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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第246話:迷宮融合の事後処理と、Fランク少年の最大級の絶望(中間テスト)

『木霊の廃坑』の最深部で、ファントム・リッチを討伐し、迷宮融合ダンジョン・マージの危機を未然に防いだ週末から明けて、月曜日の朝。

東京の閑静な住宅街にある中学校の二年B組の教室は、いつもとは少し違う、ピリピリとした重苦しい空気に包まれていた。

「……はぁ。なんでよりによって、特異点が消滅して世界が平和になった直後に、こんな地獄が待ってるんだよ」

クラスメイトの健太が、机に突っ伏しながら深い溜め息を吐き出す。

その手には、赤ペンでびっしりと書き込みがされた数学の参考書が握られていた。

「どうしたの、健太。朝からこの世の終わりみたいな顔をして」

自身の席に鞄を置いた如月拓也きさらぎ たくやが、不思議そうに首を傾げる。

彼自身は、週末にAランク相当の未踏破迷宮を隠密裏に攻略し、日本の危機を一つ救ってきたばかりだというのに、至って清々しい顔をしていた。

絶対防衛を誇る『虚無蜘蛛ヴォイド・スパイダー』のコートのおかげで肉体的な疲労は皆無であり、姉の三月みつきが作ってくれたお弁当の唐揚げパワーで、エネルギーも満ち溢れている。

魔獣の脅威から解放された拓也の心は、文字通り雲一つない青空のようだった。

しかし、健太は信じられないものを見るような目で拓也を睨みつけた。

「お前……まさか忘れてるのか? 明後日からだぞ。俺たち中学生にとって、Aランク迷宮のスタンピードよりも恐ろしい大災害……『一学期の中間テスト』が!」

「…………え?」

拓也の動きが、ピタリと停止した。

鞄のチャックを開けようとしていた手が固まり、右眼の眼帯の下にある瞳孔がキュッと収縮する。

「ちゅ、中間テスト……? 明後日……水曜日から……?」

「そうだぜ。お前、家庭の事情でずっと学校休んでたから、授業の範囲とか全然カバーできてないだろ。大丈夫なのか?」

健太の心配そうな声が、拓也の耳を遠く通り抜けていく。

(……完全に、忘れていた)

拓也は、血の気が引いていくのを感じながら、自身の席に崩れ落ちた。

無理もない。

この数ヶ月間、彼は魔力を持たないただのFランク探索者でありながら、日米南米合同遠征軍『極星』の指揮官として、世界の存亡を懸けた死闘の連続に身を投じていたのだ。

第一魔卿バエルの絶対的な力や、天空の冥城の恐るべき罠の数々。それらの極限の戦術計算に脳のリソースをすべて割いていた彼にとって、「日本の義務教育のカリキュラム」などという平和の象徴は、すっかり頭から抜け落ちていたのである。

