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ターニングポイント 外岡士郎と天羽家の初陣  作者: 房総半島
大士家の戦い
36/43

第三十六話

途中鷲雪を寺に帰す時鷲雪は大士の背中から降りて強張った表情で震える声で

「大士殿」

 大士は優しい口調で

「何でしょうか?」

 鷲雪はもの凄い早口で

「ありがとうございました」

 大士は笑顔で丁寧に

「はい、これからもよろしくね」

 鷲雪はそっぽを向きながら

「はい」

大士と美鷹の二人は岡崎城に向かった。

 岡崎城の前に着くと

「ここが岡崎城ですか?」

「はい、ここです」

「立派なお城ですね」

「そう言ってもらえると嬉しいです。この町の象徴ですからね」

 笑顔で答える美鷹の顔を見て大士はニコニコする。すると

「おい、おせぇよってか?おい、何いちゃついてんだ大士!お前らしくもない」

 大士は幸せいっぱいな顔で

「そうですか、らしくないですか?」

 松風は突然大声で

「あっ‼」 

 大士は心配そうに

「どうしたんですか?急に」

「どうしたんですか?急にじゃないちょっと来い‼」

 松風は大士を引っ張り少し美鷹と離れた場所に行き

「お・ま・え!婚姻する相手いるのに何、別なおなごとイチャコラしてんだよ‼」

「別なおなご?」

「そうだよ‼お前は空家の娘を嫁にするんだろ‼」

「あっ、紹介してなかったです。」

 大士は美鷹に向かって大声で

「美鷹さ~んすみませんがこっちに来てくれませんか~」

 美鷹も大声で

「わかりました~」

 と答え走って来る。

 松風は慌てて

「おい、何呼んでるんだ‼ってまさか・・・」

「こちら、空家の空美鷹殿です」

「空美鷹と申します。よろしくお願いいたします」

 松風は驚きながら

「おっ!おっ!おぇ?偶然というか運命というか」

 大士が笑顔で

「運命ですね、私もう完全に美鷹殿に惚れてます」

 美鷹は大士の言葉に驚く。

 松風が

「あのですね、大士は真っすぐ純粋な奴でして、でも大士がおなごに惚れるの初めてではないか?」

 大士は真っすぐな目で

「はい、初めてですね」

 美鷹は照れて顔を真っ赤にして

「大士さん真っすぐすぎますって」

 大士は真っすぐ

「美鷹殿、今の表情めちゃくちゃ可愛いです」

 美鷹は顔をもう一段真っ赤にして

「もう、行きますからね」

「待ってください」

大士は優しく美鷹の手を握って

「一緒に行きましょう」

「あっ、はい」

「お~い、二人とも俺もいるんだぞ」

 二人には松風の声は聞こえず松風を置いて行く。

「お~い、置いてくなよ!待てよ‼だめだこりゃ」

 大士、松風、美鷹は岡崎城に入り、矢梅奴男の部屋の前で美鷹が

「矢梅様、松風殿と大士殿をお連れしました」

「おっ!入れ」

大士と忠清は大士の上司に当たる矢梅奴男に挨拶をする。美鷹は二人の後で正座する。

「この度、岡崎城に配属になりました松風忠清です」

「同じくこの度、岡崎城に配属になりました大士麒麟です」

 矢梅奴男が大士の胸倉を掴んで

「お前か、美人の美鷹を正室にする奴は」

「はい、そうですが」

「俺が側室にする予定だったのに余計な事を」

「えっ!」

「せっかく同じ顔の美人が二人いたんだ二人まとめて可愛がる予定だったのにそれをお前のせいで台無しだ‼」

 と言って矢梅は大士の顔に蹴りを入れる。大士は動じず蹴りを受ける。

 松風は驚き、大士と矢梅の間に入って

「矢梅様、何をやっておられるんですか⁉」

「お前、可愛げがねぇな理不尽に蹴り喰らったんだ!倒れたり睨みつけたりするもんだろ‼普通」

 大士は真顔で

「ご期待に応える反応を出来ず申し訳ございません」

「お前はつまらなくてどうしようもない男だ‼」

 美鷹が大きな声で

「ちょっと、さっきから酷くないですか」

 矢梅はいやらしい顔で

「おっ、自ら側室になりに来たか?」

「そんなわけないじゃないですか‼」

 と美鷹が吐き捨てると

「お前の妻は無礼者だな‼」

 と言って大士の顔を思いっきり蹴ると

 美鷹は睨みつけ矢梅に近づき殴ろうとした瞬間、大士が止め

「落ち着きましょう!落ち着きましょう‼」

「何でですか⁉悔しくないんですか」

 大士は矢梅に向き直って

「私が全て悪かったです。申し訳ございません」

 と言いながら土下座をする。

「もうよい、下がれ」

「はっ」

「はい」

 三人は岡崎城を後にした。

 三人は一言も発さず歩いていると大士が

「ありがとう。私の為に怒ってくれて、その気持ち嬉しかったです」

 その言葉に美鷹は思わずボロボロと涙をこぼしながら

「私、悔しいです‼なんで大士様は怒らなかったんですか‼」

 大士は真剣な表情で

「私は強い態度や言葉で相手を負かすんではなく実力を示して価値を高めるそんな人間になりたいんだ‼」

