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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第三章:世界崩壊と魂の誓い

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第216話:帰還と極限の代償、空に浮かぶ最後の特異点

第六魔卿グラキエスが消滅し、絶対零度の水晶宮が崩壊を始めた数時間後。

南極大陸の魔力干渉が薄れたタイミングを見計らい、合同遠征軍は日本探索者協会本部へと通じる帰還ポータルを潜り抜けた。

「……ッ、ハァァァァッ! 暖けええええええっ!!」

東京の帰還フロアに足を踏み入れた瞬間、風間蓮がその場に大の字に倒れ込み、天井の空調エアコンから吹き出す生ぬるい風を全身で浴びて叫んだ。

「おいおい、氷使いのテメェが寒さに泣き言を言ってどうすんだよ」

アメリカ最強のSランク、レオン・カーターが呆れたように笑いながら、巨大な魔剣を床に置く。

「馬鹿野郎、いくら氷の魔力に耐性があるからって、マイナス162度の絶魔空間でずっと結界を維持し続けるのがどれだけ神経をすり減らすか、テメェら筋肉ダルマに分かってたまるか!」

風間が寝転がったまま悪態をつく。

「風間の言う通りだ。……鉄山殿の『天照アマテラス』がなければ、我々の魔力はグラキエスの玉座に辿り着く前に完全に底をついていただろう」

神宮寺蒼太もまた、重厚な大盾を下ろし、ドッと深い疲労の息を吐き出した。

彼らの表情は疲労困憊そのものだったが、その瞳には六つ目の特異点を破壊し、人類の生存圏を守り抜いたという確かな誇りと達成感が満ちていた。

「フン。俺の炎をカイロ代わりに使わせてやったんだ。後で極上の酒でも奢ってもらうからな」

日本のトップ魔術師・九条炎樹が、素直ではない態度で首の骨を鳴らす。

「カッカッカ! 上等だ! 六匹目のバケモノをぶっ飛ばした祝いだ、今夜は東京の酒場を貸し切ってどんちゃん騒ぎと行こうぜ!」

南米の総司令カルロス・リベラが、豪快に笑いながら風間の背中をバンバンと叩いた。

極星の大人たちが無事の帰還を喜び合う中、陣形の中央にいた如月拓也は、ふらりとその場に膝をつきそうになった。

「拓也くん!?」

すかさず隣にいた瀬戸玲奈が駆け寄り、拓也の小さな身体をしっかりと支える。

「……すみません、瀬戸さん。少し、立ちくらみが……」

拓也は、右眼を覆う眼帯をギュッと押さえながら、荒い息を吐いた。

「無理もありません! グラキエスの絶対防壁の綻びを視抜くために、ずっと眼の能力を限界まで使い続けていたんですから……! 今すぐ治癒を掛けます!」

瀬戸が慌てて白銀の杖を構え、拓也の頭部に温かい治癒の魔力を注ぎ込む。

拓也の右眼の能力――『深層言語・限定解析』。

それは、魔法のように魔力を外へ放つ超常の力などではない。

視界から得た敵の魔力流動、構造の弱点、空間の歪みといった膨大な情報を、拓也自身の『脳』が経験と戦術的知識を駆使して処理し、瞬時に最適解を導き出しているに過ぎない。

魔力を持たない凡人の少年の頭脳に、スーパーコンピューター並みの情報処理を強制し続ける諸刃の剣。

グラキエスとの死闘において、絶対零度の処理構造を無理やり脳内にダウンロードし続けた拓也の神経は、すでに焼き切れる寸前の極限状態にあったのだ。

「……大丈夫です。瀬戸さんの治癒のおかげで、少し楽になりました」

拓也は、痛む頭を振り払い、心配そうに覗き込む大人たちへ向けて無理に微笑んでみせた。

「無茶しやがって。テメェのそのアタマがなけりゃ、俺たちは氷の彫刻にされてたんだ。今日はもう、泥のように眠れ」

レオンが、拓也の頭を大きな手で優しく撫でる。

「……はい。ですがその前に、少しだけ行きたい場所があります」

拓也は、大人たちの気遣いに感謝しながら、一人で探索者協会の地下へと足を向けた。

日本一の鍛冶師・鉄山厳が構える『黒鉄堂・別館医療室』の地下。

厳重な防魔合金の扉を開けると、そこには静かな駆動音を立てる生命維持ポッドがあった。

青白い培養液の中で、穏やかな表情で眠っているのは、最愛の姉・如月三月。

「……ただいま、姉さん」

拓也は、ポッドの分厚いガラスにそっと右手を触れた。

酷使した右眼の奥でズキズキと脈打つ痛みが、ガラス越しに伝わってくる姉の微かな魔力の温もりによって、少しだけ和らいでいくような気がした。

拓也の眼の能力は、魂の共鳴などという魔法的なものではない。彼自身の血の滲むような思考訓練と、戦術の丸暗記によって培われた純粋な「個人の努力」の結晶だ。

しかし、その極限の負荷に耐え、決して心が折れることなく戦い続けることができるのは、間違いなくこのポッドの中で眠る姉の存在があったからだ。

『絶対に、姉さんの魂を救い出す』

その狂信的なまでの愛情と決意が、拓也の脳のストッパーを外し、凡人でありながら極星たちを束ねる絶対的な指揮官として彼を立たせている。

「……あと、一つだよ」

拓也は、ポッドの中で眠る姉に向かって、静かに語りかけた。

「残る特異点は、最後の一個だけ。……それを壊せば、姉さんの魂を縛り付けている鎖は全部なくなる。もうすぐ、迎えに行くからね」

拓也は、深く、深く一礼し、踵を返して病室を後にした。

彼の心には、肉体の疲労を忘れさせるほどの、分厚く強固な決意の炎が燃え続けていた。

翌朝。

日本探索者協会の地下深くに設けられた、極秘の最高戦略会議室。

そこには、拓也たち『特務遊撃パーティ』の四人に加え、レオン、カルロス、九条、不知火といった日米南米のトップランカーたち、そして迷宮学者の東雲慧と協会のセバスチャンが集結していた。

