↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
279/378

第279話:星条旗の真意と、愛情たっぷり強制進化弁当

翌朝。東京・六本木にある最高級ホテルのスイートルームで、クロエ・アーヴィングは絶望的な朝を迎えていた。

「……私のステータスが、一晩であり得ないほど跳ね上がっているわ……」

洗面台の鏡の前に立ったクロエは、自身の姿を見つめて呆然と呟いた。

プラチナブロンドの髪はこれまで以上に艶やかに輝き、肌は透き通るように美しい。しかし、問題は外見ではない。彼女の体内を巡る魔力回路(マナ・サーキット)が、昨日までの比ではないほどの太さと強靭さを獲得していたのだ。

昨日、如月家で極上の笑顔と共に振る舞われた『クリムゾン・ミノタウロスの厚切りステーキ』。

最強の姉である如月三月(きさらぎ みつき)が、魔力の残滓を限界まで抑え込んで調理したその肉は、クロエのAランクの肉体に劇薬レベルの強制進化をもたらした。

クロエが洗面台の蛇口を捻ろうとした瞬間、バキッ! という音と共に、金属製のハンドルが飴細工のようにもげてしまった。

「ひっ……!? ち、力が制御できない……!」

クロエは、もげたハンドルを震える手で見つめた。

アメリカの特務機関で長年訓練を積んできた彼女の繊細な魔力コントロールが、自身の肉体の急激なパワーアップに全く追いついていないのだ。

プルルルルルッ。

その時、ベッドに放り投げていた暗号化スマートフォンが鳴った。画面には、星条旗柄のタンクトップを着た叔父――レオン・カーターの名前が表示されている。

クロエは、ビクッと肩を震わせながら、恐る恐る通話ボタンを押した。

『HEY!! グッドモーニング、クロエ!! 日本の学校はどうだい? 誰にも気付かれず、ヤング・ボス(拓也)の護衛は順調に進んでいるか!?』

鼓膜が破れそうなほどの、暑苦しく陽気な大声が響く。

しかし、その言葉を聞いて、クロエはピタリと動きを止めた。

「……え? 護衛……? レオンおじ様、私は『秘密裏にステータスを探るスパイ』として派遣されたのでは……?」

『WHAT!? 何を言ってるんだお前は!!』

電話の向こうで、レオンの陽気な声が一瞬にして消え失せ、代わりに激しい動揺と怒りが混じった声が響いた。

『俺がいつ、ヤング・ボスに探りを入れろなんて言った!! ボスは俺たち【極星】を導いてくれた、最高の戦友にして命の恩人だぞ!!

ボスは今、日本のシティー・ホール(市役所)で働くという平和な夢のために、魔力を隠して一般人として勉強している! だが、ボスの頭脳は神だが、肉体はただのひ弱な中学生だ!

だからこそ、隠密スキルに長けたお前を、ボスの平和な日常を命懸けで守り抜く【シークレット・サービス(影の護衛)】として派遣したんじゃないか!!』

レオンの真意を聞き、クロエの顔から一気に血の気が引いた。

「そ、そんな……。でも、資料にはただの中学生としか……だから私、本当に凄い人なのか確かめようと、勝手に探知アーティファクトで探りを……」

『OH、MY、GOD……ッ!! お前、まさかボスに敵対的なスパイ行動をとったのか!? な、なら……まさか……あの『歩く厄災(お姉様)』に……気付かれたんじゃないだろうな……!?』

レオンの声が、かつてないほどガタガタと震えている。

彼は、特異点で三月がバケモノたちを素手で更地に変えていく様を間近で見てきた男だ。彼女が弟の拓也に対してどれほど過保護で、敵対者に対してどれほど容赦がないかを、骨の髄まで理解している。

