第142話:大樹の番人、理詰めの伐採戦術
巨木が不気味な軋み音を立てて身震いし、太い根が地響きと共に地表へと跳ね上がった。
大森林の最深部、第十一層へと通じる結界門の前に鎮座していたのは、体長十メートルを超える巨大な植物型魔獣――『ウッド・ゴーレム(樹海の番人)』だった。
その胴体は幾重にも重なった硬質な神木で構成され、表面は強い酸性を持つ緑色の樹液で濡れ光っている。
「ガアアアアアアアッ!!」
ゴーレムが丸太のような腕を振り下ろすと、周囲の樹木が数本まとめて薙ぎ払われ、強烈な衝撃波が襲いかかる。
「神宮寺さん!」
「任せろッ! 『絶対防壁』!」
神宮寺が前へ踏み出し、改良された『絶氷大盾・銀嶺』を構える。
巨大な丸太腕が盾に直撃した瞬間、盾に刻まれた魔力格子が衝撃を即座に吸収し、高熱の反発エネルギーへと変換して叩き返した。
ジュバァァァンッ!
「グオッ!?」
衝撃を完全に受け止めたどころか、カウンターの熱波を喰らったゴーレムの右腕が焦げ付き、大きく体勢を崩す。
「すごい……! 衝撃がそのまま熱に変わって弾き返した……!」
瀬戸玲奈が感嘆の声を漏らす。
「風間さん、左足の太い根です! 表面の樹液が薄い結節点があります、そこへ冷気を叩き込んで脆くしてください!」
「了解だ、指揮官殿ッ!」
風間蓮が低く踏み込み、『銀牙槍・改』を閃かせる。
極低温の槍先がゴーレムの左足を正確に穿つと、一瞬で凍結した神木の組織がピキピキと音を立てて亀裂を生ませた。
「神宮寺さん、追撃を!」
「叩き割るッ!」
神宮寺が間髪いれずに踏み込み、シールドバッシュを叩き込む。
凍りついて脆くなったゴーレムの左足は、衝撃に耐え切れず豪快に粉砕され、巨体が地響きを立てて片膝をついた。
「今です……!」
拓也が滑るように間合いを詰め、低姿勢のままゴーレムの懐へと飛び込む。
常時起動している『解析』の瞳には、幾重にも重なった神木の装甲の奥深く、最も巨大な緑色の魔力回路がはっきりと視界に浮かび上がっていた。
腰の『絶理の銀刃』を抜き放ち、柄のスイッチを弾く。
カチッ。
無音で白銀の刃が赤熱し、超高熱のヒートナイフへと姿を変える。
「断つ……ッ!」
拓也は跳躍し、神木の装甲の隙間へ向けて、超高熱の刃を一直線に突き立てた。
ジュゥゥゥゥゥッ……!!
強酸の樹液も、強固な神木の肉体も関係ない。
熱刃は一切の抵抗を受けることなく、内部の巨大な魔力回路を真一文字に両断した。
「ガ……ア……ッ……」
コアを破壊された『ウッド・ゴーレム』は、一度大きく身震いすると、全身が光の粒子となって崩れ去り、足元に拳大の緑色の魔石を残して消滅した。
「ふぅ……。クリアです。完璧な連携でした」
拓也は赤熱した短剣を振り、静かに鞘へと収める。
「ハッ、大森林の番人だろうが、オレたちの前じゃただのデカい薪だな!」
風間が槍を肩に担ぎ、快活に笑う。
「ふむ。鉄山殿の新装備と、拓也殿の的確な指示が噛み合えば、中層の魔獣とて恐れるに足りんな」
神宮寺も大盾を下ろし、満足そうに頷いた。
ゴーレムが消え去った跡には、古びた石造りの階段が露わになっていた。
その階段は、さらに深く暗い迷宮の深層領域へとまっすぐに伸びている。
拓也は階段の向こう側を見つめ、静かに拳を握りしめた。
(姉ちゃん……待っててくれ。俺たちは、着実に前へ進んでいる)
「行きましょう。次の階層へ」
少年指揮官の静かな一言と共に、成長を遂げた四人の探索者は、再び迷宮の深遠へと足を踏み入れていくのだった。
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