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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第283話:林間学校のカレー作りと、森に潜む最強の守護者

七月下旬。

抜けるような青空の下、都心からバスで三時間ほど離れた『緑星山(りょくせいざん)』の県立ロッジに、二年B組の生徒たちを乗せた大型バスが到着した。

「うおおおっ! すっげえ空気うまい! マイナスイオンってやつだな!」

バスから降りた健太が、両手を広げて大自然の空気を胸いっぱいに吸い込む。

周囲は深い緑に囲まれ、遠くからは清流のせせらぎと野鳥のさえずりが聞こえてくる。

まさに「平和な林間学校」の舞台としてふさわしい、穏やかな環境であった。

「……うん。本当にいい場所だ」

如月拓也(きさらぎ たくや)は、リュックサックを背負いながら、右眼の眼帯の下で静かに安堵の息を吐いた。

鉄山厳特製の『二千円の無地パーカー(ナノマシン偽装装甲)』を着込んだ彼は、誰がどう見ても「ちょっとひ弱で大人しい、市役所志望の中学生」にしか見えない。

東京の喧騒や、極星の大人たちの過剰な干渉から離れ、ようやく手に入れた普通の中学生としての時間。

しかし、その拓也の隣には、プラチナブロンドの髪をポニーテールに結んだ美少女――クロエ・アーヴィングが、軍人のような鋭い眼光で周囲の森を睨みつけていた。

(……風向きよし。視界内の敵性反応ゼロ。ですが、この山の奥深くには微弱な魔力の淀みを感じますわ。拓也様の平穏を脅かす因子は、このクロエ・アーヴィングが全て排除いたします!)

クロエは、学校指定のジャージ姿でありながら、その中身はAランクからSランク級へと強制進化したバケモノ(特務エージェント)である。彼女のポケットの中には、三月から託された『ウサギの刺繍入り巾着袋(Aランク魔核の粉末スパイス)』が、厳重に保管されていた。

「アーヴィングさん。あんまり怖い顔しないで。周りの子が引いてるから」

「ハッ! 申し訳ございません拓也様! つい、周囲のクリアリングに集中してしまい……!」

「だからクリアリングなんてしなくていいんだってば……」

拓也が胃痛を堪えながら突っ込みを入れていると、担任の鈴木先生がパンパンと手を叩いて生徒たちを集合させた。

「よし、全員揃ったな。それじゃあ早速だが、班ごとに分かれて野外炊事場に移動しろ。昼食の『カレー作り』のスタートだ。火の扱いには十分気をつけるように!」

野外炊事場は、屋根付きのかまどと調理台が並ぶ、キャンプ場によくある施設だった。

拓也の所属する第三班は、拓也、健太、クロエ、そして大人しい女子生徒二人の計五人である。

「よーし! じゃあ俺は薪を組んで火を起こすぜ! 如月は野菜洗ってくれ!」

健太が意気揚々と薪割り場へと向かっていく。

「了解。じゃあ、俺がジャガイモとニンジンを洗うよ」

拓也が水道で野菜を洗い始めると、クロエが横にピタリと張り付いてきた。

「拓也様、私が洗います! 泥水が拓也様のお手にかかるなど、あってはならないことですわ!」

「いや、俺も手伝わないと先生に怒られるから。アーヴィングさんはお肉を切ってくれる?」

「承知いたしました! この包丁に魔力を込め、細胞レベルで旨味を閉じ込める神域の切断を……!」

「やめて! ただの一口大に切るだけでいいから!」

拓也の必死の制止により、どうにか一般的な「中学生の調理実習」の枠組みを保ったまま、作業は進んでいった。

やがて、健太が起こした火で鍋が温まり、野菜と肉が炒められ、水と市販のカレールーが投入される。

グツグツと煮込まれる鍋から、カレーの食欲をそそる良い香りが漂い始めた。

「うん、いい感じだね。あとは少し煮込むだけだ」

拓也が鍋の様子を見ながら頷いた、まさにその瞬間。

クロエが、音もなく拓也の死角へと移動し、ポケットから『ウサギの刺繍入り巾着袋』を取り出した。

(……今ですわ! 拓也様が油断しているこの隙に、三月お姉様から託された『究極の愛情スパイス』を鍋に投入します! これで拓也様は、最高の栄養を摂取できるはず……ッ!)

