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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第十三話:畏怖の視線と、漆黒の外套

翌日の午前。

実家でたっぷりと休息を取り、由美子の美味しい朝食で人間としての活力を満たした三月は、

新宿にある探索者協会ギルドのロビーへと足を踏み入れていた。

目的は、昨日までの探索で得た複数の魔石を換金するためだ。

朝のギルドは、これから迷宮へと潜る多くの探索者たちでごった返している。

三月は人の波を縫うようにして、換金窓口へと歩みを進めた。

その時だった。

「あ……っ、お、おい……嘘だろ……」

前方を歩いていた数人の探索者グループが、三月の姿を認めた瞬間、

弾かれたように足を止め、顔面を蒼白にしてサッと道を開けたのだ。

彼らの胸元には『Dランク』のバッジが光っている。

歴戦の戦士や大盾を持った男たち。

彼らは、第二層でアイアン・スパイダーの群れに殺されかけていたところを、

三月が蹂躙し、獲物を横取りしたあのパーティだった。

周囲の探索者たちが、「なんだ?」「Fランクの小娘相手にDランクのベテランが怯えてるぞ?」と、

怪訝な視線を向けてざわめき始める。

無理もない。

しかし、彼らの脳裏に焼き付いているのは、自分たちを救った「可憐な英雄」の姿ではない。

あの日の暗闇の中。

少女はアイアン・スパイダーを一撃で粉砕した後、狂気に濡れた瞳でその死骸に這い寄り、

あろうことか、蜘蛛の硬い外殻に直接自らの「牙」を突き立てて噛みついたのだ。

そして、恍惚の表情を浮かべながら、命そのものを啜り上げるように塵へと変えてしまった。

あれは、人間ではない。

人間の皮を被った、正気を疑う本物の『化物』だ。

いつ自分たちの喉元にその牙が突き立てられ、魂まで喰われるか分からない。

そんな根源的な恐怖が、彼らの声帯を震わせていた。

大盾の男が、ガタガタと膝を震わせながら三月の前に進み出ると、

九十度に近い角度で、深く頭を下げた。

「昨日は……その、命を救っていただき、本当にありがとうございました……っ!」

地面に向けられた彼らの顔は引きつり、額からは滝のような冷や汗が流れ落ちている。

三月は足を止め、そんな彼らを静かに見下ろした。

新しく得た『気配察知(微)』が、彼らから放たれる強烈な「恐怖」の感情を読み取っている。

自分が怪物のように噛みついて魂を貪る姿を見られたのだから、当然の反応だ。

以前の三月なら、自分が人からバケモノ扱いされていることに傷ついていたかもしれない。

だが、痛みをアンカーにして理性の鎖を握りしめ、

怪物として深淵を歩む覚悟を決めた今の彼女の心は、水面のように凪いでいた。

「……気になさらず。たまたま獲物が被っただけですから」

それだけを淡々と告げ、三月は彼らの横をすり抜けて歩き出した。

「無事に帰れたなら、良かったです」

すれ違いざまに落とされたその冷徹で静かな声に、

Dランクの男たちはビクリと肩を震わせ、ただただ無言で道を開け続けた。

その異様な光景を、窓口の奥から見ていた人物がいた。

受付嬢の佐藤結衣である。

(あのベテランのパーティが、Fランクの如月さんに怯えてる……?

 いったい、迷宮で何があったっていうの……?)

