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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第284話:夜のオリエンテーリングと、暗闇の絶対捕食者

緑星山(りょくせいざん)の夜は、都会のそれとは比べ物にならないほどの深い漆黒に包まれていた。

木々のざわめきと、遠くで鳴くフクロウの声だけが響く静寂の森。

その森の奥深く、地上から数十メートルの高さにある巨大な杉の木の枝に、淡いグリーンのワンピースを着た絶世の美女――本作の主人公である如月三月(きさらぎ みつき)は、ふわりと腰掛けていた。

「ふふふーん♪ 夜の森って、涼しくて気持ちいいなぁ」

三月は、ご機嫌な様子で夜風に髪を揺らしながら、眼下に広がる県立ロッジの敷地を見下ろしていた。

彼女の深緑色の瞳――【絶対知覚】を備えたその眼には、暗闇など何の意味も持たない。数キロ先の落ち葉の裏にいる虫の動きすら、白昼のように鮮明に捉えることができるのだ。

彼女の視線の先には、夕食のカレー作りを終え、ロッジの広場に集まっている中学生たちの姿があった。

これから、林間学校の夜のメインイベントである『夜のオリエンテーリング(肝試し)』が始まろうとしているのである。

「あっ、拓也だ。クロエちゃんに入れてもらったスパイスのおかげで、とっても元気そう! よかったよかった!」

三月が嬉しそうに微笑む視線の先。

彼女の愛する弟である如月拓也(きさらぎ たくや)は、文字通り『元気そう』であった。

なにせ、昼間のカレーに三月特製の劇薬スパイス(Aランク変異種の魔核粉末)を振りかけられたせいで、拓也の体からは微弱な赤い光(オーバーフローした魔力エネルギー)が、オーラのように立ち上っていたのだから。

「……あ、あつい。体の内側から、マグマみたいな力が湧き上がってくる……」

広場の隅で、拓也は鉄山厳特製の『二千円の無地パーカー(ナノマシン装甲)』の襟元をパタパタと扇ぎながら、滝のような汗を流していた。

「如月、お前めっちゃ汗かいてるぞ!? 大丈夫か? カレー食いすぎたのか?」

同じ班の健太が、懐中電灯を片手に不思議そうに覗き込んでくる。

「う、うん。ちょっとカレーが辛かったみたいで……」

拓也は必死に愛想笑いを浮かべた。

打撃力『2』というひ弱な肉体に、Aランク魔核のエネルギーを直接ぶち込まれたのだ。普通の中学生ならとうに細胞が破裂しているところだが、拓也が特異点で鍛え上げた精神力と、パーカーの自律防衛システムがギリギリのところで均衡を保っていた。

「拓也様……! その溢れんばかりの生命力、まるで夜闇を照らす太陽のようですわ……!」

拓也の隣では、アメリカの天才スパイから完全に『三月の忠犬』へとクラスチェンジを果たしたクロエ・アーヴィングが、うっとりとした表情で両手を組んでいた。

「アーヴィングさん……頼むから、これ以上ねえさんのスパイスを俺の皿に入れないでね。俺、今なら素手で岩を砕けそうな気がするんだけど、それやったら一般人カモフラージュが完全に終わるから……」

拓也は、ズキズキと痛む胃と、無駄に漲る筋肉のエネルギーを持て余しながら、小声でクロエに釘を刺した。

「――よし、各班、懐中電灯の確認はできたな?」

担任の鈴木先生が、拡声器を持って生徒たちに呼びかける。

「これから指定された森のルートを歩き、三つのチェックポイントでスタンプを押して戻ってくること。絶対にルートから外れないように!」

ピーッ! というホイッスルの音と共に、班ごとの夜のオリエンテーリングが開始された。

拓也たち第三班も、懐中電灯の頼りない光を頼りに、漆黒の森の遊歩道へと足を踏み入れていく。

「うわー、夜の森ってマジで暗いな……。なんか出そうぜ」

健太が、少しビビりながら周囲を見回す。

「大丈夫だよ、健太。俺たちがついてるから」

拓也は、体内で暴れ回るAランクのエネルギーを消費するために、あえて班の先頭に立ち、ズンズンと力強い足取りで歩き始めた。

しかし、その拓也の『溢れ出る魔力オーラ(赤い発光)』は、漆黒の森において、あまりにも強烈な誘蛾灯(ビーコン)となっていた。

「……あら?」

上空の木の枝で監視を続けていた三月は、小首を傾げた。

拓也の放つ美味しそうな魔力の匂いに惹きつけられ、緑星山の奥深くにあるCランク迷宮から、夜行性の魔獣たちが次々と這い出し、遊歩道に向かって猛スピードで接近してきていたのだ。

