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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第241話:特売卵のオムライスと、荷物持ち(ポーター)への志願

ジュゥゥゥゥゥゥッ……。

如月家のキッチンに、バターの香ばしい匂いと、卵が焼ける心地よい音が響き渡っていた。

「よーし、火加減ばっちり! フライパンも壊してないし、完璧な仕上がりだよ!」

淡いグリーンのワンピースの上にフリルのエプロンを身に着けた如月三月きさらぎ みつきは、手首のスナップを利かせてフライパンを返し、チキンライスの上に美しい半熟の薄焼き卵を見事に着地させた。

かつて世界に一つしか存在しなかった『始源の迷宮』。

その前人未到の三十五階層という深淵に至り、最強の魔獣たちを素手で粉砕してきた彼女の規格外の身体能力が、今は「フライパンを絶対に凹ませない」という極限の力加減デリケート・コントロールのために注がれている。

「すごいね、ねえさん。お店で出てくるオムライスみたいだ」

ダイニングテーブルで麦茶を注いでいた如月拓也きさらぎ たくやは、運ばれてきた黄金色のオムライスを見て目を丸くした。

先ほどの帰り道で、空間の亀裂から現れたCランク魔獣『鋼針のボア』から命懸け(?)で死守した、あの特売の赤玉卵である。

「えへへ、ここからが本番だよ! 拓也、ちょっと待っててね!」

三月は、赤いケチャップのボトルを手に取ると、凄まじいスピードでオムライスの表面に何かを描き始めた。

シュババババッ! という謎の風切り音が聞こえたかと思うと、わずか数秒で作業は完了した。

「じゃーん! 完成! 『拓也とお姉ちゃんのラブラブ・ハートマーク特製オムライス』だよ!」

オムライスの表面には、ケチャップで描かれた拓也と三月の似顔絵が、巨大なハートマークで囲まれていた。しかも、なぜかプロのイラストレーターが描いたような劇画調の圧倒的なクオリティである。

「……食べるのがもったいないくらい上手だけど、ちょっと恥ずかしいな」

拓也は苦笑いしながらも、スプーンを手に取った。

「いただきます」

一口すくって口に運ぶ。

ふわふわの卵の甘みと、バターのコク、そしてチキンライスの酸味が絶妙に絡み合い、口の中いっぱいに広がった。

「……美味しい。すごく美味しいよ、ねえさん」

「本当!? よかったぁ! お姉ちゃん、拓也のために一生懸命作った甲斐があったよ!」

三月が、自分のオムライスには手も付けず、両手で頬杖をついて幸せそうに拓也を見つめる。

(……美味しいな)

拓也は、二口、三口とオムライスを頬張りながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

特異点の消滅を賭けた戦いでは、レーションやゼリー飲料で無理やりカロリーを流し込むだけの日々だった。

魔力を持たないただのFランクである自分が、右眼の『深層言語・限定解析』を酷使し、脳の血管が焼き切れる痛みに耐えながら、極星の大人たちを死地で指揮し続けた日々。

それが今、こうして自宅の温かい照明の下で、大好きな姉の手料理を食べている。

世界を救った報酬としては、これで十分すぎるほどだった。

その時、リビングのテレビから、夕方のニュース番組の音声が流れてきた。

『――続いてのニュースです。本日夕方、東京湾の沖合に突如として出現したとみられる【亡霊の船】に似た巨大な霧の塊が、原因不明の爆発と共に一瞬にして消滅しました』

画面には、遠くのお台場の岸壁から撮影された、海上に上がる巨大な水柱の映像が映し出されている。

それを見た拓也は「ブフォッ」とむせそうになり、慌てて麦茶を飲んだ。

『探索者協会本部の広報担当者によりますと、これは【特異点崩壊の影響による局地的な魔力崩壊現象(自然現象)】であり、市民への危険は一切ないとのことです。ネット上では高ランク探索者の極秘任務ではないかと噂されていますが……』

