四十一話
八坂翔平 と 大士麒麟 が向かい合った。風が吹き抜け、土煙が舞い上がる。周囲では戦の余波が続いていたが、二人の間には異様な静けさが広がる。
翔平は傘を閉じ、地面に突き刺し刀を抜く、
目が交わった瞬間、無言の戦意が燃え上がる。
一陣の風とともに、翔平が先に動いた。 彼はまるで滑るように低く踏み込み、視線を惑わす動きを見せた。麒麟の眼差しがそれを見極める。刹那、八坂翔平の刀の先端が大士の肩口を狙って打ち込まれる。
しかし大士はすでに読んでいた。 瞬時に身を翻し、その攻撃を紙一重でかわす。すぐさま反撃――刀が弧を描き、翔平の刀を断つように振るわれる。しかし、八坂翔平もまた冷静だった。ぎりぎりで刃を避けると、刀の軌道を利用しながら逆に懐へと飛び込む。
白刃が交錯する―― 近距離の攻防。大士は八坂を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた八坂翔平はすぐに立ち上がる。
呼吸が重なる。間合いが変わる。
「強いな」
八坂翔平が低く呟く。
大士は息を切らし、八坂翔平の言葉に返す余裕などない
再び距離が詰まる
二人は死闘を繰り広げる。
八坂翔平 と 大士麒麟 が激しく刃を交える。
火花が散る。白刃が閃き、剣戟の音が空を切る。どちらも一歩も引かず、流れるような攻防が続く。翔平の刀が旋回するように大士の刃を受け流し、次の瞬間、鋭く突き込む。しかし大士はそれを読んでいた。体をひねり、紙一重でかわすと、逆に八坂翔平の懐へ踏み込む。
刃と刃が交錯する―― 大士の刃が八坂翔平の肩を掠める。八坂翔平は息をのむが、一瞬の怯みも見せない。
八坂翔平は間合いを取り助走を付け一気に大士に迫る。
大士は冷静に八坂翔平の刃の軌道を読み、無駄な動きを削ぎ落とすように反撃を繰り出す。両者の間合いはぎりぎりの均衡を保ち、勝敗を決する一撃はまだ訪れていない。
息遣いが荒くなる。時間が止まったような錯覚の中で、八坂翔平と大士は互いを見据える。
次の瞬間、両者は激しく踏み込んだ。刃が交錯し、火花が散る。八坂翔平の剣筋は精密で迷いなく、鋭い刺突と斬撃を織り交ぜる。大士はそれを受け流しながら、確実な一撃を狙う。力と技、速度と知略――それらがぶつかり合う死闘が始まった。
地を蹴り、刀が閃く。斬撃が激しく交わる中で、互いの剣筋が洗練されていく。翔平は狭い間合いに持ち込み、猛攻を仕掛ける。しかし大士は一歩も引かず、受け流しながら隙を探る。
「すげぇな…!」
八坂翔平の息が荒くなる。
大士は冷静に刃を構え直す。
どちらが勝つのか――戦場の風は、二人の決着を待っている。
大士と八坂翔平は間合いを詰める。どちらも、一歩も引かず、刃の先で気迫がぶつかり合う。
「……」
抜き打ち。火花。斬撃と斬撃が正面からぶつかる。
鋼の音が木霊し、地を蹴る足が土を弾く。
流れるような太刀筋と、それを見切る眼差し。
すでに十合。だが、どちらも一歩も譲らぬ。
八坂翔平の肩口を浅くかすめた斬撃。だが、それでも倒れぬ。
大士の顎をかすめた返しの一閃。それでも、膝は折れぬ。
息は荒くとも、目は死んでいない。
互いの刀が交差するたび、まるで命が削れ合うような静寂と爆発が交互に襲う。
八坂翔平は息を切らしながら
「あなた、強すぎませんか‼」
大士は息を切らし、八坂翔平の言葉に応える余裕もない
そこへ八坂軍の伝令の若き少年鉄平が
「若、大殿が撤退をと」
「なぜだ!もう決着が着くんだぞ‼」
「若‼南平の軍勢がこちらに向かって来ると」
「まずいな、撤退するぞ」
「お名前は?」
大士は息を切らしながら
「大士麒麟です」
八坂は優しい表情で
「あなたとは二度と戦いたくないです」
大士は頷く。八坂翔平の背が遠ざかっていく。戦場の喧騒が次第に消え、ただ風が吹き抜ける音だけが響く。
大士は、静かにその光景を見届けた。