巨大な毒グモの群れである『ポイズン・タランチュラ(Dランク)』。

鋭い爪を持つオオカミ型の魔獣『シャドウ・ウルフ(Cランク)』。

それらが、木々の間を縫うようにして、拓也たち中学生の班へと殺到していく。

「もう。夜の森には、悪い虫さんがいっぱいいるんだから」

三月は、困ったような、しかしどこまでも穏やかな笑顔のまま、ふわりと木の枝から飛び降りた。

一切の魔力を使わない、純粋な身体能力のみによる跳躍。彼女の体は重力すら無視しているかのように、音もなく夜の森を滑空していく。

(拓也は今、平和な学校行事を楽しんでるの。脅かしたり、怪我をさせたりする悪い子たちは……お姉ちゃんが、ぜーんぶお掃除してあげる)

シュンッ!!

三月の姿が、月明かりの下で完全にブレて消失した。

音速を遥かに超える神速の移動。彼女は、遊歩道に近づこうとしていた数十匹の『ポイズン・タランチュラ』の群れの中心に、文字通り『瞬間移動』のような速度で降り立った。

「ギシィッ!?」

タランチュラたちが、突如現れた獲物(三月)に向かって毒液を吐き出そうとした、その瞬間。

三月は、淡いグリーンのワンピースの裾を翻し、まるでダンスを踊るような優雅な動きで、その場をクルリと一回転した。

スパンッ!!

彼女が回転の勢いに乗せて放った『ただの手刀(物理)』が、周囲の空気を圧縮し、目に見えない真空の刃となって全方位に放たれた。

数十匹の巨大な毒グモたちは、悲鳴を上げる間もなく、一瞬にして細胞レベルで両断され、森の腐葉土の上に音もなく崩れ落ちた。

「はい、一丁上がり!」

三月は、返り血を一滴も浴びることなく、そのまま次の標的へと向かって木々を蹴った。

シャドウ・ウルフの群れが、拓也の班の数十メートル先まで迫っていた。

しかし、彼らが茂みから飛び出そうとした瞬間、その首根っこを、白く滑らかな『手』が優しく、しかし絶対的な力で掴み上げた。

「キャウンッ!?」

「しーっ。拓也たちがびっくりしちゃうから、静かにね」

三月は、人差し指を唇に当てて微笑むと、手首のスナップだけでCランク魔獣の首の骨を『ポキッ』と外し、即死させた。

そのまま数頭のウルフたちを超高速の連続手刀で気絶(物理的な永遠の眠り)させ、遊歩道の外へとポイポイと放り投げていく。

彼女の動きには、一切の魔力も、殺気すらも伴わない。

ただ純粋な『圧倒的強者による日常的な害虫駆除』であるため、森の生態系はパニックを起こすことすら許されず、ただ静かに削り取られていくのみだった。

一方、その頃。

遊歩道を歩く拓也は、背筋に強烈な悪寒を感じて足を止めた。

「如月? どうした、なんかいたか!?」

健太がビクッとして懐中電灯を向ける。

「いや……なんでもない。ただ、森の中が『静かすぎる』気がして」

拓也は、右眼の眼帯越しに周囲の森をスキャンした。

数分前まで、確かに遠くの茂みに何らかの野生動物(あるいは魔獣)の気配があったはずなのに、それが今、拓也たちの半径百メートル圏内から『完全に消滅』しているのだ。

(……間違いない。ねえさんが、俺たちの周りの森を『無菌室』みたいに掃除して回ってる……ッ!!)

