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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第三章:世界崩壊と魂の誓い

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第199話:最前線の野営(キャンプ)、蠢く夜の樹海と糧食の味

赤紫の樹海に、重く、淀んだ夜が訪れていた。

太陽の光が完全に失われると同時に、ジャングルの気温は急激に下がり、代わりにひどくまとわりつくような湿気と、甘ったるい腐敗臭が周囲を支配し始める。

通常の熱帯雨林であれば、夜行性の動物や虫たちの鳴き声で満たされる時間帯だ。しかし、第五魔卿アスタロトに侵食されたこの『暴食の樹海』には、自然の命の息吹など微塵も存在しない。

聞こえてくるのは、巨大な植物が成長に伴って立てるメキメキという不気味な軋み音と、魔力を帯びた巨大な食虫花が獲物を求めて蠢く、粘り気のある蠢動音だけであった。

「……信じられねえ速度だ。俺たちがさっきまで歩いてきた道が、もう完全に塞がってやがる」

第一キャンプの防壁の上。

サーチライトの光を外へ向けた風間蓮が、忌々しげに舌打ちをした。

たった数時間前、日米南米のトップランカーたちが圧倒的な暴力で切り拓き、三キロメートルにわたって焼き払ったはずの「V字の突入ルート」。

しかし今、防壁の外を見下ろせば、そこはすでに新しく生えそろった赤紫色の巨大なシダ植物や、太さ数メートルにも及ぶ棘だらけのつるによって、完全に埋め尽くされていたのだ。

「ええ。アスタロトの樹海は、大地に根を張っている限り、無限の魔力を吸い上げて際限なく再生し続けます。……これが『面』の制圧戦の恐ろしさです」

風間の隣で、如月拓也が静かに風の強さを測りながら呟いた。

「後ろの道が塞がれたってことは、俺たちは完全に敵のど真ん中に孤立したってことだ。……まあ、最初からそのつもりで拠点ここを作ったんだがな」

神宮寺蒼太が、重厚な大盾を背負いながら、防壁の上の見回りへと合流する。

彼らが立つ第一キャンプは、カルロス率いる南米の設営部隊がわずか一時間で組み上げた、強固な簡易要塞であった。

破壊した『腫瘍根』の跡地である半径五百メートルの円形スペースを囲うように、特殊な防魔合金を組み込んだ高さ五メートルの防壁が円状にそびえ立っている。

さらにその内側には、魔力ジェネレーターを動力源とした結界発生装置が四隅に設置され、瀬戸玲奈の『白銀の浄化陣』を増幅してドーム状に展開することで、空から降り注ぐ毒胞子や、地中からの奇襲を完全にシャットアウトしていた。

外縁部フロント・ラインとの物理的な行き来はできませんが、このキャンプの結界が維持されている限り、空間座標は安定しています。鉄山さんのポータルを使えば、緊急時の物資の補給や、人員の入れ替えは可能です」

拓也は手元の端末を操作し、防壁の各所に設置されたセンサーの反応を確認する。

「だけど、それもこの拠点が『無事』であればの話だ。……見ろよ、指揮官殿。壁の外の連中、すっかり俺たちを今夜のディナーにする気満々だぜ」

風間が槍の穂先で示した先。

サーチライトの光が届くギリギリの暗闇の中で、無数の『何か』が蠢いていた。

植物の蔓を編み込んで作られたような四足歩行の獣や、巨大な毒花を背負った甲虫型の木製ゴーレム。

それらが、第一キャンプの防壁をぐるりと取り囲み、結界の僅かな綻びを狙ってじりじりと距離を詰めてきているのだ。

「夜間は樹海の魔力活性が上がります。……交代で警戒に当たりましょう。まずは俺と風間さん、神宮寺さんで前半のシフトを――」

拓也が指示を出そうとした、その時だった。

「こーら、君たち! まだ最初の夜なんだから、ちゃんと食べて休める時に休まないと駄目ですよ!」

防壁の下から、お玉を持った瀬戸玲奈がぷんぷんと怒ったような顔をして見上げていた。

彼女の背後、キャンプの中央に張られた大型テントの前では、大きな寸胴鍋が火にかけられ、なんとも食欲をそそる温かい匂いが漂っている。

「おおっ! 待ってました、玲奈ちゃんの特製ディナー!」

風間が途端に顔をほころばせ、防壁の階段を軽快に駆け下りていく。

「……仕方ない。腹が減っては戦はできんと言うからな。我々もいただくとしよう」

神宮寺も苦笑しながら、拓也の肩をポンと叩いて階段へ向かった。

キャンプの中央に設けられた野営の食事スペース。

そこには、アメリカのレオンや、日本の九条、不知火たち同盟軍の面々もすでに集まっており、それぞれが配給された器を手に、談笑しながら食事をとっていた。

「さあ、拓也くんもどうぞ。保存用の戦闘糧食レーションをベースにしてますけど、お母さんから教わったスパイスの調合で、美味しくアレンジしてみましたから!」

瀬戸が、湯気を立てる具沢山のシチューを拓也の器になみなみと注いで手渡してくれた。

「ありがとうございます、瀬戸さん。……いただきます」

拓也はスプーンでシチューを掬い、ゆっくりと口に運んだ。

その瞬間、過酷な長旅と、極度の緊張状態にあった脳細胞に、温かく深い旨味がじんわりと染み渡っていくのを感じた。

「……美味しいです。本当に、身体の芯から温まる」

拓也が小さく息を吐き出して微笑むと、瀬戸は嬉しそうにパァッと顔を輝かせた。

「だろう? 嬢ちゃんの飯は、どんな高価な回復ポーションよりも心に効くぜ!」

隣に座った風間が、あっという間に一杯目を平らげておかわりを要求している。

「まったく、野戦食をここまで美味くするとはな。うちのクランの料理担当にも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ」

