第四十六話
数日後、岡崎城の空は、どこまでも青く澄んでいた。だが、城の一室では、やや不穏な空気が漂っていた。
大士は窓の外を見ながら
「忠清殿、中々応募が来ないですねぇ~」
「当り前だろ!あんな内容で来るのはこのバカだけだわ‼」
「はぁ?俺の事バカって言ったか?」
「言ったよ!大バカ者‼」
ぴーが噛み返す。火花が散るような目つきでにらみ合う二人。大士が割って入って笑顔で
「二人とも本当に仲いいね」
松風とぴーは声を合わせて
「どこがだよ‼」
と大士にツッコミ大士は思わず笑う。
ぴーと松風は睨みあう。
そこへふわりと風をまとったような鷲雪が現れた。その後ろには、あどけない子犬のような顔をした少年がついてきていた。
「麒麟様、一人来ましたよ」
「あっ!ホントだ」
大士がぱっと顔を明るくする一方、松風は眉をひそめた。
「なんだよ、また少年じゃねぇかよ」
鷲雪は丁寧な口調で
「忠清さん、せっかく来てくれた方にそのような事言わないでください」
鷲雪の穏やかなたしなめに、
「おう、すまん」
と言って松風はしぶしぶ頭を下げる。
ぴーが小声で少年に
「あいつ感じ悪い奴だから気にするな」
とささやくと
少年は大きな声で
「あの人感じ悪い奴なんですか‼」
ぴーは少し慌てて
「おい、バカ大声で言うなよ‼」
松風はぴーを睨みつけながら
「おい!ぴー助!勝手な事吹き込むな‼」
ぴーは開き直った態度で
「事実を伝えただけだわ‼」
大士は上座から
「二人とも面接を始めていいですか?」
場が整い、皆がそれぞれの配置に着いた。
鷲雪が優雅に一礼し、静かに紹介を始める。
「私は麒麟様の家臣鷲雪と申します。こちらの方が同じ麒麟様の家臣忠清さん、そしてその横がぴー君。そして上座に座っておられているお方が我らが主、麒麟様です」
少年は直立不動ではっきりと
「私は三河の国、新田村出身田村隼人と申します。よろしくお願いいたします」
と名乗り深々と頭を下げる。
松風はぴーに
「あれ?お前とだいぶ違うぞ?」
「いいから早くお茶入れて来いよ」
「はぁ?生意気な!お前が入れて来たっていいんだぞ‼」
ぴーは鼻を鳴らして
「フン、お茶汲みなど俺の仕事じゃないわ‼」
「てめぇ!」
ふたたび火花が散りそうになったところで、大士が優しい口調で
「二人が仲良すぎて話が進まないですよ」
「すみません」
松風とぴーは睨みあう。松風はお茶を入れに行く
「田村さんお座りください」
「失礼いたします」
田村はその場で正座する。
「なぜ、麒麟様に仕えたいと思ったのですか?」
「はい、正直に申しますと私は麒麟様に仕えたいと言うより私は次男でして家を継ぐことなく自分で働き口を探さなきゃいけなくその時にこの看板を目にしてここで働いて見るかって思っただけなので」
鷲雪は淡々と
「なるほど、そうなんですね」
松風はお茶を入れて戻って来て田村にお茶を渡す。
田村は丁寧に松風にお礼を言った。
ぴーは松風に
「俺には?」
「ほしけりゃ、自分で入れて来い」
「次いでだったじゃねぇか」
「うるせぇ!三個も持てねぇんだよ」
「お盆使えばいいだろ。頭悪いなぁじゃあ、自分のも持ってこれなかったのか?」
「うるせぇ!お前は喉が渇くほど喋らないだろ‼お前にお茶を飲む資格などない‼」
鷲雪が優しい口調で
「ちょっとお二方お静かに」
「すみません」
ぴーと松風は黙りながらも睨みあう。
再び鷲雪が静かに
「戦となると死ぬ可能性もあります。死ぬ覚悟を持って戦に望むことは出来ますか?」
