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ターニングポイント 外岡士郎と天羽家の初陣  作者: 房総半島
大士家の戦い
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第三十五話

翌日、大士は南平館の廊下で飯岡と白井と出くわす。

 大士は大きな声で

「お疲れ様です。飯岡殿、白井殿」

 挨拶する大士に対して

「おっ、これは、これは殿の命を無視して松風殿の息子を庇い、英雄扱いを受けている大士殿ではありませんか」

「飯岡殿!白井殿!松風殿が無事帰って来て良かったですよね‼共にまた皆で力を合わせて南平家を盛り立てて行きましょうよ」

 白井が強い口調で

「お前ごときが南平家を盛り立てるだと立場をわきまえよ‼」

 飯岡が大士の胸倉を掴みながら

「お前は殿の命を無視したって事は俺らの命を無視したって事だってわかっておるのか?」

 大士は動じることなく堂々と

「武士として情けない話なんですが剣真殿があまりにも可愛く殺すことが出来ませんでした。殿の命を聞けなかったのは武士失格だと自分でも思い深く反省しております」

「じゃあ、南平家を盛り立てるなど二度と申すな。お前は今回の件で足軽まで身分を落とすべきだ」

「確かに殿の命に従わないでおきながら南平家を盛り立てるなど不用意な発言をしてしまいました事深く反省します」

 飯岡は大士の胸倉から手を放し、白井と共に去って行った。


 飯岡は白井に

「そろそろ大士が邪魔だなぁ」

「じゃあ、殺します?」

「いや、殿に気に入られてる大士を殺すのは流石に大騒ぎになる」

「確かに、そうだ岡崎に追いやっちゃいましょうよ」

「どうやって、大士は殿のお気に入りだぞ!殿が簡単に手放すわけないだろ」

「岡崎に空って家臣がいるんですけどその空には双子の娘がおりましてその双子の娘の片方と婚姻させてはどうでしょうか?」

「なるほど、それは名案だ!身分の高くない家臣なら大士を喜んで受け入れるだろうし自然に大士をここから排除できるしそれでいこう」

 白井は悪い顔で

「あと岡崎に行かせるにはもう一つ意味が」

「どういう事?」

「大士の父は元は岡崎城城主、殿は後々岡崎城を大士に継がせようとしているって噂を矢梅に流せば矢梅が焦って排除するかもしれませんよ」

 飯岡はニヤッとし

「白井殿、名案ですね」

「ありがとうございます」

 飯岡は南平を呼び寄せ

「殿、大士の事なんですが」

 南平は緊張した面持ちで

「はい」

「そろそろ婚姻させてはどうでしょうか?」

 南平はホッとした表情で

「そうですね年齢も年齢だしいいと思います」

「相手は岡崎城に勤めている家臣の空の娘はどうかと思っております」

「空の娘か?いいではないですか早速話を進めよう‼」

 飯岡は南平の反応に少し困惑しながら

「殿、だいぶ乗り気ですね・・・空の娘をご存じなんですか?」

「いや、空の娘は知りませんが、空はとてもいい家臣なのでその娘ならいいなと思いまして」

「まぁ、殿が前向きなら良かったです。では明日、大広間で皆を集めそこで発表してください」

 南平は驚きながら

「明日‼いささか急ではありませんか‼」

「善は急げって言うじゃないですか‼」

「いや、そうは言いますけどまだ、空に許可を取ってないですし」

「それは心配いりません!空は大喜びしますよ‼なんたって殿がお気に入りの大士を自分の娘の婿に出来るんですから」

「う?うん?婿」

「はい、婿です」

「何で?嫁にもらい受けるんではないんですか?」

「大士には親族がいないじゃないですか。だから婿に行かせるんですよ」

「いや、そしたら大士はここを出て岡崎に行くと申すのか?」

「はい、もちろんです」

「それはいささかおかしいですよ。そんな事したら大士家は無くなってしまうじゃないですか」

「それは仕方ないですよ」

「仕方なくないですよ!おかしいですってそれは」

 白井が

「殿は飯岡殿の案に従えぬと言うのか」

 飯岡は白井を抑えて

「わかりました。嫁入りさせましょう、しかし大士は岡崎城に勤めてもらう。この折衷案でよろしいでしょうか」

「大士を手元から手放すのはだいぶ痛手だな」

「殿、こちらも折れたんです。少しは殿も折れて頂かないと」

「わかりました。大士には岡崎で働いてもらう」

「ではそれで、殿、お帰り下さい」

 南平は飯岡の屋敷を後にした。

更に翌日、大広間で南平が

「大士麒麟!そなたは岡崎城にいる家臣空の娘と婚姻する事と相成った」

 周りがざわつく中

「えっ!私がですか・・・」

 驚く大士に南平は

「空は大変素晴らしい家臣だ。その娘だから安心して大丈夫だ」 

 大士は前に出てきて南平に頭を下げ

「はい、ありがたき幸せ」

「それに伴い、今後は岡崎城で奉公せよ」

「えっ!どういう事ですか?私が岡崎に‼」

 驚く大士に

「もう決めた事だ!何も言わずに従って頂きたい」

「わかりました」

 松風が

「殿!なぜ理由も言わず大士殿を岡崎へ行かせるんですか‼」

 飯岡が強い口調で

「発言を控えろ!松風‼」

「おかしいではありませんか!大士殿が岡崎城に行かされるなんて‼」

 飯岡が大声で

「発言を控えよって言葉が聞こえぬと申すか‼」

「ならば、私も岡崎に行かせてください‼」

 飯岡が

「何を勝手な事を‼」