結衣が冷や汗を流していると、三月が真っ直ぐに窓口へとやってきた。

「おはようございます、佐藤さん。本日の査定をお願いします」

「お、おはようございます、如月さん! 本日はこちらですね……」

ジャララッ、と。

三月が布袋からトレイに無造作に流し込んだ魔石の山を見た瞬間、

結衣の思考は完全に停止した。

「えっ……」

青黒く光る、アイアン・スパイダーの魔石が十数個。

これだけでもDランクパーティが一苦労して集める量だ。

だが、問題はそれに混ざっていた「二つの規格外」だった。

禍々しく脈打つ、ソフトボールほどの巨大な赤い魔石。

そして、不純物が一切なく、青白い光を綺麗に反射する見事な透明な結晶。

長年ギルドで無数の魔石を見てきた結衣には、それらが何であるかすぐに分かった。

「こ、これは……アイアン・スパイダーの魔石の他に……。

 この赤いのは……まさか、第二層の主、『ブラッド・マザー』ですか……!?」

震える指で赤い魔石を指さす結衣。

ボスクラスの魔獣は、複数のパーティが連携してようやく討伐できる代物だ。

「はい。蜘蛛の群れと一緒に襲ってきたので、ついでに」

「つ、ついで……っ! では、この透明なものは……第三層の、クリスタル・マンティス……?」

「ええ。運良く不意打ちを防げたので」

三月は事も無げに答える。

結衣の背中に、ぞくりと冷たいものが走った。

第二層の主を単独で討伐し、さらに第三層へ進んで、あの隠密特化の危険なカマキリを相手に無傷で生還している。

もはや「運が良かった」で済まされる領域を完全に超えていた。

「……さ、査定が完了しました。

 スパイダーの群れが五万円。ブラッド・マザーが十五万円。マンティスが八万円。

 合計で、二十八万円になります……っ。こちら、現金でお受け取りください」

「ありがとうございます」

分厚い封筒を受け取り、三月は軽く会釈をして窓口を離れた。

結衣は、その後ろ姿を、畏怖の入り混じった複雑な視線で見送ることしかできなかった。

ギルドを出た三月は、その足で新宿の探索者専門の衣料品店へと向かった。

ズタズタに引き裂かれた古い革鎧を新調するためだ。

だが、三月が選んだのは、金属製の重い鎧でも、高価な防具でもなかった。

「これ、ください」

レジに置いたのは、伸縮性と通気性に優れた黒いインナースーツと、

少し厚手で、擦れや汚れに強い特殊繊維で編まれた『漆黒のロングコート』だった。

店員は少し怪訝そうな顔をした。

「お嬢ちゃん、それだけかい? それじゃあ、ゴブリンの爪でも防げないよ」

「大丈夫です。動きやすさが一番なので」

三月は微笑んで代金を支払った。

店員が心配するのも無理はない。

しかし、すでに彼女の白い素肌そのものが、『堅牢(小)』という見えない鋼鉄の鎧となっている。

必要なのは防御力ではなく、激しい動きを阻害しない軽さと、

素肌を隠し、返り血を浴びても目立たない衣服だけだった。

店のトイレで新しい衣服に着替えると、そのまま裏通りへと足を向ける。

向かったのは、以前『魔鉄の塊剣』を購入した武器屋『黒鉄堂』だ。

カラン、と無骨なドアベルが鳴る。

「いらっしゃい……お? なんだ、この前のお嬢ちゃんか」

カウンターの奥から顔を出したのは、店主の鉄山厳だった。

鉄山は、真っ黒なコートに身を包んだ三月の姿を見て、一瞬目を丸くした。

以前の貧相でボロボロだった雰囲気とはまるで違う、凄みのある空気を纏っていたからだ。

「どうした。まさか、あの『魔鉄の塊剣』がもう折れたってわけじゃねえだろうな?」

「いえ、全く刃こぼれもしていません。最高の剣です」

三月は腰に帯びた黒い大剣をポンと叩いた。

「今日は、この剣の手入れ用の油と、砥石を買いに来ました」

「なんだ、そういうことか。……それにしてもお嬢ちゃん、随分と『化けた』な」

鉄山は鋭い隻眼で三月を値踏みするように見つめた。

筋力自慢でも扱えないあの剣を軽々と振り回す異常な腕力。

そして今、彼女の背後から微かに漂ってくる、濃密な血と死線の匂い。

「……お嬢ちゃん、一体下層で『何』とやり合ってきやがった?」

鉄山は、三月がただの新人ではないことを完全に悟っていた。

三月は少しだけ目を伏せ、そして、薄く微笑んだ。

「……ただの、お掃除ですよ。邪魔な虫を、少し退治しただけです」

それだけを告げ、三月は油と砥石の代金をカウンターに置いた。

「それじゃあ、また」

店を出ていく漆黒のコートの背中を、鉄山は腕を組んで見送った。

「……虫、ねえ。ありゃあ、本物の『怪物』の目だったぜ……」

新宿の雑踏に紛れていく三月。

新しい装備に身を包み、周囲の畏怖を静かに受け入れながら、

彼女は次なる極上の『魂』を求めて、再びダンジョンへと向かう覚悟を研ぎ澄ませていた。

漆黒の外套に身を包んだ彼女のこれからの狩りに、ぜひご期待ください!

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