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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第260話:一千万円の使い道と、銀座での平和なお買い物

「……一、十、百、千、万、十万、百万、一千万……」

金曜日の夜。

如月拓也(きさらぎ たくや)は、自室のベッドの上で、自身のスマートフォンに表示された銀行口座の残高画面を虚無の目で見つめていた。

数日前、アメリカのレオンから送られてきた軍用ゴーレムを鉄山厳(てつざん げん)の工房で解体・売却した代金が、きっちり振り込まれていたのである。

中学生のお小遣いとしては、あまりにも現実離れした暴力的な桁数だ。

「はぁ……。レオンさんには二度と送ってくるなと念を押したけど、この大金、どうしようかな」

拓也は、魔王バエルとの死闘の時よりも深刻な顔で頭を抱えた。

自身の戦術眼を活かした株取引や、高ランク素材の転売などでお金を稼ぐことは造作もないが、彼はあくまで「目立たず平穏な日常」を望んでいる。一千万円もの大金を派手に使えば、税務署やギルドの監査部門から余計な注目を浴びかねない。

「拓也ー! 入ってもいい?」

コンコン、とドアがノックされ、姉の三月(みつき)がひょっこりと顔を出した。

手には、いつものウサギのぬいぐるみを抱えている。

「いいよ、ねえさん。……実はさっき、鉄山さんからゴーレムの買い取り代金が振り込まれたんだけど、どうやって使おうか悩んでて」

「あ、一千万円! すごいね! 美味しいケーキが一生分買えちゃう!」

三月はベッドにダイブして、拓也のスマホ画面を覗き込みながら目を輝かせた。

「ケーキ一生分は胃がもたないよ。……何か、ねえさんが欲しいものとかある?」

「うーん……私は拓也と一緒にいられれば十分だし、装備はおじいちゃん(鉄山)が作ってくれるしなぁ」

三月は少しだけ首を傾げて悩んだ後、ポンッと手を叩いた。

「そうだ! お父さんとお母さんに、何かプレゼントを買ってあげようよ! もうすぐ結婚記念日だし、いつも私たちのこと心配して見守ってくれてるから!」

その提案に、拓也はハッと目を見開いた。

かつて、三月が迷宮の深層で魂の崩壊を起こし、鉄山の病院で意識を失って眠り続けていた日々。

両親は絶望の淵に立たされながらも、毎日病院に通い、彼女の手を握り続けてくれた。

拓也が極星の指揮官として戦地に赴いていた間も、何も聞かずに温かく帰りを待っていてくれた。

彼らが今、こうして平和な日常を享受できているのは、間違いなく両親の深い愛情と理解のおかげなのだ。

「……そうだね。それがいい。父さんと母さんに、最高のプレゼントを贈ろう」

拓也の表情から迷いが消え、穏やかな笑みが浮かんだ。

翌日の土曜日。

拓也と三月は、日本の探索者文化の最先端であり、高級魔導アイテムの専門店が立ち並ぶエリア――『銀座』へと足を運んでいた。

休日の銀座通りは、身なりの良いトップランカーたちや、裕福な一般客で賑わっている。

拓也は、無地のパーカーの上に『虚無蜘蛛(ヴォイド・スパイダー)』の絶対防衛コートを羽織り、三月は清楚な白いワンピース姿という出で立ちだ。

「ええっと、鉄山さんに教えてもらったお店は……ここだ」

拓也が足を止めたのは、大通りから一本路地に入った場所にある、落ち着いたレンガ造りの店舗だった。

看板には『アンティーク&エンチャント・エレナ』と刻まれている。

魔獣の素材を使った武骨な武具ではなく、日常使いできる精巧な魔導装飾品(ジュエリー)を専門に扱う、知る人ぞ知る名店だ。

カランコロン、と上品なベルの音と共にドアを開けると、店内には心地よいお香の香りと、数々の美しい宝石が放つ微かな魔力の光が満ちていた。

「いらっしゃいませ。……おや、可愛らしいお客様ですね」

カウンターの奥から現れたのは、銀糸のような髪を上品にまとめた、初老の美しい女性だった。

彼女こそが、元Aランクの付与魔術師であり、この店のオーナーであるエレナである。

「こんにちは。鉄山厳さんからの紹介で来ました」

拓也が静かに一礼する。

「まあ、あの偏屈な鉄山さんからの? ……なるほど」

エレナは、柔らかな微笑みを浮かべながらも、その鋭い眼光で拓也の羽織っている漆黒のコートを瞬時に見抜いた。

(……このコート。始源の迷宮の深層素材『虚無蜘蛛』の糸で織られているわね。しかも、恐ろしいほど緻密な魔力チューニングが施されている。ただの中学生のはずがないわ)

エレナは内心の驚きを微塵も顔に出さず、優雅に微笑んだ。

「ようこそおいでくださいました。今日はどのようなお品物をお探しで?」

「両親への結婚記念日のプレゼントを探しています。魔力を持たない一般人でも身につけられて、病気や怪我、それに魔獣の微弱な瘴気から身を守ってくれるような、護身用のアクセサリーが欲しいんです」

拓也の要望を聞き、エレナは深く頷いた。

「ご両親への贈り物……素晴らしいですね。でしたら、こちらはいかがでしょう」

エレナがショーケースの奥から取り出してきたのは、高級なベルベットの箱に収められた、一対の美しいペンダントだった。

銀のチェーンの先には、透き通るような淡い翠色の宝石がはめ込まれている。

「これは『世界樹の滴(エルフ・ティアーズ)』と呼ばれる希少な魔石を使ったペンダントです。身につける者の生命力を活性化し、あらゆる病魔や毒を退ける強力な浄化作用を持っています。一般の方の護身用としては、これ以上のものはありません」

