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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第二話:初めての『大金』と、消えない飢え

静まり返ったダンジョンの通路で、

三月はしばらくの間、自分の両手を見つめていた。

傷一つない、綺麗な手の平。

しかし、その皮膚の下を巡る血液は、

数分前とは明らかに違う、不気味な熱を帯びて脈打っている。

「はぁ、はぁ……」

呼吸が整うにつれて、脳を支配していた強烈な快感が、

ゆっくりと引いていくのが分かった。

代わりに押し寄せてきたのは、信じられないほどの身体の軽さだ。

いつもなら、安物の革鎧の重みや、

歩き回った疲労で足が鉛のように重くなっているはずだった。

それが今の三月には、まるで羽でも生えたかのように軽く感じられる。

【ホブゴブリンの魂の捕食を完了しました】

【身体能力が永続的に上昇します】

【スキル『怪力(微)』を獲得しました】

頭の中に響いた、あの冷徹なアナウンス。

幻聴ではなかった。

三月は足元に転がっている、ホブゴブリンの石斧へ視線を向けた。

丸太のように太い木と、巨大な岩で作られた、

人間の力では持ち上げるのすら困難なはずの凶器。

吸い寄せられるように近づき、その柄を片手で握ってみる。

「……軽い」

信じられないことに、ただの木の枝でも持ち上げるかのように、

片手でひょいと持ち上がってしまった。

これが、怪物の命を喰らったことで手に入れた『力』。

恐怖よりも先に、ゾクリとした震えが背筋を駆け抜ける。

だが、三月はすぐに首を振って、その感覚を振り払った。

「ダメ……今は、これを早く換金しなきゃ」

視線の先には、ホブゴブリンが消滅した後に残された、

拳ほどもある、深く淀んだ緑色の魔石。

浅層の角ウサギなどが落とす米粒のような魔石とは、

比べるまでもない圧倒的な存在感と輝きを放っている。

三月は魔石を拾い上げると、泥を拭ってポケットの奥深くへと仕舞い込んだ。

弾き飛ばされた自分の鉄の剣を回収し、

これ以上、他の怪物に遭遇しないよう、祈るような気持ちで通路を引き返した。

――世界が再び、反転する。

発光するキノコの光が消え、

目の前に現れたのは、見慣れた新宿のコンクリートの景色だった。

立ち並ぶビルの群れ、灰色の空、

そして、排気ガスの臭いと、行き交う人々の話し声。

ダンジョンから出てきた三月を振り返る者は、誰もいない。

毎日、何百人もの探索者がこの穴を出入りしているからだ。

三月は早足で歩き、すぐ近くにある『探索者協会』の支部へと向かった。

ガラス張りの近代的な建物の内部は、

怪物の素材を抱えた探索者たちでごった返していた。

三月は、一番隅にある換金窓口の列に並ぶ。

自分の番が回ってくると、窓口の女性職員が、

いかにも事務的な、疲れ切った笑顔で三月を迎えた。

「お疲れ様です。本日分のドロップ品の提示をお願いします」

「……お願いします」

三月はポケットから、あの緑色の巨大な魔石を取り出し、

受付のトレイの上に静かに置いた。

その瞬間、職員の動きがピタリと止まった。

事務的な笑みが一瞬で消え去り、その目は限界まで見開かれる。

「これ……っ、ホブゴブリンの魔石……!?

