第140話:黒鉄堂の夜明け、新装備と大森林への切符
「――よし、できたぞ」
鍛冶工房『黒鉄堂』の奥から響いた巨漢の低い声に、カウンターで待機していた拓也たちは一斉に視線を向けた。
あれから丸一日の休息を挟み、夜の帳が下りた工房に、再び緊張感のある空気が戻ってくる。
炉の前から歩み寄ってきた鉄山厳の手には、見違えるほど洗練されたオーラを纏う四人の武具が握られていた。
「第九層で持ち帰った『イグニス・オートマタ』の炉心を、ただ組み込むだけじゃねえ。この一日の間に、お前らの休日の戦闘データや魔力の馴染み具合を逆算して、回路を限界まで最適化した」
鉄山はまず、風間蓮に一本の槍を投げ渡した。
『銀牙槍・改』。
白銀の穂先はより鋭さを増し、柄の結合部には微かに赤熱する炉心のラインが走っている。
「オッ……! 軽っ……いや、違うな。重心のブレが完全に消えてやがる!」
風間が工房の中で槍を軽く突き出すと、空気の引き裂かれるような鋭い風切り音が響いた。
「次に、神宮寺の大盾だ」
巨人のような巨躯を受け止める『絶氷大盾・銀嶺』。その表面には、耐熱・耐寒コーティングに加えて、衝撃を吸収して熱エネルギーに変換する魔力格子が刻み込まれていた。
「素晴らしい。盾そのものが呼吸をしているかのような一体感があります」神宮寺が満足そうに頷く。
「瀬戸の『白銀杖・六花』は、自動温度調節の感度を三倍に引き上げた。どんな極端な環境でも、一瞬でパーティの周囲を適温に書き換える。……で、最後はお前のいだ」
鉄山は、拓也の『絶理の銀刃』を差し出した。
白銀の短剣。その柄に仕込まれた『ヒートナイフ』のスイッチは、より直感的かつ無音で起動するように改良されている。
「ありがとうございます、鉄山さん。これなら、どんな硬質な魔力回路も一瞬で両断できます」
拓也が短剣を鞘に収め、静かに礼を言った。
「おう。で、だ。次のステージだが――『大森林』に向かえ」
鉄山のその言葉に、四人はわずかに眉をひそめた。
「大森林……? 第十層以降は、ずっと特殊な環境階層が続いていましたが」
拓也が問い返すと、鉄山は葉巻をくゆらせながら地図を広げた。
「ああ。これまでの第九層『熱波』や第十層の極寒などとは違い、今度のは『生きた迷宮』だ。どこまでも広がる巨大な原生林だが、そこの植物や魔獣はすべて『迷宮の魔力』を養分にして異常発達している。樹液は強酸性、植物そのものが罠であり、肉食の魔獣たちが幾重にもテリトリーを重ねている難所だ」
「生きた迷宮、か……。植物特有の物理耐性と、厄介な毒や拘束が面倒そうだな」神宮寺が腕を組む。
「だが、お前らには鉄山特製の最新装備がある。それに、如月家を狙う外敵の動きも、イージスの網で今のところ完全に封じ込めてある。外部の心配はいらねえ。ただ前だけを見て潜れ」
鉄山の力強い言葉に、拓也は深く頷いた。
姉・三月の魂を取り戻すための旅は、まだ続く。第十層を越え、さらに深い迷宮の緑深き中層域へ。
「分かりました。……行きます、大森林へ」
少年指揮官の号令のもと、新しく生まれ変わった最強の武具を携えたパーティは、次なる死地――『大森林』へと通じる転移門の前へと歩みを進めるのだった。
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