「わぁ……! すっごく綺麗!」

三月が目を輝かせてショーケースを覗き込む。

「ただ……少々問題がありまして」

エレナが困ったようにため息を吐いた。

「この魔石は、非常に高い浄化能力を持つが故に、現在は自己防衛のために魔力回路を『休眠状態(スリープ)』にしているのです。これを覚醒させるには、極めて精密で、かつ一切の属性を持たない純粋な魔力波長を、寸分違わぬタイミングで打ち込まなければなりません。私のようなAランクの付与魔術師でも、十年は修行が必要な繊細な作業です。ゆえに、現在はただの綺麗な宝石になってしまっていて……」

エレナの説明を聞き、拓也はそっと右眼の眼帯を上にずらした。

『深層言語・限定解析』が起動し、ペンダントの内部構造、魔力の流れ、そして休眠状態を解除するためのパスコードが、瞬時に視覚化されて脳内に流れ込んでくる。

(……なるほど。三層構造の魔力回路が知恵の輪のように絡み合っているのか。でも、この『解の構造』なら……)

「ねえさん」

拓也は、隣にいる三月に小声で呼びかけた。

「あのペンダントの宝石の、一番下の尖っている部分。そこに右手の人差し指を当てて、この間のゴーレムの首の神経を止めた時の『十分の一』くらいの力加減で、ほんの少しだけ魔力を押し込んでみて」

「うん、分かった!」

三月は、店主のエレナが止める間もなく、スッとショーケースの上のペンダントに手を伸ばした。

そして、拓也の戦術眼によって導き出された『完璧な座標』に対して、三十五階層を踏破した世界最強の『完璧な力加減(デリケート・コントロール)』で、無属性の物理的魔力を流し込んだ。

カチッ。

それは、見えない鍵が開いたような、極めて小さな手応えだった。

フワァァァァァァッ……!!

次の瞬間。

休眠状態だった二つの『世界樹の滴』が、太陽のような眩い翠色の光を放ち始めた。

店内の空気が一瞬にして浄化され、深呼吸したくなるような清涼な魔力が満ち溢れる。

「なっ……!? そ、そんな馬鹿な!!」

エレナが、信じられないものを見るように目を見開き、カウンターから身を乗り出した。

「私が何ヶ月かけても解けなかった世界樹の魔力回路(ロック)を、今、このお嬢さんは……ただ指先で一瞬触れただけで解除したというの……!?」

驚愕で震えるエレナをよそに、三月は「拓也、光ったよ!」と無邪気に喜んでいる。

「ありがとうございます、エレナさん。すごく良い品ですね。これを二つ、いただきます」

拓也は、眼帯を元に戻し、涼しい顔でクレジットカード(鉄山が用意してくれたギルドの特別口座のもの)を提示した。

「お、お値段は、二つ合わせて八百万円になりますが……」

「はい、一括でお願いします」

一千万の予算内に完璧に収まる、最高の買い物ができた。

エレナは、震える手でカード決済を済ませながら、目の前の少年少女が、自分の想像を遥かに超える深淵(バケモノ)であることを痛感していた。

「……鉄山さんがわざわざ紹介状を書くわけですね。……ありがとうございました。ご両親、きっとお喜びになりますよ」

「はい。ありがとうございました」

拓也と三月は、美しくラッピングされた箱を受け取り、丁寧に頭を下げて店を後にした。

その日の夜。

如月家のリビングでは、豪華な夕食の後に、少しだけ早い結婚記念日のお祝いが行われていた。

「まあ……! なんて綺麗なペンダントなの……!」

「拓也、三月。これは……本当に俺たちがもらっていいのか?」

箱を開けた両親が、翠色に輝くペンダントを見て息を呑んだ。

「うん。俺たち、迷宮の仕事でちょっと特別ボーナスが出たんだ。父さんも母さんも、いつも俺たちのこと心配してくれてるだろ? これをつけていれば、病気にも怪我にもならないらしいから」

拓也が照れくさそうに頭を掻く。

「お父さん、お母さん、いつも本当にありがとう! 長生きしてね!」

三月が、満面の笑みで両親に抱きついた。

「ありがとう……。本当に、ありがとう。二人がこうして無事に帰ってきて、笑ってくれるだけで、私たちは幸せなのに……」

母親が涙ぐみながらペンダントを胸に当て、父親も優しく微笑んで二人の頭を撫でた。

特異点での世界の命運を懸けた死闘も、Sランクたちからの過保護な贈り物も。

すべては、この温かく平穏な家族の時間を守るためのものだ。

一千万円という大金は消えてしまったが、拓也の心は、かつてないほどの清々しさと喜びに満ち溢れていた。

「ねえ拓也。まだ二百万円残ってるよ! 明日はお肉食べに行こっか!」

「……ねえさん、本当にタウロスのお肉好きだね」

最強の姉弟による平和な日常は、家族の温かい絆と共に、これからも確かな歩みで続いていくのであった。

もし「面白かった!」「親孝行でほっこりした!」「エレナさんの驚きっぷりが良い!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります。

次回も引き続き、如月姉弟のドタバタな日常をお楽しみに!

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