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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第288話:図書館の聖戦と、神話級のブレイン・スムージー

八月中旬。

うだるような猛暑が続く東京の街で、アスファルトの照り返しから逃れるように、如月拓也(きさらぎ たくや)は市立図書館の自動ドアをくぐった。

「涼しい……。やっぱり、夏休みの勉強はここにかぎるな」

拓也は、鉄山厳が開発した『二千円の無地パーカー(最強のステルス偽装装甲)』のフードを浅く被りながら、静かに息を吐いた。

冷房の効いた図書館内では、長袖のパーカーを着ていても不自然ではない。彼はこの完璧な防具によって自身の特異な魔力波長を隠蔽し、ただの「ひ弱で大人しい中学生」という完璧な一般人カモフラージュを維持していた。

彼が目指すのは、もちろん『地方公務員試験(初級)』の過去問題集を解くことである。

世界の裏側で暗躍するSランク探索者たちや、特異点といった規格外の事象から距離を置き、将来は市役所の窓口で平和に定時退社する。そのささやかな夢を叶えるためには、中学生のうちから地道な試験対策をしておく必要があるのだ。

しかし。

そんな彼の平和な学習計画は、隣を歩く『護衛』の存在によって、常に緊張感(胃痛)を伴うものとなっていた。

「拓也様。本日の図書館内、私の広域探知(ソナー)でクリアリング済みです。ですが、あちらの郷土史コーナーで新聞を読んでいる老人……ページをめくる指先の動きに一切の無駄がありません。元・暗殺者のスリーパーエージェントの可能性が微レ存……!」

拓也の斜め後ろを歩く、プラチナブロンドの美少女。

アメリカの特務エージェントから完全に『三月教の狂信者(忠犬)』へとクラスチェンジを果たしたクラスメイト、クロエ・アーヴィングである。

彼女は私服のブラウスにプリーツスカートという、一見すると清楚な中学生の出で立ちだが、その目は要人警護の任務に就くシークレット・サービスのそれであった。

「アーヴィングさん……お願いだから静かにしてね。あのおじいさんは、ただ新聞のクロスワードパズルを解いてるだけだから」

「し、しかし! 万が一、あの新聞の中に暗器が仕込まれていたら……!」

「ここは日本の平和な図書館だよ。テロリストは郷土史コーナーで涼んだりしないから」

拓也は、過敏すぎる忠犬を宥めながら、学習スペースの奥の席へと腰を下ろした。

クロエもまた、拓也の隣の席に座り、姿勢を正して周囲に鋭い視線を配り始める。

拓也がカバンから分厚い『公務員試験対策・一般教養』のテキストを取り出してページを開くと、クロエが感極まったようなため息を漏らした。

「ああ……。拓也様は、夏休みの貴重な時間を割いてまで『国家を裏から支配するための帝王学』を学んでおられるのですね……。民草(市民)を導く官僚(シティー・ホール)のトップに立つための、血の滲むような修練……ッ!」

「いや、俺が目指してるのはトップじゃなくて、ただの窓口業務だから。帝王学じゃなくて憲法と日本史だから」

クロエの頭の中では、「公務員=国家を裏から操る支配者」という壮大な勘違いが定着してしまっているらしい。拓也は訂正する気力も湧かず、シャーペンを握って問題集に向き合った。

(まあいい。アーヴィングさんが隣で静かにしていてくれるなら、俺は勉強に集中できる……)

そう思い、三十分ほど過去問に没頭した、その時だった。

「たーくやっ! お勉強、頑張ってる?」

「ぶふっ!?」

拓也は、背後から突然耳元で囁かれた明るい声に、思わずむせてしまった。

振り返ると、そこには淡い黄色のサマードレスを着た絶世の美女――最強の姉である如月三月(きさらぎ みつき)が、花が咲くような笑顔で立っていた。手には、可愛らしいウサギの柄の水筒を持っている。

「ね、ねえさん!? いつからそこに……!?」

拓也は驚愕して目を見開いた。

隣に座っているクロエは、Sランク級の魔力探知と気配察知をフル稼働させていたはずである。にも関わらず、彼女ですら三月が真後ろに立つまで、その存在に全く気が付かなかったのだ。

(……足音を消すとかいうレベルじゃない。ねえさん、図書館の床との摩擦係数や、歩くときの空気抵抗の『物理法則』そのものを完全にゼロにして歩いてきたんだ……!)

