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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第277話:星条旗からの刺客と、過保護な姉の歓迎の挨拶

七月。

梅雨のジメジメとした空気がようやく薄れ、本格的な夏の気配が東京の街を包み込み始めた頃。

如月家のキッチンでは、世界最強の探索者(現在は休業中)である如月三月(きさらぎ みつき)が、ご機嫌な鼻歌を歌いながらお弁当のおかずを作っていた。

「ふふふーん♪ 今日の拓也のタマゴ焼きは、甘めにしてあげようっと」

愛する弟の拓也は、無事に期末テストで満点を取り、「市役所の職員になって定時で帰る」という平穏な夢に向かって着実に歩みを進めている。

過酷な特異点での戦いを経て、ようやく手に入れた普通の学生生活。彼がその温かい日常を満喫している姿を見ることが、三月にとって何よりの喜びだった。美味しいご飯を作って、彼の帰りを待つ。それだけで胸がいっぱいになる。

しかし。

かつて人類未踏の『始源の迷宮』三十五階層を単騎で蹂躙し、数多のバケモノたちの魂を喰らってきた三月の【絶対知覚】は、東京の街に紛れ込んだ『ほんの僅かな異物』の存在を、決して見逃しはしなかった。

「……あら?」

フライパンの上でタマゴをひっくり返しながら、三月は小首を傾げた。

数キロ離れた拓也の中学校の方向。そこに、微弱だが極めて高度に隠蔽された、冷たい魔力波長が向かっているのを感じ取ったのだ。

(……この魔力の匂い、アメリカのレオンさんのところの部隊に似てる。すごく訓練されてて、気配を消すのが上手な子。……でも、私の鼻は誤魔化せないよ)

三月は、深緑色の瞳をスッと細めた。

先月、アメリカ支部のレオンが勝手に物騒なゴーレムを送りつけてきたばかりだ。それが何の成果も上げずに沈黙したため、今度は直接、生身のエージェントを弟の元へ差し向けてきたのだろう。

「もう。レオンさんってば、本当にしつこいんだから。拓也は今、平和な学校生活を満喫してるのに」

可愛い弟の日常に、泥足で踏み込もうとするネズミがいる。

姉として、それを黙って見過ごすわけにはいかない。弟の笑顔を曇らせる要因は、それが魔獣であれ人間であれ、事前に綺麗に取り除いておく必要がある。

「よしっ! ちょうどタマゴ焼きも美味しくできたし、お姉ちゃんが『忘れ物のお届け』に行ってこようかな!」

三月は、エプロンを外し、淡いグリーンのワンピースの裾を翻して、ピクニック用のバスケットを手に取った。

愛する弟の平穏を脅かす影は、姉自らの手で、笑顔と共にお掃除しなければならない。

一方その頃。拓也の通う中学校、二年B組の教室。

「初めまして。クロエ・アーヴィングと申します。日本の文化を学ぶために、アメリカから参りました。どうか、仲良くしてくださいね」

流暢で美しい日本語と共に教壇に立ったのは、透き通るようなプラチナブロンドの髪と青い瞳を持つ、まるで西洋人形のような絶世の美少女であった。

教室中が歓声に包まれる中、拓也だけは鉄山厳特製の『ステルスパーカー(見た目は二千円)』の襟元を掴み、深い絶望の溜め息を吐いていた。

(……アメリカ・ギルド本部の特務エージェント。間違いなく、レオンさんが俺を監視するために送り込んできたスパイだ)

クロエは、担任に指示されるまま、拓也の隣の席へと優雅な足取りで向かってきた。

そして、すれ違いざまに、耳元につけた『魔力波長偽装チョーカー(最新鋭の探知アーティファクト)』を起動し、拓也のステータスを密かにスキャンした。

(さあ、極星のブレインたる『軍神』の実力……見せてもらうわよ)

しかし、クロエの探知機が弾き出した拓也の数値は『魔力ゼロ、戦闘力一般人以下(打撃力2)』という、完全なる無能の証明であった。

鉄山のナノマシン偽装が完璧に機能しているため、クロエは「この少年が本当にただのひ弱な中学生なのか、それとも恐ろしい偽装を使っているのか」と、一人で勝手に混乱し、疑心暗鬼に陥っていた。

「……ふふっ。よろしくお願いいたしますね、如月さん」

「あ、はい。よろしくお願いします、アーヴィングさん」

クロエが探りを入れるような笑みを向け、拓也が胃痛を堪えながら愛想笑いを返した、まさにその瞬間だった。

ガラッ!!

教室のドアが、勢いよく開かれた。

「たーくやっ! お弁当のタマゴ焼き、入れ忘れちゃったから持ってきたよー!」

花が咲いたような、底抜けに明るい声。

そこに立っていたのは、バスケットを抱えた絶世の美女――如月三月であった。

「うおぉぉぉッ!? またすっげえ美人が来たぞ!?」

「如月の姉ちゃんじゃねえか!! 相変わらず超絶綺麗だ……!」

クラスの男子たちが、クロエの時以上の熱狂で沸き立つ。

「ね、ねえさん!? なんで学校に……!」

拓也が血相を変えて立ち上がる。

三月は、周囲の喧騒など全く気にする様子もなく、トコトコと拓也の席まで歩いてきた。

そして、拓也の隣で固まっているクロエへと、ゆっくりと視線を向けた。

「…………ッ!!?」

クロエの全身の産毛が、一瞬にして逆立った。

アメリカの特務機関でAランク相当の実力を持つ天才エージェントである彼女の『死の危険を察知する本能』が、けたたましい警報を鳴らしていた。

(な、なんなのこの人……!? 笑顔なのに……底が見えない……!! まるで、人間の皮を被った『超巨大なブラックホール』が目の前に立っているような……!!)

