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ターニングポイント 外岡士郎と天羽家の初陣  作者: 房総半島
第二章大士家の戦い
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第五十四話

室内に、時が止まったような重い静寂が落ちた。翔平と天子の表情から、くつろぎの気配が瞬時に消える。

 その言葉に天子は驚き

「兄上が⁉」

天子の顔色が一瞬で青ざめ、呆然としたまま、その場にへなへなと座り込んだ。八坂はすぐに天子を自分の胸に抱き寄せ、背をそっと撫でる。

「……大丈夫、大丈夫」

天子は震える指先で八坂の袖を握りしめながら、必死に平静を保とうとする。やがて、かすかに頷いた。

しばしの沈黙の後、八坂は静かに訊ねた。

「……兄は、どんな人なのだ?」

天子はためらいながらも、唇を噛みしめて答えた。

「異母兄弟なので、私自身それほど親しくはありません。でも……嫉妬深く、器も小さいと聞いています。将としての器量は無い、とも……」

 八坂は顔を引きつらせながら

「あぁ~そうなんだ・・・」

 そこへ、爺やが口を挟む。

「殿、天子様のご発言は正しいかと存じます」

「どういう事だ?」

「天子様の兄が挙兵した理由は敏三郎様が殿の事を「翔平殿は優秀だ、将来大物になるからお主は翔平殿の言う事を聞いていれば飛騨の国は安泰だ」と申したからだそうです」

八坂は目を見開き、言葉を詰まらせた。

「……ちょっと待て、それ……原因、俺じゃん!」

爺やは即座に頷き。

「はい、殿が称えられたことに強く嫉妬し——それが引き金に」

(……嫉妬で挙兵……本当に器が小さいぞ)

八坂は頭を押さえつつため息をついた。

「でも……そんな人間なら、味方する者も少なくて、父上が圧勝するんじゃないのか?」

 八坂翔平の問いに、天子は首を振り。

「いいえ……父上はすでに家督を兄上に譲っております。ですから、今、父のもとに残る家臣はほんの僅か。しかも、この混乱を“機”と見て、かつて父に国を追われた者たち、そして近隣の大名までもが兄に味方するでしょう」

八坂は眉をひそめた。

「なぜ近隣の大名が……? あんな器量の小さい男に、何の得がある?」

天子は少し冷たく、淡々と答える。

「愚かな大名ほど利用しやすく、後で落としやすいからです」

「……なるほど。確かにそれは……狡猾な理屈だ」

 八坂はゆっくりと立ち上がり、拳を握った。

「……俺は援軍として、父上のもとへ向かう。明日、ここを発つ」

天子は驚き、立ち上がる。

「急ではありませんか⁉ まだ戻ったばかりなのに……!」

八坂は静かに天子の前に立ち、両手で彼女の顔をそっと包み込んだ。

「……天ちゃん。俺と天ちゃんの大事な父上を守るには、一刻も早く援軍を出さねばなるまい」

 天子の瞳に、光が滲む。感情が胸に込み上げ、やがて彼女の頬を伝って大粒の涙が零れ落ちた。

「翔ちゃん、ありがとう」

「うん」

 と力強く呟いた。

 そして、翌朝。

空がまだ白んだばかりの清州城下。

八坂は、連れて行けるだけの兵三千五百を率い、静かに門を出た。その背には、まだ涙の跡を残す天子が、一人、強く拳を握り見送っていた。


 長良川を挟み、二つの軍勢が向かい合った。西岸には龍滝敏三郎率いる二千の兵、対する東岸にはその実子・敏一の一万八千。圧倒的な兵力差だった。

敏三郎の本陣では、家臣が声をひそめる。

「殿……どう見ても勝ち目は……」

敏三郎はふっと笑いながら

「向こうにやる気のある兵は千もおらぬわ」

 そう言って家臣を安心させたが心の中で敏一の軍が先に仕掛けた。

(この戦で儂は死ぬ覚悟が出来ておる、今さら引けぬわけがなかろう)


 午前九時敏一の軍が先に仕掛けた。敏三郎の陣営左翼に向かって突き進んで来て戦へと発展した。

 敏三郎はその様子を見てニヤリとしながら

(最後の戦だ、楽しましてくれよ)

