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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第103話:重力の盤上と、踊らされる英雄たち

広場の奥から、第一波を遥かに凌ぐ規模の地鳴りが響き渡っていた。

「来るぞ! 第二波だ! 各員、障壁の出力をもっと上げろ!」

トップクラン「銀の剣」のリーダーが、血の滲むような声で号令をかける。

暗闇の奥から姿を現したのは、先ほどの狂暴種よりもさらに一回り巨大で、敏捷性に優れた上位魔獣の群れだった。

その数、ざっと見積もっても二万以上。筋肉のバネを極限まで圧縮し、防衛線の障壁を飛び越える気満々で突進してくる。

探索者たちの顔に、再び濃密な絶望が走った。

まともにぶつかれば、一瞬で防衛線は決壊する。

そんな悲壮な決意に満ちた前線の熱狂から遠く離れた後方。

「か弱いFランクの支援要員」として結界装置の陰に隠れていた三月は、冷徹な目で魔獣の群れを観察していた。

(……第一波の時みたいに、重力で一点に固めて圧殺していくのは、もうやめましょう)

三月は、広場の端に積み上がっている「第一波の不自然な肉の山」をチラリと見た。

先ほど、彼女は効率を重視して数千の魔獣を重力で一箇所に引きずり込み、まとめて圧し潰して処理した。

だが、その結果出来上がったのは、どう見ても不自然極まりない異様な死体の山だった。

すでに前線の探索者たちの一部が「魔獣が勝手に一箇所で死んでいる」と訝しがり始め、先ほどのDランク青年に至っては完全に恐怖で引きつっていた。

(これ以上あんな不自然な潰死体の山を増やせば、いくらなんでも私の仕業だと完全にバレる。国家規模の調査が入ったら、お母さんとの平和な日常が終わってしまうわ)

三月の冷徹な演算回路が弾き出した答えは、極めてシンプルで悪辣なものだった。

自分の異常性を完璧に隠しつつ、この数万のゴミを最短で処理し、お母さんの待つ家に帰る方法。

(殺す必要なんてない。わざとつまずかせて、前線の「お掃除ロボット」たちに処理させればいい)

三月はコートのポケットの中で、静かに指先を動かした。

発動するのは「重力操作(微)」。

ただし、先ほどのように魔獣たちを圧し潰すような極大の出力ではない。

今まさに、前線で「銀の剣」の探索者たちと刃を交えようとしている、最前線の十数体。その魔獣たちの「前足」や「関節」だけを狙い、意図的に出力を極限まで抑えた、ごく僅かな局所重力を付加していく。

「シャァァァァァッ!!」

俊敏な上位魔獣の一体が、探索者の頭上を越えようと跳躍した。

その踏み切りの一瞬。

三月は魔獣の「右前足の爪先」にだけ、ほんの数十グラム程度の、爪先を引きずるような重力を乗せた。

だが、極限の速度で跳躍しようとした魔獣にとって、そのわずかな「足元のズレ」は致命的だった。

空中へ飛び上がるはずの身体が、前足を引きずったことでバランスを崩し、無様につんのめるように地面へと落下する。

「なっ……!? 隙だらけだ、死ねぇッ!」

目の前に転がってきた魔獣に対し、探索者が無我夢中で大剣を振り下ろした。

普段なら容易く躱されるはずのその一撃は、バランスを崩した魔獣の首をあっさりと跳ね飛ばした。

「い、いける! 敵の動きが鈍いぞ!」

前線の至る所で、同じような「奇妙な自滅」が多発し始めた。

鋭い一撃を繰り出そうとした魔獣の「肘の関節」に、一瞬だけ重い負荷がかかり、攻撃の軌道が大きくブレる。

探索者の背後を取ろうと回り込んだ魔獣の「後ろ足」が、突然地表に張り付いたように重くなり、ステップを踏み外して無様に転倒する。

三月の「重力操作(微)」による干渉は、あまりにも精密で、あまりにも微細だった。

魔獣たちにしてみれば、まるで「何もないところで勝手につまずいている」かのような、極めて理不尽な感覚。

彼女が全力を出せば一瞬で圧殺できるほどの重力を、あえて「ほんの僅かな足の引っ張り」として、魔獣たちの重心が最も不安定になる一瞬だけを狙ってピンポイントで叩き込んでいるのだ。

「ハハッ、なんだよこいつら、見掛け倒しじゃないか!」

「俺たちの剣撃が完全に決まるぞ! 今日はめちゃくちゃ体が軽い!」

探索者たちが、歓喜の声を上げて一斉に反撃に転じた。

魔獣たちが勝手にバランスを崩し、案山子のように転がってくるのだ。

トップクランの面々は「極限状態の中で、自分たちの実力が覚醒した」と完全に勘違いし、ドーパミンをドバドバと分泌させながら狂喜乱舞で魔獣を屠り始めた。

その後方。

三月は結界装置の陰に座り込み、「ひぃぃっ、こわいよぉ……っ」と完璧な嘘泣きを披露しながら、冷酷な目で前線の惨状を眺めていた。

(……いい調子ね。これなら、私はただ一瞬ずつ重力を乗せるだけでいい。彼らが勝手に斬り殺してくれるから、普通の死体しか残らないし、誰も私を疑わない)

三月にとって、前線で奮闘するトップクランの英雄たちは、自分の代わりにゴミを処理してくれる都合の良い道具でしかなかった。

彼女は一切手を汚すことなく、ただ一瞬の重心操作だけで、数万の軍勢を崩壊へと導いていく。

一方で、その異様な光景を、最後尾からただ一人、戦慄の表情で見つめている者がいた。

先ほど三月の正体に気づき、逃げるように後方へと下がったDランクの青年である。

(……あ、ありえない……。上位魔獣たちが、何もないところで勝手につまずきまくっている……)

他の探索者たちは自分の実力だと勘違いして浮かれているが、生き残ることに長けた青年の目は誤魔化せなかった。

第一波で起きた不自然な大量圧殺。そして今度は、魔獣たちがまるで精密な糸で手足を操られているマリオネットのように、人間側の都合に合わせてバランスを崩している。

青年の視線の先には、怯えて震えている「フリ」をしている、漆黒のコートの少女がいる。

(……あの子だ。あの子が、魔獣の動きをミリ単位で支配しているんだ……っ!)

青年はガチガチと歯の根を鳴らした。

あの夜、自分が目撃した「暴走する怪物」は、ただ暴力的にすべてを破壊するだけの存在ではなかった。

今、目の前で行われているのは、人間たちの心理と戦況を完璧に計算し、最弱のスキルで最大の蹂躙を行う、冷徹な盤面支配。

前線で「俺たち最強だぜ!」と吼えながら魔獣を狩っているトップクランの連中が、ひどく滑稽で、同時に酷く哀れに見えた。

「……恐ろしすぎる。本当に、人間の皮を被った悪魔だ……」

青年は誰にも聞こえない声で呟き、ただただ、圧倒的な蹂躙劇の観客として震え続けることしかできなかった。

か弱い少女の仮面を被った捕食者は、時計の針をチラリと確認する。

(あと一時間。夕食の生姜焼きが冷める前に、全部片付けさせるわよ)

三月の指先が僅かに動き、突進しようとした魔獣の関節へと、次の「沈むような重さ」が冷徹に送り込まれた。

彼女の冷徹な学習能力と、バレないためには手段を選ばない(トップクランすら都合よく利用する)悪辣さが強調されたかと思います。

Dランクの青年から見れば、力押しだけでなく緻密な盤面支配までやってのける三月は、まさに悪夢そのものですね。

次回、このまま戦いが収束に向かうのか、それとも……?

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