表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ターニングポイント 外岡士郎と天羽家の初陣  作者: 房総半島
第三章大名達の登場
PR
68/69

第六十八話

回想が終わる。

虫の息の虎太郎が、かすれた声で呟く。

「兄貴…俺は約束、守ったぞ…」

「虎太郎!!死ぬな!!」

「虎太郎――!!」

その瞬間、虎太郎の瞳が閉じる。

武虎の叫びが、川中島の空に響き渡る。

その声は、戦場の喧騒をも突き抜け、風に乗って遠くまで届いた。

兄弟の絆――その深さと痛みが、戦の終焉に静かに刻まれたのであった。



川中島の戦いが終わり、春日山城には静けさが戻っていた。 その一室で、士郎は重症を負った片倉の枕元に座り続けていた。

十日間――片倉は目を覚まさなかった。

士郎は、責任と後悔に押し潰されそうになりながらも、毎日、片倉の手を握り、語りかけていた。

「片倉さん…それがしと初めて会った時、覚えてますか?」

声は静かに、しかし胸の奥から絞り出すように。

「今だから言いますけどね…最初は、片倉さんのこと、よく思ってなかったんですよ」

士郎は苦笑しながら、畳を指で叩く。

「イケメンだから、どうせ顔だけのつまらない嫌な奴だろうなって…でも、城に行った時、他の人が部外者を拒む中、片倉さんだけは笑顔で迎えてくれて…その時、あぁこの人、いい人だって思ったんです」

