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ターニングポイント 外岡士郎と天羽家の初陣  作者: 房総半島
大士家の戦い
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第四十四話

昼の陽射しが静かに降り注ぐ。微風が草木を揺らし、鳥のさえずりが遠くに響く。

大士は晴虎を腕に抱え、甲冑姿のまま美鷹の墓へ向かっていた。

墓前に立つと、ゆっくりと膝をつき、目の前の墓石に手を合わせる。

「守れなくて…申し訳なかった…」

静かな声が、風と共にかすかに揺れる。

大士の頬を一筋の涙が伝い、地面へと消えていく。

 大士は晴虎を見つめ

「晴虎はみっちゃんに似て可愛いよ」

「みっちゃん、私は強くなる、どんな敵からでも晴虎を守れるように強くなる。だから、だから・・・」

 晴虎は大士の覚悟を黙って真剣な表情で見ている。

大士はゆっくりと甲冑を脱ぎ、刀を横に置く。そして、火をつけた。

炎が甲冑を包み込む。

鋼の光は赤く染まり、ゆらゆらと空へと昇っていく。

大士は燃え盛る炎を見つめながら拳を強く握りしめ

「こんなものがなくても誰にも負けない最強な男になるから」

 その言葉は、静かな墓地の空気を切り裂くように響いた。

風が吹き抜け、舞い上がる灰と共に、彼の決意はさらに燃え上がる。冑が炎に飲まれ、鋼の輝きが消えていく。 しかし、大士の目の奥には、かつてないほどの力強い光が宿っていた。

