逸れ猿1
強い雨が降り注ぐ暴風の嵐、二人の男女の旅人が道を急いでいた。
突然の嵐に、二人は道を外れてしまったのだ。夜になる前には次の町に着くはずだった。途方に暮れながらも、二人は先を急ぐ。
「あ、あそこに、家が!」
道から外れて、ポツンと佇む家。見つけた旅人の片割れの娘が、白い髪の男に伝わるように大声で叫んだ。
二人は道から外れた家に向かう。家の戸の隙間から明かりが漏れているので、空き家ではなさそうだ。
「こんな嵐だ。今夜はあの家に泊めさせてもらおう」
白い髪の男が家の戸を力強く叩く。
「はい」
家の戸が開けられた。現れたのは四十代ぐらいの女。
「夜分に申し訳ない、私たちは旅の者。道に迷ってしまった。今晩だけ泊めていただけないだろうか?」
「あらあら、こんな粗末な家だけど、どうぞゆっくりしていって」
雨と泥に汚れた身の二人を、女は優しく家に招いた。そして、雨と泥に汚れて体が冷え切っている二人に着替えを渡し、竈で湯を沸かす。
「あなたたちは、兄妹かしら?」
濡れた服を脱ぎ着替える二人に女が尋ねる。
「……いや…」
「夫婦です!」
白い髪の男の言葉を遮り、娘は胸を張って言った。白い髪の男は真っ赤になって顔をそらす。
「あらあら」
二人の反応に女はクスクスと笑う。恥ずかしくなった白い髪の男は、無言で濡れた服を絞った。
着替えて終えた二人は、女が用意してくれた白湯を飲む。冷え切った体が温まり一息をつく。
激しい嵐の中を歩いてきた娘は安心したせいか、うとうと今にも眠りそうだ。
「お前はもう休め」
白い髪の男は今にも倒れてしまいそうな娘に声をかける。
「部屋の隅にお布団が置いているから、それを使ってね」
「…はい……ありがとうございます…」
女は娘を隣の部屋に案内する。寝ぼけながら娘は女に礼を言って、隣の部屋の戸を閉めた。
『…………』
無言の沈黙。白い髪の男は娘と共に休めばよかったと後悔した。
「夫婦で旅をしているのかしら」
「……ああ」
女が白湯のお代わりを差し出しながら、白い髪の男に尋ねる。白い髪の男は白湯のお代わりをもらう。
「行き先は?」
「……旅のあてはない」
白い髪の男は躊躇いながらも、慎重に女の問いに答えた。
どこかにとどまることは、自分たちにはできない。いつ、自分の正体を暴かれるかわからない。
「あなた……人ではないでしょう」
確信を持った問いかけ。白い髪の男は持っていた湯呑みをコトリと置いた。
「……何故……わかった?」
白い髪の男、否、白い狼は、警戒する。白い髪の男の正体は、白い毛並みを持つ狼。
「わかるもの。私はかつて、〈人ではないモノ〉の妻だったから」
あの時も、こんな嵐だったと女は語る。




