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ターニングポイント 外岡士郎と天羽家の初陣  作者: 房総半島
第一章 天羽家
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第二十八話

午前四時――燃え尽きたはずの天羽の魂が、闇を裂いた。

「――突撃‼」  

経丸の一喝が山鳴りのように響き、天羽軍が一斉に千崎軍陣営へと雪崩れ込む。

鬨の声も上げず、刃の閃きと駆け足の地響きだけが戦場を包む。

混乱の中、兵士たちの間で囁かれるのはただ一つの合言葉。

「士郎‼」――「ダサい‼」  「士郎‼」――「ダサい‼」

敵か味方かを識別する唯一の鍵が、奇妙に静かなやりとりとして飛び交っていた。

片倉の鋭い一撃が、合言葉に反応しなかった兵の命を奪い、  河野の声が敵陣を貫く。

「士郎‼」 「ダサい‼」 「共に頑張りましょう‼」

《千崎本陣・崩壊の始まり》

「殿‼ 経丸が……攻めてきました‼」

「なんの寝言を……夢の続き見させてくれ……」

「このままだと、夢どころか永眠なさいますぞ‼」

叩き起こされた万助が外へ飛び出すと、部隊の灯りはもはや狂乱の渦の中に呑まれていた。

「えっ……何が……どうして……⁉」

「館山城への火は偽装、経丸は生きていました‼」

「経丸自ら館山城に火を放ち自害したと装ったんです」

万助の怒声が響くが、背後から“それ”が現れる。

「そこにいたか、敵の大将……」

月明かりの下、武将が現れる。

「貴様は――!」

「天羽経丸が家臣、片倉水道。……別名、安房の青鬼だ」

背筋が凍るような呼吸に、万助は青ざめた。

「か、掛かれェェ‼」

数名の兵士が突撃するが――

片倉は一歩も動かず、たった数閃で全てを斬り払う。

⚔️ 《騙し討ちと死の蹴り》

「士郎‼」

合言葉に沈黙した万助に、片倉は静かに言い放つ。

「斬るべき相手……らしいな」

「ま、待て‼ この首を差し上げる! この戦を終わらせよう‼」

片倉は眉を寄せ、一瞬目を伏せて頷く。

「……少し、見直しました」

万助は着物を脱ぎ、座り込み――

「介錯を頼む」

「合い分かった」

その一瞬。

ギャッ‼

万助の刃が閃き、片倉の脇腹を突き刺した。

「……っ‼」

 反射的に飛びのいた片倉が、万助を蹴り飛ばし、地に転がす。

「……いいねぇ、やっぱりクズの方が殺しがいあるわ」

笑みが消えた目に宿る狂気。その迫力に、万助は体を震わせた。

「お前に俺は殺せねぇ……!」

逃げ出した刹那――片倉の身がふわりと跳び、間合いを一気に詰めた。

ズブゥッ‼

刀が、万助の胸を深く貫いた。

「クズには……負けねぇんだよ‼」

なおも無言で刃を抜き、もう一度、さらにもう一度――万助が完全に動かなくなるまで。

片倉はそのまま、前のめりに地へ倒れた。

血塗られた夜の終わりに――勝利の光が、ようやく射し込もうとしていた。


 回想

 片倉が五歳の時の出来事だった。

 燃え盛る村、野武士達がいきなり火をつけたため村人は逃げ回り村が大混乱に陥っている。片倉の家族は必死に逃げていたが野武士達に囲まれていた。

 片倉の父、善兵衛は野武士達に土下座し

「なんとか、子供の命だけはお助けください」

 野武士達はニヤニヤしながら

「おー、必死な姿が情けなくていいねぇ~」

 そう言って派手な頭の中身のない悪人顔の野武士のリーダー池袋が善兵衛に斬りかかる。それを片倉の母、美佐子が体を盾にして防いだ。善兵衛は驚き

「おい!美佐子‼」

 美佐子は胸を抑えながら片倉に

「早く逃げなさい」

 片倉は体中を震えさせながら泣いている。美佐子は逃げ出さない片倉に「早く‼」と怒鳴りつける。

 片倉は逃げ出すが

「ザン」

 善兵衛が思いっきり斬られて大きな音を立てて倒れた。

 その音に振り向こうとする片倉に善兵衛は

「振り向くなーいけー‼」

 片倉は泣きながら必死に逃げ納屋を見つけ、その奥で縮こまりながら座っていた。しばらくすると足音が聞こえる。片倉は恐怖で震えながら

(お願い、こっちに来るな!お願いだから)