と問いかけると田村は少し間を置いて、率直に答えた。
「すみませんが正直、今はまだ死ぬ覚悟とかはありませんし、これからも死ぬ覚悟を持つことはありません。なぜなら私は生きるために仕えるので」
松風は険しい表情で
「甘ちゃんだな、戦場で死ぬ覚悟の出来ない奴は大した働きは出来ねぇよ」
田村は真っ直ぐに松風の目を見て言い返す。
「忠清さんは死ぬのを目的に生きているのですか?」
「そうじゃねぇ、戦はどんな局面になるかわかんねぇ!いざって時は自分の命を差し出さなきゃいけねぇ時もあるんだよ」
「そうかも知れませんがそれでも死にたくないです」
「お前は武士を舐めてるのか‼」
鷲雪は優しい口調で
「忠清さん、寄り添い、寄り添いです」
「皆が死ぬ気で戦い命を投げ出す中、お前はどうする?共に命を投げ出すか?それとも逃げ出すか?」
田村ははっきりと
「逃げ出します!死にたくないので」
と答えた。
「わかった、悪い事は言わねぇお前にはここで働くのは向いてない。よそ行きな」
田村はグッとお茶を一気に飲み干し
「わかりました。失礼しました」
そう言って立ち上がると
大士が
「待ってください!」
田村は立ち止まる。
「どうして生きることにこだわるんですか?」
田村は真剣な顏で
「死ぬことを目的として産まれて来た訳じゃないので、彼女とイチャイチャしたいし、美味しい物食べたいし、友達と楽しく遊んで思い出も作りたい、だから死んでる場合じゃないんですよ」
大士は頷き
「わかりました。だったら生きるために死なぬように必死に戦うって事はどうでしょうか?」
松風は少し強い口調で
「何言ってんだ麒麟!死ぬ覚悟のない奴が軍にいたら軍の士気が下がるじゃないか」
「別に死ぬ覚悟なんて持たなくてもいい、いざとなったら逃げだしてもいい、でも生き残るために必死に戦ってくれるなら戦力になるんじゃないでしょうか?死んでもいいって思って戦う人間より視野が広くなると思います!そして最善策を思いついたりしてくれるんじゃないですか!」
田村も大士の言葉に頷いて
「そうですね、僕は死にたくないだけなので必死には戦いますよ」
大士は田村に近づき右手を差し出し
「守る者がいる男は最強だよ!だから大士家に仕えてくれないか」
田村はその手をしっかり握って
「わかりました。仕えさせていただきます」
忠清は頭を抱えながら
「おい、おいマジかよ!マジかよ‼また、変なの増えんのかよ」
鷲雪が真剣な表情で
「麒麟様、田村君も私の下に付けて頂けないでしょうか」
「おっ!いいけど」
「田村君、よろしくね」
「はい、お願いします」
「田村君もだいぶ若そうだけど何歳?」
田村はにこやかに
「十五歳です」
「若っ!」
「えっ!鷲雪さんってまさか僕より年上何ですか?」
鷲雪は苦笑い交じりに
「いや、そりゃそうでしょ(笑)」
田村は純粋に驚いた顔で
「てっきり、年下だと思ってました。凄く若々しいので」
その一言に鷲雪の顔はふわっと明るくなる。
「ホント?ホントに?」
「はい、ホントです。ホントです!」
「私、田村君気に入っちゃった」
「ありがとうございます」
まっすぐな言葉の応酬に、鷲雪はまるで春風を受けたように微笑む。
だが、その様子を見ていたぴーが、じろっとした目で
「お前、上手いな」
田村はグッとぴーに近づく
「ぴーさん、よろしくお願いします」
ぴーはうろたえながら顔をそらした。
「顔が近い、顔が!」
そんなやり取りを横目に、松風は一人天井を見上げて
「はぁ~」
とため息をついたのであった。