「はい……。昨日、教室に直接いらっしゃって、私の最新鋭探知機は一瞬でショートして爆発しました。その後、家に連行されて……ステーキを食べさせられましたの……」

『…………(絶望の沈黙)』

「お姉様は、私に『拓也のお友達になってね』と仰いました。……だから私、恐怖で逆らえなくて、お肉を全部食べて、忠誠を誓ってしまいましたの……」

『……よく聞け、クロエ。』

数秒の沈黙の後、レオンはひどく掠れた声で告げた。

『ギルド本部からの命令だ。今日からお前の任務は、ヤング・ボスの護衛に加え、【三月殿の忠実な犬として、絶対に機嫌を損ねずに生き延びること】だ。もし裏切る素振りを見せて、三月殿を本気で怒らせてみろ。日本列島ごと北米大陸までワンパンで沈められかねないんだぞ!! 尻尾を振れ! 腹を見せろ! 逆らうな!!』

ツーツー、という電子音が響く。

クロエは、自分がどれほど致命的な勘違いをし、そして世界最強の姉の逆鱗に触れかけていたかを完全に理解し、ベッドの上で崩れ落ちた。

数時間後。中学校の二年B組の教室。

「……アーヴィングさん。なんか今日、すごく顔色が良くて、しかも微かな魔力がダダ漏れになってるけど、大丈夫?」

隣の席に座る如月拓也(きさらぎ たくや)が、心配そうに声をかけてきた。

拓也は、鉄山厳特製の『最強ステルスパーカー』を着込み、今日も完璧な「魔力ゼロの一般人」に偽装している。

しかし、彼の右眼の『深層言語・限定解析』は、隣に座るクロエの魔力総量が、昨日の転校初日と比べて「約一・五倍」に跳ね上がっていることを見逃さなかった。

「ひゃっ!? い、いえっ! なんでもありませんわ、拓也様ッ!!」

クロエは、拓也に話しかけられた瞬間、椅子から飛び上がらんばかりの勢いで背筋を伸ばし、敬礼のような姿勢をとった。

「様って……。普通に如月でいいよ。クラスメイトなんだし。それに、その敬語も目立つから……」

拓也が苦笑いする。

「そ、そういうわけにはまいりません……! 私のような愚か者は、拓也様と、あの偉大なる三月お姉様にお仕えする番犬で十分なのですわ!」

クロエが、ガタガタと震えながら早口でまくし立てる。

(……ねえさん、昨日の一晩で、アメリカの天才エージェントをどこまで追い詰めたんだよ)

拓也は、完全にスパイ気取りの威厳を失い、忠実すぎる下僕と化したプラチナブロンドの美少女を見つめながら、静かに胃薬を水なしで飲み込んだ。

その時だった。

「あっ、アーヴィングさん。ちょっと待って。……これ、ねえさんから預かってきたんだ」

拓也が、自分のカバンの中から、可愛らしいピンク色の風呂敷に包まれた『三段重のお弁当箱』を取り出し、クロエの机の上にコトリと置いた。

「…………ッ!!?」

クロエの顔から、再び血の気が引いた。

「ねえさんがね、『クロエちゃんは昨日、お肉を少し食べただけで魔力酔いしちゃったから、もっと栄養をつけて鍛えてあげなきゃ! 護衛のお仕事も大変だしね!』って言って、今朝早く起きて作ってたんだ。……俺の分とは別に、アーヴィングさん専用らしいよ」

拓也は、申し訳なさそうに視線を逸らした。

拓也自身のお弁当は、彼が「普通のご飯がいい」と切実に懇願した結果、冷凍食品の唐揚げや市販の卵焼きが綺麗に詰められた、ごく一般的な安全なものであった。

しかし、クロエの前に置かれたピンク色の三段重からは、蓋が閉まっているにも関わらず、ビリビリとした『尋常ではない生命エネルギー(魔力)』が漏れ出している。

「あ……あは……お、お姉様のお手製お弁当……。光栄の極みですわ……」

クロエは、震える手で風呂敷を解き、お弁当箱の蓋をそっと開けた。

「うおっ! すっげえ! めちゃくちゃ可愛いキャラ弁じゃん!」

後ろの席の健太が身を乗り出して歓声を上げる。

確かに、見た目は完璧だった。

ご飯は可愛らしいクマの形に握られ、海苔で笑顔が描かれている。彩り豊かなブロッコリーの森の中に、タコさんの形をした赤いウィンナーや、星型に切り抜かれたニンジンが散りばめられている。

中学生の女の子が喜ぶ、最高の「可愛いお弁当」だ。

しかし、Aランクの魔力感知能力を持つクロエの眼には、そのお弁当の『真の姿』がハッキリと視えていた。

(……このブロッコリー……微かな光の粒子を放っている……間違いない、世界樹の根元にしか生えないとされる超希少魔法植物『エルフ・キャベッジ』……!

