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ターニングポイント 外岡士郎と天羽家の初陣  作者: 房総半島
大士家の戦い
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第三十九話

翌朝、野営地の広場には、五百と謳われた兵とはほど遠い顔ぶれが集まっていた。 腰の曲がった老爺、か弱き女たち、手足も細い子どもたち……まるで戦ではなく、村祭りのような光景。

それを見た松風は、目を剥きながら。

「……おい、マジかよ。本気か? これ」

隣で大士は、微笑を絶やさず声を張る。

「皆さま、本日より共に戦う仲間として、どうぞよろしくお願いいたします!」

松風は思わず大士の袖を引っ張り

 松風は大士を引っ張って

「正気か⁉ 戦になるわけがないだろ!」

「松風殿、士気の下がることを口にするのは良くないですよ」

「いや、控えるとかの次元じゃないってこれは! 嫌がらせもここまで来たら芸術だよ!」

「今はどう勝つかだけを考えましょう。希望のある者こそ、策を立てる資格があると思うのです」

 松風は呆れながら

「お前も凄いはここまでされてまだ、前向きになれるなんて」

「皆さん、五十人で一組になって並んでください」

人々が列を作り始めたとき、一人の女性が手を挙げた。

「すみません、五十人の組に足らないんですが……?」

大士は数を確認し、眉をひそめた。

「……十三人、足らないですね」

「おい……」

松風は半ば呆れて口を開いた。

「人数すら揃わねえのかよ‼」

子どもの一人がぽつりと言う。

「僕……戦なんか、したことないけど?」

それに他の者たちも続いた。

「私も……」

「おれもだよ」

「怖いです……」

松風はさすがに口を閉じ、静かに大士を見た。

「……返してやれよ。無理させちゃ、だめだろ」

大士は頷き

「確かに……私たちの都合で命を預かるべきではありません」

大士は皆の前に立ち、真摯に頭を下げた。

「……皆さま、集まって頂いて大変申し訳ないんですが今回は中止といたします。ご足労いただき、誠にありがとうございました。 本日の労賃は私からお支払いいたします。どうか、お帰りを」

 そのとき、一人の老人が声を上げた。

「待ってくれ‼ ワシらを……使えぬと申すか‼」

「おい、面倒なのが出てきたぞ……」

松風がぼやく。大士がこつんと肘で小突いた。

「……使えぬとは申しておりません。ただ……犠牲が出れば、それはこの私の責任。 未来ある者を、ここで死なせるわけにはまいりません」

別の爺が声を上げた。

「だったら! 我らが活躍できる策を、おぬしが考えるのが“将”の役目だろう‼」

「……くそジジィ……今ここで――」

松風が小声で呻いたのを、大士はぴしゃりと黙らせた。

「ごもっともです。しかし、これは命を賭ける戦。 私は“生きて帰れる保証はない”と申し上げます。……それでも戦う理由が、皆さまにはございますか?」

沈黙のなか、女性が一人、声を震わせながら答えた。

「……この戦で勝てば、一人に付き“五十貫”(現在の価値で七百五十万円)。 私たち、皆……死ぬ覚悟で来てるんです」

「ご、五十貫……⁈」

驚愕する大士に、松風がぽつりと囁いた。

「それだけ、勝てるわけねえって矢梅は思ってるってことだな」

そしてまた、別の声があがる。

「……条件に当てはまる者しか選んじゃダメだって言われたんです」

「条件?」

「“女性、十五歳以下、六十歳以上”――この三つのどれかです」

「…………矢梅、殺そう」

松風が静かに言ったのを、大士が必死で制した。

大士は皆の前に進み出て、大きく息を吸った。

「確認です。この戦、多勢に無勢で、厳しい戦いになると予想されます。 命を落とす可能性は、極めて高い。 それでも……なお“共に立ち向かう覚悟”がある者のみ――残ってください」

しばらく沈黙がつづいたのち、ぽつり、ぽつりと人が立ち去り始めた。 やがて、それは波のように広がり……気づけば半数以上がその場を後にしていた。

「おーい‼ さっき覚悟がどうとか言ってた奴まで帰ってんぞ‼」

松風が叫ぶ。

「松風殿!」  

大士はきっぱり言い返した。

「こんなにも多くの方が残ってくださったのです。 それは……何よりも、尊い勇気です‼」

松風は憮然としながらも、残った者たちを見回した。

「逆になんでお前ら残ったお前らの方がおかしいまであるぞ‼」

一人の老兵が一歩、前に進み出る。

「少しでも……孫に、いい暮らしをさせてやりたくてな」

「私も……子どもに食べさせたくて」

その言葉に、大士は背筋を正して、深く一礼した。

「――わかりました。共に戦いましょう」

すると松風が、烈火のごとく大士の胸倉を掴んで揺さぶる。

「お前、正気か‼ これでどう戦うつもりなんだ‼ 正気の沙汰じゃないぞ‼」

だがその叫びにも、大士の瞳はぶれなかった。

頬を叩かれるたび、乾いた音が中庭に響いていた。

「おい、大士! 目が覚めたか‼」

松風が渾身で叫ぶと、大士はピシリと姿勢を正し、真剣な目で言い放つ。

「――元から覚めております‼」

その眼差しの強さに、松風はしばらく何も言えず、ぼそっと

「……剣真宛てに、遺書でも書いておくか」

 と呟いた。

その後、中庭には、黙々と木刀を振るう大士と、その横で兵法書を山のように積み上げて読み漁る松風の姿があった。

「なぁ、大士。俺とお前は強いからさ。……せめて敵が一人ずつ出てきてくれたら、勝てないこともないんだけどなぁ~」

「一人ずつ……? そうか‼ 一人ずつと戦えばいいんですよ‼」

「……は?」

大士は木刀を止め、目を見開いた。

「一対一に持ち込める地形で戦うんです。狭い山道、ここを利用して――山岳戦です!」

「山岳戦……!」

「道幅を柵で絞り、敵が一度に一人しか通れぬようにする。その狭道で、私と忠清殿が交互に敵兵を迎え撃つ!」

松風は口元をほころばせた。

「おお……それ、面白ぇじゃねぇか!」

「さらに、周囲の兵には上から石を落とさせ、煮えたぎる油、沸騰した米を準備させましょう」

「米はちょっともったいなくねぇか? お湯でいいだろ?」

「お湯では熱さが一瞬です。米なら肌に粘りつき、焼けるような苦痛を持続できます」

「……末恐ろしい策士だ、お前は」

「ただし、問題は敵がこの道を素通りしてしまう可能性です」

「確かにな……」

「しかし、ここを素通りされる可能性もあるんじゃないか?」

「その為、わかりやすく多くの旗を立て鬨の声を上げさせます‼」

「頭いいな、大軍に見立てることによって我らを素通りして岡崎城に向かえば我らと岡崎城で挟撃されるから絶対に我らを潰しに来ると」

松風はにやりと笑い、木刀を拾い上げた。

「……勝てるぞ、大士‼」

「松風殿にそう言ってもらえたら不安は吹き飛びました」

「大士・・・」

 大士はニコッとした表情d

「この戦、勝って私達の凄さを知らしめましょう‼」

 松風は大士の頭を乱暴に掴んで

「当然だ‼」

風にたなびく白木の練習着が、昇る太陽に照らされていた。希望もまた、静かに火を灯しはじめていた。



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