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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第四章:極星たちの休息と最強の姉編

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第224話:目覚めの朝と最強の包丁さばき、そして姉の思惑

ふかふかの羽毛布団の感触と、窓から差し込む柔らかな朝の光。

それが、如月三月きさらぎ みつきが長きにわたる眠りから完全に意識を取り戻し、自宅の自室で迎えた最初の朝の記憶だった。

「…………ん、んん」

三月は、ゆっくりと体を伸ばし、ベッドの上で小さく寝返りを打った。

冷たくて硬い、生命維持ポッドの培養液の中ではない。

柔軟剤の優しい香りがする、自分の部屋のベッドだ。

「……本当に、終わったんだ」

三月は、自分の両手を目の前にかざし、ゆっくりと開いたり握ったりを繰り返した。

かつて戦いの中で『魂喰い』の呪いを受け、自身の魂が少しずつ削られ、崩壊していくという底知れない恐怖。

黒鉄堂の地下にある生命維持ポッドの冷たい培養液の中で、いつ完全に自分が消滅してしまうかもわからないまま、ただ暗闇の中で微かな弟の気配だけを頼りに意識を繋ぎ止めていた絶望の日々。

その絶対的な崩壊の運命を打ち破り、自分を光の当たる世界へと引き上げてくれたのは、魔力を持たない十四歳の弟、拓也だった。

三月はベッドから起き上がると、鏡の前に立った。

長く艶やかな黒髪も、透き通るような白い肌も、眠りにつく前と何も変わっていない。

そして何より、自身の体内に満ち溢れる強大な魔力と、かつて世界最強と謳われたSランク探索者としての身体能力ステータスも、一切の劣化なく完全に保たれていた。

(拓也が……私の弟が、ボロボロになりながら世界を救ってくれた。今度は、私が拓也を守る番だ)

三月は、決意を込めて自身の頬をパンパンと両手で叩くと、ピンク色の可愛らしいエプロンを身につけ、一階のリビングへと向かった。

「おはよう、お母さん! お父さん!」

「あら、三月。おはよう。……ふふっ、なんだか本当に夢みたいね。あなたがこうして、朝から元気に挨拶してくれるなんて」

キッチンに立っていた母の由美子が、嬉しそうに目尻を下げる。

「おはよう、三月。無理して起きなくてもよかったんだぞ。まだ魂の崩壊が止まったばかりで、身体が本調子じゃないだろう」

ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいた父の昭雄が、新聞から顔を上げて優しく微笑んだ。

「全然平気! もう魔力も体力もバッチリフル充電されてるから! ……それよりお母さん、朝ごはんの準備、私に手伝わせて! 拓也に、とびっきり美味しいご飯を作ってあげたいの!」

三月は、ウズウズとした様子でキッチンの前に立った。

「ええ、もちろんよ。拓也も、三月のご飯を食べたらきっと喜ぶわ。それじゃあ、ネギの小口切りと、大根のツマをお願いできる?」

「任せて!!」

由美子から包丁を受け取った瞬間。

三月の纏う空気が、Sランク探索者のそれへと一変した。

ドドドドドドドドドドドドッ!!!!

「えっ……!?」

由美子が、思わず目を丸くして固まる。

まな板の上で、ごく普通の家庭用の三徳包丁が、もはや残像すら見えない神速のスピードで上下していた。

大根が空中に浮いたまま、薄さ一ミリ以下の完璧なツマへと自動的に変換されていくかのような、異常な光景。

「あはは、少し腕が鈍っちゃったかな。昔はネギ一本をコンマ二秒で千切りにできたんだけど」

「み、三月……? お母さん、目が追いつかないんだけど……」

Sランクの圧倒的な『敏捷性(AGI)』と『器用さ(DEX)』を、ただの朝ごはん作りに全振りする三月。

あっという間に、ボウルの中には十人前はありそうな大根とネギの芸術的な山が築き上げられた。

「……なんだ?」

工事現場のような凄まじい音に目を覚ましたのか、パジャマ姿の拓也が、目をこすりながらリビングへと入ってきた。

「あっ、拓也! おはよう! もう少し寝ててもよかったのに!」

三月は、包丁を置いて満面の笑みで弟を振り返った。

「おはよう、拓也。体調はどうだ? どこか痛むところはないか?」

昭雄が声をかけると、拓也はふるふると首を横に振った。

「おはよう、父さん、姉さん。うん、もう全然痛くないよ。……でも、その大根の山はなに?」

拓也がキッチンのボウルを指差して呆然としているのを見て、三月は「えへへ」と照れくさそうに笑った。

「久しぶりに包丁を握ったら、楽しくなっちゃって。……さあ、拓也は座ってて! すぐに朝ごはんの準備ができるから!」

三月は、拓也の背中を優しく押し、席へと座らせた。

(……よかった。顔色もいいし、あの痛々しい眼帯も外してる)