「ど、どうしよう……。数学の二次関数も、歴史の年号も、理科の化学式も……休んでいた数ヶ月分の知識が、完全にスッポリ抜けてる……!」

拓也は、頭を抱えてガクガクと震え始めた。

彼の右眼に宿る異能『深層言語・限定解析』。それは、目の前にある事象や構造を極限の並列思考で読み解く、世界最高峰の戦術眼である。

しかし、それはあくまで「外部情報の解析」であり「検索エンジン」ではない。

彼自身の脳内にインプットされていない歴史の年号や、そもそも解き方を知らない数学の公式を、無から生み出すことはできないのだ。

「おいおい如月、しっかりしろ! お前、休んでた間のノートとか写してないのか!?」

「ノート……ああっ、そういえば先週、健太に見せてもらったのに、ゲーセンでSランクの大人たちに絡まれて、そのまま書き写すのを忘れてた……!」

「Sランクの大人? 何言ってんだお前、混乱しすぎだろ!」

かつて、南米のジャングルで魔獣の大群に囲まれた時も、これほどまでの絶望は感じなかった。

特異点を破壊した英雄、如月拓也(十四歳)。

彼の最大の危機は、平和な日常の中に潜む「赤点回避」という絶対的なノルマであった。

その日の放課後。

拓也は、逃げるように自宅へと帰り、リビングのテーブルに教科書と参考書を山のように積み上げた。

「うーん……。徳川家康が江戸幕府を開いたのが……あれ? その前に豊臣秀吉がいて……駄目だ、時系列が魔獣の進化ツリーとごっちゃになる……」

拓也が半泣きになりながらシャーペンを握っていると、キッチンからエプロン姿の三月がひょっこりと顔を出した。

「どうしたの拓也? 今日はずいぶんお勉強熱心だね!」

「ねえさん……。明後日から中間テストなんだけど、休んでた分の範囲が全く分からないんだ。このままだと、全教科赤点で補習になっちゃう……」

拓也が涙目で訴えると、三月はパァッと顔を輝かせた。

「そういうことなら、お姉ちゃんに任せなさい! 私、こう見えても勉強教えるの得意なんだから!」

三月は、どこから取り出したのか、知的な赤いアンダーリムの伊達メガネをかけ、手には短い指示棒まで持っている。

一見すると、非常に優秀な家庭教師のようだ。

「本当!? ねえさん、歴史とか数学、分かるの?」

「ふふん! 探索者たるもの、文武両道は基本だよ。さあ、どこが分からないのか言ってみて!」

拓也は一縷の望みを託し、数学の教科書を開いた。

「えっと……この物理の基礎問題なんだけど。時速60キロで走る質量1トンの車が、壁に衝突した時の衝撃の計算式が……」

「あー、なるほどね! それなら簡単だよ!」

三月は、指示棒でバンッと机を叩き、自信満々に解説を始めた。

「まず、質量1トンの車なんて、Dランク魔獣の『突進ボア』よりも軽いよね? だから、そんなものが時速60キロでぶつかってきても、右足の重心を少し後ろに下げて、衝撃が来る瞬間に『虚無蜘蛛』のコートの魔力反発を利用しつつ、相手の顎の骨を下からカチ上げて首の骨をへし折れば、衝撃はゼロになるよ!」

「…………」

「テストの解答欄には、『右ストレートで物理的に相殺する』って書いておけば完璧だね!」

「……ねえさん。それは『物理学』じゃなくて『物理的暴力』の話だよ。テストでそんなこと書いたら、間違いなく呼び出しを食らうよ……」

拓也は、静かに教科書を閉じた。

かつて『始源の迷宮』の三十五階層という前人未到の深淵に単独で到達した彼女。

彼女の頭の中にある「物理」とは、いかにして強大な魔獣を更地にするかという、極めて実践的(かつ規格外)な戦闘理論に他ならなかった。

「あれ? 違った? じゃあ、歴史にしよっか! 歴史なら、昔迷宮で拾った古い書物とか読んでたから詳しいよ!」

「……じゃあ、この戦国時代の武将についてなんだけど……」

「あー、この人ね! 確かこの武将、表向きは侍ってことになってるけど、実は当時の『Bランク相当の探索者』で、刀に火属性の魔力を付与して戦ってたんだよ! だからこの合戦は、実質的なスタンピードの鎮圧作戦で……」

「ねえさん、ストップ!!」

拓也は、食い気味に姉の解説を遮った。

「そもそも、ダンジョンがこの世界に突然発生したのは、たったの『10年前』だよ!? 戦国時代に探索者や魔獣がいるわけないでしょ! 歴史の時系列が根本から崩壊してるよ!」

「えっ!? そうだっけ!? でも昔、迷宮の奥で拾った古文書に、鎧を着た侍が炎の剣を振るってる絵が描いてあったよ!」

「それは迷宮が勝手に生み出した、デタラメな遺物アーティファクトだよ! 迷宮の偽史と現実の歴史をごっちゃにしないで! テストでそんなこと書いたら絶対バツになるから!」

三月の持つ知識は、探索者としての裏の歴史や、迷宮が生み出したファンタジーに偏りすぎており、現代の義務教育のテスト対策には一ミリも役に立たないことが完全に証明された。

「ううっ……ごめんね、拓也。お姉ちゃん、お勉強ではお役に立てないみたい……」

三月が、伊達メガネを外してシュンと肩を落とす。

「いいよ、ねえさん。気持ちだけで十分嬉しいから……」

拓也は、再び深い溜め息を吐き、机に突っ伏した。

ピコンッ。

その時、拓也のポケットに入っていたスマートフォンが短い通知音を鳴らした。

画面を見ると、メッセージアプリの『極星シークレットグループ』というチャットルームに、通知が溜まっている。

特異点の戦いを終えた後も、アメリカのレオンや南米のカルロス、そして日本のトップランカーたちが定期的に近況を報告し合うために作られた秘密のグループチャットだ。

【神宮寺蒼太(日本/盾)】:『拓也くん、先日の幽霊船の一件、見事な采配だった。ところで、協会本部を通じて君が【中間テスト】という試練に直面していると耳にしたが……』

【風間蓮(日本/氷)】:『なんだ若大将、勉強で苦戦してんのか? だったら俺が今すぐゲーセンに呼び出して、息抜きさせてやるぜ!』

【九条炎樹(日本/魔)】:『フン。魔力もねえくせに、頭まで悪かったら救いようがねえな。俺の書斎にある【全知全能の魔導書(読むと発狂する)】を貸してやろうか?』

(なんで日本のトップランカーたちが、一介の中学生のテスト日程まで把握してるんだよ。セバスチャン局長、絶対情報漏らしたな……)