 白井が飯岡に同調するように

「そうだ!かってな事を申すでない」

 南平が

「忠清は麒麟の親友だ。お前が岡崎に一緒に行けば麒麟も安心だろ共に行くがいい」

「はっ!ありがとうございます」


 岡崎城に向かう途中の山中

 人一人分通れるくらいの山道を女性が五人の子供達と共に縦一列で歩いている。

 女性が左の壁側に手をつきながら一番後ろを歩いていると先頭を歩いている五歳のお転婆な女の子鷲雪が進行方向と逆を向きながら

「先生‼遅い~遅いよ~」

「鷲雪ちゃん、集中して!この道危ないからふざけちゃダメよ!」

 鷲雪は少し笑いながら

「先生!いつになったらこの道慣れるのさ」

「一生慣れないわよ!私高いとこ苦手なんだから」

「私なんか壁に手をつかなくても歩けるもんね~」

 女性は震える声で

「鷲雪ちゃん危ないよ、手をついてお願いだから」

「平気、平気~」

「お願い、前向いて集中して歩いて」

「先生、後ろ知らない人達がいるよ」

 女性は振り向く。

「すみません、すぐ行きますので」

 大士は優しい口調で

「大丈夫ですよ。私も高い所恐いのでゆっくり行きましょうよ」

「ありがとうございます」

 鷲雪が足を滑らせ

「あぁ、あぁ~」

と言いながら十五メートル下の川に落下した。

女性は膝から崩れ落ち、そして十五メートル下の川を覗き込む。

(どうしよう、どうしよう。助けなきゃ、助けなきゃ)

 女性は恐怖で目にめいいっぱい涙を溜め全身を震わせる。

(これは武者震い!これは武者震い!)

 と言い聞かせながら立ち上がり

(下を向いた方が恐い上を向け!上を向くんだ私)

 と言い聞かせて思いっきり前に向かってジャンプした。

 女性は恐怖で声も出ない状態で落ちて行った。

 その様子を見ていた松風は

「おい、マジかよ‼マジかよ‼」

 大士も驚きながら川を覗き込む。

 しばらくすると女性が浮き上がって来て顔を出しキョロキョロする。

 大士は大きな声で

「右!右に女の子がいます‼」

 女性はその声を聞き溺れてパニック状態に陥っている鷲雪を抱きかかえ鷲雪に

「よく頑張りました。もう大丈夫だから!もう大丈夫だから」

 女性が鷲雪を抱きかかえるのを見た大士は勢いよく山を下って行く。

「どこ行くんだよ」

 松風の言葉に

「皆は先に行っててください」

 松風は大声で

「待て!」

 大士は足を止める。

 松風は上着を脱ぎ

「これも持っていけ」

「ありがとうございます」

 と言って頭を下げて大士は走って行った。その後ろ姿を見て松風はフフッと笑った。

 松風達は子供達を先導しながら先に行った。

 鷲雪を抱えながら岸に上がってくる。そこに大士が走って来る。

「大丈夫ですか?怪我はないですか」

 と言いながら大士は鷲雪と女性に上着をかける。

 そして自分の上着を女性に渡す。

「あっ、ありがとうございます。この子も私も無事でした」

 大士は心の底から安堵した表情で

「それは良かったです」

「ご心配おかけしました」

 大士は真っすぐな目で美鷹の目を見て

「いえ、めちゃくちゃかっこよかったです」

「えっ!えっ!かっこいい?」

 照れて顔を真っ赤にする女性に大士は優しい表情で

「私、大士麒麟と申します」

「大士麒麟様・・・あなたが大士麒麟様ですか⁉」

 めちゃくちゃ驚く女性に大士は落ち着いた声のトーンで

「私をご存じなのですか?」

「私が空美鷹です‼不束者ですがよろしくお願いします」

 慌ててその場で膝をついて頭を下げる美鷹に対し大士は驚き

「あなたが空美鷹さんなのですか‼こちらこそよろしくお願いします」

 と言って大士も膝を付き頭を下げた。

 大士は真顔で

「美鷹さん」

「はい」

 大士は真っすぐな目で美鷹の目を見て

「夫婦になるから言ってしまいますが」

「はい」

「あの、人の為なら躊躇なくあの高さを飛び降りた美鷹さんを見て一目惚れ致しました」

「えっ!えっ!えっ‼」

 美鷹は顔を真っ赤にする。

「かっこいい人を嫁にもらえる事とても嬉しいです」

 美鷹は照れて顔を思わず背けながら

「大士様、真っすぐすぎますって‼とても嬉しいですけど」

 大士は真剣な表情で

「真っすぐな言葉じゃないと自分の思いが伝わらないと思いまして」

「私、日ノ本で一番運がいいかもしれません」

「えっ?」

 美鷹は笑顔で

「だって大士様と夫婦になれるんですから」

 大士は優しい表情で

「ありがとうございます、その言葉胸に刻ませてもらいます」

 鷲雪は川に向かって石を投げ始める。

 それを見た大士は少し慌てて鷲雪に

「行こうか、怪我無くてよかったね」

「全然大丈夫ですし」

 美鷹は少し強い口調で

「鷲雪ちゃん、何その態度は!きちんとお礼を言いなさい」

「フン」

 と悪態をついた後、小さい声で

「ありがとう」

 三人は歩き出すと大士は鷲雪が右足を引きずっているのに気が付く

 大士は鷲雪の前でしゃがんで背中を差し出して

「乗ってください」

「大丈夫だし、一人で歩けますから」

「あんま無理して歩くと足変な方向に曲がりますぞ‼」

「えっ?えっ?それは嫌じゃ‼じゃあ乗る‼」

 大士は鷲雪を背中で負ぶって。

「さぁ、行きましょう」

 三人は山道を登り岡崎城に向かった。





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