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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第一話:貧乏Fランクと、最凶の目覚め

スマートフォンに表示された銀行口座の残高は、

相変わらず目を覆いたくなるような桁数だった。

3桁。

数百円しか残っていない現実が、容赦なく突きつけられる。

「はぁ……」

重い溜息が、ジメジメとした梅雨時の空気の中に溶けていった。

ここは東京、新宿の片隅。

立ち並ぶ高層ビルの狭間に、ぽっかりと不気味な口を開けた漆黒の穴がある。

光すらも吸い込むその深淵こそが、

十年前に突如として現代日本に現れた『ダンジョン』の入り口だった。

「……よし。行こう」

如月三月きさらぎ みつきは、

使い古した安物の革鎧の紐を、痛いくらいに強く締め直した。

今年で十八歳。

本来なら、高校を卒業して大学に通ったり、

友達とお洒落なカフェに行ったりして、楽しい青春を謳歌している年齢だ。

しかし、彼女が選んだのは、泥と血に塗れて怪物を殺す『探索者』の道だった。

理由はただ一つ。家が酷く貧乏だからだ。

数年前に大病を患い、まともに働けなくなってしまった父。

朝から晩までいくつもパートを掛け持ちし、身を削るようにして働く母。

そして、今年受験を控えた、頭のいい自慢の弟。

弟をまともな高校、そしてその先の大学へ進学させるためには、

どうしても今すぐ、まとまった大金が必要だった。

しかし、現実というものはどこまでも残酷だ。

三月には、魔法の才能も、優れた武術のセンスもなかった。

探索者協会から与えられた階級は、最低の『Fランク』。

特別なスキルなど一つも持たず、

ただの安い鉄の剣をがむしゃらに振り回して、ダンジョンの浅層を走る毎日。

モンスターが落とすわずかな『ドロップ品』を換金して、

ようやくその日の食費と、気休め程度の薬代を稼ぐのが精一杯だった。

「一攫千金なんて贅沢は言わない。

 せめて、今月の家賃と、弟の新しい参考書代くらいは……」

自分に言い聞かせるように小さく呟き、

三月は現代日本と異世界を隔てる、境界線を踏み越えた。

――世界が一瞬で反転する。

排気ガスの悪臭と車の喧騒が、まるで嘘のように消え去った。

目の前に広がったのは、息をのむほど美しい、しかしどこまでも冷酷なファンタジーの世界。

見上げるほど巨大な、淡く発光するキノコが群生する地下迷宮。

湿った土の匂いと、大気を満たす濃厚な魔力の気配。

外はコンクリートに囲まれた現代の日本だが、一歩中に入れば、ここは剣と魔法の理が支配する異界だ。

三月は油断なく鉄の剣を構え、薄暗い岩肌の通路を慎重に進んでいく。

狙うのは、初心者向けの大人しいモンスター。

素早いだけの『角ウサギ』や、動きの鈍い『泥スライム』だ。

それらが時折落とす、小さな魔石や怪物の皮だけが、今の彼女の家族を繋ぐ命綱だった。

しかし、幸運の女神というやつは、貧乏人にはそう簡単に微笑んでくれない。

どすん、どすん、と。

通路の奥から、不気味な地響きが響いてきた。

それと同時に、鼻を突くような、肉を腐らせた強烈な悪臭が漂ってくる。

「……え?」

三月の身体が、恐怖で硬直した。

現れたのは、彼女の身長の倍はあろうかという、巨大で醜悪な人型生物。

緑色の禍々しい皮膚に、血管が浮き出た丸太のような腕。

その手には、べっとりと黒い血がこびりついた、大きな石斧が握られていた。

「ホブ……ゴブリン……!?」

三月の顔から、一気に血の気が引いていく。

本来、こんな浅層にいるはずのない、Dランク相当の上位個体。

何十人ものFランクが束になって、ようやく倒せるかどうかの凶悪な怪物だ。

単独で、しかもまともな装備もない三月が勝てる相手では断じてない。

本能が「逃げろ」と叫んだ。

回れ右をして、全速力で入り口へと走ろうとする。

だが、怪物の方が一歩早かった。

「ギシャアアアアアッ!!」

鼓膜を震わせる咆哮。

凄まじい突進の衝撃波が、三月の背中に襲いかかる。

振り返る間もなく距離を詰められ、ホブゴブリンの石斧が容赦なく振り下ろされた。

「くっ……!」

咄嗟に鉄の剣を盾にして防ごうとした。

しかし、圧倒的な質量と暴力の前に、安物の剣は無残にも一撃で弾き飛ばされた。

硬い岩の地面に、カランカランと虚しい音を立てて剣が転がっていく。

「あ、うあ……」

衝撃で地面に尻餅をつき、必死に後ろへ下がろうとする。

けれど、三月の背中は、すぐに冷たくて硬い岩壁に行き止まりを告げられた。

完全に退路を断たれた。

目の前には、勝ち誇ったように醜く裂けた怪物の口。

鋭い黄ばんだ牙の間から、粘り気のある汚い涎が、ぽたぽたと地面に落ちる。

石斧がゆっくりと持ち上げられた。

次の一撃で、自分の頭は熟した果実のように簡単に叩き潰されるだろう。

(死ぬ。私が、ここで死ぬんだ……)

目の前が暗転しかける。

恐怖で頭がどうにかなりそうだった。

だが、その絶望の淵で、三月の脳裏に浮かんだのは、

狭くて古いアパートで、自分の帰りを健気に待っている家族の姿だった。

「お姉ちゃん、おかえり」と笑ってくれる、大切な弟の顔。

私のために頭を下げてばかりいる、大好きな両親の姿。

(私が死んだら、お母さんはどうなるの……? 弟の学費は……?)