 その願い叶わず足音の主が納屋を開けた。

(僕も殺されるんだ)

 片倉は恐怖のあまり失禁しながらも

(死にたくない、死にたくない、せっかく母上と父上が守ってくれたから)

 足音の主は片倉に近づき、片倉の手を掴んだ。

(このまま殺されちゃうんだ)

「おい、大丈夫か!怪我はないか」

 片倉は予想外の言葉に腰が抜けた。

 足音の主は片倉の体をよく見て

「よし、怪我はなさそうだな」

 足音の主は片倉を背負った。

 足音の主は家来達と合流し

「長経様、その男の子は?」

「一旦、うちで保護する」

 その言葉を聞いて片倉は少し安心して長経に身を任せた。

「さぁ、今から成敗しに行きますか!」

 家来達は一斉に

「おー!」

 片倉の両親など村人達に無差別で襲い掛かった野武士達は薄暗い森で溜り、酒を飲んで宴会をしていた。

 小悪党の池袋は

「いやぁ~弱い者いじめは楽しいな、なぁ皆」

「そうですね、弱い者いじめの後の酒はうまいですわ」

「ワッハッハッ」

 野武士達は一斉に笑い出し浮かれながら酒を飲んでいた。

「それに最後に殺したあの家族傑作だったよな、あの両親ガキ生かすために必死なんだから」

「そうですよ、あんな小さなガキ一人じゃ生きていけないのに」

「ある意味、生かしておく方が残酷よ。ハッハッハッ」 

 池袋に合わせて皆、笑い出した。

 池袋達の様子を見ていた長経は

「あの両親、ガキを逃がすのに必死なんだから」

 と池袋が言った時に片倉が力強く自分の背中を掴んできたのを感じて、片倉の両親は池袋達に殺された事を悟った。

「あいつら人間じゃねぇな」

 と長経は呟き、背中から片倉を優しく降ろして悔しくて震えて泣いている片倉の肩をポンと叩いて。

「両親の仇取って来るわ」

 長経は小さな声で

「皆の者!準備はいいか‼」

「はい」

「突撃じゃー‼」

 長経達はいきなり池袋達に襲い掛かった。

 いきなり襲われた池袋は

「何事だ!何事だ‼」

 呑んだくれていた野武士達は抵抗出来ずに次々と討ち取られていったが、池袋だけは命からがら逃げて行ったのであった。

 長経は片倉を連れて帰った。


 館山城で片倉は昼も夜も両親を失った事に落ち込んで何日も何日も黙って庭の隅に座り込んでいた。


 そんなある日

 長経は興奮しながら、片倉の袖を引っ張り

「お~、お~い!ちょっと来てよ!まさ君‼」

 片倉は言われるがままに長経に付いて行った。

 長経に連れられて行った部屋には母親に抱きかかえられている赤ちゃんがいた。

「儂の!儂の娘が産まれたんだよ‼」

 長経は赤ちゃんを抱えて片倉に見せた。

 片倉は生まれて初めて見た赤ちゃんに心の底から感動して、ずっと閉ざされていた心の扉がゆっくりと開き、そして呟くように

「可愛い」

 長経はもの凄い笑顔で

「そうか!可愛いよな!嬉しい事言ってくれるな!まさ君は」

「はい、とても可愛いです」

「まさ君がこの経丸を支えて行くんだぞ」

「僕が、この子を支える?」

「そう、まさ君がだ」

「僕には無理ですよ、武士じゃないですから」

 長経は片倉の手を握り

「まさ君は強くなれるぞ」

「なぜですか?」

「まさ君は両親から凄く愛されていた。愛された事のある人間は立派な武士になれるぞ」

「そうなんですか」

 長経は優しい口調で

「だから経丸を頼むよ」

「でも私は強くありません」

 片倉は真剣な目で

「でも強くなりたいです‼だから僕を強くしてください。お願いします‼」

 頭を下げる片倉に対して、長経は嬉しくなって片倉を抱き締め