「……セバスチャン局長、うまく誤魔化してくれたみたいだね」

拓也が、胸を撫で下ろしながら呟く。

「当然だよ! あれはただの『水切り』だったんだから! 自然現象みたいなものだよ!」

三月が、ケチャップのついたスプーンを振り回して得意げに胸を張る。

(石に規格外の魔力をコーティングしてぶん投げた水切りが自然現象なら、隕石の落下も自然現象だよ……)

拓也は心の中でツッコミを入れつつも、平穏な日常が守られたことに感謝した。

翌日。放課後。

拓也と三月は、東京・霞が関の探索者協会本部を訪れていた。

ロビーの巨大なクエスト掲示板の前で、拓也は腕を組んで真剣な表情を浮かべていた。

「どうしたの拓也? 今日もどこかの迷宮を更地に……じゃなくて、素材集めに行く?」

三月が、拓也の肩越しに掲示板を覗き込む。

「ううん。……俺たち、書類上は『Fランク』でしょ? セバスチャン局長から裏で受けるSランク相当の依頼じゃなくて、もっとこう、一般の探索者たちがやってるような『普通のパーティ行動』を経験しておきたいんだ」

拓也の言葉に、三月はコテッと首を傾げた。

拓也は、バエル戦という極限の状況で『極星』のSランクたちを指揮した経験しかない。

しかし、彼自身は魔力を持たない十四歳の少年だ。これからも姉と一緒に平穏な探索者ライフを送るなら、一般的な探索者たちがどのように迷宮を歩き、どのように連携しているのか、基礎的な『生きた知識』を学ぶ必要があった。

「だから、これに応募してみようと思うんだ」

拓也が指差したのは、一枚の募集要項だった。

【Dランク迷宮『木霊の廃坑』・合同探索パーティ募集】

【募集枠:荷物持ち(ポーター) 2名】

【条件:ランク不問、体力のある者。戦闘への参加は一切求めない】

【報酬:日給一万円 + 採掘した魔石の売却益の5%】

「荷物持ち(ポーター)……?」

「うん。俺と姉さんなら、荷物を持つだけの裏方作業なら安全にこなせるし、他の探索者の戦い方を間近で観察できる。……これぞまさに、Fランクの初心者にぴったりのクエストだよ」

拓也は、意気揚々と受付カウンターへと向かった。

カウンターの奥で事務作業をしていた受付嬢の佐藤結衣さとう ゆいは、二人の姿を認めるなり、ビクゥッと肩を震わせた。

「ひぃっ! た、拓也さま、三月さま……! 本日はどのようなご用件でしょうか……!? ま、まさかまた、どこかの迷宮を物理的に消し飛ばすご予定で……!?」

「違いますよ、結衣さん。今日はこの、Dランク迷宮の『ポーター募集』に応募したくて」

拓也が、掲示板から剥がしてきた用紙を差し出す。

「ぽ、ポーター……? 世界を救った極星の指揮官と、Aランクの変異種をワンパンで蒸発させる三月さまが……Dランクの、荷物持ち……ですか?」

結衣は、脳の処理が追いつかず、完全に白目を剥きかけた。

「結衣さん、内緒ですよ。俺たちはあくまで『ただのFランクの初心者』として参加するんですから。絶対に身元がバレないように処理してくださいね」

拓也が、口元で人差し指を立ててウィンクする。

「は、はいぃっ……。ただちに、主催者のパーティに連絡をお繋ぎいたしますぅ……」

数分後。

協会のロビーの片隅にある打ち合わせスペースに、大柄な男がやってきた。

「おう。俺のパーティのポーター募集に応募してきたってのは、お前らか?」

男は、全身を分厚い鋼鉄の鎧で覆い、背中に巨大な戦斧を背負っていた。

顔には歴戦の傷跡があり、いかにも叩き上げの重戦士といった風貌だ。胸元には『Cランク』のバッジが光っている。

「はじめまして。如月拓也です。こっちは姉の三月。ポーターの募集を見て来ました」

拓也が丁寧に頭を下げる。

男――Cランクパーティ『鋼の斧』のリーダーである大吾だいごは、拓也と三月の姿を見て、露骨に眉をひそめた。

「おいおい、冗談だろ。眼帯をした中学生のガキに、ヒラヒラのワンピースを着たネエチャンだと? ポーターを舐めてるのか?」

大吾は、拓也の細い腕を見てため息を吐いた。

「いいか、坊主。Dランク迷宮はピクニックじゃねえんだ。俺たちが戦ってる間、何十キロもある魔石の入ったリュックを背負って、絶対に逃げ出さずについてくる度胸と体力がいるんだぞ」

