロエちゃん、なんかスパイの映画みたいでカッコいいぜ!」

クロエが競泳水着姿で魚のように水中を素早く泳ぎ回り、健太が無邪気にそれについていく。

拓也は、そんな二人を見守りながら、青空を見上げて静かに息を吐いた。

――しかし、その平和な光景を、遥か上空から『絶対に許容できない』と見つめる者がいた。

市民プールの隣にある、市の体育館の屋上。

そこに、完璧な光学迷彩と魔力隠蔽を施した状態で、淡い水色のサマードレスを着た美女――如月三月(きさらぎ みつき)が立っていた。

「……うーん」

三月は、深緑色の瞳を細め、数百メートル下の流れるプールで浮き輪に掴まっている弟の姿を【絶対知覚】でじっと見つめていた。

「拓也、楽しそうなのはいいんだけど……プールの水、すっごく汚いなぁ」

三月の眼には、プールの水に含まれる細菌、皮脂汚れ、不純物、そして生温かい水温の分布図が、分子レベルでハッキリと見えていた。

「今日の拓也はいつものパーカーを着てないから、お腹を守ってくれる防御力がないんだよね。あんなバイ菌がいっぱい入ったお水を間違って飲んじゃったら、お腹痛くしちゃうかもしれない。それに、プールの水がぬるいから、熱中症にもなっちゃうかも……」

過保護な最強の姉の脳内で、『不衛生な水環境』=『無防備な弟への重大な脅威』という危険信号が激しく点灯した。

(拓也が安全に、楽しく水遊びができるように……お姉ちゃんが、プールの環境を『最適化』してあげなきゃ!)

三月は、屋上の上でそっと右手を前にかざした。

使うのは、過去の長い眠りと特異点崩壊のエネルギーを吸収して、神の領域へと進化した固有スキル、『流体操作』である。

彼女は、魔法陣を展開することも、呪文を詠唱することもなく、ただ純粋な『物理法則への絶対的な命令』として、右手の人差し指を軽く振った。

その瞬間。

市民プールで泳いでいた拓也の右眼『深層言語・限定解析』が、突如として視界を真っ赤な警告色で染め上げた。

(……なっ!? なんだこの、プール全体を包み込むデタラメな規模の魔力波長は……!?)

拓也が慌てて周囲を見回した、次の瞬間だった。

「「「えっ……!?」」」

プールで泳いでいた数百人の利用客たちが、一斉に驚きの声を上げた。

彼らが浸かっていた『白く濁った生温かい水』が、たった一秒の間に、まるで南国の高級リゾートの海のように、底のタイルが鮮明に見えるほどの『完全な透明』へと変貌したのだ。

さらに、不快だった塩素の匂いが完全に消え去り、代わりに清涼感のある微かなマイナスイオンの香りが漂い始める。水温も、体温より少し低めの『完璧に計算された最も心地よい温度(25度)』へと一瞬で下がっていた。

「うおおおっ!? なんだこれ、急に水がめちゃくちゃ綺麗になったぞ!?」

「すっごい冷たくて気持ちいいーっ!!」

「なんか、水に入ってるだけで肩こりが治ってきたんだけど……!?」

周囲の客たちが歓声を上げる中、拓也だけは顔面を蒼白にしていた。

(……ねえさんだ。絶対にねえさんの仕業だ!!)

拓也の右眼が、一瞬にして浄化されたプールの水を解析していく。

(塩素消毒なんかじゃない。ねえさんの進化した『流体操作』で、この巨大なプール群の全水量から、不純物と細菌だけを分子レベルで『物理的に分離・抽出』して空中に気化させたんだ!

おまけに、ただの水じゃなくなってる! 水分子の中に極微量の治癒魔力が定着させられてて、これ、もはや教会が管理する『神話級の聖水』の濃度じゃないか!!)

ただの市営プールが、たった数秒で『万病を癒やす伝説の霊泉』へとランクアップさせられていた。

「ああ……!! 拓也様、ご覧ください!!」

クロエが、透明になった水の中からザバァッ! と勢いよく立ち上がった。

彼女の目は、完全に宗教の奇跡を目の当たりにした狂信者のそれであった。

「この澄み切った水……! 肌に触れるだけで、細胞が歓喜の歌を歌い、精神が浄化されていくのが分かります……!! 間違いありません、お姉様(神)が、防御力を持たない拓也様のお体を守るため、泳ぐこのプール全体を『洗礼の泉』へと作り変えてくださったのですわ……ッ!!」

クロエは、競泳水着姿のままプールの中で膝をつき、両手を胸の前で組んで天(体育館の屋上方向)に向かって熱烈な祈りを捧げ始めた。

「クロエちゃん!? 急に水の中で祈り始めてどうしたんだ!? なんかの儀式か!?」

健太が、訳が分からないという顔で浮き輪から身を乗り出す。

「アーヴィングさん! 頼むから市民プールで洗礼を受けないで!! 監視員さんが笛吹く準備してるから!!」

拓也は、慌ててクロエの腕を引っ張って立たせた。

(マズい、マズいぞ……。もしこの『聖水化』したプールの水質を市の職員が検査したら、異常なデータが出て大騒ぎになる。俺の平和な市民プールの思い出が、『新興宗教の奇跡の泉発見』みたいなオカルトニュースになっちゃう!!)

拓也は、ズキズキと痛み始めた胃を押さえながら、これ以上クロエが不審な行動を取らないように必死に宥め続けた。

一方、体育館の屋上では。

「ふふふーん♪ よかった! これでお水も綺麗になったし、今日はパーカーを着てない拓也も、安心していっぱい泳げるね!」

三月は、透明に輝くプールの中で弟が楽しそうに(※実際は必死に信者を止めている)遊んでいる姿を見て、満足げに微笑んでいた。

彼女にとって、50メートルプール数個分の水量を分子レベルで一瞬にして濾過・聖水化することなど、コップの水を入れ替えるのと何ら変わらない『ちょっとしたお掃除』に過ぎない。

「よしっ! 拓也がいっぱい泳いでお腹すいた時のために、今からお姉ちゃん、とびきり美味しいお弁当(※Aランク魔獣の肉入り)を作って待っててあげるからね!」

三月は、弟への溢れんばかりの愛情を胸に、音速を超えて(無音で)自宅へと戻っていった。

魔力を持たない少年指揮官の夏休み。

彼が心から愛する平和な市民プールは、最強の姉の『流体操作』によって神話級の聖水と化し、今日も激しい胃痛と共に過ぎていくのであった。

「一般人の海水パンツ最高!」「お姉ちゃんの過保護が止まらない(笑)!」と思っていただけましたら、

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