第228話:最強(Fランク)姉弟デュオ結成! 探索者協会と新たな日常の幕開け
【前書き】
いつも応援ありがとうございます。
ご指摘ありがとうございます! 三月姉さんは最強へと成り上がったものの、ランク更新の手続きを一切していなかったため「書類上はFランクのまま」という設定でしたね。大変失礼いたしました。
最弱のFランク弟と、最強(だけど公式記録はFランク)の姉による、前代未聞のFランク姉弟デュオ結成!
修正版の第228話、たっぷりのボリュームでお楽しみください!
第四章:極星たちの休息と最強の姉編
第228話:最強(Fランク)姉弟デュオ結成! 探索者協会と新たな日常の幕開け
東京・霞が関。
雲一つない青空の下、日本の探索者協会本部ビルへと続く広い歩道を、二人の男女が歩いていた。
「ねえさん……。あのさ、いくらなんでも引っ付きすぎじゃないかな。すれ違う人に見られてるよ……」
如月拓也は、自分の右腕にギュッと抱き着いて離れない姉を見上げながら、周囲の視線を気にして赤面していた。
「えー? いいじゃない、これくらい! ずっと暗いポッドの中で離れ離れだったんだから、その分のスキンシップを取り戻さなきゃ!」
淡いグリーンのワンピースに薄手のカーディガンを羽織った如月三月は、拓也の抗議など全く意に介さず、満面の笑みで弟の腕に頬をすり寄せている。
かつて特異点を更地に変え、『魂喰い』の覚醒を経て世界最強へと成り上がった生ける厄災。
しかし今の彼女は、ただ弟のことが好きすぎる、少し(かなり)過保護な美しい女性にしか見えなかった。
「ほら拓也、もうすぐ協会本部だよ! 今日から私たちは、二人で一つの『最強デュオ』としてデビューするんだから、胸を張ってね!」
三月はウキウキとした足取りで、協会の自動ドアへと向かっていく。
拓也は「デュオって……」と深い溜め息を吐きながらも、その足取りはどこか軽かった。
彼自身は、魔力を一切持たない最底辺の『Fランク』探索者だ。
右眼の『深層言語・限定解析』も、三月の魂を救うという目的が果たされた今、あえて脳の血管が焼き切れるような無理をしてまで使う必要はない。
これからの拓也の役割は、前線で命を削って戦術を導き出すことではなく、隣を歩く規格外の姉が『暴走しないように手綱を握る』ことだ。
「よし、行こうか。……俺たち、二人とも『Fランク』だけどね」
拓也の言葉に、三月は「あはは!」と明るく笑った。
そうなのだ。
三月は確かに世界最強の力を持っているが、それは彼女が『魂喰い』として覚醒し、ただ家族を守るためだけに裏で無双していたからに過ぎない。
協会の昇格試験や面倒な手続きを一切無視し続けてきた結果、彼女の公式な探索者ランクは、登録した当時の『Fランク』からピタリと止まったままなのである。
つまりこれから結成されるのは、魔力を持たない本物のFランク少年と、世界最強の力を持つ偽装Fランク姉による、前代未聞の『底辺パーティ』であった。
――探索者協会本部、一階ロビー。
「ひぃぃっ……! きた、きちゃった……っ!」
受付カウンターの奥で、受付嬢の佐藤結衣は、ガタガタと震えながらカウンターの下に身を隠そうとしていた。
先日の、VIPラウンジでの惨劇。
世界を救った英雄であるはずの『極星』のトップランカーたちが、目覚めたばかりの三月によって数十秒で全滅させられたという噂は、すでに協会職員たちの間で恐怖の都市伝説として広まっていた。
(あの超絶ブラコン最強お姉ちゃんが、弟くんを連れて帰ってきた……っ! 今日の受付担当、私なのにぃぃっ!)