 兄側の兵は勢いよく突き進んだがことごとく敏三郎の軍勢三十三歳イケメンの時蒼十郎率いる最新鋭の武器鉄砲を使った部隊に返り討ちにあった。

 鉄砲によって次々と討たれる味方の軍勢を見て敏一の本陣では、次第に焦りが広がっていた。


「何だ!あの武器は」

「鉄砲とか言う最新の武器です」

「クッソ!そんな武器を隠し持っていたのか」

「はい・・・」

「父、自らが率いてるのか?」

「いえ、時蒼十郎殿でございます」

「クソ、あの野郎‼父に味方しよって‼」

「もう、本陣の守りなどいらぬ。全軍で時蒼十郎に攻撃させる」

「本陣を手薄にするのは危険すぎます」

「構わぬ俺に逆らった事後悔させてやる‼」

「殿・・・」

嫉妬と怒りに駆られた敏一は、全軍に命じた。

「いいか!総力を挙げて時蒼十郎を討て!後退は許さん‼」


「はっ‼」

敏一の焦りが、無謀な突撃を呼び込む。戦場には雷鳴のような銃撃と、悲鳴と土煙が巻き起こった。

 敏一軍は雪崩のように時蒼十郎の部隊に突撃する。

 一時は優位を保っていた敏三郎側だったがこの総攻撃により左翼が崩れ一気に形成が逆転されたのであった。


その頃、八坂翔平は戦場まで八キロまでに迫っていたのであった。

 そこからさらに時が経ち戦況は明らかに敏一側が有利になっていた。

 (……やはり、この差は覆せんか)