クロエが、巾着袋の紐を解き、沸騰する鍋の上で粉末を振り入れようとした――その時。

ガシッ!!

「……何を入れてるのかな、アーヴィングさん」

拓也の手が、クロエの手首を万力のように(※打撃力2なりに必死に)掴んでいた。

彼の右眼の『深層言語・限定解析』は、背後のクロエの筋肉の動きと魔力の高まりを完璧に予測していたのだ。

「ひゃんッ!? た、拓也様……! こ、これは、ただの隠し味のガラムマサラでして……!」

「嘘だよね。それ、ねえさんが作った『Aランク変異種のフレイム・コアの粉末』だよね。そんな劇薬を中学生の鍋に入れたら、班の全員が魔力暴走で爆発するって言ったよね?」

拓也は、笑顔のまま(しかし眼は全く笑っていない状態で)クロエの手首を押さえ込んだ。

クロエは、愛するお姉様の命令(スパイス投入)と、目の前の拓也の命令(投入阻止)の板挟みになり、涙目で震え始めた。

一方、その頃。

緑星山のふもとから数キロ離れた、人気のない深い森の奥。

「ふふふーん♪ 拓也たち、ちゃんとカレー作れてるかな?」

淡いグリーンのアウトドア用ワンピースに身を包んだ絶世の美女――如月三月が、木の枝に腰掛けて、楽しそうに双眼鏡を覗き込んでいた。

可愛い弟が初めてのお泊り行事に行くと聞いて、過保護な最強の姉が家で大人しく待っているはずがなかった。彼女は、バスを走って追いかけ(※もちろん音速で)、誰にも気づかれないように山の奥に陣取っていたのである。

「あ、クロエちゃんがちゃんとお姉ちゃんのスパイスを入れようとしてる。えらいえらい」

三月がニコニコと笑いながら見守っていると、彼女の【絶対知覚】が、森の奥深くから近づいてくる『異質な気配』を捉えた。

ズシン……ズシン……。

緑星山の未踏破領域であるCランク指定迷宮から、一体の巨大な魔獣が這い出してきたのだ。

体長五メートルを超える、全身が岩のように硬い装甲で覆われた『アーマー・ベア(Cランク)』。普段は迷宮から出ないはずの魔獣だが、クロエが巾着袋の紐を解いた際に漏れ出した『Aランク魔核』の濃厚な魔力匂いに惹きつけられ、野外炊事場の方向へとフラフラと歩き出していたのである。

(……あら)

三月は、双眼鏡を下ろし、深緑色の瞳をスッと細めた。

(あんな泥だらけの汚いクマさんが近づいたら、拓也の作った美味しいカレーにバイ菌が入っちゃうじゃない。……拓也の平和な林間学校の邪魔をする悪い子は、メッ、だよ)

三月は、足元に落ちていた親指ほどの大きさの『ただの小石』を拾い上げた。

そして、数キロ先を歩くアーマー・ベアに向けて、指先でその小石をピンッ、と軽く弾いた。

魔力など一切使わない。

ただ純粋に、一切の無駄を省いた完璧な物理法則と、世界最強の腕力によって射出された小石。

それは、音を置き去りにする超音速の質量兵器と化し、森の木々の間を縫うように真空のトンネルを作り出しながら一直線に飛翔した。

ズパァァァァァァァンッ!!!!