「もちろんだとも」

 それから片倉と長経の二人は毎日剣術の稽古をした。


 それから十年後

 片倉は十五歳になり館山城で元服する事になった。

 片倉は長経に呼ばれて正装で広間に現れた。

「片倉に名をあげよう」

「はっ、ありがたき幸せ」

「お主の名は水道だ」

「水道?それはどういう意味があるんですか?」

「人は生きるのに必要なのは水だ、片倉の存在は天羽家にとって水になる男だ。道は経丸の進むべき道を片倉に開拓していって欲しいと願いを込めてこの二文字を合わせた名が水道だ」

 片倉は自分が期待されている事に嬉しくなった。

「そのような素晴らしい意味を持つ名を頂ける事、光栄でございます」

 長経は片倉の言葉が嬉しくニコニコ微笑んだ。

 そこへ慌てて走って来た家来が

「殿、一大事でございます」

「どうした」

「池袋達が村人達に襲い掛かっています」

「水道、行くぞ」

「はい」

 池袋達が領民に襲い掛かってる現場では

 池袋は人を刺しながら

「やっぱり、久しぶりにやる地元での弱い者いじめは最高だ‼」

 池袋達は笑いながら次々と村人を刺していく。

 長経は大声で

「そこまでだ‼」

「なんだ、お前達は」

 長経は大声で

「かかれー‼」

 長経達は池袋達に襲い掛かった。

「何だ!お前達はいきなり」

 池袋は慌てて逃げようとする。

 片倉は逃げようとする池袋の肩をガッと掴み

「貴様!また逃げるのか‼」

「何だ、お前は」

「十年前にお前に両親を殺されたガキだ‼」

 池袋は半笑いで

「てめぇみたいな青二才が俺に勝てると思ってんのか?」

 片倉は一瞬、池袋の迫力に怯んだが、自分を奮い立たせるように大声で

「俺はもう二度と大事な人を失いたくない!だからお前みたいな人の人生を奪うクズは殺さないといけないんだ‼」

 池袋は片倉の迫力に怯え背を向けて逃げようとしたが長経達は池袋の背中に回り込んでいて長経は池袋を睨みつけながら

「お主どこへ行くつもりだ?」

「クソが!」

 片倉は大声で

「お前はこの期に及んでまだ逃げるのか‼」

 と池袋を怒鳴りつけた。

「うるせぇ!俺の趣味は弱い者いじめだ!お前ら武士なんかと戦う意味などないんだ‼」

 片倉は怒りで身体を震わせながら

「ふざけんな!お前の卑劣な趣味で俺の大切な両親は命を落したんだぞ!何の罪もない領民の方々だって命を落したんだぞ‼」

 池袋は片倉を小バカにするように

「何だお前、全身震わせちゃって恐いのか?お前はバカみたいだから教えてやるよ。この世で弱いのは罪なんだよ!弱い奴は強い奴に殺される。それは当然の事なんだよ‼」

 片倉は低く力強い声で

「お前だけは必ず殺す!」

「はは、面白い。また弱い者いじめになっちゃうけどな」

 片倉は刀から鞘を抜いて自分を落ち着かせるように小さく深呼吸して構えた。

「行くぜ!死ねぇー!クソガキ‼」

 片倉は襲い掛かって来る池袋に

「お前なんかに負けるわけないだろ‼」

 思いっきり池袋を返り討ちにする。

 池袋の首は吹っ飛び、長経は片倉に駆け寄り片倉を抱き締め優しい口調で

「水道、強くなったな」

「ありがとうございます」

 片倉は両親の仇が取れたのと長経に認められたので感極まって長経の胸で大泣きしながら

「私はこれからどんなことがあっても逃げずに大切な人は必ず守り抜きますから。絶対に守り抜きますから」

 長経は優しく片倉の頭をなぜたのであった。


 回想終わり



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