こんなところで、無様に食い殺されてたまるか。

理不尽なこの現実への怒りと、泥水をすすってでも生き延びてやるという執念が、

三月の胸の奥、魂の底で、爆発的な熱量となって弾けた。

「嫌だ……嫌だ……! 死んでたまるかあぁぁっ!」

その瞬間。

彼女の脳内に、これまで聞いたこともないような、

冷徹で、どこかおぞましい『声』が直接響き渡った。

【固有スキル『魂喰い(ソウルイーター)』の覚醒条件を満たしました】

【対象の魂の捕食を開始します】

「え……?」

三月の視界が、一瞬で真っ赤に染まった。

それと同時に、身体の底から、今まで経験したことのない底知れない『飢え』が湧き上がってくる。

それは胃袋が欲する渇きではない。

もっと根源的な、目の前の存在そのものを貪り尽くしたいという、狂気的な渇望。

気づけば、三月は恐怖を忘れて、自らホブゴブリンの懐へと飛び込んでいた。

武器はない。だから、素手で。

怪物の太い腕にがむしゃらにしがみつき、

その太い首筋に向けて、衝動のままに、自らの白い歯を突き立てた。

「ギ、ギギッ!?」

ホブゴブリンが、生まれて初めて体験する恐怖に目を見開いた。

人間を喰らうはずの怪物が、逆に、人間の少女に『喰われて』いる。

三月が噛みついた傷口から、血ではない『何か』が、津波のように体内に流れ込んできた。

それは、青白く不気味に輝く、ドロリとした精神の塊。

ホブゴブリンの命そのもの――『魂』だった。

「あ、は、あぁぁ……っ!」

脳の髄まで焼け付くような、凄まじい快感と万能感が三月を支配する。

魂が身体に流れ込んでくるたびに、

恐怖ですり減っていた体力が瞬時に全回復し、筋肉が、細胞が、爆発的に強化されていくのが分かった。

ホブゴブリンは悲鳴をあげることすら許されず、

みるみるうちに全身の肌が灰色に干からび、やがて光の粒子となって霧散した。

残されたのは、静まり返った薄暗い通路。

そして、地面に転がる、信じられないほど大きくて綺麗な、一個の魔石。

「はぁ、はぁ, はぁ……」

三月は、自分の両手を見つめた。

あれほど震えていた指先は、完全に止まっていた。

むしろ、今までにないほど身体が軽く、全身に強大な力が満ち溢れている。

【ホブゴブリンの魂の捕食を完了しました】

【身体能力が永続的に上昇します】

【スキル『怪力(微)』を獲得しました】

頭の中に響く不思議なアナウンス。

魂を喰らうことで、相手の力をそのまま自分のものにする。

それこそが、彼女の内に眠っていた、世界の理を覆す最凶の能力だった。

地面に落ちた、ホブゴブリンのドロップ品である巨大な魔石を拾い上げる。

これ一つを換金すれば、今までの数ヶ月分の稼ぎなんて簡単に吹き飛ぶだろう。

今月の家賃も、弟の参考書代も、すべて解決できるだけの価値がある。

「これ、なら……」

三月は低く呟いた。

その瞳の奥には、得体の知れない昏い光が宿っていた。

この不気味で、人道を外れた力を使い続ければ、自分はどうなってしまうのか。

人としての境界線を越えて、怪物になってしまうのではないか。

そんな恐怖は、確かにあった。

けれど、それ以上に。

もう二度と、お金のことで涙を流さなくて済むかもしれない。

家族を自分の力で守り抜けるかもしれないという、強烈な希望が、彼女の胸を満たしていた。

「もっと……もっと稼がなきゃ」

現代日本の片隅で。

貧乏なFランク探索者の少女は、静かに、怪物としての第一歩を踏み出した。

ご覧いただき、ありがとうございます。

今回の新連載は「現代ダンジョン×ダークヒーロー(ヒロイン)」をテーマに、

どん底の環境から這い上がる少女の物語を書いてみました。

主人公の三月みつきは、家族のためにすべてを懸けて戦う女の子です。

家が貧乏で、才能もなくて、それでも諦めずに泥水をすするような毎日。

そんな彼女が手に入れたのは、およそ正義の味方とは言えない、

怪物の命そのものを貪り尽くす「魂喰い(ソウルイーター)」という恐るべき力でした。

一歩間違えれば自分自身が怪物になってしまうかもしれない恐怖。

それでも、目の前のお金や家族の未来のために、

彼女はその昏い力に手を染めていくことになります。

怪物を喰らうたびに、肉体も能力も、そして精神も変質していく三月。

彼女がこの現代日本とファンタジーが入り混じる世界で、

どこまで登り詰めていくのか、ハラハラしながら楽しんでいただければ幸いです。

もし「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

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皆様の応援が、執筆の何よりの原動力になります。

それでは、第二話でお会いしましょう!

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