魔法隠蔽ではなく、物理的な絶対無音。

特異点の崩壊を経て、あらゆる能力を極限まで進化させた三月にとって、空間の物理法則を書き換えて歩くことなど、息をするのと同じくらい簡単なことであった。

「お、お姉様ァッ!!」

クロエが、椅子から弾かれたように立ち上がり、図書館の静寂を破らないように声量を抑えながらも、床に膝をついて最敬礼の姿勢をとった。

「ふふっ、クロエちゃんも拓也の護衛お疲れ様! あのね、今日は拓也が難しいお勉強をしてるって聞いたから、お姉ちゃん、脳みそに効く『特製ジュース』を作ってきたの!」

三月は、コトリとテーブルの上にウサギの水筒を置いた。

「特製ジュース……?」

拓也の胃が、過去の経験(Aランク魔核入りカレー)から、危険信号を激しく鳴らし始める。

「うん! 人類の脳みそって、糖分がないと働かないでしょ? だから、昨日ちょっとSランク指定迷宮の『世界樹の森』までお散歩に行ってきてね。数千年に一度しか実らないっていう『黄金の知恵のリンゴ』を採ってきたの!」

「…………はい?」

拓也のシャーペンの芯が、ポキリと折れた。

「でも、そのリンゴってば、ダイヤモンドより硬くて包丁じゃ切れなかったの。だからお姉ちゃん、素手でギューッて握り潰して、果汁だけを絞り出してスムージーにしてきたんだよ! これを飲めば、拓也のお勉強もはかどるはず!」

三月は、屈託のない笑顔で恐ろしいことを言い放った。

ダイヤモンドより硬い神話級の果実を、武器を使わずに素手の握力(物理)だけで粉砕し、果汁を搾り取る。もはやミキサーやジューサーの概念すら凌駕する、究極の『腕力クッキング』である。

「ささっ、冷たいうちに飲んでね!」

三月が水筒の蓋のコップに、黄金色に輝く液体をトクトクと注ぐ。

その液体からは、ただの果汁とは到底思えない、神々しいまでの魔力と『叡智のオーラ』が立ち上っていた。

「お、お待ちください、お姉様ッ!!」

クロエが、血相を変えてそのコップの前に立ちはだかった。

「いくらお姉様のお手製とはいえ、拓也様のお口に入るもの。万が一にも、不純物が混ざっている可能性を考慮し……まずはこの忠犬クロエが、毒見をさせていただきます!!」

「え? 毒なんて入ってないよ?」

「いいえ! これは私のシークレット・サービスとしての矜持にございますッ!」

クロエは、拓也が止める間もなく、黄金色のスムージーが入ったコップを手に取り、グイッと一気に飲み干した。

「あ、アーヴィングさん! 駄目だ、それを一気飲みしたら……!」

拓也が悲鳴を上げた、次の瞬間。

「…………ッ!!?」

クロエの青い瞳が、限界まで見開かれた。

彼女のプラチナブロンドの髪が、重力を無視してふわりと宙に浮き上がる。

体内に入った『黄金の知恵のリンゴ』の果汁が、彼女の脳細胞と魔力回路を強制的に結びつけ、その処理能力(クロック数)を一瞬にしてスーパーコンピュータの数万倍へと引き上げたのだ。

「あ、あぁぁ……ッ!! み、見えますわ……! 世界の真理が……! 宇宙の膨張速度と、量子力学の統一理論が、私の脳内に直接流れ込んで……ッ!!」

クロエの目から、光の涙が溢れ出す。

彼女の脳は、オーバーフローを起こす寸前だった。このままでは、膨大な情報量に脳が焼き切れ、文字通り『次元を越えた存在(神)』へと昇華して消滅してしまう。

(マズい!! アーヴィングさんの脳が吹っ飛ぶ!!)