「やっほー、結衣ちゃん! 今日もいいお天気だね!」
「ひゃいっ!! い、いらっしゃいませ、三月さま、拓也さまぁっ!!」
三月の明るい声に、結衣はバネ仕掛けのおもちゃのように飛び起き、涙目で完璧な営業スマイルを作った。
「結衣ちゃん、今日はね、私たち『パーティ結成』の申請に来たの!」
三月は、あらかじめ記入してきた申請用紙をカウンターにバンッと置いた。
「パ、パーティ結成、でございますか……?」
結衣が恐る恐るその用紙を覗き込む。
そこには、リーダー『如月三月(Fランク)』、サブリーダー『如月拓也(Fランク)』と書かれていた。
そして、パーティ名の欄には、デカデカとこう書かれていた。
【パーティ名:スーパー・ラブリー・如月ブラザーズ&シスターズ・フォーエバー】
「……」
結衣は無言で拓也を見た。
拓也は、この世の終わりのような顔をして両手で顔を覆っていた。
「あの、ねえさん……。家を出る時、パーティ名はもっと普通の『如月デュオ』にしようって約束したよね……?」
拓也が震える声で尋ねる。
「えー? だって、それじゃあ私と拓也の仲良し度が周りに伝わらないじゃない! ほら、結衣ちゃんもこの名前、最高にクールでキュートだと思わない!?」
三月が身を乗り出して結衣に同意を求める。
「お、おっしゃる通りでございます!! 宇宙一キュートでクールでアグレッシブな素晴らしいお名前かと存じますぅぅッ!!」
結衣は、命の危機を感じて即座に全面肯定した。
「ほらね!」
「結衣さん、脅されて適当なこと言わないで……。頼むから、パーティ名は『双月』か『如月デュオ』に変更して受理してください……。あと、俺たち二人ともFランクだけど、パーティ登録ってできるの?」
拓也の涙ながらの懇願と質問に、結衣は急いで端末を操作した。
「は、はい! パーティ名は『如月デュオ』にて受理いたしました! ランクに関しましても、Fランク同士のパーティ結成自体は規定違反ではございません! 受けられる依頼が、スライム討伐やドブさらい等の下積みクエストに限定されるだけでございます!」
「そっか、よかった」
拓也がホッと胸を撫で下ろした、その時。
「おや……。これはこれは、如月姉弟ではございませんか」
二人の背後から、上品だがどこか疲労の滲む声が掛かった。
振り返ると、そこには協会の監察局長であるセバスチャンが、分厚いファイルの束を抱えて立っていた。
「あ、セバスチャンさん。お疲れ様です」
拓也が会釈する。
「やっほー、局長さん。忙しそうだね」
三月がひらひらと手を振る。
「ええ……。特異点が消滅したとはいえ、各地で発生する高難易度の『残滓迷宮』の対応に、協会は完全に人手不足でして。……神宮寺殿や風間殿も、昨日の三月様の実力テスト(物理)のダメージが抜けきらず、本日はお休みされておりますし……」
セバスチャンは、恨めしそうな目で三月をチラリと見たが、すぐにゴホンと咳払いをした。
「実は、ちょうどお二人に折り入ってご相談が。……東京郊外の山中に、突如としてAランク相当の『炎渦の迷宮』が出現したのです。内部には強力な炎熱系の魔獣が多数確認されており、近隣の街への被害も懸念されています」
セバスチャンは、一枚の依頼書を三月に差し出した。
「局長!? な、何を仰っているのですか! 如月デュオは、書類上は『Fランクパーティ』ですよ!? Aランク迷宮への立ち入りなど、協会の規定で……っ」
結衣が慌てて口を挟む。
「規定など知らん。……私は、彼女の本当の恐ろしさを知っているのだからな」
セバスチャンが、額の汗をハンカチで拭いながら結衣を制した。
「現在、手の空いているAランク以上の探索者がおりません。……どうか、世界を救った最強の指揮官と、世界最強の『Fランク』のお力で、この迷宮を鎮圧していただけないでしょうか?」
「Aランクの迷宮かぁ」
三月は依頼書を受け取り、拓也の顔を見た。
「拓也、どうする? 復帰戦の準備運動には、ちょうどいいくらいかもしれないけど」
「準備運動って……。Aランク迷宮って、本来なら熟練のパーティが何日もかけて攻略するレベルだよ?」
拓也が苦笑する。
しかし、拓也の眼には、もはや以前のような「死と隣り合わせの悲壮感」はなかった。
最強の盾であり、最強の矛でもある絶対的な存在が、自分の隣で笑ってくれているのだから。
「分かった。引き受けましょう、セバスチャンさん」
拓也が力強く頷く。
「おお……! ありがとうございます、拓也様、三月様! ただちに特例措置として依頼を受理し、専用のヘリを手配いたします!」
セバスチャンが、救世主を見るような目で深々と頭を下げた。
「よーし! それじゃあ、行こっか、拓也! お姉ちゃんのカッコいいところ、いっぱい見せてあげるからね!」
三月は、拓也の手をギュッと握りしめ、意気揚々とヘリポートへと向かって歩き出した。
――一時間後。東京郊外、『炎渦の迷宮』内部。
ゴォォォォォォォォッ!!