三月は、拓也の横顔を愛おしそうに見つめた。

自分が『魂喰い』によって消滅しかけていたあの死闘の最中、極限の脳内処理で常に血を流し、ボロボロになっていた弟の姿を、三月は魂の奥底でずっと感じ取っていた。

今は、そんな無理をする必要はない。ただの十四歳の男の子として、穏やかに笑っていてくれれば、それだけでよかった。

「はい、お待たせ! 如月家特製、三月の愛情たっぷり朝ごはん定食だよ!」

テーブルに並べられたのは、炊きたての白いご飯、豆腐とワカメの味噌汁、ふっくらと焼かれた鮭、出汁巻き卵、そして山盛りの大根サラダ。

「「「「いただきます」」」」

家族四人で手を合わせ、朝食が始まる。

拓也は、お箸で出汁巻き卵を一口かじった。

「……おいしい」

たった一言。

それを口にした瞬間、拓也の瞳から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「あっ……あれ?」

拓也は慌てて手で涙を拭おうとしたが、一度決壊した涙腺は、止まることを知らなかった。

過酷な戦場でも決して泣かなかった少年が、ぽろぽろと、ご飯茶碗を見つめながら子供のように泣き始めたのだ。

「拓也……?」

三月は、胸が締め付けられるような思いで、弟の顔を覗き込んだ。

「ごめん……違うんだ。悲しいんじゃなくて……」

拓也は、しゃくり上げながら、必死に言葉を紡いだ。

「ずっと、怖かった。……俺が指揮を間違えたら、皆が死んじゃうかもしれない。……俺の眼がバグを見落としたら、姉さんの魂が完全に崩壊して、一生起きないかもしれない……っ」

その言葉を聞いて、三月の目からもボロボロと涙が溢れ出した。

どれだけのプレッシャーだっただろうか。

魔力を持たないただの凡人が、人類の存亡と、最愛の姉の魂を両天秤にかけ、絶対にミスの許されない指揮を執り続けていたのだ。

「でも……いま、こうして、四人でご飯を食べてる。……姉さんの作ったご飯を、また食べられてる。……それが、嬉しくて……っ」

三月は、たまらず席を立ち、拓也の小さな頭を両手で強く、優しく抱きしめた。

「……頑張ったね、拓也。一人で、全部背負って。……怖い思いをして、いっぱい傷ついて、それでも私の魂を繋ぎ止めてくれて」

三月は、自身の頬を拓也の髪にすり寄せながら、心からの感謝と愛情を込めて囁いた。

「本当に、ありがとう。……もう、大丈夫だよ。これからは、私がずっと拓也を守るから。拓也は、もう無理して戦わなくていいんだよ」

「姉さん……っ、うわぁぁぁぁぁんっ!!」

拓也は、三月の胸に顔を埋め、ついに声を上げて泣き崩れた。

両親もまた、目元をハンカチで拭い、抱き合う姉弟を優しく見守っていた。

三月は、泣きじゃくる弟の背中を撫でながら、改めて強く、強く心に誓った。

この温かい日常を、そして愛する家族を、これからは自分の力で絶対に守り抜いてみせると。

それからしばらくして。

すっかり泣き止み、少しだけ目を赤くした拓也が、照れくさそうにご飯のおかわりを要求して食卓の空気が和んだ頃。

三月は、食後の温かいお茶をすすりながら、ふと、あることを思い出した。

「……そういえばさ、拓也」

「ん?」

「私を助けるために、拓也に協力してくれた『極星』の人たちのことなんだけど」

三月の脳裏に、拓也から聞いていた情報が思い浮かぶ。

神宮寺蒼太、風間蓮、瀬戸玲奈といった日本のトップランカーたち。

さらにはアメリカ最強のSランク、レオン・カーターや、南米の総司令カルロス・リベラなど、そうそうたる顔ぶれだ。

「みんな、すごく強くて、優しくて、最高の仲間だよ」

拓也が、誇らしげな笑顔で答える。

「そっかぁ。……皆、今は東京の探索者協会のホテルで休んでるんだよね?」

三月は、にっこりと極上の笑顔を浮かべた。

だが、その内面では、かつて世界最強と恐れられたSランク探索者としての『理不尽極まりない激情』が、グツグツと煮えたぎっていた。

(……確かに、拓也を助けてくれたことには感謝してる。でも)

三月の背後から、ゴゴゴゴゴ……と、ドス黒いオーラのようなものが立ち昇り始める。

(魔力もない十四歳の男の子に、あんなボロボロになるまで指揮を執らせて、最前線に立たせて、果ては自らを大砲の弾代わりに特攻させるなんて……。どんな神経してるの、その大人たちは)

「ねえさん……? なんだか、背中からすごいオーラが出てるけど……」

拓也が、思わず引き攣った笑いを浮かべる。

「ううん、なんでもないの!」

三月は、バチン! と両手を合わせた。

「ただね、私の可愛い可愛い弟を、あんな危険な死地に連れ回した大人たちには……お姉ちゃんとして、一度しっかりと『ご挨拶』をしておかなきゃいけないなって、思っただけだよ♪」

「……ご挨拶?」

「そう! 拓也の仲間として本当にふさわしいかどうか、この私が直々に、実力テストをしてあげるの!」

三月の瞳の奥で、好戦的な光がキラリと輝いた。

日本最高峰のプロである神宮寺や風間、そして世界最強クラスのレオンやカルロス。

彼らがどれほどの猛者であろうとも、彼女の目から見れば「可愛い弟を危険に晒した不届き者」でしかないのだ。

(神宮寺さん、レオンさん……。どうか、無事でいてください)

拓也は、心の中でそっと手を合わせた。

世界は救われた。

しかし、東京でくつろいでいるであろう極星の大人たちにとっては、第一魔卿バエルよりも恐ろしい『最強のブラコン姉』という理不尽な厄災が、すぐそこまで迫っていたのである。

もし「面白かった!」「三月姉さんの実力テストが楽しみすぎる!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります。

次回、三月が探索者協会へ殴り込み(?)ます! ご期待ください!

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