室内の空気は、昨日の帰還の安堵から一転し、極度に張り詰めた重苦しいものへと変わっていた。

「……皆、酷なことを言うようだが、祝杯を上げている時間はないようだ」

東雲慧が、白衣のポケットに手を突っ込んだまま、中央のホログラムモニターを起動した。

そこに映し出されたのは、地球全体の魔力観測図。

エジプト、ヴェネツィア、アマゾン、南極など、これまで特異点が存在していた場所からは、完全に魔力の反応が消え失せている。

だが、その代わりに。

「六つの特異点が破壊されたことで、行き場を失った冥淵の魔力は、残る『最後の一つ』へと完全に一極集中した。……その結果、第七の特異点は、これまでの魔卿たちの領域とは比較にならないほどの、規格外の質量を持って顕現しようとしている」

東雲がモニターを操作すると、太平洋の中央、はるか上空の成層圏の映像が映し出された。

「……なんだ、こりゃあ」

風間が、その映像を見て言葉を失う。

青い空を覆い隠すように、巨大な『漆黒の逆さ城』が空に浮かんでいた。

周囲の空間の光を歪ませ、絶え間なく赤い雷光を放つその超巨大な要塞は、まるで地球という惑星そのものに突き立てられた「巨大な杭」のような威圧感を放っている。

「第七の特異点……『天空の冥城てんくうのめいじょう』。現在、太平洋のど真ん中、高度二万メートルの成層圏に滞空している」

セバスチャンが、手元の資料を展開しながら重々しく説明を引き継ぐ。

「この最後の特異点を支配しているのは、冥淵の頂点に君臨する悪魔……第一魔卿『バエル』。純粋な破壊と崩壊の概念を司る、最強の魔王です」

「第一魔卿バエル……」

レオンが、大剣の柄を握りしめながら低く唸る。

「バエルは現在、この『天空の冥城』の最深部で、地球上のあらゆる魔力を自身の玉座へと吸い上げ、最終的な崩壊魔法のチャージを行っています。……これが完了すれば、天空の冥城は巨大な質量兵器として地球に落下し、星そのものを物理的に砕き割るでしょう」

「星を砕くだと!? 冗談じゃねえ、そんなデカブツが落ちてきたら、人類の生存圏どころか、地球上の生命が全部消し飛ぶぞ!」

カルロスが、バンッとテーブルを叩いて立ち上がる。

「タイムリミットは、およそ四十八時間。……それまでに、あの高度二万メートルの城へ突入し、第一魔卿バエルを討伐しなければならない」

東雲が、静かに眼鏡を押し上げた。

会議室に、重苦しい沈黙が降り下りる。

相手は、純粋な破壊を司る最強の魔卿。しかも戦場は、酸素も満足にない高度二万メートルの空に浮かぶ逆さ城。

これまでのいかなる絶望とも比較にならない、正真正銘の最終決戦。

だが、極星の大人たちの瞳に、絶望の色は微塵もなかった。

「……高度二万メートルだろうが、宇宙の果てだろうが関係ねえ」

風間蓮が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。

「俺たちがここまで、どれだけの地獄を乗り越えてきたと思ってんだ。最後の親玉が空に引きこもってるなら、無理やりにでも引きずり下ろしてボコボコにしてやるだけだろ」

「その通りだ。……いかなる崩壊の力が待ち受けていようと、我らが最強の矛と盾が、君の往く道を切り拓こう」

神宮寺蒼太もまた、大盾を置いた腕を力強く組み、拓也へ向けて深く頷いた。

「ハッハッハ! そうこなくっちゃな! 日本の若大将の最後の采配、俺たち全員で完璧に踊り切ってやるぜ!」

レオンとカルロスが、豪快に笑いながら拳を突き合わせる。

「……ありがとうございます、皆さん」

拓也は、青く澄んだ右眼で、ホログラムに映し出された漆黒の逆さ城を静かに視据えた。

残る特異点は、あと一つ。

最愛の姉の魂を救い出し、この世界に明日を取り戻すための、最後の戦い。

人類の希望をすべて背負った最高峰の連合軍は、第一魔卿バエルが待つ天空の死地へ向けて、最後の出撃の準備を始めるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

南極からの帰還、そして休む間もなく明かされる最後の特異点「天空の冥城」と第一魔卿バエルの存在。

拓也の眼の能力も、魔法の力ではなく彼自身の「極限の脳内処理」であることが改めて描かれ、その代償の重さも明らかになりました。

それでも彼が立ち止まらないのは、三月への揺るぎない想いがあるからです。

次回から、いよいよ本作の最終決戦となる「天空の冥城」編がスタートします!

もし「面白かった!」「最終決戦が楽しみ!」と思っていただけましたら、

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