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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第230話:世界を救ったFランク少年の憂鬱、最強姉の過保護すぎる通学路

「……よし」

鏡の前に立った如月拓也きさらぎ たくやは、シワ一つない詰め襟の学生服のボタンを首元までしっかりと留め、小さく息を吐いた。

世界を崩壊の危機に陥れた『特異点』の破壊ミッション。

そのために、拓也は数ヶ月もの間、中学校を長期休学して日米南米合同遠征軍『極星』の指揮を執り続けていた。

南極の絶対零度や、成層圏に浮かぶ魔王の城といった極限の死地をくぐり抜けてきた彼だが、こうして改めて制服に袖を通すと、自分がまだ「十四歳の中学二年生」であるという当たり前の事実に直面させられる。

(今日から、学校に復帰か……。平和になったのは嬉しいけど、溜まりに溜まった課題と、来週の中間テストのことを考えると、ある意味でバエル戦よりも胃が痛いな……)

魔力を持たないただのFランク探索者でありながら、スーパーコンピューターをも凌駕する並列思考能力『深層言語・限定解析』を駆使して世界を救った少年指揮官。

だが、その極限の頭脳をもってしても、数ヶ月分のブランクがある「数学の図形問題」や「歴史の年号暗記」を一瞬で処理できるわけではない。

拓也が重い足取りで一階のリビングへ降りると、そこにはすでに、エプロン姿の美しい姉が待ち構えていた。

「おはよう、拓也! ……わぁっ!」

キッチンで朝食の準備をしていた如月三月きさらぎ みつきは、制服姿の弟を見るなり、パァァッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。

「拓也、すっごく似合ってる! かっこいい! やっぱりうちの弟が世界で一番イケメンだわ!」

「ねえさん、朝からテンション高すぎ……。ただの指定の制服だよ」

三月は拓也の肩をバンバンと叩き、自身のスマホを取り出してあらゆる角度からシャッターを切り始めた。

『魂喰い(ソウル・イーター)』の呪いによって魂を削られ、長らく地下のポッドで眠り続けていた彼女にとって、弟がこうして無事に制服を着て学校へ行くという「当たり前の日常」は、何よりも尊く、奇跡のような光景だったのだ。

「ううっ……。お姉ちゃん、拓也が立派に中学生してる姿を見られて、本当に嬉しいよぉ……っ」

「ちょっ、ねえさん! 泣きながら連写しないで! フラッシュが眩しい!」

朝から騒がしい姉弟のやり取りに、ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいた両親も「相変わらずねぇ」と微笑ましく笑っている。

「さあ拓也、朝ごはんいっぱい食べて! 今日からまた学校なんだから、頭にしっかり栄養を送らなきゃ!」

「うん、いただきます」

三月が腕によりをかけて作った(Fランクにして世界最強の身体能力を無駄遣いした神速の包丁さばきによる)完璧な朝食を平らげ、拓也は学生鞄を手に取った。

「それじゃあ、行ってきます」

「あっ、待って拓也! お姉ちゃんも一緒に行く!」

玄関のドアを開けようとした拓也の背中に、カーディガンを羽織った三月がすかさず引っ付いてきた。

「え? 一緒に行くって……ねえさん、学校に用事なんてないでしょ?」

「何言ってるの! 拓也の通学路の『護衛』に決まってるじゃない!」

「護衛って……ここ、ただの東京の住宅街だよ? Aランク迷宮じゃないんだから、魔獣なんて出ないよ」

「甘い! 迷宮じゃなくたって、世の中には危険がいっぱい潜んでるんだから! 交通事故とか、通り魔とか、空から降ってくる鉄骨とか!」

三月は、ギュッと拓也の腕に抱き着いて離れない。

彼女がこれほどまでに過保護になるのには、理由があった。

自分が『魂喰い』の呪いで眠っていた間、この魔力すら持たない十四歳の弟が、たった一人で世界中のトップランカーたちを率いて、血反吐を吐きながら世界を救うための死闘を繰り広げていたのだ。

その事実を東雲慧や極星の大人たちから後から聞かされた三月は、弟に無理をさせてしまったことへの不甲斐なさと、彼を失うかもしれないという強烈なトラウマを抱え込んでいたのである。

(……ねえさんも、心配してくれてるんだよな)

拓也は、姉の深緑色の瞳の奥にある僅かな怯えを感じ取り、小さく息を吐いて苦笑した。

「分かったよ。でも、学校の門の手前までだからね? 中学生にもなって、お姉ちゃんと手を繋いで登校してたら絶対からかわれるから」

「やったぁ! 任せて、お姉ちゃんが拓也に近づく危険を全部『更地』にしてあげるからね!」

「頼むから平和な住宅街を更地にしないでね!?」

こうして、世界を救ったFランク少年の、胃薬が手放せない通学が始まった。

――通学路。

春の穏やかな陽射しが降り注ぐ、のどかな住宅街。

ランドセルを背負った小学生たちや、自転車に乗った主婦が行き交う平和な道なのだが、三月の纏う空気は、さながら「敵地ド真ん中に単独潜入する特殊部隊」のそれであった。

「……右斜め前方、死角から接近する気配あり。拓也、下がって」

三月が、鋭い視線を路地の角に向け、スッと右手を構える。

その手には、いつでも物理的な衝撃波(真空刃)を放てるように、規格外の筋力が圧縮されていた。

「ワンッ!」

路地から飛び出してきたのは、首輪をつけた可愛らしいポメラニアンの散歩中のおばあちゃんだった。

「……ねえさん、ただの犬だよ。真空刃で消し飛ばそうとしないで」

「ち、違うもん! 万が一あの犬が『魔力暴走』を起こして巨大化したら危ないなって、シミュレーションしてただけだもん!」

拓也がジト目でツッコミを入れると、三月は慌てて右手を下ろした。

さらに歩みを進め、近所の公園の横を通りかかった時。

「危ないっ!!」

公園の中から、野球で遊んでいた子供たちのボールが、フェンスを越えて拓也たちの頭上へと飛んできた。

「拓也、伏せてッ!!」

シュッ!!