巨大なジョッキにシチューを注いでもらったレオンが、豪快に笑いながら肉の塊を頬張る。

「フン……まあ、悪くはない味だ。長丁場になるなら、食事の質は士気に直結するからな。及第点を与えてやろう」

九条炎樹は相変わらず素直ではない態度だが、その器の中身はすでに綺麗に空っぽになっていた。

過酷な最前線のど真ん中。

一歩壁の外へ出れば、無限に増殖する死の樹海が口を開けている絶望的な状況だ。

しかし、この第一キャンプの内側だけは、不思議なほどの温かさと、確かな「生」の活気に満ちていた。

これだけの実力者たちが一堂に会し、さらに瀬戸の作る温かい食事が、彼らの精神的な摩耗を完璧に防いでいるのだ。

(……これなら、いける)

拓也はシチューを食べ終え、温かいお茶を飲みながら、静かに思考を切り替えた。

(一気にボスへ突撃するのではなく、こうして陣地を作り、休息を取りながら進む。……焦りは禁物だ。姉ちゃんを救うためには、絶対に誰も欠けさせない完璧な盤面を作り上げなきゃならない)

拓也は携帯端末を開き、今日一日で『深層言語・限定解析』の眼が収集した、樹海の魔力流動データを画面に展開した。

青と赤の複雑な等高線が、地図のないアマゾンの地形を少しずつ立体的に描き出していく。

「……次の目標ターゲットは見えているのかい、指揮官殿?」

いつの間にか隣にやってきた神宮寺が、拓也の端末の画面を覗き込みながら静かに問いかけた。

「ええ。今日破壊したのと同じ『暴食の根源(腫瘍根)』が、この樹海の内部に無数にネットワークを形成して、魔力を循環させています」

拓也は画面上に、三つの赤いポイントをマッピングした。

「ここからさらに深く進むためのルート上に、三つの巨大な腫瘍根の反応があります。距離は、ここからおよそ五キロメートル先。……明日は、その三つを同時に叩き潰し、そこを『第二キャンプ』の候補地として確保します」

「五キロか。今日よりさらに遠いな。しかも、敵も俺たちの侵入に気づいて、警備を厳重にしているはずだ」

神宮寺が顎を撫でる。

「間違いありません。今日のような単調なウッド・ゴーレムだけでなく、より強力な『抗体』を差し向けてくるはずです。……ですが、やることは変わりません」

拓也は、真っ直ぐに神宮寺の瞳を見返した。

「俺が最も安全で確実な『最短ルート』を視抜きます。皆さんは、その道に立ち塞がる障害を、全力で排除してください」

「ああ、任せておけ。我らが矛と盾は、君の示す道を絶対に裏切らない」

神宮寺が、頼もしく力強い笑みを浮かべて頷いた。

――その時だった。

『ギシャァァァァァァァァァッ!!』

突如として、キャンプの外から夜の静寂を切り裂くような、鼓膜を劈く奇声が響き渡った。

「なんだ!?」

風間が即座に槍を手に取り、立ち上がる。

直後、キャンプを覆っていた『白銀の浄化陣』のドーム状の結界が、上空でバチバチと激しい火花を散らし始めた。

「上空です! 防壁の外から、巨大な飛行型の魔獣が……結界の上から『強酸性の溶解液』を浴びせかけてきています!」

結界の出力を管理していた瀬戸が、顔を青ざめさせて叫ぶ。

「チッ、夜襲かよ! しかも空から結界を溶かしにくるとは、知恵が回るじゃねえか!」

風間が舌打ちをする。

「物理的な壁を作っても、空からの面制圧なら防ぎきれないと踏んだんでしょう。……アスタロトの樹海は、ただの植物じゃない。戦術を学習する『軍隊』です」

拓也は即座に端末を閉じ、右眼の眼帯の下で『限定解析』の光を鋭く輝かせた。

「九条さん! 上空の結界の『外側』、高度百メートルに敵の群れが滞空しています。結界に沿って炎の幕を張り、溶解液を蒸発させてください!」

「任せな! 虫けらどもめ、夜行性だからって俺の炎から逃げられると思うなよ!」

九条が両手に莫大な魔力を集束させ、結界の上空へ向けて極大の火炎放射を放つ。

「不知火さん! 敵は空だけじゃない。騒ぎに乗じて、地中から防壁の基礎を狙っている動きがあります!」

「……見えている。八咫烏、地這いの根を断て!」

不知火率いる暗殺部隊が、音もなく防壁の足元へと散開していく。

「風間さん、神宮寺さん、レオンさん! 地上から防壁をよじ登ってくる大群が来ます! 物理防衛戦です、一匹たりとも壁を越えさせるな!」

「「「オラァァァァァッ!!」」」

温かい夕食の時間は終わりだ。

日米南米のトップランカーたちが、少年指揮官の的確な号令のもと、一瞬にして完璧な迎撃態勢へと移行する。

絶対安全圏と思われた第一キャンプに襲い掛かる、樹海の悪意。

息つく暇もない長大なサバイバルは、休むことを許さない過酷な夜の防衛戦へと突入していった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

美味しい野戦食での休息も束の間、すぐに学習して襲い掛かってくるアスタロトの樹海の恐ろしさ。長期戦ならではの防衛戦が始まりました!

もし「面白かった!」「野営の雰囲気が好き!」と思っていただけましたら、

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