かつて戦場を圧倒した力――その剣筋はまるで嵐のように鋭かった。しかし今、その腕は重く、剣を握る力すら失われていくのを感じていた。
膝が揺らぎ、身体が傾ぐ。
そして次の瞬間、大士は その場に倒れ込んだ。
土煙がわずかに舞い上がる。鋼の甲冑が地に沈む音が、戦場に残った者の耳に届く。
息は荒い。鼓動が戦いの余韻のように、ゆっくりと体を打つ。
だが、大士の表情には迷いはない。
「……戦いは終わった。」
戦場の熱が静まりつつある中、松風忠清はその場に立ち尽くしていた。敵兵が後退し、戦場に残ったのは荒れ果てた大地と、かすかに漂う血の匂い。
しかし、松風の視線はただ一人の存在に向けられていた―― 大士麒麟 。
松風の瞳がわずかに揺らぐ。
土煙の中、大士が 倒れている 。
「……麒麟」
松風は慌てて大士の元に駆けよる。
松風は大士を抱きかかえて
「しっかりしろ‼しっかりしろ‼」
松風の声は戦場の静寂を切り裂くように響いた。大士の甲冑は傷だらけで、呼吸は浅い。しかし、大士は微かに瞳を開く。
「まだ生きてますよ」
と大士が力なく微笑むと
「当り前だろ‼俺達は英雄になったんだ‼今死んだら働き損じゃねぇかよ‼」
大士はフフッと笑った。
「しばらくここで休ませてもらえませんか」
「許可なんか取るな!好きなだけ休め」
「ありがとうございます」
戦場の風が二人を包み込む。戦いは終わり、そこにはただ、戦友の絆だけが残されていた――。
戦いを終えた大士は、傷だらけの体を引きずるようにして、松風に支えられながら家へと向かう。戦場の喧騒を離れ、荒れ果てた道を進むごとに、大士の胸にはただ一つの思いが浮かぶ――
(美鷹と晴虎に会いたい。)
そして遠くに見えた家の輪郭——そこに灯る明かりが、ふらつく大士
の視界に滲んで見えた。門の前に立つ影は、美鷹——そして、彼女の腕に抱かれた晴虎。
傷だらけで血まみれになった大士の鎧姿を見て思わず美鷹は涙ぐむ。
「お帰りなさい」
美鷹は震える声で絞り出すように言い、彼の傷ついた体をそっと抱きしめた。大士は、その温もりに目を閉じ、戦場では決して許されなかった安らぎを噛みしめる。
晴虎は父の顔をじっと見つめ、幼い手を伸ばした。
その小さな手が、大士の人差し指を掴んだ瞬間、彼の目から静かに涙がこぼれ落ちた。
松風はそっと一歩下がり、ふたりの再会を見届ける。
美鷹は涙をボロボロこぼしながら松風に
「主人と共に戦って生きて返して下さりありがとうございました」
松風は何も言わず優しい表情で頭を下げてその場を去った。
戦場を越えた男、待ち続けた妻、無垢な子——そして、命を託し続けた親友。その絆が、これまでのすべての戦いよりも強く、眩しく輝いていた。
朝日が昇る。その光は、戦場にあったものとは違った。暖かく、優しく、大士の背を包み込んでいた。
後日、大士と松風は岡崎城の矢梅に戦勝報告に行くと
矢梅は大笑いしながら
「何だお前ら、英雄気取りか?」
「はぁ?」
と怒る松風の横で大士は真顔で
「英雄気取りじゃないです‼我らは英雄そのものだと思っております‼」
大士の言葉に松風は思わず笑う。
矢梅は怒りに狂った表情で大士の胸倉を掴み
「何だと気様!もういっぺん言ってみろ‼」
大士は動じず真顔で
「英雄気取りじゃないです‼我らは英雄そのものだと思っております‼」
矢梅は大士の顔を思いっきり殴る。
「もういっぺん言うとはバカにしてるのか‼」
大士はキョトンとした顔で
「してないですよ?私に落ち度がありましたら謝りますが」
矢梅は自分の肘掛けを蹴り上げ
「もうよい‼お前みたいな変人相手してる暇ないわ」
大士は飛んで行った肘掛けを元の位置に戻す。
「後、今回の戦は俺が敵を蹴散らしたって事で南平亮輔様に報告するわ」
「おい!それは・・・」
大士は怒る松風を制して
「わかりました。また、働く機会を頂けたら全力で尽くします」
と矢梅に頭を下げる。




