第114話:歪な産声、鉄槌と初陣の仲間
鉄山の工房に響く槌音は、これから唯一の迷宮という死地へ挑む若き探索者の心拍数と同期するような、重く、硬質なリズムだった。
「いいか、坊主。三月の戦いを継ぐというのは、三月の影を追うことじゃねえ。お前自身が、お前だけの戦い方を見つけることだ」
鉄山は、真っ赤に熱した鋼を水槽に叩き込み、激しい蒸気とともに吐き捨てた。
拓也は、その前で一度深く深呼吸をする。姉が遺したスマートフォンをポケットにしまい、今はもう読み返すこともない赤本や対策問題集を、工房の片隅へと追いやる。受験勉強という未来は終わり、今日から拓也の時間は、迷宮という深淵へと刻まれる。
(姉ちゃんが守りたかった日常を、俺が守る。そのためなら、俺の命なんていくらでも投げ出せる)
拓也は覚悟を固めた。鉄山は巨大な槌を置き、工房の奥から拓也の体格に合わせて最適化された武具を取り出した。
「三月の戦い方は身体能力の極致だ。だが、お前は違う。お前には姉のような理外の力はない。だからこそ、お前を護り、迷宮の奥底まで確実に連れて行くための『防壁』と『癒し』、そして敵を討つ『矛』を用意した」
鉄山が合図を送ると、工房の影から三人の探索者が姿を現した。
「俺は神宮寺 蒼太。盾を構えて前線に立つ。お前の盾として、迷宮の魔獣はすべて俺が受け止める」
聖職者のような穏やかな雰囲気を纏った長身の青年が、重厚な盾を掲げて名乗った。
「私は**瀬戸 玲奈**です。回復魔法であなたを支えます。どれほど傷ついても、私たちがいる限り、迷宮の中で膝を折ることは許しません」
慈愛に満ちた瞳をした女性が、静かに杖を握りしめて微笑んだ。
最後に、背中に長大な槍を背負った青年が前に出る。
「俺は**風間 蓮**だ。前衛で敵を撃ち抜く矛になる。坊主、君は後ろで戦況を見て、隙を突く指示をくれ。君の判断が、俺たちの矛先を定めるんだ」
拓也は、三人のまっすぐな瞳を見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。鉄山が用意した「護りと攻めのパーティ」。それは、姉がかつて孤独に戦っていた迷宮において、今の拓也にとって何よりも心強い武器だった。
「神宮寺さん、瀬戸さん、風間さん……よろしく、お願いします。俺は、必ず姉ちゃんを助けたいんです」
工房に漂う緊張感が、熱気とともに弾けた。鉄山が満足そうに、ニヤリと口角を上げる。
「初陣だ。場所は、この世界に唯一つ存在するあの迷宮。その浅層からだ。そこで生き残れなきゃ、三月を救う資格もねえ。……行け、如月の弟よ」
工房の外へ出た拓也たちの前に、新宿の街に隠された迷宮の入り口が、まるで口を開けて待っているかのように鎮座していた。かつて姉が通り過ぎた道。今度は、拓也が信頼できる仲間とともに、その暗闇へと一歩を踏み出す。
(姉ちゃん、待っててくれ。俺が……俺が絶対に、迎えに行く)
高校受験という平穏な未来を捨て、拓也は探索者として、仲間とともに迷宮の闇へと踏み出した。
神宮寺蒼太、瀬戸玲奈、風間蓮。三人の信頼できる仲間を得て、拓也の探索者としての戦いが始まりました。
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