そしてこのタコさんウィンナー……切り込みの形がタコなだけで、素材は深海に潜むSランク魔獣『クラーケン』の触手じゃないのォォォッ!!

極めつけは、この可愛いクマさんのご飯……お米の一粒一粒が、限界まで圧縮された高純度の魔力結晶で炊き上げられている……!)

クロエは、白目を剥きそうになるのを必死に堪えた。

これはお弁当ではない。高ランク探索者が決死の覚悟で迷宮の奥深くに潜り、奇跡的に持ち帰った素材を、最高クラスの錬金術師が何ヶ月もかけて調合して作り上げる『伝説の霊薬(エリクサー)』の盛り合わせである。

「どうしたの、アーヴィングさん? 食べないの?」

拓也が、普通の冷凍食品を口に運びながら不思議そうに首を傾げる。

「た、食べますわ……! お姉様の愛がこもったお弁当、残すなんて万死に値しますもの……!!」

クロエは、今朝のレオンからの「犬になれ」という命令を思い出し、覚悟を決めて震える手でお箸を持った。

そして、クラーケンのタコさんウィンナーを口に放り込む。

ジュワァァァァァッ!!

噛み締めた瞬間、濃厚な海の旨味と共に、爆発的な魔力がクロエの全身を駆け巡った。

「あぁぁぁ……ッ!! ま、魔力が……また内側から湧き上がって……ッ!!」

クロエのプラチナブロンドの髪が、魔力の余波でフワリと宙に浮き上がる。

「すっげえ! クロエちゃん、お弁当食べて感動して泣いてるぞ! そんなに如月のお姉さんの料理美味しいのか!」

健太が、全く見当違いの感動をしている。

「……アーヴィングさん。無理しなくていいからね。残しても、俺が適当に誤魔化しておくから……」

拓也が、限界を迎えているクラスメイトを見かねて小声で助け舟を出した。

しかし、クロエは涙を流しながらも、猛然とクマさんのご飯とブロッコリーを口に掻き込み始めた。

「いいえ……ッ! これは、お姉様からの『試練』……! 愚かだった私を、拓也様の隣に立つにふさわしい、完璧な護衛(ペット)に育て上げるための儀式なのですわッ!! むしゃむしゃむしゃッ!!」

完全に思考回路が「三月お姉様への絶対服従」へと書き換えられてしまったクロエは、もはや恐怖よりも信仰心に突き動かされ、超高純度の魔力弁当を完食してしまった。

「ぷはぁっ……!! ごちそうさまでした……!!」

空になった三段重を置き、クロエは満足げに息を吐いた。

その瞬間。

彼女の体から、ポンッ! と軽い音が鳴り、周囲の空間が一瞬だけ歪んだ。

(……うわ。アーヴィングさんの魔力値、また一回り大きくなった。これ、下手したらSランクの領域に足を踏み入れかけてるんじゃないか……?)

拓也は、右眼の解析結果を見て、無言で天を仰いだ。

アメリカのギルド本部が隠密特化で育てたはずの特務エージェントは、日本に来てわずか二日で、最強の姉による「愛情たっぷりのお弁当(暴力的なドーピング)」によって、規格外のバケモノへと強制進化させられてしまったのである。

放課後。

拓也の平穏な日常を守るために派遣された(はずだった)少女は、自ら「お姉様! 本日のお弁当も最高でした!」と三月に尻尾を振りに行く、完全無欠の忠犬へと姿を変えたのであった。

お読みいただきありがとうございます!

もし「綺麗にまとまった!」「レオンの絶望笑える!」「お弁当の素材がヤバすぎる!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

次回も引き続き、如月姉弟と新たな忠犬のドタバタな日常をお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。