拓也は、周囲の利用客に気づかれないように素早くクロエの手を引き、彼女を椅子に無理やり座らせた。

そして、自身の右眼を覆う眼帯に手をかけ、それを上に数ミリだけずらす。

『深層言語・限定解析』――強制リンク起動。

対象:【クロエ・アーヴィングの脳内処理領域】。

目的:【過剰な演算エネルギーの外部放出(排熱)】。

特異点における人類存亡の死闘。そこで、神宮寺やレオンといった世界最高峰のSランク探索者たちの動きを、コンマ一秒の狂いもなく支配・指揮しきった拓也の神の頭脳(チート能力)。

彼はその確かな実績と演算能力を、クロエの脳内に直接リンクさせ、暴走する『叡智のエネルギー』を無害なタスクへと強制的に振り向けるという荒業に出たのだ。

(くそっ……! どんだけデタラメな情報量なんだこのジュース!! アーヴィングさん、俺が演算対象を指定するから、お前の脳みそで全力でそれを解け!!)

「ひゃっ!? た、拓也様の意識が、私の脳内に直接……ッ!?」

「いいから! Sランクの動きを指揮した俺のナビについてこい! 今から言うタスクを全力で処理しろ!! まずは……この市立図書館にある蔵書、約三十万冊の『日本十進分類法』の配列を完全に記憶して、どこに何の本があるかマッピングしろ!!」

「りょ、了解いたしましたァァァッ!!」

クロエの目が、青い演算陣の光を帯びて激しく明滅する。

彼女は、自身のAランクからSランクへと進化した魔力と、知恵のリンゴによる規格外の処理能力を総動員し、拓也の右眼を通じて図書館のデータベースと(物理的に)接続した。

「100番台、哲学・宗教……クリア! 200番台、歴史……クリア!! 300番台、社会科学……ッ!!」

クロエの口から、早口言葉のような猛スピードで蔵書の分類が読み上げられていく。

彼女の脳を焼き切ろうとしていた膨大なエネルギーは、この『無駄にスケールの大きい記憶タスク』によって、急速に安全な排熱へと変換されていった。

「あはは、クロエちゃん、急に図書館の案内係さんみたいになっちゃったね!」

三月が、その常軌を逸した光景を見ながら、ニコニコと楽しそうに笑っている。

「ねえさん……! だから、中学生に神話の果実を飲ませちゃ駄目なんだって……!!」

拓也は、右眼を酷使してクロエの脳をコントロールしながら、限界を迎えつつある胃を押さえて呻いた。

数分後。

三十万冊の蔵書配置を完全に脳内にインデックス化したクロエは、プシューッ……と頭から白い煙(魔力の排熱)を吹き出しながら、机の上に突っ伏した。

「……ふう。これで、暴走は収まったな」

拓也は、眼帯を元に戻し、どっと押し寄せる疲労感に大きなため息を吐いた。

「はっ!? 私、いったい何を……?」

目を覚ましたクロエは、パチパチと瞬きをして顔を上げた。

「拓也様……私、今ならこの図書館のどの本がどの棚にあるか、目隠しでも一秒で案内できますわ……」

「……うん。将来、図書館の司書さんになる時には役立つね」

拓也は、生気のない笑顔で親指を立てた。

「よかったよかった! クロエちゃんの脳みそが元気になったなら、拓也もスムージー飲んで、お勉強頑張ってね!」

三月が、残りの黄金のスムージーを拓也に差し出してくる。

「いや、俺はいい! 俺の脳みそが宇宙の真理に到達したら、市役所の窓口で定時退社できなくなるから!! 憲法と日本史だけ覚えられれば十分だから!!」

魔力を持たない少年指揮官の平和な夏休みの図書館。

そこは、最強の姉が素手で絞った『神話級のブレイン・スムージー』と、特異点を制したチート能力の究極の無駄遣いによって、今日も胃痛と騒動の絶えない聖戦の場と化すのであった。

「スムージーの作り方ヤバい!」「チートの無駄遣い最高!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

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