三月が神速のステップで拓也の前に立ち塞がり、飛んできた硬式ボールを『右手の人差し指と親指の二本だけ』でパシッと受け止めた。

メメリッ。

「……あ」

三月の規格外の握力によって、硬球がまるでマシュマロのようにおぞましい音を立ててひしゃげ、指の間から白い粉となってサラサラと崩れ落ちた。

「お、おねえさん……すげえ……」

フェンス越しに見ていた小学生の男の子たちが、目を丸くして震えている。

「ごめんね君たち! ボール、あとで新しいの買って弁償するからね!」

三月が笑顔で手を振る横で、拓也は両手で顔を覆った。

「……ねえさん。頼むから、もう少し一般人のステータスを意識して生活して……」

その後も、猛スピードで横切ろうとしたデリバリーのバイクを殺気オーラだけで急ブレーキさせたり、カラスのフンを真空波で空中で分解したりと、三月の理不尽な護衛(無双)に振り回されながら、拓也はどうにか中学校の校門前へと辿り着いた。

「ふぅ……。ここから先は俺一人で行くから。ねえさん、家でゆっくり休んでてよ」

拓也が、校舎を見上げながら肩で息をする。

「うん! 気をつけてね、拓也! もし学校でいじめっ子とか不良に絡まれたら、すぐに連絡するんだよ? お姉ちゃんが五秒で駆けつけて、学校ごと……」

「学校ごと更地にしないで! 大丈夫だから、普通に授業受けるだけだから!」

過保護すぎる姉をどうにか言いくるめ、拓也は校門をくぐった。

「よっ、如月! 久しぶりじゃん!」

下駄箱で上履きに履き替えていると、クラスメイトの健太が声をかけてきた。

「あ、健太。久しぶり。……休んでた分のノート、後で見せてくれない?」

「おー、いいぜ。お前、ずっと親戚の家に行ってたんだろ? 大変だったなー。……ってか、さっき校門の前で話してた超絶美人のネエチャン、誰!? お前の姉ちゃん!?」

健太が、目を輝かせて詰め寄ってくる。

拓也の休学理由は、学校側には「家庭の事情」とだけ説明されており、彼が世界を救った合同遠征軍の指揮官であることは、当然ながら極秘事項となっているのだ。

「あー……うん。ちょっと心配性でさ」

「マジかよ! 羨ましすぎるだろ! 今度俺にも紹介してくれよ!」

能天気な友人の言葉に、拓也は苦笑して誤魔化した。

(紹介したら、健太の命が危ないかもしれないし……)

久しぶりの教室。

黒板のチョークの音。クラスメイトたちの他愛のない雑談。

それは、数日前まで第一魔卿バエルの消滅魔法に怯えながら死線を潜り抜けていた拓也にとって、あまりにもギャップの激しい、だが何よりも守りたかった「平和」の象徴だった。

(ははっ。本当に、戻ってきたんだな)

拓也は、自分の席に座り、窓の外の青空を見上げて小さく微笑んだ。

一時間目の数学の授業が始まる。

教師が黒板に難解な図形問題を書き込み、拓也は必死にノートを取ろうとシャーペンを走らせていた。

ふと、拓也は何の気なしに、窓の外の景色――校庭の端に生えている巨大な桜の木へと視線を向けた。

「…………え?」

拓也は、持っていたシャーペンをポロリと落とした。

桜の木の太い枝から。

淡いグリーンのワンピースを着た美しい女性――三月が、忍者のように『逆さ吊り』の状態でぶら下がりながら、高性能の双眼鏡で拓也の教室をガン見していたのである。

それだけではない。

校庭で芝生の手入れをしている見慣れない二人の清掃員。

麦わら帽子とタオルで顔を隠してはいるものの、そのはち切れんばかりの筋肉の鎧と、二メートル近い巨体は、どう見てもアメリカ最強のSランク・レオンと、南米の総司令・カルロスだった。

さらに、校舎の屋上の給水塔の上には、大盾を構えて周囲を警戒する神宮寺の姿まで小さく見える。

「……っ」

拓也は、胃のあたりを激しく押さえ、机に突っ伏した。

「おい如月、どうした? 腹でも痛いのか?」

健太が心配そうに覗き込んでくる。

「ううん……なんでもない。ただ、平和って……けっこう疲れるなって思っただけ……」

世界を救った最強のパーティ『極星』と、世界最強のブラコン姉。

彼らが結成した「Fランク少年指揮官・絶対防衛シークレットサービス」の存在に気づき、拓也の胃痛が治まる日は、まだまだ遠そうであった。

お読みいただきありがとうございます!

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