敏三郎は静かに

「もはやこれまでだ、介錯をせい」

と介錯を命じた。そのとき、息を切らした家臣が駆け込む。

「殿!申し上げます‼八坂翔平殿が三千五百の兵を率いて援軍として到着いたしました!」

敏三郎は目を潤ませ、うなずいた。

「……あのバカ翔平め。わざわざこの負け戦に……来やがって……」

 敏三郎は八坂翔平の援軍の知らせを聞いてまだ戦う決意をし再び軍を鼓舞し、しばらく戦ったがやはり兵力差には勝てずもはや壊滅寸前まで追い込まれた。

「……もはや、これまでか」

敏三郎がつぶやいたとき、時蒼十郎が一歩前へ出た。

「殿、お供いたします」

 敏三郎は厳しい口調で

「バカを申すな!俺にお供なぞいらん」

「しかし、私は殿のいない世に希望を見出せませぬ。お供をさせてください」

「人間産まれてくる時と死ぬ時は一人なんだ。だから邪魔をするな」

「殿、私は殿が死ぬのにのこのこと生き伸びとうないです。殿と共に死ぬことこそ忠臣としての役目でございます」

 敏三郎は厳しい表情で、それでも穏やかに、蒼十郎を抱きしめた。

「忠臣のお前に最後の命令がある」

「はい・・・」

 敏三郎は時蒼十郎に一通の手紙を差し出した。

「これを翔平に届けてほしい」

「はい・・・」

「そしてこれを届けたら婿殿と手を組み儂の仇を討て儂の仇を討って……それが済んだら、追いかけて来い」

時は涙を流しながら

「はい・・・わかりました」

 と言って頭を下げた。

「行け!」

「はい‼」

 そして時は戦場を駆け、翔平の元へと向かった。

 時が八坂翔平の元に向かって行くのを確認し

 敏三郎は、戦装束を整えた。

「さぁ〜て、華々しく……散りますか」

そして敏三郎は敵陣へと馬を走らせた。雨に打たれながら、最後まで刀を握り、武人として堂々と討ち死にした。

豪雨の中、敏一軍と交戦中の八坂軍は

 八坂は大声で

「まだ、父上を救う事が出来る‼皆者根性だせー‼」

 八坂軍は八坂翔平を先頭にもの凄い気迫で次々と敏一軍の兵を討ち取っていたが敏三郎の家来が息を切らしながら八坂翔平の前に現れ

「申し上げます!我が殿、龍滝敏三郎公、討死されました‼」

八坂はその場に崩れ落ち、地面を拳で何度も打ち叩く。

「くっそぉぉぉ……!くっそぉぉぉおおお‼」

涙が、泥混じりの大地に染み込んでいった。

 八坂軍は無念にも撤退したのであった。

 清州城に帰還した八坂を、天子は静かに、そして優しく迎え入れた。

八坂の瞳には涙が滲んでいた。どこか迷子のような、少年のような顔で、天子のもとに歩み寄ると、震える声で言った。

「……父上を、救うことができなかった。すまない」

天子はその言葉に一言も返さず、黙って八坂を抱き締めた。背中をそっと撫でながら、彼女の声も震えた声で

「殿、ありがとうございました」


数日後のある午後。再び天子の膝に頭を預け、耳掃除を受ける安らぎの時間。ところが——。

「殿、申し上げます!」

バンッ、と勢いよく戸が開く。驚いた八坂は勢い余って畳に頭を打ちつけ、次いで天子の手元の耳かきが耳にガツンと。

「いてぇ〜っ! 頭と右耳が‼」

天子も慌てながら頭を撫でる。戸口では爺やがうろたえた様子でかしこまった。

「し、失礼を……殿、大丈夫でございますか⁉」

「なんとか……で、何の用だ?」

爺やは深く頭を下げながら

「龍滝敏三郎様の忠臣と名乗る者が、殿に拝謁したき旨、申しております」

八坂の表情が引き締まる。

「名は?」

「時蒼十郎、とのこと」

その名を聞き、天子が驚いた。

「時蒼十郎……!?」

「知っているのか?天ちゃん」

「知ってるも何も私のいとこです」

八坂は一瞬驚いたものの、すぐに声を張った。

「爺や、すぐに通せ」

「はっ」

 数刻後、正座して頭を下げた男が現れた。三十三歳、風のような眼差しを持つ武士——時蒼十郎である。

「拙者、龍滝敏三郎様の忠臣、時蒼十郎にございます」

八坂は真っすぐに彼を見つめ、頷いた。

「俺が八坂翔平だ。今日はいかなる用で?」

時は懐から一通の書状を差し出した。

「主君より、八坂殿へお預かりした手紙でございます」

八坂は受け取り、開封する。そこにはわずか数行の文字が綴られていた。

「美濃の国は翔平に譲る。天子を頼む。」

読み終えた八坂は、こぼれる涙を拭おうともせず、目を伏せた。

「……しかと、父上の思い、受け取りました」

時蒼十郎は声を絞り出して。

「八坂殿。私は殿の仇を討ちたく存じます。……拙者を家臣としてお抱え願えませぬか」

八坂は彼の右手を両手で包み、深く頷き

「時殿は最後まで父上に下で戦ってくださったお方こちらこそよろしくお願いいたします」

「ありがとうございます!私は誠心誠意、八坂殿にお仕えいたします」

 そっと脇から天子が笑顔で

「トッキー!よろしくね」

「はい、天子様‼」

「えっ?トッキーあだ名で呼んでるの?」

 天子は笑いながら

「いいじゃん、あだ名で呼んだって、小さい頃から呼んでるあだ名なんだから」

「小さい頃から・・・」

 天子は真顔で

「えっ・・・まさか嫉妬してる?」

 八坂翔平は真顔で

「もちろん」

 と即答すると天子は呆れ笑いしながら

「バカじゃないの!ねぇ、この人バカでしょ。トッキー」

 時は困ったように眉をひそめる。

「いや、そんな事は」

 八坂翔平は落ち込んだ表情で

「俺の知らない天ちゃんを知ってる・・・」

 と呟くと天子は八坂翔平の背中を叩きながら

「トッキー、愛妻家だから大丈夫よ」

八坂は一瞬で顔をぱっと明るくし、がばっと身を乗り出した。

「えっ!時殿は愛妻家なのか!」

 時は少し照れながら笑った。

「……まぁ、はい。妻のことは、大切にしております」

八坂は手を叩いて笑った。

「なんだ!なんだ!時殿とは仲良くなれそうだ‼ よろしく頼むぞ!」

「はい!よろしくお願いします!」

蒼十郎は深く頭を下げた。

「こちらこそ、末永くお願いいたします」

こうして、後に「八坂の右腕」と謳われることとなる男、時蒼十郎が八坂家に加わったのであった。

 大士麒麟は義父の仇を討ち右腕となる男、蒼十郎を仲間に入れた八坂翔平と共に日ノ本から一切の戦を無くし平和な世にする為八坂翔平の天下統一に協力していくのである。









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