アーマー・ベアが、野外炊事場に近づこうと口を開けた瞬間。

その眉間に、超音速の小石が直撃した。

悲鳴を上げる間もなく、Cランク魔獣の分厚い岩の装甲と頭蓋骨は完全に粉砕され、数トンの巨体はそのまま音もなく地面に崩れ落ちた。

「よしっ、お掃除完了!」

三月は、手をパンパンと払って、再び双眼鏡を覗き込んだ。

彼女が放ったたった一撃の圧倒的な物理的威圧感(プレッシャー)により、緑星山に潜むすべての魔獣と野生動物は、本能的な死の恐怖を悟り、野外炊事場から半径十キロ圏外へと蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。

「……ん?」

クロエの手首を掴んで阻止していた拓也は、周囲の森の異変に気がついた。

つい先ほどまで聞こえていた蝉の鳴き声や、野鳥のさえずりが、ピタリと止んでいるのだ。

森の中が、まるで真空の空間に放り込まれたかのように、不自然なほどの『完全な静寂』に包まれている。

(……この沈黙。間違いない。この山の中に、生態系の頂点(ねえさん)が潜んでる……ッ!!)

拓也の胃が、ギリリと音を立てて痛んだ。

姉が近くで見守っているということは、ここでクロエのスパイス投入を完全に拒否すれば、姉が悲しんで直接乱入してくる可能性がある。そうなれば、林間学校の平和は完全に終了だ。

「……アーヴィングさん」

拓也は、深い溜め息を吐きながら、クロエに小声で提案した。

「鍋に入れるのは絶対に駄目だ。でも、俺の『自分のお皿』の端っこにだけなら、ほんの少し……そう、塩をひとつまみかける程度なら、かけてもいいよ。それで、ねえさんへの報告は達成したことにしてくれないかな?」

「た、拓也様……! ありがとうございます!!」

クロエは、命令違反にならずに済んだことに涙ぐみながら、深く頷いた。

やがてカレーが完成し、生徒たちがお皿に盛り付けて食べ始める。

拓也は、自分のカレーの端っこに、クロエが慎重に振りかけた『赤い粉末(Aランク魔核)』を、スプーンですくって口に運んだ。

「…………ッ!!?」

瞬間、拓也の体内で、暴力的なまでの生命エネルギーが爆発した。

カプサイシンの辛さなどではない。純粋な魔力結晶が胃壁から吸収され、ナノマシンパーカーが抑え込もうとしても抑えきれないほどの活力が、彼の細胞の隅々まで行き渡っていく。

「うおおおっ!! な、なんか急に力が湧いてきた!! 俺、今なら山を一つ走り越えられそうな気がする!!」

拓也の体が、微かに(しかし確実に)赤く発光し始めた。

「如月!? お前、カレー食っただけでそんなに元気になるのか!? さすが中学生、青春だな!!」

健太が、全く見当違いの解釈をして笑っている。

「はいッ! 拓也様、おかわりもたくさんありますわよ!!」

クロエが、恍惚とした表情で拓也の皿にカレーを注ぎ足そうとする。

(……マズい、体が熱い……! 栄養価が高すぎて、鼻血が出そうだ……!)

拓也は、Aランク魔核の過剰なドーピング効果に意識を朦朧とさせながら、必死に普通の笑顔を保ってカレーを食べ続けた。

山の奥深くでは、双眼鏡でその様子を見ていた三月が、「ふふっ、拓也いっぱい食べててえらい!」と嬉しそうに微笑んでいた。

魔力を持たない少年指揮官の平和な林間学校は、初日から最強の姉の過保護な視線と、忠犬の劇薬スパイスによって、激しい胃痛(と栄養過多)と共に幕を開けたのであった。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます!

ついに始まった林間学校。クロエちゃんのスパイス投入を必死に防ぐ拓也でしたが、森の奥に三月お姉ちゃんが潜伏していることに気づき、泣く泣く自分の皿にだけ劇薬(Aランク魔核)を受け入れる羽目になりました。

Cランク魔獣を小石のデコピン(超音速)で粉砕するお姉ちゃん、相変わらず物理法則を置き去りにしていますね(笑)。

カレーを食べただけで発光し始めた拓也ですが、夜のオリエンテーリングは無事に乗り切れるのでしょうか?

もし「面白かった!」「お姉ちゃんのデコピン強すぎ!」「拓也が発光してる(笑)!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

次回も引き続き、如月姉弟のドタバタな日常をお楽しみに!

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