第217話:天空への弾丸、成層圏突破と破壊の雷霆
日本探索者協会の地下最下層に位置する、巨大な極秘格納庫。
そこには、かつて誰も見たことがないような異形の航空機が、発射レールの上に鎮座していた。
「……おいおい、鉄山のオッサン。こいつはいくらなんでも、イカれすぎじゃねえか?」
風間蓮が、首が痛くなるほどに見上げながら、呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな声を上げた。
全長およそ五十メートル。黒光りする極厚の防魔合金で覆われたその機体は、一般的な航空機というよりも、巨大な「大砲の弾丸」に鋭い主翼と無数のブースターを取り付けたような、極めて無骨で暴力的なフォルムをしていた。
「名付けて、成層圏突入用・特装強襲艇『天貫』だ」
灼熱の葉巻を咥えた鉄山厳が、自慢の最高傑作を前にして獰猛な笑みを浮かべる。
「高度二万メートルの成層圏……そこは空気が薄すぎて、通常の航空機のジェットエンジンじゃあ燃焼が続かねえ。だからこいつは、純粋な『魔力推進』と『物理的なロケットブースター』の力だけで、力任せに空へブチ上がるように設計してある」
「なるほどな。俺たちを弾丸に見立てて、空に浮かぶ城へ直接撃ち込もうってわけか。最高に頭の悪い、俺たち向けの作戦だぜ!」
アメリカ最強のSランク、レオン・カーターが大剣を肩に担ぎながら豪快に笑う。
「だが、ただ真っ直ぐ飛ぶだけじゃねえんだろ? 第一魔卿のバエルとやらが、大人しく俺たちを城に招き入れてくれるとは思えねえからな」
南米の総司令カルロス・リベラが、機体の装甲をバンバンと叩きながら尋ねる。
「その通りです」
車椅子に乗った迷宮学者の東雲慧が、手元のタブレットを操作して機体の側面にホログラムを展開した。
「バエルの『天空の冥城』の周囲には、濃密な魔力雲が渦巻き、絶え間なく『破壊の雷霆』が降り注いでいる。……この天貫の装甲なら、数発の直撃には耐えられるが、それ以上被弾すれば推進器がやられて墜落する。……回避行動は必須だ」
「回避って言っても、こんな鉄の塊、空中でどうやって避けるんだよ。俺たちの反射神経じゃ、操縦桿を握っても雷には追いつけねえぞ」
風間が肩をすくめる。
「操縦は自動ではありません。……俺が、直接やります」
陣形の中央から、如月拓也が一歩前へと進み出た。
彼の右眼を覆う眼帯の下には、いかなる死地においても真実を視抜く『深層言語・限定解析』の青い光が静かに宿っている。
「天貫のメインシステムには、俺の脳波と直結するインターフェースが組み込まれています。……バエルの放つ雷の軌道、魔力の収束点、空間の歪み。そのすべてを俺の眼で先読みし、コンマ一秒の狂いもなく機体を制御して、城の結界をぶち抜きます」
拓也の言葉に、日本のトップ魔術師・九条炎樹が面白そうに鼻を鳴らした。
「フン……。南極で脳みそが焼き切れそうになってたくせに、今度は高度二万メートルの対空砲火を全部脳内で処理しようってのか。相変わらず、無茶苦茶な若大将だぜ」
「無茶ではありません。俺一人なら墜落するかもしれませんが、この船には皆さんが乗っていますから」
拓也は、振り返って極星の大人たちを見渡した。
「神宮寺さんと瀬戸さんは、機体の内側から結界を張り、装甲の強度を底上げしてください。風間さんと九条さんは、推進器がオーバーヒートした際の冷却と再点火の補助を。レオンさん、カルロス司令、不知火さんは、城の防壁を物理的にぶち破るための準備を」
拓也の真っ直ぐな瞳。そこには、ただの一点の曇りもない、仲間への絶対的な信頼があった。
「我々は最強のパーティだ。……誰一人欠けることなく、必ずあの玉座まで辿り着いてみせる。……頼むぞ、拓也くん」
神宮寺蒼太が、大盾を構えて力強く頷く。
「ええ。……行きましょう。最後の悪魔を、空から引きずり下ろすために」
拓也の号令と共に、合同遠征軍のメンバーが次々と『天貫』の機内へと乗り込んでいく。
機内は必要最低限の空間しかなく、それぞれの座席は凄まじいG(重力加速度)に耐えるための頑丈な拘束具で覆われていた。
最前列の操縦席に座った拓也は、ヘルメットから伸びる数本のケーブルを自身の眼帯の横、こめかみのデバイスへと接続する。