拓也は、森の奥で繰り広げられているであろう、姉の理不尽すぎる単独無双(ステルス・キル)を想像し、胃液が逆流しそうになった。

さらに、隣を歩くクロエが、森の暗闇に向かって恍惚とした表情で祈りを捧げ始めていた。

「ああっ……! 素晴らしい……! 葉擦れの音一つ立てず、魔力の痕跡すら残さずに、数十体の魔獣を瞬殺していくあの神域の暴力……! 三月お姉様……! あなた様こそ、真の絶対捕食者ですわッ!!」

クロエのSランク級に跳ね上がった探知能力だけが、三月のデタラメな暗殺劇を正確に読み取り、完全に信仰の対象として崇め奉っていた。

「アーヴィングさん、怖いから空に向かって祈らないで……。健太が怯えてるから」

拓也が小声でツッコミを入れる。

(それにしても、俺の体内で暴れ回ってるこの魔力……どうにかして消費しないと、本当に夜も眠れないぞ)

拓也は、Aランク魔核のエネルギーを安全に捨てる方法を必死に考えた。

物理的な運動で消費すれば、木を素手でへし折ってしまう。

ならば、脳(魔法演算)で消費するしかない。

(……仕方ない。チート能力の無駄遣いだが、やるしかない!)

拓也は、右眼を覆う眼帯にそっと手をかけ、それを上に数ミリだけずらした。

瞳の奥に、青い演算陣が浮かび上がる。

『深層言語・限定解析』――強制フルバースト起動。

対象:【この森に生えているすべての木の葉の枚数のカウント】および【風の軌道計算による明日の天気予報の完全シミュレート】。

戦場において、数万の軍勢の動きを完全に支配するための神の演算能力。

それを、拓也は『ただの葉っぱの枚数を数える』という全く無意味なタスクに全力を注ぎ込み、脳内の魔力回路を強制的にフル回転させたのだ。

「ぐぅぅぅッ……!!」

拓也の脳に、凄まじい情報処理の負荷がかかり、体内で暴走していたAランク魔核のエネルギーが、急速に計算リソースとして消費されていく。

「お、おい如月!? 急に頭抱えてどうした!? 腹痛いのか!?」

健太が慌てて駆け寄る。

「だ、大丈夫……。ちょっと、明日の天気を予想してただけだから……。ハァ、ハァ……」

数分後。

完全に魔力を使い果たし、ほどよい疲労感(賢者タイム)に包まれた拓也は、ようやく赤い発光を止め、いつもの『ひ弱な中学生』のステータスへと戻ることに成功した。

「ふぅ……。これでようやく、普通に眠れそうだよ」

拓也は、安堵の息を吐きながら、チェックポイントのスタンプを押した。

「ふふっ、拓也たち、無事にスタンプ押せたみたいだね!」

すべての魔獣を完全に排除し終えた三月は、ロッジの屋根の上にふわりと舞い降り、楽しげに笑いながら弟たちの班が帰ってくるのを見守っていた。

彼女の周囲には、一切の危険が排除された、完璧に安全で平和な林間学校の夜が広がっている。

「拓也が楽しく学校行事を過ごせるように、お姉ちゃん、明日もいっぱい見守っててあげるからね!」

魔力を持たない少年指揮官の平和な林間学校は、過保護な最強の主人公(姉)による完璧なステルス護衛と、無駄遣いされたチート能力によって、初日の夜を無事に(?)乗り越えたのであった。

林間学校の夜、拓也の放つカレーパワー(Aランク魔核のオーラ)に引き寄せられた魔獣たちを、三月お姉ちゃんが暗闇の中で完全無音のお掃除(ステルス・キル)をして回るお話でした。

神業の暗殺術で森を無菌室に変えてしまう最強の姉と、それを感知してさらに信仰心を深めるクロエちゃん。そして、あり余る魔力を安全に消費するためにチート能力で「葉っぱの枚数を数える」という究極の無駄遣いをした拓也。無事に初日の夜を乗り越えられて一安心ですね。

もし「面白かった!」「お姉ちゃんのお掃除スゴイ!」「チートの無駄遣い(笑)!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

次回、林間学校二日目も如月姉弟のドタバタな日常をお楽しみに!

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