 しかも、傷一つない極上品……!?」

職員の驚愕の声に、周囲にいた他の探索者たちの視線が一斉にこちらを向いた。

ざわざわと、不穏な囁き声が広がり始める。

「おい、あいつFランクのバッジつけてるぞ」

「嘘だろ、ソロでホブゴブリンを狩ったのか?」

「いや、どっかのパーティの横取りか、拾ったんじゃないか?」

痛いほどの視線が突き刺さる。

三月はあらかじめ考えていた言い訳を、努めて冷静な声で口にした。

「迷宮の隅で、偶然死にかけていた個体を見つけて……

 動けなくなっていたので、夢中でトドメを刺したんです」

「あ、なるほど……そういうこと、ですか」

職員は、納得したように安堵の息を漏らした。

ダンジョン内はカメラも電波も届かない魔境だ。

時折、強力な怪物同士が縄張り争いをして相打ちになったり、

高ランクのパーティが仕留め損ねた怪物が、浅層で力尽きたりすることがある。

運良くその現場に居合わせた、幸運なだけのFランク。

周囲の探索者たちも「なんだ、ただのラッキーか」と、

興味を失ったように視線を外した。

「……では、真贋の鑑定と魔力密度の測定を行います。

 少々お待ちください」

魔石が専用の機械に入れられ、数分間の沈黙が流れる。

三月は、心臓の鼓動が早くなるのを抑えられなかった。

もし、魂を喰らった形跡などがバレたらどうしよう、という不安が頭をよぎる。

だが、機械の電子音が鳴り、提示された画面を見た職員は、

ただただ感嘆の溜息を漏らすだけだった。

「素晴らしい品質です。

 ホブゴブリンの討伐証明も含めまして……

 換金額は、合計で四十五万円になります」

「よんじゅう……五万……」

三月の口から、かすれた声が漏れた。

いつも角ウサギを必死で狩って、一日の稼ぎは良くて数千円。

一ヶ月死に物狂いで働いても、十万円に届くかどうかという世界だ。

それが、たった一回の、あの短い戦闘だけで、

母親のパート代の数ヶ月分に相当する大金に変わった。

手渡された厚みのある封筒。

その重みを感じた瞬間、三月の指先が小刻みに震え出した。

「あ、ありがとうございました……!」

頭を深く下げ、三月はひったくるように封筒を掴むと、

逃げるように探索者協会を飛び出した。

外はすっかり日が落ちて、歌舞伎町のネオンが眩しく街を照らしている。

行き交うサラリーマンや若者たちの雑踏をすり抜け、

三月は一番近くにあるコンビニのATMへと駆け込んだ。

狭いブースに入り、鍵をかける。

封筒から取り出した札束を、ATMの投入口へと入れた。

機械が紙幣を数える、独特の乾いた音が狭い空間に響く。

画面に表示された金額を確認し、三月は実家の口座へとそのほとんどを振り込んだ。

手数料が引かれ、振込完了の文字が表示される。

画面を見つめながら、三月は深い、深い、安堵の息を吐き出した。

これで、今月の家賃が払える。

大家さんから催促の電話が来て、母親が電話口で何度も頭を下げている姿を、

もう見なくて済むのだ。

そればかりか、弟が欲しがっていた、高額な受験用の参考書も、

冬期講習の費用も、すべてここから出してあげられる。

携帯電話を取り出し、母親の番号を呼び出す。

数回のコールの後、受話器の向こうから、

聞き慣れた、けれどどこか疲れ切った母親の声が聞こえてきた。

『もしもし、三月? どうしたの、こんな夜遅くに。

 今、仕事が終わって、これからスーパーに寄ろうと思ってたんだけど……』

「お母さん、今ね、お金振り込んだから」

三月は、涙が出そうになるのを必死に堪えながら、明るい声を意識した。

『え……? お金って、何のこと?』

「今月の家賃と、あと、拓也の塾の費用。

 全部、お母さんの口座に入れたから。確認してみて」

『ちょっと、三月!? そんな大金、一体どうしたの……!?

 まさか、危ないことでもしたんじゃ……!』

母親の声が、一瞬で狼狽と恐怖に染まる。

娘が、命の危険があるダンジョンに潜っているだけでも、母親は毎日生きた心地がしていないのだ。

そこに突然の大金が振り込まれれば、不吉な想像をするのも当然だった。

「大丈夫だよ、本当に!

 今日ね、ダンジョンの中で、たまたま高ランクの人が倒し損ねた怪物が倒れてたの。

 私がトドメだけ刺したら、すごい高い魔石が手に入って……

 協会の人も、本当に運が良いねって驚いてたくらいなんだから」

『本当に……? 本当に、危ないことはしてないのね……?』

「うん、嘘じゃないよ。

 だから……もう無理して、夜の深夜パートに行かなくていいからね。

 ちゃんとお家で、ご飯食べて、寝てね」

受話器の向こうで、一瞬の沈黙があった。

そして、小さく、鼻をすするような音が聞こえてくる。

『……ありがとう。ありがとう、三月……。

 本当に、助かったわ……。拓也も、これで喜ぶわ……』

何度も、何度も、消え入りそうな声で「ありがとう」を繰り返す母親。

その声を聴きながら、三月は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

よかった。

私の選択は、間違っていなかった。

あの時、死を前にして、あの不気味な力を受け入れたことは、

家族を救うために、絶対に正しかったんだ。

電話を切り、コンビニのブースを出る。

新宿の夜風が、火照った三月の頬を撫でた。

家賃も払えた。弟の未来も繋がった。

すべてが解決したはずだった。

しかし。

「……っ」

三月はふと、自分の胸のあたりを強く押さえた。

安心感と幸福感の、すぐ裏側。

胃袋の奥の奥から、じわじわと、黒い『何か』が這い上がってくるのを感じた。

それは、あのホブゴブリンの魂を喰らった時に感じた、

脳が溶けるような、圧倒的な快感の残り香。

そして、それと同時に突きつけられる、強烈なまでの『物足りなさ』。

たった四十五万円。

たった一匹の、Dランクの怪物。

家族を救えたという満足感とは全く別の場所で、

彼女の魂は、すでに激しい飢餓感に苛まれていた。

もっと強い怪物を。

もっと濃厚な、あの青白い魂を。

この身に、もっと、もっと注ぎ込みたい。

「私……何を考えて……」

自分の思考の異常さに気づき、三月はゾッとして自分の両腕を抱きしめた。

一度その味を占めてしまった魂は、

もう二度と、角ウサギのような雑魚では満足できない体になってしまっている。

けれど。

恐怖を感じながらも、三月の唇は、

誰にも気づかれないほど微かに、歪な弧を描いていた。

生活のために、怯えながら潜っていた、あの忌々しいダンジョン。

それが今や、自分にとっては、

世界で唯一、この強烈な『飢え』を満たしてくれる最高の狩場に見えていた。

「明日も……行こう」

ぽつりと、夜の雑踏に消えるような声で呟く。

貧乏なFランクの少女は、

家族を救うための免罪符を胸に抱きながら、

より深い深淵へと、自らその足を一歩踏み出そうとしていた。

第二話をお読みいただき、ありがとうございました!

無事に大金を稼ぎ、家族を救うことができた三月。

しかし、お金の悩みから解放された途端、今度は「魂への飢餓感」という新たな異常が彼女を蝕み始めます……。

家族のための戦いが、いつしか自身の飢えを満たすための「狩り」へと変質していくダークな展開を、これからもお楽しみください!

少しでも面白いと思ってくだされば、ブックマークや**評価(↓の☆☆☆☆☆)**で応援していただけると非常に励みになります!

それでは、第三話でまたお会いしましょう。

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