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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第二十六話:第四層の洗礼、剥き出しの牙

第四層の入り口に立った瞬間、空気が一変した。

第一層から第三層までとは比較にならない、重く、どろりとした魔力の淀み。この層を縄張りとする魔獣たちは、単なる力任せの暴力ではなく、狡猾さと残虐性を兼ね備えている。

三月は平然と歩みを進めるが、背後の二人は明らかに警戒度を高めていた。

『気配察知(微)』が、周囲に潜む数多の影を捉える。

暗闇の中から、無数の赤い眼が三月たちを狙っている。

『シャドウ・ストーカー』の群れだ。影に同化し、獲物の首筋を狙う暗殺者タイプの魔獣。通常、Dランクパーティが二人一組でようやく渡り合える相手が、十体以上も取り囲んでいる。

「……嬢ちゃん、後ろに下がれ。ここは俺たちが――」

大柄な男が前に出ようとした、その瞬間だった。

三月は、まるで風に溶けるように消えた。

『俊敏(中)』を極限まで解放し、男たちの視界から完全に外れる。その加速は、彼らが「新人」と見下していた少女の領域を遥かに超えていた。

「――っ!?」

次の瞬間、三月の黒鉄の大剣が冷たい空気の中に閃いた。

狙ったのは、背後から音もなく忍び寄っていた一匹のシャドウ・ストーカー。

三月はただ剣を振るうのではない。

掌から微かな『磁力』を放ち、影の中に潜んでいた魔獣の爪にある微細な金属成分を強引に引き寄せる。影から強制的に引きずり出された魔獣が硬直した、その一瞬の隙を逃さない。

ドォン!という重い打撃音が第四層の静寂を切り裂く。

大剣が魔獣の頭部を叩き割り、その肉体は崩れ落ちた。

三月は倒した魔獣に背を向け、すぐに次の標的へ向かう。

――その刹那、魔獣の死体から漏れ出す淡い光を、彼女は視界の端で捉えた。

三月はあえて魔獣には目を向けず、視線を周囲に彷徨わせるふりをしながら、意識を「魂」の残滓に向けた。

(……喰らわなきゃ。もっと力が……獣が、呼んでる)

脳裏に、黒い奔流のような衝動が渦巻く。

捕食を重ねるたび、彼女の思考は冷徹さを増し、同時に人間としての感情が摩耗していくような感覚がある。

だが、今ここで理性を手放すわけにはいかない。

三月はあえて、目の前の魔獣すべてを喰らうことを拒んだ。

魂の奔流を、無理やり自身の理性のかせで縛り上げる。

彼女は、倒した魔獣の群れの中で、あえて最も小さい個体から漏れ出した微かな魂の残滓だけを、糸をたぐるようにそっと吸い上げた。

すべてを喰らえば、強くなれる。だが、それと引き換えに、父の顔や母の温もりさえも、この「獣の衝動」に塗りつぶされてしまう気がしたからだ。

【固有スキル『魂喰い』を最小限で発動します】

獲物の命が消える寸前、その魂の一部を綺麗に刈り取る。

肉体はそのまま残り、魂の破片だけが彼女の栄養となる。その一連の動作の鮮やかさは、まさに技術の極致だった。

後ろで観戦していた男たちは、彼女が魔獣を倒した後の「一瞬の硬直」を、戦闘の余韻か何かだと勘違いしているようだ。彼らは、彼女が「理性を守るために必死に戦っている」ことなど露ほども気づいていない。

「……何だ、今の動きは。ただのFランクが……」

痩身の男が、信じられないものを見る目で三月を見つめる。

三月は血に濡れた大剣を肩に担ぎ、彼らを振り返った。

その頬には、魔獣の返り血が一条の筋となって伝っている。

彼女は、まるで獲物を前にした獣のような、獰猛で純粋な笑みを浮かべた。

「言ったでしょ。私は、ただの新人じゃないって」

周囲の暗闇から、さらにシャドウ・ストーカーたちが殺気を強めて迫る。

だが、三月は無理な捕食はしない。最低限のエネルギー補給と、男たちを戦慄させるための「見せかけの余裕」だけを維持する。

「さあ、見せてあげるわ。あんたたちが喉から手が出るほど欲しがっている、私の『真の実力』をね」

三月は再び跳躍した。

その姿は、影よりも速く、死神よりも冷酷だった。

第四層の闇を血に染めながら、彼女は協会が用意した「監視役」という名の駒たちを、自分の舞台の観客へと変えていく。

彼女の瞳の中で、喰らった魂の残滓が紫色の光を放つ。

衝動が、また一歩、彼女の「人間としての心」の境界線を削っていく。

父・昭雄の咳の音。拓也の眼鏡。由美子のハンバーグの匂い。

それらを必死に思い出し、彼女は自分の中に渦巻く黒い波を抑え込んだ。

(負けない。私は、如月三月よ。化け物になんて、ならない……!)

彼女の剣筋が空気を裂くたびに、魔獣たちが次々と断末魔を上げて消滅していく。

その光景は、もはや狩りではなく「選別」だった。

彼女は、弱い者、あるいは価値のない者をあえて選別し、効率よく戦う。魂の捕食は最小限に。衝動に飲まれるギリギリのところで、彼女は自身の剣技と身体能力だけでこの難局を切り抜けていく。

男たちは、言葉を失っていた。

彼らが想定していた「未知のアーティファクト」による幸運などではない。

これは、圧倒的な戦闘センスと、何らかの未知の技術によるものだと彼らは確信した。

「……あり得ない。これほどの殺意を、十八歳の少女が……」

痩身の男が、無意識のうちに後退る。

彼らは確信した。この少女は、ただの「拾い物」ではない。

迷宮の底で産み落とされた、未知の「怪物」そのものだと。

しかし、三月はその恐れさえも歓迎していた。

彼らが抱く恐怖が、やがて「敬意」や「依存」に変わる時、彼女は協会という巨大組織の心臓部に、誰にも邪魔されない安全地帯を築くことになるだろう。

戦いが終わる頃、周囲には魔獣の死骸が散らばっていた。

彼女は剣を鞘に納め、何事もなかったかのように男たちを振り返る。

その瞳の奥には、紫色の光と、人間としての理性の色が激しくせめぎ合っていた。

「……まだ行くんでしょ? 第四層はここからが本番よ」

その声に、男たちはただ頷くことしかできなかった。

彼らは知る由もない。彼らが守ろうとした「調査対象」が、既に迷宮の深淵という抗えない運命に足を取られ、人間であることをやめないために、魂を削って戦っていることを。

三月は第四層の闇の向こうを見据える。

魂の飢えが、まだ癒えない。

だが、もっと恐ろしいのは、自分が「獣」になることを少しだけ心地よいと感じ始めている自分自身の心だった。

彼女は一歩、また一歩と、さらなる闇の中へ足を踏み入れた。

その背中に、男たちは畏怖を抱きながら、逃げるように追従するしかなかった。

第二十六話をお読みいただき、ありがとうございました!

強くなるために必要な「捕食」というリスクと、家族のために守り抜きたい「人間としての自分」。その葛藤が、今回の三月の戦いに緊張感をもたらしました。

強くなれば強くなるほど、獣に近づいていく……。そんな危ういバランスの上で、彼女は協会という巨大組織をも翻弄していきます。

この話が面白い、続きが読みたいと感じていただけましたら、ぜひブックマークや**評価(↓の☆☆☆☆☆)**で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

それでは、第二十七話でお会いしましょう!

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