第六十六話
その頃、不動軍の本陣――その重厚な陣幕が、突如として破裂するように裂けた。
砂煙の向こうから現れた三人の影。金崎国子、天羽経丸、河野――その眼差しは、戦場の中心にそびえる黒光りする甲冑の巨人、不動信一を真っすぐに捉えていた。
その傍らには、若き猛者・虎太郎。歯をむき出し、獣のような気迫を放つ。
「俺が相手だ!かかって来い‼」
虎太郎が一歩、前へ。地面が軋むほどの踏み込み。
経丸と士郎は目を合わせ、同時に一歩踏み出す。
「私達が相手しますよ」
国子は冷静に一歩引き、二人に向かって短く言い残す。
「お願いします」
そして、すでに視線は不動信一へと定まっていた。彼女の背中は、戦場の喧噪の中でも凛として揺るがない。
虎太郎の眼光が経丸を射抜く。そこには一つの決意が宿っていた。
(こいつをねじ伏せて、兄貴の元へ行く――それが俺の使命だ)
長槍を構え、経丸の心臓めがけて突進。空気を裂く槍の風が、耳元を切り裂いた。
経丸はギリギリでかわす。刃の風圧が頬を撫で、砂塵が舞い上がる。
反撃の一閃。経丸の刃が虎太郎を狙うが、虎太郎の身のこなしは軽やかで、まるで舞うようにかわす。
その瞬間――虎太郎の槍が反転し、河野の脇腹へと強烈に打ち下ろされた。
「ぐっ…!」
河野は空気を抜かれたように崩れ落ちる。骨に響く痛みが顔を歪め、呼吸が浅くなる。
「痛い…痛すぎる…!」
河野は血の味を噛みしめ額には脂汗が滲むそれでも震える足で立ち上がり力を振り絞って虎太郎の肩を矢で射抜く。
「河野さん無理しないで!今は立っちゃダメですよ!」
だが河野は首を振る。目は真っすぐで、言葉に一切の迷いがない。
「心配、ありがとうございます。でも大丈夫ですから…」
その声はかすれていたが、魂は燃えていた。
経丸は目からボロボロ涙を流しながら
「大丈夫じゃないですよ」
河野は経丸に背を向けながら静かな口調で
「士郎さんに怒られるは嫌なんですよ」
虎太郎は右肩を抑えながら
「お前、バケモンだ‼」
河野は虎太郎をジッと見て真剣な表情で一言
「人気者の友達ですよ」
河野は大声で
「気持ちー‼気持ちー‼」
と叫び構える。
虎太郎は河野との間合いを一気に詰め弓矢を切り裂いて河野に刀を振り下ろすが間一髪で経丸が横から虎太郎の刀を止める。
虎太郎はぐんぐん信一に向かっている金崎の背中を目にして
「お相手はここまでだ」
そう一言残してその背中は、颯爽と不動信一の元へ向かっていた。
金崎国子が不動信一の前に立つ。 鋭く、思い切り刀を振り下ろす。
不動は鉄製の軍配で受け止めるが――軍配が砕ける。
驚きながらも冷静に刀を抜き、次の一撃を防ぐ。 だが、刀は弾き飛ばされる。
「これで終わりです‼」
金崎が大きく振りかぶり、振り下ろしたその瞬間――
「グサッ!」
「あっ!」
「と、とら‼」
虎太郎が、金崎に長槍で突き刺されながらも睨みつける。
「俺の兄者は、日の本一最強の軍団の大将、不動信一だぞ‼ 簡単に死ぬわけないだろ…!」
最後の力を振り絞り、金崎の胸を狙うが―― 金崎は右腕で受け止める。
「くっ…仕留めきれなかったか…」
虎太郎はそう言って、倒れた。
「と、とら‼」
不動が駆け寄り、抱きかかえる。
「しっかりしろ‼ おい、とら‼」
その隙を狙い、金崎が襲いかかろうとした―― その瞬間、妻女山を駆け抜けてきた稲荷が、息も絶え絶えに金崎の元へ辿り着く。
「別働隊が迫っています!」
その言葉に、金崎の瞳が鋭く光る。 迷いはなかった。
稲荷の情報が一瞬でも遅れていれば、退路は断たれ、金崎・経丸・士郎――三人の命は戦場に散っていたであろう。
「全軍!撤退です‼」
金崎の号令が戦場に響き渡る。 天羽・金崎連合軍、三千の兵が一斉に動き出す。
戦場に残るは、血と汗と、無数の命の痕跡。
この戦――引き分けに終わった。 だがその代償は、あまりにも大きかった。
金崎国子が不動信一の前に立つ。
鋭く、思い切り刀を振り下ろす。
不動は鉄製の軍配で受け止めるが、軍配が砕ける。
驚きながらも冷静に刀を抜き、次の一撃を防ぐ――が、刀は弾き飛ばされる。
「これで終わりです‼」
金崎が大きく振りかぶってから振り下ろしたその瞬間――
「グサッ!」
「あっ!」
「と、とら‼」
虎太郎が、金崎に長槍で突き刺されながらも睨みつける。
「俺の兄者は、日の本一最強の軍団の大将、不動信一だぞ‼ 簡単に死ぬわけないだろ…!」
最後の力を振り絞り、金崎の胸を長槍で狙うが――金崎は右腕で受け止める。
「くっ…仕留めきれなかったか…」
虎太郎はそう言って、倒れた。
「と、とら‼」
不動が駆け寄り、抱きかかえる。
「しっかりしろ‼ おい、とら‼」
その隙を狙い、金崎が襲いかかろうとした瞬間――
妻女山を駆け抜け、息も絶え絶えに金崎の元へと辿り着いた稲荷。その報告は、まさに命を繋ぐ一報だった。
「別働隊が迫っています!」
その言葉を聞いた瞬間、金崎の瞳が鋭く光る。迷いはなかった。稲荷の情報が一瞬でも遅れていれば、退路は断たれ、金崎・経丸・士郎――三人の命は戦場に散っていたであろう。
「全軍!撤退です‼」
金崎の号令が響き渡る。天羽・金崎連合軍、三千の兵が一斉に動き出す。戦場に残るは、血と汗と、無数の命の痕跡。
この戦――引き分けに終わった。
だがその代償はあまりにも大きかった。
金崎・天羽連合軍、三千。 不動軍、四千五百。 両軍合わせて七千五百の命が失われた。 兵力の四分の一以上が消えたこの戦は、戦国の世でも稀に見る激戦となった。
川中島に留まった不動軍は、追撃を選ばなかった。 代わりに、空へと響き渡る勝ち鬨を上げた。
「おおおおお――‼」
その声は、勝利の咆哮か。 あるいは、生き残った者たちの慟哭か。 血と汗と命が交錯した両雄の決戦――ここに、静かに幕を下ろした。
戦の後。 経丸は、金崎国子の背中に言葉を失った。 あの一閃、あの覚悟――自分がまだ未熟であることを、痛いほど思い知らされた。
士郎は、己の無力さに打ちのめされた。 守ると誓ったその瞬間、身体は動かず、敵の槍に打ち砕かれた。 だがその痛みは、次なる成長への火種となった。
片倉と河野は、不動軍の圧倒的な力に打ちのめされた。 歯が立たず、生き残れたのは奇跡に等しい。
それぞれが、それぞれの敗北を胸に刻み、戦場を後にした。 だが――この戦は終わりではない。 それぞれの心に灯った火は、次なる戦を呼び寄せる。
そして、川中島の風は、まだ血の匂いを運んでいた。