「体力には自信があります。邪魔はしません」

拓也は真っ直ぐに大吾の目を見て答えた。

「口では何とでも言えるな。……なら、試させてもらうぜ」

大吾は、突然その丸太のような腕を振り上げ、拓也の胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。

ただの威嚇ではない。探索者の世界で生き抜くための、手荒な『度胸試し』だ。

「……っ」

大吾の手が拓也の胸元に触れる寸前。

拓也の隣に立っていた三月の深緑色の瞳が、スッと氷のように冷たく細められた。

(私の拓也に、汚い手を触れようとするなんて……!)

三月は、一切の魔力を使わず、ただ純粋な『物理的殺意』だけで、大吾の腕をへし折るために踏み込もうとした。

相手は弱っていないため『魂喰い』は使えない。ならば、物理ワンパンで更地にするしかない。

「ねえさん、ストップ!!」

拓也は、姉の不穏な気配を瞬時に察知し、大声で制止した。

そして、大吾の手が自分の胸元に触れるのを、あえて避けずに正面から受け止めた。

ドンッ!

大吾の無骨な手が、拓也の胸元――銀座で手に入れた『虚無蜘蛛ヴォイド・スパイダー』のコートに激突する。

大柄な戦士の強烈な突き出し。普通の中学生なら数メートルは吹き飛ぶはずの威力だった。

しかし。

「……あ?」

大吾は、自分の手がまるで『見えない強固なゴムの壁』に弾き返されたかのような奇妙な感触に、思わず声を漏らした。

拓也は、ミリ単位すら後ずさることなく、微動だにせずにその場に立ち尽くしていたのだ。

虚無蜘蛛のコートの『絶対防衛』機能。

それは、拓也の身体に加わるあらゆる物理的な衝撃を瞬時に吸収し、無効化する。

「お前……。俺の『突き』を食らって、ビクともしねえだと……?」

大吾は、驚愕に目を見開いた。

「言ったでしょう。体力と、ちょっとした『打たれ強さ』には自信があるんです。ポーターとして、足手まといにはなりません」

拓也は、ペラペラのコートの襟を少しだけ正しながら、涼しい顔で微笑んだ。

(……このガキ、ただの中学生じゃねえ。何か強力な防御スキルか、特殊な体術の使い手か……?)

大吾は、拓也の底知れぬ強さ(※実際はコートの性能)を勝手に勘違いし、ニヤリと口角を上げた。

「……ハッ。いい度胸だ、坊主。見た目で判断したのは俺のミスだったな」

大吾は、戦斧を背負い直して手を差し出した。

「採用だ。明日から三日間、俺たちの『木霊の廃坑』の探索に付き合ってもらうぜ。頼りにしているからな」

「よろしくお願いします、大吾さん」

拓也が大吾と握手を交わす横で、三月は「ふふっ……拓也に指一本でも触れたら、迷宮の奥底で魔獣の餌にしてあげるからね……」と、極上の笑顔の裏で物騒極まりない暗殺計画を練っていた。

(頼むから、本当にただのポーターで終わらせてくれよ……)

拓也の胃痛の種は尽きない。

魔力を持たない少年指揮官と、世界最強のブラコン姉。

二人のFランクによる、初めての『まともな(?)パーティ行動』が、今幕を開けようとしていた。

もし「面白かった!」「オムライスのクオリティ高すぎ!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります。

次回、波乱のポーター任務をお楽しみに!

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