拓也がジト目で画面をスクロールしていると、さらに海外勢からのメッセージも届いた。

【レオン・カーター(米国)】:『Hey、若大将! テストで悩んでるってホントか? 安心しな、俺が今すぐステルス機で日本に飛んで、お前の学校の校舎を跡形もなく吹き飛ばしてやる! そうすりゃテストは中止だろ! HAHAHA!』

【カルロス・リベラ(南米)】:『レオンの言う通りだ! もしくは、俺たちが教師どもを拉致して、全員に満点をつけさせるように脅してやるぜ!』

「…………」

拓也は、震える指で『全員、絶対に日本に来ないでください。警察と探索者協会に通報しますよ』とだけ返信し、スマートフォンの電源を叩き切った。

(頼むから、俺の平和な学生生活を、物理と権力で更地にしようとしないでくれ……!)

過保護すぎるSランクの大人たちの、斜め上をいく物騒な支援オファー。

彼らに頼れば、間違いなく学校生活が物理的に終了する。

「……やるしかない。俺の力で、この絶望テストを乗り切るんだ」

拓也は、バエル戦の時と同じような、鋭く冷徹な眼差しで、山積みの教科書と向かい合った。

そして、彼はおもむろに、右眼の眼帯をスッと上にずらした。

「拓也? どうするの?」

「ねえさん。健太から借りてきた、この学校の過去三年分の『中間テストの過去問』のプリントを出して」

拓也は、机の上に並べられた過去問のプリントの束を、右眼の『深層言語・限定解析』で一気にスキャンし始めた。

彼の脳内で、極限の並列思考が高速で回転し始める。

(俺には、数ヶ月分の知識を丸暗記する時間はない。なら……『出題の傾向』を完全に解析して、最も確率の高い問題だけをピンポイントで暗記すればいいんだ!)

「なるほど! この数学の先生は、過去三年間の大問の3番で、必ず『図形の証明』の問題を出している。しかも、数字を変えているだけで、論理構造は全く同じだ」

「歴史の先生は、自分が大学で専攻していた『室町時代』の文化史に異常な執着がある。配点の40%がここに集中している……!」

魔王の攻撃パターンを読み切り、迷宮の構造を解析したその眼は、今、「中学校の教師の出題の癖」を完璧に丸裸にしていた。

「すごいよ拓也! なんだか、魔獣の弱点を探してる時みたいにカッコいい!」

三月が、後ろから拓也の背中を覗き込んで目を輝かせる。

「……あんまり褒められた使い方じゃないけど、背に腹は代えられないからね」

拓也は、解析によって弾き出された『出題確率90%以上』の箇所だけに蛍光ペンでマーカーを引き、そこだけを徹底的に頭に叩き込み始めた。

そして、水曜日。

二日間にわたる中間テストの全日程が終了し、放課後のチャイムが鳴り響いた。

「……終わった」

拓也は、完全に燃え尽きた灰のように、机に突っ伏した。

「おい如月、大丈夫か? お前、テスト中、ものすごい殺気で問題用紙を睨みつけてたけど……」

健太が、少し引き気味に声をかけてくる。

「うん……なんとか、ね。少なくとも、全教科赤点だけは回避できた……はず」

限定解析によるヤマ張りは、見事に的中していた。

満点は無理でも、平均点以上を死守するという最低限の防衛ラインは、完璧に守り抜いたのだ。

「そっか。まあ、赤点回避できれば御の字だよな! よし、テストも終わったことだし、ゲーセン行こうぜ!」

「ごめん、健太。今日はまっすぐ帰るよ。……姉さんが、お疲れ様会をしてくれるって言ってたから」

拓也は、疲労困憊の身体を引きずりながらも、自然と笑みをこぼした。

特異点での死闘。迷宮融合の危機。そして、絶望の中間テスト。

数々の修羅場を乗り越えた彼を待っているのは、きっと、姉の作った極上のご飯と、騒がしくも温かい日常の食卓だ。

「ただいま、ねえさん」

「あっ、拓也! おかえりなさい! テストお疲れ様!」

夕暮れの如月家。

世界を救ったFランク少年と、世界最強の姉の平和な戦いは、これからも平穏と無双を交えながら続いていくのであった。

最後までお読みいただきありがとうございます

もし「面白かった!」「三月姉さんの歴史認識ヤバい(笑)!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります。

次回も引き続き、如月姉弟のドタバタな日常をお楽しみに!

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