「でもその後、経丸に会いたいのに、長経様の家臣の元に連れていかれて…やっぱり嫌な奴だと思った。でも、城に自由に出入りできるように紹介してくれて…」

士郎は俯き、拳を握る。

「ようは…昔からカッコつけなんですよ。ズルいんですよ」

「飯は毎回奢ってくれるし、それがしが悩んでると親身になって心配してくれるし…」

「このまま、それがしをかばって、かっこつけたままあの世に逝くつもりですか…?」

士郎の声が震える。

「それがしは、まだ何も片倉さんに恩返しできてない…!」

「死ぬほど奢りたいし、悩み事の相談にも乗りたいし、もっともっと思い出作りたいんです…!」

涙が頬を伝い、畳に落ちる。

「片倉さん…目を覚ましてくれよ…笑ってくれよ…頼むよ…!」

その時――

「どうした、士郎君。人が寝てる横で熱い演説して」

士郎は目を見開いた。

「えっ…片倉さん!?目、覚ましたのか!?」

「何そんな驚いてんの?それよりここどこ?今何時?」

「ふざけんなよ!驚くに決まってんだろ!十日も目を覚まさなかったんだぞ!」

「えっ?嘘…十日も俺寝てたの?」

「そうだよ!十日だよ!」

「うわぁ…もったいないことした。若い時の十日なんて貴重なのに」

士郎は呆れたように呟く。

「重症で寝てた人のセリフじゃない…」

「まぁいいか。士郎君の熱い演説、聞けたし」

士郎は顔を赤らめて慌てる。

「違うよ!あれは違うんだ!」

「まぁ!照れちゃって‼」

「照れてるんじゃねぇ!違うんだ!」

片倉は優しく微笑む。

「でも…ちょっと感動しちゃった」

「どこから聞いてたの?」

「最初から」

「おまえ…殺してやる!」

二人は声を上げて笑った。

笑いが収まると、士郎は真剣な顔で片倉を見つめる。

「片倉さん」

「なに?告白?」

「今は茶化さないでください」

「…ごめん」

「戦の時、それがしが未熟だったせいで、片倉さんに重症を負わせてしまい…申し訳ございませんでした」

「あぁ~、そんなことか」

「そんなことって…!」

「それよりさ、今度飲みに行こうぜ」

士郎は呆れたように言う。

「そんな体で飲めるわけないじゃないですか」

片倉は笑う。

「ふふふ…」

士郎は立ち上がる。

「ちょっと、経丸さん達に報告してきます。片倉さんが目を覚ましたって」

「おう、頼むよ」

士郎は去り際、片倉に声をかける。

「片倉さん」

「なに?」

「よっぽどお酒が好きなんですね」

士郎の問いに、片倉はぽつりと呟いた。

「士郎君と飲む酒がな…」

士郎はそっと戸を閉め、その場に立ち止まる。 肩を震わせながら、静かに涙を流した。


川中島の戦いが終わり、春日山城には静けさが戻っていた。

その一室で、士郎は重症を負った片倉の枕元に座り続けていた。

十日間――片倉は目を覚まさない。

士郎は、責任と後悔に押し潰されそうになりながらも、毎日、片倉の手を握り、語りかけていた。

「片倉さん…それがしと初めて会った時、覚えてますか?」

声は静かに、しかし胸の奥から絞り出すように。

「今だから言いますけどね…最初は、片倉さんのこと、よく思ってなかったんですよ」

士郎は苦笑しながら、畳を指で叩く。

「イケメンだから、どうせ顔だけのつまらない嫌な奴だろうなって…でも、城に行った時、他の人が部外者を拒む中、片倉さんだけは笑顔で迎えてくれて…その時、あぁこの人、いい人だって思ったんです」

「でもその後、経丸に会いたいのに、長経様の家臣の元に連れていかれて…やっぱり嫌な奴だと思った。でも、城に自由に出入りできるように紹介してくれて…」

士郎は俯き、拳を握る。

「ようは…昔からカッコつけなんですよ。ズルいんですよ」

「飯は毎回奢ってくれるし、それがしが悩んでると親身になって心配してくれるし…」

「このまま、それがしをかばって、かっこつけたままあの世に逝くつもりですか…?」

士郎の声が震える。

「それがしは、まだ何も片倉さんに恩返しできてない…!」

「死ぬほど奢りたいし、悩み事の相談にも乗りたいし、もっともっと思い出作りたいんです…!」

涙が頬を伝い、畳に落ちる。

「片倉さん…目を覚ましてくれよ…笑ってくれよ…頼むよ…!」

その時――

「どうした、士郎君。人が寝てる横で熱い演説して」

士郎は目を見開いた。

「えっ…片倉さん!?目、覚ましたのか!?」

「何そんな驚いてんの?それよりここどこ?今何時?」

「ふざけんなよ!驚くに決まってんだろ!十日も目を覚まさなかったんだぞ!」

「えっ?嘘…十日も俺寝てたの?」

「そうだよ!十日だよ!」

「うわぁ…もったいないことした。若い時の十日なんて貴重なのに」

士郎は呆れたように呟く。

「重症で寝てた人のセリフじゃない…」

「まぁいいか。士郎君の熱い演説、聞けたし」

士郎は顔を赤らめて慌てる。

「違うよ!あれは違うんだ!」

「まぁ!照れちゃって‼」

「照れてるんじゃねぇ!違うんだ!」

片倉は優しく微笑む。

「でも…ちょっと感動しちゃった」

「どこから聞いてたの?」

「最初から」

「おまえ…殺してやる!」

二人は声を上げて笑った。

笑いが収まると、士郎は真剣な顔で片倉を見つめる。

「片倉さん」

「なに?告白?」

「今は茶化さないでください」

「…ごめん」

「戦の時、それがしが未熟だったせいで、片倉さんに重症を負わせてしまい…申し訳ございませんでした」

「あぁ~、そんなことか」

「そんなことって…!」

「それよりさ、今度飲みに行こうぜ」

士郎は呆れたように言う。

「そんな体で飲めるわけないじゃないですか」

片倉は笑う。

「ふふふ…」

士郎は立ち上がる。

「ちょっと、経丸さん達に報告してきます。片倉さんが目を覚ましたって」

「おう、頼むよ」

士郎は去り際、片倉に声をかける。

「片倉さん」

「なに?」

「よっぽどお酒が好きなんですね」

士郎の問いに片倉はぽつりと呟いた。

「士郎君と飲む酒がな…」

士郎はそっと戸を閉めその場に立ち止まり、肩を震わせながら、静かに涙を流した。

春日山城の夜は、静かに、優しく、二人の絆を包み込んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