迷宮の内部は、文字通り灼熱の地獄だった。
岩肌からは赤いマグマが流れ出し、空気は吸い込むだけで肺が焼け焦げそうなほどの超高温に達している。
「グルルルルルルル……ッ!!」
二人の前に立ち塞がったのは、身長五メートルを超える炎の巨牛『フレイム・ミノタウロス』の群れだった。
本来なら、Aランク探索者が数人がかりで氷結魔法を駆使してようやく倒せるような、凶悪な魔獣である。
「うわぁ、熱いねぇ。拓也、火傷しないように私の後ろに隠れててね」
三月は、一切の汗をかくことなく、涼しい顔でミノタウロスの群れを見据えた。
彼女の周囲には、無意識のうちに展開された強大な魔力障壁があり、拓也もその恩恵を受けて熱を一切感じていなかった。
「姉さん、ミノタウロスたちの弱点は、膝の裏にある『冷却器官』だ。あそこをピンポイントで破壊すれば、体内の熱が暴走して自滅するはずだよ」
拓也は、眼帯を外した両目で敵を観察し、自身の持つ膨大な戦術知識の中から最適解を導き出して指示を出した。
脳を酷使する『限定解析』を使わずとも、彼の知識と状況判断能力は、すでに一流の指揮官の領域に達している。
「膝の裏の冷却器官ね! さすが拓也、物知りだなぁ!」
三月は、嬉しそうにパァッと表情を輝かせた。
「それじゃあ、膝の裏ごと、全部まとめて更地にしちゃえば完璧だね!」
「……え?」
拓也が嫌な予感に声を漏らした、次の瞬間。
三月は、スゥッと静かに右腕を引き――。
魔力すら込めない、純粋な『物理的な正拳突き』を、フレイム・ミノタウロスの群れへ向けて放った。
ズガァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
拳から放たれた致死の暴風が、灼熱の空気を圧縮し、巨大な真空の刃となって迷宮の奥深くへと突き進む。
フレイム・ミノタウロスの群れは、断末魔を上げる暇すらなく、膝の裏どころか上半身も下半身もすべてまとめて『物理的に消し飛び』、後方の岩壁ごと迷宮の一部が完全に崩落した。
「……あはっ、一丁上がり♪」
三月が、ウインクをして拓也を振り返る。
「……ねえさん。俺の指示、膝の裏をピンポイントでって……」
「大丈夫大丈夫! ちゃんと膝の裏も壊したから! ほら、熱も暴走する前に全部吹き飛ばしたし、安全第一でしょ?」
三月が、ドヤ顔でサムズアップを決める。
「……うん、そうだね。安全だね」
拓也は、完全に更地と化したAランク迷宮の奥を見つめながら、遠い目をして頷いた。
(レオンさんたちを指揮してた時は、俺の指示通りにコンマ一秒の狂いもなく動いてくれたけど……。姉さんの場合、火力が規格外すぎて戦術の意味がないんじゃ……?)
魔力を持たない少年指揮官の、胃薬が手放せない新たな悩み。
それは、かつてFランクから成り上がった『世界最強のブラコン姉』の、愛と理不尽に満ちた無双劇の手綱を握ること。
世界を救った最強(書類上は最弱のFランク)姉弟デュオの、騒がしくも温かい日常は、こうして幕を開けたのであった。
受付の結衣ちゃんがツッコミを入れつつも、事情を知るセバスチャンが特例でAランク迷宮を押し付ける(お願いする)という、この姉弟ならではの特別待遇です!
緻密な戦術を組み立てる拓也と、それを「圧倒的な暴力でまとめて解決する」三月。
凸凹なFランク姉弟による無双劇は、これからも続いていきます!
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