クロエは、無意識のうちに後ずさろうとしたが、恐怖で足が床に縫い付けられたように動かない。

彼女は、震える指先で耳元の『最新鋭探知チョーカー』の出力を最大まで引き上げ、目の前の「姉」をスキャンしようと試みた。

ピピッ……。

チョーカーが、三月の魔力と物理的質量を読み取ろうとする。

『――測定開始。魔力値……10,000……50,000……500,000……』

クロエの脳内に流れ込む数値が、あり得ない速度で跳ね上がっていく。

それは、人類が観測したことのない深淵のエネルギー量だった。始源の迷宮の最深部を単騎で制覇し、無数の強力な魔獣を喰らい尽くしてきた三月の魂の密度は、人間の造り出した機械などで測れる次元にはない。

『――警告(WARNING)。計測限界突破。対象の質量および魔力密度が、本機の処理能力の許容量を9,999%超過。……ERROR。ERROR。』

パキィッ……!!

クロエの耳元で、数千万円は下らないアメリカ本部の最新鋭アーティファクトが、三月の存在を読み取ろうとした負荷に耐えきれず、ショートして真っ黒な焦げカスとなって崩れ落ちた。

「……え?」

クロエは、自分の耳からこぼれ落ちた粉を見て、完全に思考を停止させた。

「初めまして、転校生さん!」

三月は、極上の笑顔を浮かべたまま、クロエの肩にポンッと『親愛の証(スキンシップ)』として優しく手を置いた。

ギシィィィィィィィッ!!!!

三月の手が触れた瞬間、クロエの強靭なAランクの肉体が、まるで万力で締め上げられたかのように悲鳴を上げた。

一切の魔力を使わない、ただの『純粋な力の制御』。

三月がほんの「0.00001%」の圧力をかけただけで、クロエの足元の床板がメキメキと音を立てて陥没し始めたのだ。

「ひ、ひぃぃっ……!!」

クロエの青い瞳から、ポロポロと恐怖の涙がこぼれ落ちる。全身の骨がきしむような感覚と、目の前の美女から放たれる圧倒的な捕食者のオーラに、エージェントとしての冷静な思考は完全に吹き飛んでいた。

「私、拓也の姉の三月。拓也はね、今とっても平和な学校生活を楽しんでるの」

三月は、クロエの耳元に顔を寄せ、鈴の音のような、それでいて絶対零度の冷たさを孕んだ声で囁いた。

「だから……もし、拓也の邪魔をする『ネズミ』がいたら、お姉ちゃんが跡形もなくすり潰しちゃうから。……仲良くしてね?」

「ヒグッ……!! は、はいィィィッ!! 誓いますゥゥッ!!」

クロエは、アメリカの誇る冷静沈着なエージェントとしてのプライドを完全にへし折られ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、首を激しく縦に振った。

彼女は完全に理解した。

アメリカ本部(レオン)は、とんでもない思い違いをしている。

極星のブレインである少年指揮官(拓也)を監視・拉致しようなどという計画は、この少年の隣にいる『世界を滅ぼせるレベルのシスコン厄災ボス(姉)』がいる限り、絶対に不可能であるということを。

「ふふっ、良いお返事! 拓也、新しいお友達ができてよかったね!」

三月は、パッと手を離し、いつもの無邪気な笑顔に戻って拓也にタマゴ焼きの入ったタッパーを手渡した。

「……ねえさん。今、アーヴィングさんに何したの……? 彼女、泡吹いて気絶しかけてるんだけど……」

拓也が、陥没した床と、魂が抜けたように真っ白になっているクロエを見て、震える声で尋ねる。

「ん? ご挨拶しただけだよ! さ、お姉ちゃんはお買い物して帰るね! ばいばーい!」

三月は、弟の平和を守るための完璧な防衛任務を終え、鼻歌交じりに教室を後にした。

残されたのは、世界最強の姉の圧倒的な暴力(挨拶)によって完全に無力化されたアメリカの天才スパイと、またしても一般人カモフラージュの努力を物理的に破壊された少年指揮官の姿であった。

「……やっぱり、俺の平穏な日常の最大の障害は、スパイでも魔獣でもなく、身内にいるんだ……」

拓也が静かに胃薬を飲み込む中、クロエはガタガタと震えながら「ア、アメリカに帰りたい……」と泣き言を漏らしていた。

魔力を持たない少年と、規格外で過保護な姉。

彼らの紡ぐドタバタな日常は、世界を巻き込みながら、今日も騒がしく進んでいくのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

アメリカからの天才スパイ・クロエちゃんを、最強のお姉ちゃんが笑顔の挨拶(物理)で一瞬にして無力化してしまうお話でした。

最新鋭の探知機がショートするほどの圧倒的な存在感、いかがでしたでしょうか?

もし「面白かった!」「三月お姉ちゃんさすが!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

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― 新着の感想 ―
もしかして、まだ三月は完全に完治しているわけではないのでは?全盛期なら磁力や重力を使えるし、魔力だって完全に隠蔽出来ていたからね。まぁ、今回はわざと見せてたかもしれないけど。
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