 大士は泣いている美鷹に布を渡し優しく頭をなぜながら

「ありがとう、本当にありがとう」

 松風は少し強い口調で

「おい、麒麟!こんなにも美人の美鷹さんを泣かせたんだ、美味い飯奢って笑顔にしろよ‼」

「そうですね、三人で美味しもの食べに行きましょうよ」

「はぁ~麒麟、何でそこで三人って言っちゃうんだよ。二人で行けよ」

 大士は真顔で

「なぜ、松風殿を仲間外れにしないといけないんですか?」

「お前・・・正気か」

 大士はキョトンとした顔で

「正気ですけど」

「普通さ、こんなに美人の女性と二人きりになりたいと思うだろ‼」

 大士は真剣な表情で

「親友を仲間外れにしてまで二人きりになりたいなんて私は思いませんが」

 美鷹は笑顔で

「お二人を岡崎で安いけれど美味しいと言われているお店にご案内いたします」

「よし、わかった。行こうぜ!その代わり俺の奢りだ‼」

「えっ?なんでですか?私の奢りじゃないんですか」

 松風は大士の両肩を揉みながら

「アホ、さっきお前のせいで、カッコ付けられなかったからだよ‼」

 美鷹は丁寧な口調で

「わかりました。そうと決まれば岡崎で一番の高級店にご案内いたします」

 松風は笑いながら

「美鷹ちゃん、面白い‼」

「ありがとうございます」

 三人は笑った。

 松風はいきなり大声で

「あっ、ちょっと俺、息子待たせてるんだ‼俺やっぱり帰るわ‼」

「あっ、剣真君待たせてるのかそれは仕方ないね。じゃあ今度剣真君も誘って四人で行きますか?」

「うん、じゃあ悪いけど今日は二人で楽しんで」

 大士と美鷹は声を揃えて

「はい」

 松風は少し驚きながら

「息ぴったしじゃん‼」

 大士と美鷹は顔を見合わせて笑い合った。

 松風は走って帰って行ったのであった。


茶屋の夕暮れ時。暖簾をくぐれば炭の香りが鼻をくすぐり、ほどよい喧騒が耳をなごませる。 漆の小机を挟んで向かい合ったふたりは、少しの緊張と、どこか不思議な親しさを含んで言葉を交わしていた。

「いいお店ですね。ここは何がおすすめですか?」

大士麒麟が穏やかな口調で問いかけた。

すると、着物の袖を整えながら美鷹は微笑みながら。

「全部です」

その即答に、大士は思わず破顔した。

「素晴らしい回答ですね!」

お互いの笑い声が重なったとき、何かがすっと溶けたように空気が柔らかくなった。

「大士殿って、今おいくつなんですか?」

「二十六歳ですね」

 美鷹の目がパッと輝いて

「えっ、同い年です!」

大士は興奮気味に

「同い年! 最高じゃないですか! これ、運命ですよ!」

「ふふっ、ですね! 運命ですね!」

「美鷹殿と共通点が見つかって、本当にうれしいです」

「私もですよ」

「ご奉公先は?」

「寺子屋で、子供たちに読み書きを教えています」

「寺子屋の先生? ……ああ、昼間見かけた子どもたちは生徒さんたちだったんですね」

「はい」

「なぜ、寺子屋の先生に?」

問いかける大士の表情は、無垢な子供が世界を知りたがるようだった。

「子どもが大好きで……家の事情で学べない子も多いでしょう? だから、一人でも多くの子に、知識を得る喜びを教えたくて」

静かに、しかし揺るがぬ想いを宿して語る彼女に、大士は思わず頷き

「すごい。……素晴らしいです」

言葉は短くとも、その眼差しには深い敬意が込められている。

「大士様は、《厭離穢土 欣求浄土》という言葉をご存じですか?」

問いかけたのは、美鷹。朗らかな眼差しを湯呑みに落としながら、静かに笑んだ。

大士は眉をひそめて考えたが、すぐに軽く頭を下げた。

「おんりえど……。すみません、恥ずかしながら存じ上げません」

「穢れた現世を離れ、清らかな仏の国――つまり“あの世”に生まれ変わることを願う、そんな意味の言葉です」

美鷹がそう説明すると、大士は一瞬ぎょっとした顔で身を乗り出した。

「あ、あの世に⁉……」

大士の顔を見て、美鷹は慌てて両手を振りながら

「あっ、違いますよ! 私、“あの世に行きたい”なんて言ってるわけじゃなくて!」

 大士は安堵した表情で

「あぁ~驚きました‼」

 美鷹は、少し照れたように言葉をつづけた。

「私がこの言葉を好きなのは、いつかこの世そのものが“浄土”のようになれば、あの世を願わずともよくなると思うからなんです。 ――この、百年近く続いた戦の世が終わって、誰もが学べて、笑える日がくることを願って…」

沈黙の中で、大士の胸の奥にも、じんとした熱が広がっていた。

「……素晴らしい。私もそう思います」

言葉は短かったが、その声音には確かな芯があった。

美鷹は頬を赤らめ、瞳を細めるように微笑んだ。

「……ありがとうございます、大士様」


 大士と美鷹は一度二人きりで出かける約束をした。



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