 そして大士が晴虎と共に寺を出ようとした時

「おっ!よう‼」

「忠清殿!剣真‼鷲雪ちゃん‼どうしてここに‼」

 驚く、大士に松風は真剣な表情で

「俺らはお前と別れたくないから来たんだ‼」

「えっ?」

「お前、晴虎連れてどこかへ行くんだろ」

「はい、そのつもりです」

「だったら、みずくせぇじゃねぇか!俺らも連れてけよ!」

大士は困惑し、首を振る。

「いや、それはダメです。罪人の僕と共にいたんじゃ、あなた方まで追われる身となる。」

松風は腕を組み、不満そうに言い放つ。

「罪人?誰がだ?」

「…私です。」

松風は手を叩いて

「お前、面白い冗談言うな」

 大士は真剣な顏で

「冗談じゃないですよ‼」

 松風は真剣な顏で

「俺らがお前の隣にいるんだ。お前の事、罪人にしとくわけないだろ」

「えっ?」

 驚く大士に松風は優しい口調で

「ここ(岡崎)は嫌いか」

「いや、嫌いじゃないです」

「だったら、ここの当主になれ」

 大士はキョトンとした顔で

「忠清殿・・・何を言ってるんですか」

 松風は堂々とした表情で

「俺らが大士麒麟を岡崎城の城主にするって言ってんだ‼」

「いや」

「優しい人間が強くなって上に立たないと下の者達は何度も何度も悲劇にあうんだぞ」

 その言葉に大士は息をのむ。

 松風は熱く強い口調で

「日ノ本はお前を必要としてる。この国の英雄になれ!大士麒麟」

風が吹き抜け、炎の中の甲冑が最後の輝きを放つ。

大士は美鷹の墓を見つめた。

鷲雪と剣真は「厭離穢土欣求浄土」と書かれた布を広げ大士に見せる。

「これは美鷹先生が願っていた言葉です」

 その瞬間、大士の目から涙がこぼれた。

 静かに、しかし確かに大士は力強く誓った。

「俺が、俺がこの日ノ本から戦を無くし平和な世にして見せる‼」

 松風は優しく微笑んで

「目標は決まったな。後は前に進むのみ」

「おうっ‼」

「まずは駿河に謝罪に行く」

 その言葉に松風は目を見開き

「おい、そんな事をしたら責任を取らされ罪に問われるぞ‼」

「南平殿に許可なしに城主になるなど筋が通ってない」

「そんな、主を殺した部下を出世させるわけないだろ‼」

「では、松風殿はどうやって私を城主にさせようと思われたのですか?」

「そんなの乗っ取りに決まってるじゃん」

「それは良くないです‼強引にだまし討ちで城を奪う者に人々は付いてきません‼」

 松風は少し戸惑いながら

「しかし・・・」

 大士は堂々と

「まずは南平様に事情を説明に行きます。その結果を元に策を立てましょう」

 と言い切る。

「まぁ、わかったわ」

松風は腕を組み、少し考え込む。

そして、ゆっくりと笑い、肩をすくめながら言った。

「まぁ、わかったわ。」

炎が最後の輝きを放ち、風が灰を空へと運ぶ。

大士は静かに美鷹の墓を見つめた。



 大士は松風と共に駿河の南平の元に向かった。

 南平館の広間には南平の家臣達がズラリと並ぶ。

 大士と松風はその中央に正座して南平と向かい合う。

 重厚な空気の中、南平が深く息を吸い込み、静かに口を開いた。

「麒麟、大変申し訳なかった」

 と言って、南平は両手をつき、頭を深く下げ、畳に額を擦りつけた。

 飯岡が慌てて

「殿!何を謝ってるんですか‼」

 南平は驚いた顔で

「矢梅の奴が美鷹殿を殺したんですよ‼」

 飯岡が強い口調で

「だからなんですか?小娘一人殺されたくらいで逆上し、主を殺したこの不届き者を罰するべきです」

 その言葉に大士は静かに立ち上がり飯岡に歩み寄り真顔で

「罰するですか・・・」

 低く、しかし明確な言葉が広間に響く。

「その場合、我らは断固として抗いますが」

 大士の言葉に松風が一番驚きながら拳を握りながら

「よく言った!よく言った‼」

 と叫ぶ。

 飯岡は歯を食いしばり、大士を睨みながら

「ふざけてんのか!お前ら‼」

「そうだ!お前ら‼」

 と白井も激昂する。

 大士は飯岡と白井の言葉を無視して

「殿。これからは私が岡崎城の城主として、岡崎の地を守ってまいります。本日は、その許しをいただきたく参りました」

 頭を下げる大士に対して南平は困惑した面持ちで、しばし言葉を失ったが、やがて静かに

「おう、そうか」

 しかし飯岡が南平に

「殿、こんな奴認めるな!」

 と怒鳴ると白井も

「そうだ!こいつは罪人だぞ‼」

 南平は体を震わせながらもはっきりとした口調で

「大士は罪人ではないです。今回の件はあきらかに矢梅が悪いじゃないですか」

 飯岡は激しく舌打ちし、大士の胸倉を掴みながら

「おい、お前が岡崎城の城主となるなら俺が全力で潰しに行くわ‼」

 とブチギレる。飯岡に対し、大士は冷静に

「ぜひ岡崎へ人生最後の景色を見にいらしてください」

 飯岡は大士の言葉にゾッとし胸倉から手を外した。

 広間が静まり返ったその時、南平が静かに口を開いた。

「麒麟、岡崎に俺も連れて行ってくれ」

 南平の思いがけぬ言葉に大士と松風は顔を見合わせる。

「俺から岡崎の民に大士が岡崎城の城主になる事を説明する。そうすればお前がすんなり岡崎城の城主になれるだろ」

 真心ある申し出に、大士は胸を打たれ、深く頭を下げた。

「南平様・・・」

「俺がお前にしてやれることなんて限られてるから出来ることは何でもさせてくれ」

「ありがとうございます」

 と言って、大士と松風は南平に頭を下げた。

それから三日後――。

 大士と松風、そして南平一行は岡崎の城下に入った。

 途中、各所に旗やのぼりが掲げられ、ざわめく民の声が城門まで続いていた。

「殿が来られたらしいぞ!」

「麒麟様もご一緒らしい……」

民の声は半信半疑ながらも、どこか希望を含んでいた。

 岡崎城の門前に到着すると、既に多くの家臣や民が広場に集まり、その中には不満げな顔もあった。

 南平が一歩前に出ると若い男が

「大士殿を殺さないでください‼」

「お願いします。殺さないでください‼」

 次々と懇願する民を見て南平は笑いながら

「俺、来る必要あったかなぁ?」

 と呟く。

 南平は大きな声で

「安心してください‼麒麟の事は殺しません‼今日は麒麟を岡崎城の城主にするとの報告に来ました」

「えっ?大士様が城主に‼」

 ざわつく岡崎の民達

「大士様、我らの主になってくださるんですか‼」

 大士の目は民衆をまっすぐに見据え、声を張る。

「私は命に代えてでもこの岡崎を平和で豊かな国にします。だから皆さん付いて来てくれませんかお願いします」

 と頭を下げる。

 民は納得し大きな拍手で大士を岡崎城城主に迎え入れた。






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