『――メインシステム、接続完了。魔力炉心、臨界まであと十秒』
機内のスピーカーから、無機質なアナウンスが響く。
「姉さん……。行ってくるよ」
拓也は操縦桿を握りしめ、小さく呟いた。
『3、2、1……射出!!』
ズドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
日本探索者協会の地下から、地上へと続く巨大な発射サイロ。
天貫のメインスラスターが爆発的な魔力の炎を噴き出し、五十メートルの鉄の塊が、文字通り「弾丸」となって天空へと撃ち出された。
「ぐ、ぅぅぅぅッ!!」
「オハァァァァッ!? なんだこのGは!! 臓腑が口から飛び出そうだぜ!!」
風間とカルロスが、座席に押し付けられながら悲鳴のような声を上げる。
音速などとうの昔に置き去りにし、天貫は大気を切り裂きながら、一直線に空の彼方へと突き進んでいく。
高度五千メートル、一万メートル、一万五千メートル。
窓の外の景色が、青い空から徐々に「漆黒の宇宙」に近い色へと変わっていく。
そして、高度二万メートルの成層圏に到達したその時。
『……見えたぞ。あれが、バエルの天空の冥城か!』
レオンが、窓に顔を近づけて息を呑む。
黒い空のど真ん中に、巨大な「漆黒の逆さ城」が浮かんでいた。
重力の概念を完全に無視し、尖塔を地球に向けて突き立てるように滞空するその城は、周囲にドス黒い魔力の雲を侍らせ、絶え間なく赤い雷光を瞬かせている。
「来ます!! 敵の防衛システムが起動しました!」
拓也の右眼が、機体のセンサーと同期し、青白いフラッシュを放つ。
バチバチバチッ!!
城の周囲に広がる魔力雲から、天貫へ向けて、直径数メートルにも及ぶ『赤い破壊の雷』が数十本同時に放たれた。
「右舷スラスター、出力百二十パーセント! 左舷、一瞬だけカット!」
拓也の脳波による直感的な操縦が、巨体を信じられないほどの鋭角でロールさせる。
放たれた赤い雷が、天貫の装甲のわずか数センチ横を通り過ぎ、虚空へと消えていく。
「神宮寺さん、瀬戸さん! 前方に不可避の雷の網が張られます! 正面装甲に結界を集中して!」
「承知ッ! 我が盾にて、天を穿つ!!」
「『白銀の浄化陣・聖域の盾』!!」
神宮寺と瀬戸の魔力が天貫の機首に極大の防壁を展開する。
直後、回避不能の赤い雷が真正面から激突したが、結界と防魔合金の装甲がそれを強引に弾き飛ばした。
「推進器の温度が危険域です! 風間さん、冷却を!」
「任せな! 『絶氷・極寒の風』!!」
「九条さん、右のブースターが魔力不足で失火します! 炎で直接再点火を!」
「人使いの荒い指揮官殿だぜ! 燃え上がれェッ!!」
船内の大人たちが、拓也の矢継ぎ早の指示にコンマ一秒の狂いもなく応え、限界を超えた機体のスペックを強引に引き出していく。
「……突破します!! レオンさん、カルロス司令、不知火さん! 突入と同時に、城の外殻をブチ破ってください!」
拓也が操縦桿を限界まで押し込む。
天貫は、赤い雷の豪雨を完全にすり抜け、天空の冥城の『漆黒の結界』へと真っ直ぐに特攻を仕掛けた。
「オラァァァァァッ!! 開けやがれェェェッ!!」
天貫の機首が結界に激突し、凄まじい衝撃と火花が散る中、ハッチから飛び出したレオン、カルロス、そして八咫烏の面々が、持てる全ての物理破壊力を城の外壁へと叩き込んだ。
ガシャァァァァァァンッ!!!!
第一魔卿バエルの絶対防壁が、極星たちの力によってガラスのように砕け散る。
地球を縛る最後の特異点、天空の冥城。
人類の希望を乗せた一発の弾丸は、ついにその心臓部へと、強烈な楔を打ち込むことに成功したのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
極星たちを乗せたロケット「天貫」での大気圏突破! 拓也の眼の先読みと、大人たちの完璧な役割分担による熱い対空戦はいかがでしたでしょうか?
ついにバエルの居城へと強行突入を果たし、いよいよ最終決戦の火蓋が切られます。
ここから先の「天空の冥城」内部の攻略について、皆さんはどのような展開を予想されますか? ぜひコメントで教えてください!
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